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まぞくといっしょ  作者: 黒梵天
第一章 白銀の鎧と悪魔の少女
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ああ素晴らしきモンタージュ01


 異世界生活一ヵ月目。

 前回から随分話が飛んだなって感じなんだけど、これまでこっちで生活してきた中で、特出して面白い事ってものはなかったよ。

 毎日薪割って、農作業のお手伝いして、飼育小屋のお掃除して、お洗濯して――なんて事を続けて飯食って寝る。みたいな。

 毎日ネトゲやるかアニメ見るかして、眠くなったら寝る。なんていう堕落した生活してた俺にしてみれば天と地ほどの差があるけどね!


 ――さて、そんなわけで一ヵ月経ちました。


 ちょっと前まで『家にかえりてえよお……。ゲームしてえよお……』なんて弱音ばっかり吐いてた俺っちなんだけど、さすがにこれだけ毎日お仕事してると、大分慣れてくるっていうか、余裕なんかも出てきまんた。

 だけど人間って余裕が生まれてくると、変化を求める生き物なんだって事に最近気が付いちゃいまして……。

 ――いや、もしかしたら俺がマゾなのかもしれないけど!

 まぁあれなのよねー。

 せっかくファンタジー世界に来たんだし、魔物とか呼ばれるおっそろしい野生生物が森の中にいるわけなんでしょ? ちょっと気になっちゃうんですよ、やっぱり。

 普通は事なかれでいいんだろうけど、俺っち『狩人』だとか『勇者』だとかに憧れとかもっちゃってるワケなんですよ。

 まあ俺は貧弱一般人なんだけどね……ほら、やっぱり『強くなってモテモテになりたいなー』なんて邪な事の一つや二つは考えちゃうもんなんすよ。だって男の子なんだもん。

 そんなわけで――


「がんばれっ♪ がんばれっ♪ あとちょっと♪」 


 体力づくり、始めてます。


「げぇへぇ……ぜぇ……ぜぇ……も、もう無理っすよぉ……死ぬー……」


 家のすぐ入り口あたりで、アルシラさんがぴょんぴょん跳ねながら、俺の方に手を振って応援してくれてるのは嬉しいんだけど、も、もう無理だわ! もうこれ以上走れない!


「なんだ、だらしないぞリッキ。まだ家の周りを4周しただけじゃないか」


 呆れ顔で腰に手を当てて、その場に膝をついて『ぜぇぜぇ』言ってる俺を見下ろしながら、エクセリカちゃんがため息をついてきます……。死にたい。

 

「い、家のまわりつったって、もう庭飛び越えて森にまで出ちゃってますよ!? 1週300メートルはありますよこれ!?」


 アルシラさんのログハウスみたいな家はそんなに大きくないし、多分三十坪かそれより一回り大きいかって感じの家なんですが……。

 うん、そうなの、その周りがだだっ広いんだわさ!

 家の南側には農園があるし、そこには木の伐採場もある。家の西側には小さなニワトリの飼育場と物置。東側にはエクセリカちゃんが寝泊まりしてる離れと氷室まであんの!

 総面積がどんだけあるかは知らないけど、それを全部遠回りしたら絶対一周300メートルじゃきかないっす! 遠回りじゃないけども……。


「ふーむ……。こんなに体力の限界が低いヤツを、私は初めてみたぞ。まるで人間の貴族の女並みだな。いや、それ以下かもしれないぞ」


 少なくとも女の人よりゃ体力あると思うんですがねえ……。


「そんなひどい事言わないであげてエクセリカ。リッキさんはちゃんと頑張ってるもの。はい、リッキさん、汗を拭きましょうねー」


 アルシラさんはエクセリカちゃんと違って、ゆっくりしゃがんで俺の首にやさしく布を掛けてくれます……。優しいっす。天使っす。


「しかしこんな事じゃ、魔物を倒すなんて何年先になるかわからんぞ。リッキ、少しは自分に鞭を打て。人の体はそこまでヤワじゃないんだからな」


 うぐー!? エクセリカちゃんが俺の首引っ掴んで立たせてくるよぉ! 鬼! 悪魔! デュラハン! かわいい! 


「はひ……。頑張ります……」


 まだ心臓がバクバクしてるけど、せっかく俺っちの為にこうやって付き合ってくれてるんだから、ちょっとは誠意をみせないとねぇ……。

 運動靴の紐を結びなおして……っと。


「ゆっくりでいい、私についてこい。だけど絶対に歩くなよ? ほら、いっちにっ! いっちにっ!」


 エクセリカちゃんは後ろ向きに走って俺を手招きするんだけど……自分の首もって前と後ろ両方すぐに確認できるのはずるいと思います。俺の首も取り外しできねえかな……。

 ――死ぬわい!


「ふふっ。今夜の晩御飯は体力が付くようなメニューにしてあげますから、頑張って下さいね!」


 家の前にある切り株に腰かけて『ふぁいとー!』なんて感じに右手を上に突き出すアルシラさんの笑顔が、何よりのごちそうっすよアルシラさん。


「はーい! 頑張りまーす!」


 元気よく言ってから、俺はアルシラさんに手を振って全力アピール!

 運動は全然得意じゃないし、体育の授業なんて大っ嫌いだったけど、なんだか不思議と今は嫌じゃない。

 ああそっか、俺――


「ははっ……」


 楽しいのかも。

 ……やらされてるんじゃなくて、自分からやりたいって思って始めた事だから?

 それとも可愛い女の子二人に囲まれてるから?

 ――なんだっていいや! 悪い気分じゃないし!


「ほら、リッキ! 足が上がってないぞ! できるだけ大きく足を上げて走るんだ!」


「はひー!」


 でもやーっぱりエクセリカちゃんの特訓は厳しいっす!

 だけどこれって結局、俺の為を思っての事なんだよね。

 人間嫌いな所もあるし、たまーに俺に冷たくする事もあるけど、本当は素直ですっごく面倒見がいいんだよな、エクセリカちゃんって。

 ――なんだかしっかりもののお姉ちゃんができたみたいだわ。年下だけど。


「いっちにっ、いっちにっ……って、どうした? 何を笑っている?」


 おっと、俺ってば苦笑いが出ちゃってたか? エクセリカちゃんが怪訝な顔してる。


「……ああ、なるほど! 余裕だったのか? ふむ、少しお前をナメ過ぎていた、すまんなリッキ。よし、少しペースを上げるぞ」


 え? ちょっと、真面目な顔してなんて恐ろしい事言ってるんですか?

 俺結構いっぱいいっぱいですよ? 無理ですよ?

 あ、早い!? それ早い!? そんなに早くは走れないっす!!


「でぇー!? 待ってぇええええ!! 置いてかないでぇええ!!」


 しっかりもののお姉ちゃんなんて嘘だぁ!

 これじゃあうっかり者の騎士子さんだってばよぉ!

 ――騎士でした。


「ぜひー!? ぜひー!?」


 ま、何はともあれ、俺は今日も生きてます。

 こんなんで本当に体力つくのかな……?

 そんな感じで、初めての体力づくりは前途多難な開始で始まったのだった。

 さあ、果たして俺は体力をつける事ができるのだろうか、その右手が剣を掴んだとき、秘められた力が今こそ解き放たれる。

 まて! 次回!

 ――なんつって。

 ……はい、馬鹿言ってない真面目にやるます。

 さて、そんなこんなで今日はそのまま、足が上がらなくなるまで体に鞭打って頑張りまくって、アルシラさんの家に帰ってきて飯食って寝ました。とくに語る事ないっす。正直疲れちゃってなんも考えられません。

 おやすみなさい――。



 ――んでもってその次の日、また次の日、その翌日のまた翌日と、俺は走り込み、腕立て伏せ、腹筋、スクワット、を延々と繰り返して、筋肉痛の体に鞭打ちながら、頭の中にロ○キーのテーマを何度も思い起こして、肺活量だとか総合的な体力を引き上げつつ、筋力の増強を図り、アルシラさんが作った『高たんぱく低カロリー』でめちゃうまな食事をもりもりと食べて、まるで漫画のバ○のように筋肉の破壊と超回復を繰り返しながら、ムキムキと鍛えてまくったんですよ。

 ……ここまでで何日経過したんだべ……わからん。

 そんな中で体を鍛え始めて、体力がついた事によって少しずつ変わってきた事をいくつかに紹介しようじゃないの!

 BGM(素晴らしい○ンチンもの)スタート!

 

 ――まず薪割り!


「ふいー! 100セットなんてちょろいもんっすよー」


 シャツの裾で汗拭いてから切り株に腰かけて、ほんのちょっとだけ休憩。

 起きて飯食って――午前7時くらい――から薪割り始めて、太陽がだいたい良い感じぐらいに上り始める頃――午前11時くらい――には100セット終わってる程に、俺の筋肉はエヴォリューションしてきてますよ!

 ……嘘ですまだ中肉中背に毛が生えたようなもんです。

 やっぱりこれは慣れとスタミナが上がったのが一番大きいです。

 

 ――次、農作業!


「うおおお!!」


「おー! すごいですよリッキさん! もう半分以上終わりましたよー!」


 牛耕で使うあのスキがいっぱいくっついたでかい木の農具を引きながら、俺はもこもこと土を掘り返してるわけっす。もちろん後ろにはアルシラさんがついてきていて、スキが抜けないように、綺麗に整うようにお手伝いしてくれてます。

 そう、これは畑の拡張!

 一人分の食い扶持が増えたからねー……最近目に見えてお野菜ちゃん減ってるもの。

 だから今までの二倍から三倍は大きくしないとね!

 さてさて、そしてこの畑の拡張、前は1メートルも重くて引けなかったっていうのに、もはや1メートルどころかその100倍は引いけるようになったわけなんですよ!

 ……一日丸々使ってだけども。

 

 ――そして洗濯!


「てぃひひっ……今日はどっちのパンツにしようかな……。以外にも大人っぽいアルシラさんの黒いレースパンツ、そして純白眩しいリボン付きのエクセリカちゃんのパンツ……」


 これは――別に紹介しなくていいや。

 何に使うかなんてもう一目瞭然だしね。

 え? わかんない? ナニだよ! 言わせんなはずかしい!


「リッキ。すまんがこれも追加で……どうした?」


「おっけー。問題ないよー」


 突然のエクセリカちゃんの来訪。

 ……ふっ。

 パンツ握りしめてるとこ見つかって『変態! 変態! ド変態!』だと思ったかい?

 カカカ……キキキ……クココ……!!

 もう俺っちの反射神経は今までのように鈍くはないんだぜぇ……?

 素早く水を吸って重たくなった大量の洗濯物を片手で持ち上げてその下に突っ込んで隠しましたよ、ええ。

 しかし、それだけではせっかくのおパンツ様の風味が水浸しになってしまい、大きく損なわれてしまうとと思いませんか?

 パンツの楽しみ方は人それぞれかもしれないけど、俺の場合可愛らしいその形、その染みの具合から、そのすべらかな肌の奥にある神秘の洞窟がどうなっているか想像して心躍らせたり、芳醇な香りを胸いっぱいに吸い込んだり、日によって様々に変わるその味を、もう殆ど味が無くなる直前まで楽しみ、最後は柔らかな肌触りを存分に楽しむわけですよ。

 見てよし! 嗅いでよし! 食べてよし! 使ってよし 俺によし、お前によし! だ。

 だからしっかりと空いた方の手で桶を引っ掴んで水を捨てましたよ……ククッ。


「そうか、じゃあ頼んだぞ」


 ふひひ……。

 エクセリカちゃんは今日も何も知らずに狩りに出て、おパンツを汗で汚しまくってくるんだろうね……ごくり……楽しみだ……。

 ちなみにこの後エクセリカちゃんが狩りに出掛けて一人になったその時、俺はミスってこの洗濯桶の中に棒状のアレから漏れる汚いものを射出して、全部洗い直しになってしまうなんていう愚行を犯してしまったのは言うまでもない。

 ……ふぅ、次からはパンツの中に直接……いや、もう語るのはやめよう。俺キモい。


 ――そして、最後は俺の夢だった壁殴り代行の仕事!


「あの、ど、どうしたんですかリッキさん……」


 これはアルシラさんが不安そうな顔で見てくるからすぐにやめまんた。


 ――さて、最後の方からなんだかおかしかったけど、そんな感じで毎日がかなり充実してます。

 これもひとえに褒め上手なアルシラさんと、教え上手なエクセリカちゃんのおかげですなあ……。

 くぅー! 早く剣ぶんぶん振り回したい!

 待ってろよ魔物ども! 俺が異世界の勇者になるんだ!

 ――なんつって。

 はぁ……。でもやっぱり最初から最強がよかったなあ……。

 ねえ神様、やっぱ今からでもチート能力とかくれませんかね?

 あ、無理ですか……そうですか……。

 バロス。


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