エピローグ 夜を駆ける
エピローグ
あれだけの攻撃を受けても竜牙は一命を取り留めた。
それだけ竜がタフだったのか、それとも運が良かったのか
もしくは父親の想いか
息子の死を本心で願う親はいない
おそらく竜となった息子を正す術がないことから私のところに依頼に来たのだろう。
ゴリラでも人でも、子に対する愛情は変わらないだろう
もっとも、生きていたとしても半死半生、後遺症に残るようなものは、ほぼないものの、完全に復活するには、相当の時間がかかるだろう。
五輪乱拳は肉体だけではななく、魔力、精神をも打つ技だから。
おそらく、竜になることは不可能だろう。
だが、それは彼にとって幸せなのだろう。
私は、目覚めた時の事を思い出した……
……異能などないほうが、きっと幸せなのだろう
**********
「お願いです。娘を助けてください」
男の事務所で、女性が深々と頭を下げた。
その女性に見覚えがあった。
竜牙を探している時、男の正体を見破った少女の母親だ。
「頭をあげて詳しい話を聞かせてくれ」
少女は自宅で、母親がほんの少し目を離した隙にいなくなったらしい。
母親のいいつけを守る子であり、自宅からどこかへ遊びに行く可能性は好くない。
警察に通報し、捜査をしたが、営利誘拐でもないらしく、犯人から親への身代金の要求もないとのことであった。
気になる点といえば、行方をくらます前に、ある宗教団体に家族もろとも勧誘を受けたことであった。
「娘には使徒になる資格がある…とかで、何のことかよくわからないのですが」
困惑しながら話す母親とは対象的に、男は思い当たる節があった。
聖母教団
少女ら家族が勧誘をうけた宗教団体は裏や闇の世界でも有名なカルト教団であった。
能力者や闇の者を集めているという噂もあるところであり、彼らなら、男の正体を見破った少女の目「真眼」の力を求めてい手も不思議ではない
……そのためには非合法な手段をとる事も……
「わった。依頼は引き受けよう」
母親を安心させるように胸を打った。
ドラミングしたくなるのをそっと堪えながら。
「ありがとうございます」
母親は頭を下げる。
「あ、そういうえばお名前は?」
母親が尋ねる。
退魔士の事務所だが、自分の名前を大々的に宣伝しているわけではない。
「ああ、私の名前は……
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「そうか、騎士になってくれるかありがとう」
マーリンは男と握手する。
「これで世界は救われる」
「そうか」
男は世界を救うことにそれほど興味はなかった。
ただ、自分の力を振るう先を探していただけであった。
「そういえば、君の名前はなんていうんだい」
マーリンの問いかけに男は沈黙する。
「まだ、名前を考えていなかったんだね。なら、名前を決めようか、どんな名前がいい?」
男はしばらく沈黙した後、マーリンに尋ねた。
「俺は独りか?」
「そうだね、円卓の騎士になれば、君と同じレベルの能力者はゴロゴロといるけど……」
マーリンは男を見る。
「……誰もかれも、それぞれ独りだ」
「なら……」
**********
男は母親に名刺を渡した。
名刺を見て、母親の視線が名刺と男の間を何度も行き来している。
「外国の方…? それに?」
「ああ、中国人っぽい名前ですが、れっきとした日本生まれだ。名前は女っぽい名前だが、男だ」
戸惑う母親に男は言葉を続ける。
「呉 李羅だ。そっちの世界では<力>の騎士とも言われるくらい力はある」
男は嗤った。
「安心しろ、娘は助ける」
かくしてゴリラは再び都会の闇を駆ける。
魔獣戦線シリーズ、初投稿でありながら、異色作です。
すべてゴリラTRPGが悪いのです。
アーバンアクションゴリラなストーリー楽しんで読んでいただけたのなら幸いです。
誤字脱字はおいおい直していくつもりです。