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まぞくといっしょ  作者: 黒梵天
第一章 白銀の鎧と悪魔の少女
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異世界生活序盤02 ワンパな感じで二日目終了

 カラスが鳴くから帰ろう。

 ってなわけでそろそろ夕方になりました。

 今日の薪割りノルマはまだまだ全然終わってないっす。


「ひ、ひい……体が、体が痛てえよお……」


 あれから何十個割ったんだろう。

 綺麗に真っ二つに割れたのはその中でほんの十数個しかない。

 俺、わりと自分は器用な方だと思ってたよ?

 フィギュアの魔改造だとかプラモとかも好きだし。

 小学校の頃とか、図画工作で作った俺の粘土細工の裸婦像がコンクールで優勝したもんですよ。

 ――とーちゃんに『このエロガキが! 恥を知れ!』ってぶん殴られたけど。

 だってのにどうして薪が割れないんだよぉおおお!!

 ねえ! 何なの!? どうして割れないの!? 


「お前には才能が無いんだな、きっと」


「どぼじでぞんなごど言うのー!?」


 それ、今俺がいっちばん聞きたくなかった言葉っすよ!?

 それに手首を額に頭を当てながら『はぁ……』とか溜め息をつくのもお願いだからやめて欲しいっす! 溜め息は子供の心を傷つけるんだよおおお!!

 ――もう25歳だけど……。心はまだまだ若いのよ? てか、幼いのか……。

 いや、でもさ!

 薪割りは単純な作業かもしれないけど、すっげぇ難しいのよ?

 生半可な力で振ったら叩き割れないし、力入れすぎるとコントロール効かないしですっげぇ難易度高いのよ。


「本当に呆れるぞ……。私はこんなひ弱で情けない男を躍起になって追い回していたんだな……。弱いものいじめなど、騎士の名折れだ……」


 ちょっと言い過ぎじゃないかい!?

 まぁでも、そうだよね……俺貧弱一般人だし、エクセリカちゃんはデュラハンで騎士の血統ってな感じだもんね……。力関係は天と地程の差があるんだろうさ……。


「そのうち強くなって見返すからいいもん。人間には無限の可能性があるってばっちゃが言ってた」


 別に俺のばっちゃ、そんなん言った事一度もないけど。

 昔っからよく『人間にはなボン。出来ない事と出来る事があるんだよ。身の程を知らなければ、身の振り方もわからないんだよ』って優しく子供の未来を狭めてくれたよ?

 でも現実教えてくれるって素晴らしいと思う。

 俺ばーちゃん大好きっす。


「ほう。じゃあ亜族には無いのか? どうなんだ? うん?」


 あ、エクセリカちゃんちょっと口の端が上がってる。

 これは俗にいう『悪い顔』ってヤツですな……。

 俺が適当な事言ってんのバレてんなこりゃ……。


「……み、みんなこの世に生きとし生ける者は無限の可能性をもっているんだよ! 言わせんな恥ずかしい!」


 もうヤケだ。


「はは。そうか、いいなその考え。面白いぞ」


 そんな事言いながらエクセリカちゃん、新しい薪用の木をもってくる。

 わかったぞ、次に言う言葉が俺にはわかる!


「じゃあ、その無限の可能性を見せてくれ。休憩は終わりだ」


 あー!

 無駄に虚勢張るんじゃなかったあああああ!

 まだ体痛いよぉ! やらぁ! らめぇ! もう壊れちゃうぅ!


「サー、イエッサー……」


 だけど頑張らないとにゃー……。


「よっこい……せっと……」


 斧振り上げて、構えて……無言で振り下ろします――が、ダメ……っ!


「……チッ」


 え、舌打ち!?

 エクセリカちゃんが明らかに苛立ってるゥ!?

 腕を組みながら足をゆすって、俺を冷たい目で睨んでるよォ!


「あ、わざとじゃ――」


「わかってる、続けろ。ほら、手伝ってやるから……」


 うう、てきぱきと薪割り用の木材もってきて、切り株の上に置いたら、さっと定位置に戻っていくエクセリカちゃんの微妙な優しさが痛いっす……。

 とーちゃん、かーちゃん、見てるかい?

 俺、こんな異世界でお仕事してるよ。

 頑張って飯食う為に働いてるよ。

 汗水たらして労働するってのは、素晴らしいね。

 俺、今それがようやくわかったよ。

 出来ればもっと早く働いて、ちゃんと二人に見せてあげたかったな……なんて――思えるかー! 

 帰りたいよー! 薪割り楽しくないよー! もうやだおうちかえる!

 これならコンビニの店員やってたほうがいいもん! まだ楽しさがあったっすよ! 一ヵ月も経たずに辞めたけどね!

 もう薪割りは嫌でござる! 働きたくないでござる! 働きたくないでござるー!


「あはっ」


 暗転する世界、倒れる俺、エクセリカちゃんの声。

 もう、無理っす。

 体力の限界ってのもあるんす。

 半ヒキコモリのニートが朝から夕方に掛けて力仕事なんてキャパシティ・オーバーだったんすよ。 

 

 ――俺は、目の前が真っ暗になった(人生終了のお知らせ)。

 

 ここはどこ?

 ああ、きっと、過去の世界なんだ。

 そしてここはきっと、夢の中。

 夢を、見ていました。

 まだあれは、俺が小さかった時の話。

 俺は可愛い子と手を繋ぎながら歩いていました。

 真っ白なワンピースにフリフリのスカート。

 髪は凄く綺麗な黒。

 いつも長く伸ばしたその髪は、俺の一番のお気に入りでした。

 大好きな俺の友達。

 その子が初めて家にお泊りしに来たときは、すごくドキドキしました。

 そしてその夜、俺はその子に『えっちごっこしよう』って言います。

 その子はほっぺを真っ赤にしながら頷いてくれました。

 まだ毛も生えそろわない、精通もしていない俺。

 だけどスケベな知識は大人顔負けだったのです。

 でも、その時俺は、どうしてやめておかなかったんでしょうか。

 身の程を弁えぬ者は、身の振り方もわからない。

 俺はお婆ちゃんのお話を、ちゃんと理解しておくべきだったんです。

 子供の僕らが、そんな事していいはずがなかったんです。

 もっと大人になってから。

 とくに二次性徴を終えてからじゃないと気付けないような事です。

 俺はその夜、その子のパンツを脱がしてからようやく後悔したんです。

 その子は別に、女の子じゃなかったんだ。


 ――そして、俺は目覚めた(人生再開のお知らせ)。


「んぐお……?」


 気づくと俺はベッドの上に横たわってたわけで。

 何かイヤな夢を見た気がするけど、これは記憶の隅にそっとしておこう。


「うん? なんだ起きていたのか」


 ちょっとだけ『ぼうっ』としていると、部屋のドアが開いて、ゆっくりとエクセリカちゃんがやってきまんた。


「具合はいいのか? 薪割りは殆ど終わらなかったがまあいい。そろそろ飯の時間だからな、腹が減ったのなら来い」


 入り口の壁に腰かけて、それだけ言うとすぐに部屋から出ていっちゃいました。


「飯かぁ……」


 そういえば何だかいい匂いもしてくる。


「う……」


 ぐぎゅるるるってな感じで俺の腹の虫が絶賛合唱中であります。


「うう……」


 腹減った……。

 ってなわけで、よろよろとベッドから降りてドアを抜けると、そこには昨日と同じようにテーブルいっぱいの食事が並んでるじゃないの!


「来たか。まあ座れ」


 エクセリカちゃんが自分の隣の椅子を引っ張って『ここに座れ』って感じに顎をそっちに『クイッ』っとやって示してくる。


「て、てぃひひ……。どうも……」


 無駄に反抗してもしょうがないので、俺は素直にそこに座って食事をマツ○デラックス。

 ――くっだらね。オヤジギャグっすね。


「あ、お疲れ様でしたリッキさん。ご苦労様です」


 やんわりと微笑みながら、俺の目の前にパンをスライスして、軽くローストしてからバターを乗っけた前回共々おなじみの主食を置いてくれるアルシラさん。

 俺は彼女に恋しちゃいそうです。


「さ、今日はいっぱい卵が取れたので、卵焼きがいっぱいですよ!」


 アルシラさんは席につき、両手を前に広げて『ジャーン!』ってな感じにしてから、とっても楽しそうに笑ったんだけど、ごめん、俺ちょっと何言ってるかわからない。


「これ、伊達……美味しそうな卵焼きですね!」


 俺がその卵焼き(仮)の真の名前を言おうとした瞬間、アルシラさんの目がうるうると揺れたので、何だかすげぇバツがわるくて、結局理由はわからないけど、俺はそれを卵焼き(仮)って呼ぶことにしまんた。


「それじゃあ、いただきマウス!」


「ふふっ、いただきます」


「いただきます」


 ネズミが使う『あいさつの魔法』を唱えてから、卵焼き(仮)にフォークを伸ばす!

 ああ、やっぱ伊達巻だよこれ! 絶対伊達巻! 伊達巻なんですってば!

 でも……これからは、卵焼き(仮)って呼ばねえといけないんだ!

 わかってくれ伊達巻! 辛いよな! 苦しいよな! 不条理だと思うよな!

 だけど今日からお前は卵焼き(仮)だ。


「ぱくっ……」


 うぐお!?

 まったりとした触感。鼻に抜けるフルーティな甘み。そして程よい塩味。

 うまい! これはあなたの大好きな卵焼き(仮)の味だ!


「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛」


 やぱり美人さんの手で割られた卵は、一味違いますねえ!

 そのまま二個目、三個目とどんどん頬張る。

 ――それに今日はボロボロになるまでお仕事したからね!

 もうご飯がおいしくっておいしくってしかたねっす!

 朝ごはんは寝すぎて――つっても俺的には早起きなんだけどな――食いっぱぐれちゃったし、昼飯は果物と牛乳だけだったしで俺の若い胃袋は全然満足できてなかったんだけど、こんなに美味しい晩御飯が食べれるんだから全然オッケーだわ!

 ――25歳の胃袋って若いのかなあ……。結構油ものがキツくなってくる感じするんだけどなあ……。暴食した後胃もたれするし……。


「本当に美味しそうに食べてくれてうれしいです。あ、わたくしの卵焼きも食べますか?」


 がっついてる俺を見てアルシラさんが自分の皿に置いといた卵焼き(仮)を俺のお皿に置いてくれましたよ!

 この卵焼き(仮)すっごいうまいよ!

 伊達くん、悪いね、俺は現金なのよ。

 この卵焼き(仮)はこれから普通に卵焼きって呼ぶからね。


「あ、いただきますー! ……うもぁ」


 甘じょっぱいんだけど、しょうゆの風味はしないんだよなあ。

 それにこのフルーティは甘みってなんなのかね?

 ここらへんじゃサトウキビとか取れないみたいだし、果糖でも使ってんのかねえ?

 ――細けぇ事ぁいいんだよ! うまいんだからさ!


「お前は少し遠慮したらどうなんだ……。アルシラ、あんまりこいつを甘やかすのはどうかと思う……」


 エクセリカちゃんにジトっとした目で見られちゃいました。

 ――ごめんなさい、働かなくても飯は美味いんす……。


「ふふっ。心配しなくてもほら、ちょっと多めに卵焼き作ったの。エクセリカも好きだものねぇ、卵焼き」


「う、す、好きだが……。いや、もう何も言うまい……」


 やれやれといった感じで食事に戻ってくエクセリカちゃん。

 どうしてかアルシラさんには頭が上がらないみたいだけど……。

 ――二人はどういった関係なんだろうな?

 ま、聞くが早いだろ。


「あの、そういやぁ二人って、どんな関係なの? 友達? 幼馴染? 主従関係?」


 俺の言葉を受けて、二人が難しそうな顔で見合ってる。

 あれえ……もしかして聞いちゃいけない事でも聞いたのかな……。


「うーん、全部です」


 んん。

 アルシラさんが苦笑いだ。


「私は主従関係だと思っている……。アルシラが呼び捨てにしろ、畏まるなとあんまり言うから、こうやって話してはいるがな。もともとはずっと昔の代から、アルシラの一族を守る騎士として、私たちはずっと仕えてきている。だから、あまり近しい関係であってはならないし、そうしてしまえば義理も立たないと何度も……」


「もう! エクセリカは真面目すぎです! もっと肩の力を抜いて、自由に――」


「なんと言われようとも、この身はアルシラを守る鎧。友人として接するのはいいが、それは忘れて欲しくない、わかってくれ、アルシラ」


 真面目な顔でアルシラさんを見てるエクセリカちゃんと、ほっぺを膨らませてエクセリカちゃんを見てるアルシラさん。

 うーん、ちょっと変な事聞いちゃったな……。飯の味がしない、居づらい。

 好奇心は猫を殺すか。

 いや、好奇心は飯の味を殺すか。

 まあなんでもいいや。

 とりあえずさっさと飯食って食器洗いながら、二人のフォークとスプーンペロペロしたら一服して寝よ。きっと明日も朝早くから薪割りのお仕事があるんだろうし。


「ごちそうさまでしたー」


 うっし、じゃあ逃げるか。

 音をなるべく立てないように、ゆっくりと、そして着実に立ち上がり、まるで己の存在を空気のように静かに、当たり前のように存在させる高等技術を俺はもっている。

 中学校の飯の時間、給食じゃなくて弁当だったからな。

 飯を一緒に食う友達なんていなかったもん。

 ひっそりと抜け出して、よく便所で食ってたなあ。

 懐かしや懐かしや。


「それじゃあ次はリッキさんの話が聞きたいです。リッキさんは何歳で、今までどんな事をしてきたんですか?」


 普通に顔をこっちに向けて来られたよね。

 高等技術が聞いて呆れるわい。

 しかも質問の内容は『お仕事は何を?』だ。

 い、一番聞かれたくねえよー!


「あ、えっと……。俺は今年で25歳で……職業はその……無職デス」


 つっても正直に言うしかないよね。

 長く一緒にいる人だし、その場限りの嘘言ったってすぐバレるさ。


「そうだったんですか! 25歳……。わたくし達よりずっと年上だったんですね!」


「え? そうなんですか? アルシラさんはてっきり俺と同じぐらいかと……」


「えっ……。わたくし……そんなに……?」


 はうわ!?

 アルシラさんが震えてる!?

 そうだ! 女性に年齢を聞いちゃいけねえんだ! お世辞でも実年齢より若く言わないってのは犯罪レベルだった!

 えーっと、どうする、どう言い訳すればいい!


「あ、や、老けてるとかじゃなくてですね! そう! なんだか落ち着いてて、年上チックなオーラが出てるんですよ! こう、やわらかくて、優しいオーラが!」


「……本当ですか? わたくし、おばちゃんじゃないですか……?」


 ああああ! 俺はなんて酷い事言っちまったんだ!

 ちょっと瞳がうるうるしてるよ!

 やべえよ……やべえよ……。


「おばちゃんなんてとんでもない! アルシラさんは綺麗です! 美人さんですよ! もうほんと! 二次元なんて目じゃないっす! アルシラさんは、最高です!」


 そうだよ、アルシラさんはとっても美人で、もうちゅっちゅしちゃいたいぐらい可愛いぷっくりとした唇で、ペロペロしたいぐらいセクシーなうなじを併せ持つ魔性の少女なんだぞ!

 こんな俺みたいな――ねえ、アルシラさんは自分をおばちゃんだと言われたと勘違いしたんだよね……? じゃあ俺もしかしておっさんだと思われてるの……?

 や、別に年齢とか気にしないけど……。

 そっかー……俺おっさんに見えんのかー……。

 今度ヒゲ全部剃ろうかな……。


「はうっ。そ、そんなに褒められると……どきどき、しますよ……」


 アルシラさん顔を覆って俯いちゃったじゃないっすか!

 凹んでる場合じゃねえよ俺! さっきとんでもねえこと言ってたんだぞ!?

 綺麗? 美人? 最高?

 何言ってんだ俺ぇええええ!!

 口説くな! 口説くなよ! 何やってんだよ! ばか! 違うの!

 だめ! やめて! エクセリカちゃん! 鞭しまって! そんなのどっから出したの!? ねえ、それいつもどこに隠してるの!? そのスパッツみたいなとこに隠せるとこなんてないよねぇ!? ハッ! そうか、穴か! 穴の中に――ひぎぃ!


「いだいっ! やべでっ! やべでねエクセリカちゃん!」


「アルシラは嫁入り前なんだ。勝手に口説かれてはこまるんだ。悪い虫は今ここで叩き落とす、いいな? 異論はみとめんぞ」


 冷たい視線――まるでゴミを見るような――で俺を射殺しながら『ヒュッ、パチン』ってな具合に痛ぇ!? 鞭を振ってくるエクセ――痛ぃい!?――リカちゃん。


「違うの! 口説いてるわけじゃにいの! ゆるじで! あ、アルジラザン!! ダズゲエェ!!」


 あー、だめだ、ほっぺた染めて『やんやん』なんて言いながら頭振ってるわ。

 援軍は望めない――痛ぇ!?

 アパーム! 弾もってこい! アパーム!

 あ、これは許されないな。

 俺、この戦いが終わったら……。


「もうやだおうちかえる!」


 そんな感じで、鞭でビシバシ背中叩かれながら、俺の晩飯は終わりを告げた。

 異世界生活二日目。

 俺は早くも軽いホームシックになった。




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