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まぞくといっしょ  作者: 黒梵天
第二章
35/36

儀式の成否

「……ギワラ……殿……」


 声が、聞こえる。


「ハギワラ……殿……ぞい……」


 頭がうまく働かない。


「う、あ……」


 体がだるい……何を見ているのかもよく、わからない。


「ハギワラ殿、全て完了したぞい」


 カーリャさんが何か言ってるけど、頭に内容が入って来ない。


「リッキさん、お疲れ様でした……儀式は、終わりましたよ」


 アルシラさんがゆっくりと言葉を掛けてくれるけど、よく、わからない。


「かん……りょう……おわ、り……」


 言われた言葉を反芻はんすうすると、ようやくその意味を飲み込めた。


「いっ……!」


 体を起こそうとすると、儀式で受けたあの痛みが鮮明に蘇ってくる。

 全身の生皮を剥がされるような痛み、体の中にザラりとした異物が入ってくる気持ち悪さとチクチクとした痛み。

 比較的痛みに強い体の部位ならそこまで騒ぎ出す様なモノでもなかった。

 だけど腹部やらワキ、膝の裏、股座またぐらと陰部なんかが感じる痛みは、もう死んだ方がマシなんじゃないかと思うぐらい酷くて、情けない事に俺はその時、涙やら鼻水やら涎やらをだらだらと垂れ流しながら情けない声を上げるハメになった。


「う、ぐっ……」


 そんな頭がおかしくなっちまいそうな痛みに耐え切ると、今度は体の中から燃えるような熱を感じるようになる。

 胃が、腸が、肝臓が、肺が、心臓が焼けただれるような非現実的な痛みは、小便や精を漏らすには十分すぎる痛みで、情けない事にその時ばかりは尿道の栓を閉じておく事なんてただの一度も出来なかった。


「はっ……」


 そしてその苦しみからやっと解放されて、ふっと体の痛みが治まってくると、今度は自分以外の意識が侵入してくる恐怖で心が満たされていく。

 エクセリカちゃんと実験した時の魔力の浸食が、生ぬるいと思えるぐらいの膨大な量と密度の濃い情報が濁流のようにやってくる。


「さ、むい……」


 自分が自分で無くなっていく感覚は体全体に悪寒を感じさせ、正常な思考を邪魔するようになってくる。


「リッキさん、気を確かに!」


 だけど――


「リッキ、だ、大丈夫なんだろう? ふ、ふざけているのなら、怒るぞ?」


 それでも――


「だ、あ……」


 俺の推測は――


「だいじょ……ぶ……」


 正しかったんだ。


「大丈夫、だよ……二人とも」


 拳をぎゅっと握りしめてから、気を強く持って二人に返事を返す。

 混乱していた頭が、少しずつ落ち着いてきた。


「ああ! リッキさん……!」


 目に涙を溜めたアルシラさんがぎゅっと抱き着いてくる。


「こ、このっ……! へ、返事ができるなら、最初から……ばかやろうが……!」


 エクセリカちゃんが頬っぺたをグイッと引っ張ってから、ゆっくり胸板に頬をくっつけてくる。体も少しずつ温かくなってきた。


「よかった……本当に、よかった……」


 アルシラさんが目に涙を溜めて、すごく嬉しそうに俺の頬を撫でてくれた。


「ごめんね二人とも、随分心配かけちゃったみたいで……」


 アルシラさんとエクセリカちゃんの肩に手を置いて『トントン』と優しく叩く。


「本当にお前というやつは……いや、もういい。お前は無事だった、それで十分だ。これ以上は何も言わん……」


 胸板に頬をくっつけたまま呟くように言うエクセリカちゃん。

 それから顔を上げて『だが二度目は無いぞ』と付け加えて笑った。


「うん、大丈夫。もう心配させないから――」


 言いながら体を起こすと、何だか頭がクラっとした。


「あれ……」


 それから一気に体の力が抜て、すぐに『ぼてっ』と仰向けの状態に戻っちまった。


「リッキ……さん?」


 アルシラさんが心配そうな顔をしてる。

 まずいな、言ったそばから心配させてる。早く起き上がらないと。


「あ、あはは……ちょ、ちょっと腰が抜けてるだけ――」


 手をついてググっと体を体を持ち上げようとしても全然持ち上がらない。何だかすっげぇ体が重い。


「ご、ごめん……なんか緊張の糸がゆるんじゃったみたいで……」


 それにまぶたも自然に下がってくる。

 やばい、すげぇ眠い――。





「――んんっ……」


 目を開けると、頭の上にぬるくなったタオルがあった。


「なんでタオルが……ん?」


 タオルを避けてからむっくりと起き上がると、腹の上でシャンヘルちゃんが寝てる。

 左に顔を向けると、アルシラさんがベッドのへりに突っ伏しながら寝息を立てていて、反対側を見るとエクセリカちゃんがベッドにもたれ掛かって寝ていた。


「ここは……」


 辺りをぼうっと見渡すと、タンスが部屋の隅っこにひとさおあって、出入り口の所には鉄の剣が一本立てかけられている。

 そんでその隣には衣紋掛けがあって、そこには俺が野良仕事する時に使ってる作業着が引っ掛けられてる。

 間違いない――ここは俺の部屋だ。


「そっか……」


 儀式が終わった後、すぐにぶっ倒れちまったんだっけ……。

 って事は、多分エクセリカちゃんが俺を部屋に運んでくれたのかな?

 それとこの頭の上に乗ってたタオル……アルシラさんかな? もしかしたら熱でも出てたのかもしれない。

 部屋の暗さからして今は夜更けみたいだけど――あ、タンスの上に置いてあるカンテラのロウソクが全部溶けちゃってるから……随分遅くまで看病しててくれたのかも。


「ありがとね……」


 二枚あるタオルケットのうち一枚をアルシラさんに掛けて、もう一枚のほうはエクセリカちゃんに掛ける。

 最後に涎を垂らして寝てるシャンヘルちゃんを布団の中に押し込んでから、なるべく音を立てないよう慎重にベッドを下りる。


「いっ……!?」


 ベッドを下りると木床のささくれ立った所が小指に刺さった。

 この部屋の床って結構古いから、ニスも剥がれちゃってるし木床も乾燥しちゃったりで結構ささくれが出来てるのよね……今度床をやすり掛けして綺麗にした後、ちゃんとニスを塗らなくちゃな――って、何で木が刺さるんだ?


「変だな……」


 何だか違和感がある。

 普段通りのはずなのに、何だかそれがすごく変だ。


「あ」


 ……そうだ、俺は結合の儀を『終えた』はずなんだ。

 だから俺の肌は魔道具の特性を引き継いでて、ちょっとやそっとじゃ傷つくはずが無いんだけど――おかしいな、普通に木のささくれが刺さっちまったぞ?


「んくっ……ごほっ……んんっ……」


 ついでにつばを飲み込むと喉がものすごく痛い。

 随分長い間水を飲んでなかったから喉がからっからだ。

 体の事はすげぇ気になるけど、ひとまずは水を飲みに行こう。


「……リッキ……さん」


 足音をなるべく立てないようにして一歩踏み出すと床が『キシ……』って音を立てちゃって、その音に反応するようにアルシラさんが声をあげた。

 だけど振り返ったらさっきと同じ格好のまま眠ってる……夢に俺でも出てきたのかな?


「……アルシラさん」


「ん、んん……リッキ、さん?」


 アルシラさんの肩を優しく叩くと、ぼんやりとした顔で顔を上げてきた。


「俺は元気だから……ちょっと水飲んでくるね?」


 そう言うとアルシラさんは『はい……』と一言頷いて微笑んでから、ゆっくりと眼を閉じた。

 それを起こさないように抱え上げてベッドの上に寝かせて、今度はエクセリカちゃんも抱き上げてベッドの上に寝かせる。


「……」


 それから静かに部屋から出て、優しくドアを閉めてから廊下を歩く。


「ん……」


 曲がり角に差し掛かると、リビングの入り口のあたりからぼんやりと光が漏れてるのが見えた――カーリャさんかな?


「おや、おはようハギワラ殿」


 リビングの前にまでやってきて中をそろりと覗くと、カーリャさんがソファに腰かけてて、ショットグラスに麦茶によく似た色をした飲料を注いでいる。

 それとテーブルの上には太いキャンドルが三個置かれていて、その周囲がぼんやりと薄いオレンジ色の光で照らされてる。


「おはようございますカーリャさん。……ちょっと水飲んできますね」


 そう告げると、カーリャさんは自分の目の前にある水差しを指差してから『飲み物ならここにあるゆえ』と静かに笑った。


「あ、はい」


 返事をしてからリビングに踏み込んで、カーリャさんの対面のソファに座る。

 するとカーリャさんは水差しを俺の目の前に置いてくれた。


「あ、コップ――」


「そのままで構わんよ。先程まですごい汗をかいておったからのう。もう喉が焼けつくような思いじゃろう?」


 立ち上がろうとするとカーリャさんはすぐに止めてきて『そのままで良い』と言ってくれたので、上げた腰を元の場所に戻して水差しに手を伸ばす。


「じゃあ、失礼して……」


 それから水差しを口元に近づけてゆっくり傾けながら――


「んくっ……」


 吸水口にから水を口の中に流し込むと、冬の肌荒れに薬用クリームを塗った時のような心地よさが喉全体に広がってきた。


「……くっく、酒でも出していたずらしてくれようとも思ったんじゃが、さすがに乾いた体に酒は危ないからのう。また今度じゃ」


 カーリャさんは『くっく』と笑ってチロリと舌を出して見せてから、ショットグラスを口元にもってきて麦茶みたいな色をした飲料を一気に飲み干した。


「あはは、楽しみにしてます……っと、カーリャさん、今は夜更けですか?」


「いんや、夜更けと呼ぶにはあまりに遅く、夜明けと言うにはあまりに早いといった感じじゃな――吸うかえ?」


 カーリャさんがシガレットケースから葉巻を一本取り出して、それをこっちに差し出してくれた。


「あ、いただきます」


 ありがたくそれを受け取ってから口に咥えて、ポケットからライターを――あれ、ポケットが無い。


「パジャマ……?」


 ふと自分の着てる服を見返してみると、青っぽい服をを着てた。

 長袖のカッターシャツに似たデザインのもので、あっち(日本)でも良く見かけるタイプのパジャマだ。

 ……おかしいな、俺はこんなパジャマもってない――ってそうじゃない、そもそも何で俺はパジャマを着てるんだろう。


「ああ、それは客用に出してる寝間着じゃよ。一応ハギワラ殿の部屋のタンスの中を見せてもらったんじゃが……寝間着といったものが見当たらなくてのう」


 カーリャさんが苦笑いを浮かべる。

 あー……そっか、今までずっと気にしてなかったけど、俺は今まで普段着のまま寝てたんだっけ……。

 一応パーカーを洗濯に出してる時はゼ○ダの伝説のリ○クが着てるような服を着てたんだけど、そういえばあれも普段着だ。

 元々半分ヒキコモリみたいな生活してたから、寝間着を着るって発想がそもそも無かったんだよなあ……。


「なるほど……ありがたくお借りします」


「うむ。ちなみに着替えさせたのはワシじゃ。ハギワラ殿はまだまだ若いから、似た歳の娘達に汚れた陰部を晒したり掃除してもらうのは嫌じゃろうと思ってのう」


「え、ええ、確かに……え? い、いや、そ、それは……」


 背中に汗がじっとりと浮かんでくる。

 顔もどんどん熱くなってくる。

 か、カーリャさん、それはつまり、俺の『汚れた陰部』を『確認』して『掃除』もしてくれたって事なんですかね……?


「あ、あわわ……お、お恥ずかしいものをお見せして申し訳ない……。そ、それと綺麗にしていただき、あ、ありがとうございました」


 叫び出したい衝動を堪えて頭を下げる。


「ふっふっ、安心せい。男のモノを見て頬を染める初心な歳はとっくに過ぎたわい。それにあれは単なる医療行為じゃ、ハギワラ殿も気楽に考えておくれな」


 カーリャさんは静かに笑ってからシガレットケースから自分の葉巻を取り出して口に咥えると『我が魔力の――』と唱えて手のひらに火種を浮かせて葉巻に火を付ける。

 それからその火種を俺の近くにまでもってきてくれたので、俺もそれで葉巻に火を付けさせてもらった。


「ふー……それで、調子はどうじゃハギワラ殿」


 煙を吐きだしながら、葉巻で俺の体を指してくるカーリャさん。


「ええっと……痛い所も無いですし、体もだるいって感じはしません。本当にいつも通りって感じで――」


 先ほど足の小指に木のささくれが刺さった事も含めて『体に変化が無い』って事を伝えると、カーリャさんは『ふむ』と考えながら葉巻の灰を灰皿の上に落とす。


「……やはり、こうなったか」


 それからカーリャさんは唇を親指でなぞりながら『やはり』と呟いた。


「あ、あの……何か、マズい事でも起きましたか……?」


 恐る恐る聞き返すと、カーリャさんは少しだけ考えてから、重々しく口を開く。


「ううむ……これはあくまで推測だったんじゃが……魔力とは魂に保存されるものじゃから、結合して体の一部となった魔道具が精力を吸って魔力を生み出すと、その魔力はハギワラ殿の魂に向かって流れて行くんじゃよ。しかしハギワラ殿は魔力を蓄積できんようじゃから、流れた魔力は魔素となって消えているか、精力となって吸収されておる」


 カーリャさんは葉巻をくゆらせながら話を続ける。


「そして魔道具とは、その名からもわかる通り魔力を糧として効果を発揮する道具なんじゃよ。そしてもちろんそれ自体に魔力が保存されておるんじゃ。しかしハギワラ殿の魂の性質上、その保存されていた魔力も消失したか、精力として吸収されてしまったんじゃろうな」


 カーリャさんは灰皿に葉巻の灰をトンと落とした。


「さて、ではここからが本題なんじゃが……それを踏まえてハギワラ殿の体が変異していない事を考えると、ワシには二つの事がわかる。それは魔道具の効果を発揮する為に十分な魔力をハギワラ殿が保持していないという事と、魔道具は微量の魔力しか生み出しておらん上に、その微量な魔力は少しずつハギワラ殿の体内に戻っておると言う事じゃ」


 カーリャさんの推測を聞いて、嫌な汗が出てくる。


「あ、あの……そ、それじゃあ俺の体は……この先一生魔道具の効果を発揮する事が出来ないんでしょうか……?」


 聞き返すとカーリャさんは静かに首を横に振った。


「それを正確に断言する事は出来ん。何せ魔力が魔素に戻ってしまう速度よりも、魔力を生み出す速度のほうが早ければ、結果的には魔力が増えているとも言えるんじゃからのう。……しかしそうであったとしても、結合の儀を終えてからもう随分時間が経っておると言うのにハギワラ殿の体は変異しておらんから、自然に増えているのだとしても本当にごく少量ずつしか増えておらんのじゃろうな」


 カーリャさんの話を聞けば聞くほど、どんどん気分が落ち込んでくる。

 なんだか、地に足が、つかなくなってくる……。


「しかし悲観せんでおくれなハギワラ殿。これは別に悪い事ではないんじゃ。むしろ魔道具が精を吸って命を削るマイナス効果を打ち消しているとも言えるんじゃからのう」


 カーリャさんの言葉に、落ち込んでた気分が少しだけ明るくなってくる。

 確かに魔道具に精を吸われ続ければいずれ枯れ果てて死ぬわけだから、そのマイナス効果が問題にならないってのはかなりのアドバンテージだ。


「それにのう、これは儀式を始める前から何となく予想が付いていた事じゃ。そしてもちろんそうなった時の為にいくつかの手は用意しておる」


 勢いよく顔を上げてカーリャさんの顔を見る。


「……なんじゃ、まさかハギワラ殿はワシがなんの打算も無しにあんな危ない儀式を施したんじゃと思っておったのかえ?」


 カーリャさんがソファの背もたれに『ぽふっ』と寄りかかって、少しだけつまらなさそうな顔をした。


「い、いや、そんな事――」


「嘘を吐くでない。ワシは今ハギワラ殿が勢いよく顔を上げて『意外そうな表情』を浮かべているのをしかと見たぞえ?」


「そ、それは……」


 確かにあの瞬間、俺はカーリャさんの思考の深さってのを完全に失念してたし、まさか手があるなんて思ってなかったけど……い、いや、はい……すごく意外でした。


「……なんだかスネてしまいそうじゃ」


 葉巻を灰皿に押し付けて火を消しながら、カーリャさんは口を尖らせた。


「あ、あわわ……ご、ごめんなさい……」


 頭を下げるとカーリャさんは突然『ぷふっ!』と噴きだした。


「ふっふ! ワシはお主をからかっておるだけなんじゃから、何か面白い事でも言ってくれればそれで良かったと言うに、ハギワラ殿は真面目じゃのう」


 そんな風に笑ってから灰皿をこっちに寄越してソファに座り直すと、カーリャさんはゆっくりと口を開く。


「ではそろそろもったいぶらずに話すかのう。……ハギワラ殿、お主は訓練次第で魔道具の効果を発揮するだけの魔力を持つ事が出来る――いや、もしかするとアルシラよりも膨大な魔力を得る事が出来るやもしれん」


 少し前かがみ気味になってエ○ァンゲ○オンの碇ゲン○ウがよくやるポーズと似たような感じに手を組んで、カーリャさんは俺に対して『魔力は増やせるんだ』って事を教えてくれる。……しかも、この村で一番の魔力量を誇るアルシラさんよりもだ。


「お、俺が……アルシラさんよりも? ほ、本当ですか?」


 聞き返すとカーリャさんはにっこりと笑って頷いてくれた。


「うむ。時間は掛かるとは思うが確実に魔力を増やす事は出来るようになるはずじゃ。その為にはまず――っと、ハギワラ殿、体の内部に何か変わった感じは無いかのう?」


「体の内部に……」


 ぼうっと体の中に意識を向ける。

 心臓の音……筋肉の動き……温かい血液が体の外に向かって……それからぬるりとした感触が体の内側に戻ってくる感じが……え?


「な、なんかちょっと変です……血液が体の外に向かっていくような感じと、ぬるりとした物が返ってくるような感じがします」


 言うとカーリャさんは『おお……』と感嘆のため息を漏らした。


「うむ……体の外側に向かって流れておるのは血液ではなく『精力』じゃ、そして体の内部に戻って行こうとしているのは『魔力』じゃな。きっと体表面が魔道具の一番よく馴染んでおる部分で、そこが絶えず精力を吸収して魔力を生み出しているんじゃろう。そしてその魔力が体の内側に流れている、といった具合かのう」


「なるほど……」


 何だかぼんやりとしか感じられないけれど、これが精力と魔力なのか……。


「ハギワラ殿は運が良いのう。体内の精を感じる事というのは、人間の身なら数十年と掛けてそうが修行してようやく得られる境地なんじゃよ?」


 僧ってのは確か、宗教国家ヤーシュヤのお坊さん……てかプリーストの事を指すんだって事を吟遊詩で読んだ気がする。

 ヤツらは食うものも食わず、ヤる事もヤらず、禁欲に禁欲を重ねて自らの魔力の練度を上げるんだそうな。


「す、すごい……」


 そんな苦しい修行を何十年も掛けて行ってようやく掴める無我の境地的な何かを、俺はしれっと今掴んだって事なのか……すげぇラッキーだ。


「もちろん魔力の存在を感じるのもかなり難しい事じゃ。レガストのアカデミーと呼ばれる施設に通う学徒達が6年から10年努めてようやくうっすらと感じるようになるようなシロモノなんじゃからのう」


 魔法大国レガストに存在する魔術師養成学校みたいな所にいる生徒さん達は、飛びぬけて魔法の才に長けてるって聞いた事があるけど……今の俺はそいつらよりも格段に有利な立場にいるのか……ラッキーというか、もはや豪運の域じゃないか、これは。


「多分魔道具が耐えず精を吸収して、それで生じた魔力がハギワラ殿の魂に向かって流れるといったサイクルを繰り返しておるから、ハギワラ殿の魂や肉体は『異質な動き』に驚いておるのやもしれん。……ふふっ、これは嬉しい誤算じゃな。これなら精を操る訓練をすぐにでも始められるのう」


 そう言ってからカーリャさんは再び『トクトク』と麦茶みたいな色をした液体をショットグラスに注いだ。

 精を操る……ようするに気を操るって事か……あ、わかった!

 俺が精力を好きに操る事が出来れば、吸い取ってる部分に好きなだけ精力を流す事ができるようになるわけで、そうすれば好きなだけ魔力を増やす事もできるんですね?


「なるほど、それでアルシラさんよりも多くの魔力が……って事なんですね?」


「うむ。しかしあまり流し過ぎると生死に関わるからのう。限度を覚えるのもまた訓練じゃな」


 言ってカーリャさんはショットグラスから麦茶みたいな色をした飲料を『こくん、こくん』と静かにあおった。


「は、はい、頑張って訓練します! ……あ、あの、それで、俺はどんな訓練をすればいいんですかね?」


 そろそろお話が終わりの空気が出てきちゃってるけど、まだもう少しだけ空気を読まずに訓練方法とかを聞いちゃおう。

 何だかワクワクが止まらない……すごく興奮してるし、今はちょっと自分自身を抑える事が出来そうにない……!

 山籠もりとかするのかな? それとも不安定な足場に片足立ちしながらバランスを取る的な修行かな? はたまた大自然に囲まれながら大地の声を聞くとか――


「うむ、確か男の場合はナニをおってる訓練をするそうじゃ」


「えっ」


 全然思ってたのと違う。

 コレジャナイ感がすごい。


「ふむ? ナニではわからんかったかのう? つまりお主の陰け――」


「わ、わかります! それはわかるんですけど、本当にそれだけなんですか!?」


 滝に打たれるとか、丸太を足に結んで走るとか、山に籠って瞑想するんだとか、そういう修行的な何かを想定してたんだけど……。


「うむ、それだけじゃよ」


 カーリャさんはケロっとした表情でそう言った。


「一応他にも様々な訓練があるらしいが、男の場合それが一番手っ取り早い方法なんじゃそうな。精を動かす感覚とナニをおっ勃てる感覚はほぼ同一らしいからのう」


 あー……何となくわかるような、わからないような……。

 そっか……いや、それなら面倒くさくなくて全然良いんですけど……何だかちょっと腑に落ちないっていうか……いや、まぁ……うん、修行とかそういうのは忘れよう。修行なんて無かった。


「ふあ……と、さて話す事はこれぐらいかのう。そろそろ夜明けがきそうじゃし、その前に少しだけ仮眠をとってくるわい。ハギワラ殿はどうするんじゃ?」


 カーリャさんは少しだけ眠そうに欠伸をしてから、ゆっくりとソファから立ち上がってぐっと伸びをしてる。


「あ、それじゃあ俺はもう少し起きてます」


 伝えるとカーリャさんは『そうかい』と笑ってゆっくりとリビングから出て行った。


「――さて」


 それじゃあ訓練方法も習ったし、すぐにでも実行してみよう。

 まずはケツ辺りに力を入れて坊やを元気にしなければ……。


「ん……なんか……」


 何だか体の中の精力が股間に向かって流れてるような気がする。


「おお……」


 いつもと少しだけ違う感覚……なんだか股間が温かい。

 しかもほんの少しサイズもでかくなったような――気がするだけだな……。

 いや、だけどこれすごい……目に見えない力が体の中を動き回るっていうのはすごく面白いぞ……いい感覚だ、感動的だな……。


「すげえ……」


 だけどこの要領で好きな所に精力を流すってのはちょっと無理だな……。

 きっとコツがあるんだろうけど、そのコツを掴むまでが大変そうだ。


「……」


 ズボンをちょいと降ろして股間を確認――ふむ、別に精力って可視できるわけじゃないのか……。


「――ああそうじゃったハギワラ殿」


「はうあっ!?」


 エレクトしちまったナニを素早く股の間に挟む!


「明日はシャン殿とエクセリカ殿が森の探索に向かう予定なんじゃが、ハギワラ殿も体調が良ければ助けてやっておくれ」


「あ、りょ、了解っす!」


 振り返って親指を立ててみせると、カーリャさんは満足げに頷いて戻って行った。

 あ、危なかった……もう着替えの時に見られちまったとは言え、平常時のナニとエレクト時のナニを見られるのじゃ恥ずかしさが大違いだもの……。


「さて……まあ、そろそろいいか」


 ズボンを上げてナニをしまう。

 訓練自体はそんなに難しい事じゃないし、誰も見てない所でこまめにやっておくぐらいがちょうど良いのかもしれない。


「……あれ」


 おかしいな、びっくりする事があったってのにナニがギンギンのままだぞ……。


「ま、まあいっか……」


 放っておけばそのうち元に戻るべ。


「よい……しょっと」


 ソファの上にごろんと横になって、静かに目を閉じる。

 何はともあれ儀式は大成功だった。

 体の中には微量の魔力があるっぽし、これならもしかすると最下級魔法の一つぐらいなら使えるかもしれない。

 とはいえ精神系魔法に抵抗するだけの魔力は無さそうだし、早めにアルシラさんに隷属化の魔法も掛けてもらわないと。

 もちろん精力が操れるようになってもずっと刻印は体に刻んでおきたい。

 だってなんだかアルシラさんと『特別な何か』で繋がっていられるのはすごく嬉しいんだもの。いうなれば彼女につけられるキスマークレベルの嬉しさだ。


「はー……楽しみだなー……」


 何だか何もかもが輝いて見える。

 明日は森の探索か……大移動の時も、あっちの村にいた時も、ずっと森ばっかり見てきたからちょっと飽きてたんだけど、不思議と今はすごく楽しみだ。

 ようっし、明日に備えてもっと寝て体調を整えよう……おやすみなさい。

 ……それにしても勃起おさまんねぇな。


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