かがやいていいひと
その娘はいつもおどおどしていた。
まるで、自分がいつ誰かから眼をつけられるか、後をつけられるか、あげくどこかへ連れ去られてぐちゃぐちゃにされるか分からない―――
そんな、態度だった。
不安そうで、苦しそうで、それなのに、
いや、だからこそいつも失敗ばかりしていた。
ほんとはお人好しで、顔だちもかわいいのにもったいない。と、わたしは思ったんだ。
だから言った。
「不安は、いつもこころを蝕むけど」
彼女は私を見た。
「だから、不安はいつもわたしたちのこころを蝕むけど、それは悲観的な可能性のひとつに過ぎず」
不安定に揺らぐ瞳の水分に、かすかに歪んだわたしが映る。
「場合によってはただの妄想だったりもする」
要するに、取り越し苦労で損をするのはもったいないと彼女に言い聞かせたのだ。
結構繰り返し言っていたと思う。
主観的には二億三千四百五十六回くらい言い聞かせたかもしれない。
彼女の黒目がちな瞳に映った、自信なさげな自分の姿を振り払いながら。
その甲斐あってか、彼女は徐々におどおどしなくなった。
笑顔が増えた。声が柔らかくなった。隣の人に気を配るようになった。
彼女本来の美しさが表に出てきたようで、わたしも嬉しかったのだ。
しかし、
かがやいていいひとといけないひとがいるのだろうか。
彼女はそれを知っていたのだろうか。
無数の白い花をわたしはそっとどけた。
顔はきれいに元通りに近く整形されていたけれど、そこまでは行き届かなかったのだろうか。
爪を剥された指をわたしは見た。
じっと見た。
「不安はいつもわたしたちのこころを蝕むけど、それは悲観的な可能性のひとつに過ぎず、場合によってはただの妄想だったりもする。
しかし、その悲観的な可能性が0だとは誰も言えない」
わたしの頭の中で二億三千四百五十六回響く。 二億三千四百五十七回目の後悔や懺悔や自責の言葉と同時に。
彼女を飾る白い花の乾いた美しさを振り払いながら。