異世界生活序盤01 ちなみに好きな技は極光○です。
さて、今回から異世界生活が本格的に始まっていきます。
時にはシリアスで読みづらい所話も出てくると思いますが、何卒お付き合い下さい。
前置きは短く、ですね。
それでは本編をよろしくお願いします。
ほい、そんな感じで異世界生活二日目。
昼夜逆転体質の俺だったけど、なんか普通に朝叩き起こされて、現在玄関口でお外の空気とタバコの煙を胸いっぱいに吸い込んでおります。
正直ちょっと機嫌悪い。
俺、寝起きがすげえ悪くってね。
起こしに来たエクセリカちゃんが無理やり布団引っぺがすもんだから。
『やめろい! ふざくんあ! 俺の眠りを妨げるやつは誰であろうと容赦しねえ! こいよ! こいよエクセリカ! 鞭なんて捨ててかかってこい! 怖いのか!』
なんて言っちゃったわけで……。
『わかった。やってみろ』
なんて言いながらあの子、俺の体中殴る蹴るしてきたわけで……。
いやもう鞭捨ててるから大丈夫とかそんなレベルじゃなくてね、強いの、すげー強いの。
腕力とかハンパないの。
あの子まだ16歳ぐらいでしょ? しかも女の子でしょ? 見た目には結構華奢なのよ? それが大の大人一人片手で捻じ伏せて『さば折り』だとか『ネックハンギングツリー』だとかいった恐ろしい技をかけて俺をボコボコにするもんだからもう体中痛くて痛くて……。
「うう……。かーちゃんは優しかったぞ……」
小学生の頃『お腹が痛い』とか『頭が痛い』とか言ってゴネで学校をよくズル休みしてたわけだけど、かーちゃんはよく悲しそうな顔で『そっか、じゃあ明日は頑張りな?』って言ってたっけ……。
俺は悪いやつだったなー……。
自分に甘くって、だらしなくって、ひでぇヤツだったよ。
かーちゃんのありがたみがマジでわかるわ。
可愛い女の子に起こしてもらえるのは嬉しいけど、毎日これだと体がもたんぞ。
変わるしかないんやな……。変わるしか生き残る道はないんやな……悲劇なんやな。
「どうだ? 目は覚めたか?」
今までどこにいたのかわからんけど、斧を二本持ってきて戻ってきたエクセリカちゃん。
まだ眠たいし体も痛いけど、まぁ目が覚めてるっちゃ覚めてる。君とニコチンパワーのお蔭だよ、うん。
「覚めた。頑張る」
携帯灰皿にポイしてパコン。
うむ、タバコのポイ捨てはいかん。
俺はちゃんと携帯灰皿をいつでも持ってる。
マナーを守って正しく喫煙を、おーけー?
つってもコンビニの袋とかカップ麺とか盛大に湖の中にぼっちゃんしちゃったんだけどさ……。あれって環境破壊じゃね? ゴミのポイ捨てと変わらなくね?
――二度とやりません。今回は見逃して下さい。
「それじゃあこっちに来い。手本を見せてやるから」
エクセリカちゃんがスタスタと歩き出した。
後ろ姿はとってもいいよなあ。
綺麗な金髪は太陽の光でキラキラしてるし、今日は白いタンクトップみたいな感じの肌着で横乳が……ぶっ!? イチゴちゃんが見えてる!? それに黒っぽいスパッツみたいな短いズボン穿いててお尻とかお股の形とか後ろからクッキリっすよ!?
ふひひ……きっと女の子二人で暮らしてたから、自分が今、いかにエッチな姿しているかなんて全然気づいてないんだろうなあ。
眼福でござる……。
朝からラッキースケベでござるな萩原氏。
早起きは三文以上の得になりまんた。
「お前、今日はヤケに無口なんだな。昨日は随分アルシラと楽しげに話していたじゃないか。ああ、朝が弱いタイプか」
後ろを振り向かずにエクセリカちゃんはそんな風に俺に話しかけてきてくれますが、正直その可愛らしい後ろ姿に――主に下半身に――目が釘付けになってて、会話の内容が頭にはいってこないでござる。
「ええ。まあ……」
まあ朝は弱いっすねー。
「そうか。だがこれから毎日この時間に起こすぞ。アルシラの手を煩わせるのも悪いからな。それに私はまだ、お前を信じたわけじゃないんだ。見ているぞ、いつでもな」
それってストーカーか何かかい?
「さて、ここが薪割り場だ。別に伐採所でもいい、好きに呼べ。さて、それじゃあまず私が手本を見せてやるから、よく見てろよ」
と、いうわけで、可愛らしいお尻ちゃんを見ながら、至福の時を堪能してたら『うっ……ふぅ……』と言った感じで伐採所っつーか、薪割り場までたどり着きまんた。
ここはどうやらアルシラさん家の裏手の森だね。
見渡す限り切り株だらけで奥の方は森しかない。
でっかい丸太が段々に積み上げられてんだけど、あんなのどうやって運んだの……? この世界にはクレーン車とかないでしょ……?
まあ、そんでもって始まるエクセリカちゃんのレクチャー。
「ここに積んである丁度いい大きさの木材が、今日お前が割る薪だ。まあ、これをノコギリで切り出す仕事もあるんだがな。今は私がかなり切り出してあるし、別に難しい事じゃないから省かせてもらうぞ。……さて、それじゃあ見てろ、木材をここに置いて、斧をこうやって構えて、腰に力を入れて、一気に叩き割るんだ、いいな?」
あーいいね、あのくびれ……腋もいいね……顔を埋めて思いきり息を吸い込みたいね……ってか、もう挟んで欲しいね……っていかんいかん。
ちっとは真面目に見ておかないとな……せっかく教えてもらってるんだし。
えーっと、ふむふむ……。
切り株の上に薪用の木材置いて……構えて……振り上げて……かーらーのー?
うお! 一刀両断! 綺麗に真っ二つ! かっくいー!
「わかったか? ほら、やってみろ」
斧をこっちに差し出してくるエクセリカちゃん。
ちゃんと刃を自分に向けてくれてる辺り俺の事をちゃんと人扱いしてくれてるって証拠だね、これは。
だって嫌いなヤツだったら俺ぞんざいに刃向けて放っちゃいそうだもんよ。
「了解。えーっと、薪を置いて……こう構えて……」
「なんだかへっぴり腰だな。もっと背筋を伸ばせ」
「さ、サー! イエッサー!」
構えるだけで結構体がバキバキ言うぞ……。
運動不足だったもんなー……。
「さ、振り上げて、叩き割れ」
よし、行くぜ!
俺の必殺技を受けてみろ!
「萩原流奥義! 兜割りぃ!」
そんな流派があるのかはわからん。
しかもこれは日本刀じゃなくて斧。
が、細けぇ事ぁいいんだよ!
「うおー!」
――スカッコン! って間抜けな感じに斧が切り株に刺さりまんた。
「て……てぃひひっ! 失敗したった☆」
なんて振り向いて『テヘペロ』とかやってみたけどもうだめ。
エクセリカちゃんずっと無言。
……あ、これは冷めてるな。
あの眼は怒ってるわけでもなく、笑っているわけでもなく、何も感じてない人の目だ。
「ほら、何してる。さっさと割れ」
「はい……」
恥ずかしいおおおおお!
奥義まで言ったのにカス当たりもしねえとか恥ずかしいよぉおおお!
こんな事なら無言でやるんだったよ……。
いい歳こいた大人が傘もって『アバンス○ラッシュ』だとか『魔○剣』だとかを見たら子供はどう思うんだろうね……きっと『自分はあんな大人にならないぞ』って心の中で人生の目標を組めるんだろうね……。
――俺はその目標を果たせなかったけど。見たんです、小学校の帰りに、バス停で。
そして俺はずっと今まで知らなかったんです。
今までこの25年間、俺は無視されたり、キモがられたり、ウザがたれたり、沢山傷つくことがありました。
もちろんそのせいで何度も枕を濡らした事もあるっす。
だけど、こんな事は初めてだったんだ。
――ネタをスルーされた。
エクセリカちゃんは、とくに反応するわけでもなく、最初と変わらない冷たい目で、何事も無かったかのように。
『ほら、何してる。さっさと割れ』
とか無慈悲に俺に言い放ったわけでして……。
この子の心は鉄でできてるんですかねぇ……?
はい、そんなわけで、薪割りのお仕事を続行しますです……ハイ。




