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まぞくといっしょ  作者: 黒梵天
第二章
34/36

選択の結果

 ぼんやりと薄暗くて狭い道。

 今、俺はみんなとゆっくりそこを進んでいる。

 ここはカーリャさんの家の地下に造られた、とある施設にまで続く地下道。

 石畳と石壁で出来たその一本道は、カビやら苔やらが無造作に生えていて、空気もなんだか少し湿気ったい。

 左側を歩くアルシラさんはずっと無言で『セント・エルモの火』で俺と、俺の右側にいるエクセリカちゃんの足元を照らしてくれてる。

 そして右側にいるエクセリカちゃんも、口を噤んでまっすぐに前を見ている。

 エクセリカちゃんの視線の先には、カンテラをもったカーリャさんがいて、一度もこっちを振り向かず、ゆっくりと俺達の案内をしてくれている。 

 そんな俺達の後ろにはシャンヘルちゃんがいて、さっきから途中で落ちてる石ころを蹴っ飛ばしたりしながらゆっくりついてきているみたいだ。


「……」


 二日前、俺には魔力が無いんだって事を知った。

 そこでカーリャさんは俺に3つの対策を教えてくれた。

 だから俺はそこから4つの選択肢を思い浮かべて……一つだけ選んだ。

 そして今日、俺はその選択した事を実行に移そうとしている。

 だけど心がほんの少しだけざわついてる感じがする……。

 決心はついた、腹もくくってる、そうする為に手も打った。

 迷いは無い、だけどほんの少しだけ……不安なのかもしれない。


「……」


 長い長い一本道を歩きながら、俺はここに来るまでの経緯を思い出す。

 まだほんの少しだけざわついている、この気持ちを整理する為に――。




 二日前の夜――俺は『全ての選択肢を選ぶ』事に決めた。

 アルシラさんに隷属化の魔法を掛けてもらい、これからもエクセリカちゃんと魔融合の相性を高めていく。そしてもちろん結合の儀も受ける。打てる手は全部打っておく。

 ……これが悩みに悩んで俺が出した答えだった。


 ――やっぱり大反対された。


 アルシラさんには『危険すぎます!』って泣きそうな顔で言われるし、エクセリカちゃんなんか今まで見たことの無いような恐ろしい顔で『考え直せ』って言ってきたよ……。

 もちろん俺だって廃人にはなりたくないし、この先笑えなくなるのは絶対に嫌だ。

 だけど俺はどうしても結合の儀を受けたかったし、不思議と結合の儀は成功するっていう『確信めいたもの』があったんだ。

 だからその確信めいたものを『確信』に変えて、二人をちゃんと納得させ、自身も安心する為に沢山の話を聞いたんだ。

 魂ってのは一体なんなのか。

 魔力が浸食するのっては人体にどんな風に働いているのか。

 そういった話をもっと詳しく、事細かに聞いてみた。

 そして聞いた話の中に、こんなものがあった。


『魂にはこのエリシェアに自己を形成する為の基本情報が含まれる核があり、成長によってその核の周りに様々な情報が付加されていき、その生命活動を停止させると、成長によって得た情報は全て失われ、再び基本の状態に戻る』


『魂から発せられる『生命力』や『気』の事を精力と呼び、自己を"老化"や"劣化"や"損傷"から保護してくれていると共に、物理的な行動を補助してくれている』


『魔素とはあらゆる可能性を持つ万能の不可視物質であり、それを魔力に変換し、扱えるように適応したのが新人類である』


『魔力は肉体に保存されるものではなく、魂に保存されるモノである。いうなれば"魔力袋"みたいなものが成長と共に魂の核の外側に出来上がる』


『魔力が浸食している状態をより詳しく説明すると、他者の魔力が自身の魔力袋の中に入り込み、その魔力に含まれる"意志や意識"が自身の魂に含まれる"自我情報"の一部を無理やり書き換えてしまい、自身がもつ自我の全体的なバランスが崩れ、その防御反応として感情の欠如や喪失が起こる』


 この話は全部俺がみんなから聞いた情報を短くまとめた物だけど、重要な部分の殆どがカーリャさんから聞いたものだ。

 聞いてみると『ああ確かに』と思えるような事が色々あって、頭の中に浮かんでいた色んな可能性ってのが少しずつくっつき始めるような気がしたよ。

 そんでその可能性をもっと確かなモノにする為に、俺は今まで自分の身に起こっていた不可思議な事を振り返ってみた。


『俺には魔力が無いっていうのに、誰かの傍にいても人格が変わらなかったこと』


『死んだ生物からは魔力が無くなってしまうこと』


『エクセリカちゃんと初めて魔融合した際、俺は魔力に浸食されたにも関わらず、魂に魔力が一切蓄積されていなかったこと』


『エクセリカちゃんと魔融合した時から、俺の身体能力が飛躍的に向上したこと』


『でも、それ以降魔融合をしても別に身体能力は上がらなかったこと』


『だけど思い返せば、たった半年かそこらの期間で、俺はバトル漫画みたいな成長速度で体力をつけていたんだってこと』


 こういう事を思い出しながら頭をフル回転させて、俺はちょっとした推測にまでこぎ着ける事が出来た。

 それは乱暴で、短絡的で、希望的観測に満ち溢れたものだったけれど、一度考えてしまったら頭から離れない、妙な説得力をもつ推測だった。


『推測――俺には魔力を溜めておく場所が無いから、例え魔力が俺の魂を浸食してきたとしても魂にとどまる事は出来ず、その魔力は行き場を失って魔素に戻ってしまう』


『推測――俺の魂の構造はこの世界のモノと異なっていて、魔素を"精力"に変換してる』


『推測――精力を大量に保有している俺は、物理的行動に対して補助の効果が大きくなっているからこそ、常人を超えた腕力や体力を実現している』


 ……やっぱりすごく乱暴な推測だったのかもしれない。

 だけど俺にしてみれば十分頑張って考えたものだったんだよね……。

 だからせっかくこんなに頑張ったんだから、昨日はエクセリカちゃんやアルシラさんに頼んでちょっとした実験に付きあってもらう事にしたんだ。

 それは実験と呼ぶにはすごく簡単なもので――

 

 『まず俺がエクセリカちゃんと魔融合し、アルシラさんに"フェアリーの悪戯"を掛けてもらう事によってトラウマを呼び起こす。それによって魔力に浸食されやすい状態を人為的に作り出し、魔力が俺の魂に浸食を始めた時、その魔力が一体どうなっているのかってのをシャンヘルちゃんに観測してもらう』


 っていう方法だった。

 少し危険な方法だと思ったけれど、ヤバかったらすぐに魔融合を解除してもらえば大丈夫だって事は前に一度体験してる。

 それにアルシラさんもエクセリカちゃんも、俺の推測が間違っているんだって事を証明して、結合の儀を諦めさせようと協力的だった。

 さて、そんなわけで執り行われた実験なんだけど……じらすのはナシだ、結果を先に言おう。

 ――大成功だった。

 アルシラさんの魔法によってトラウマを呼び起こした俺は、前みたいにエクセリカちゃんの魔力に飲み込まれる事となった。

 だけど今回は前みたいに頭がぐっちゃぐちゃになる事もなかったし『なんか少し気分が悪い』ぐらいにしか感じなかった。

 そしてそのまま浸食された状態を維持してもらって、みんなに魔力の流れを観測してもらったんだけど……結果は『全員』がエクセリカちゃんの魔力の反応が途中で消えたって証言してくれた。つまり……魔力の匂いを細かく感じ取れるシャンヘルちゃんですら、俺の体の中に入ってきた魔力が途中で消えたって答えたんだ。

 そして精力が増えたのかどうか、これも俺にはイマイチ把握できないからしっかりと聞いてみたんだけど……予想通り『全員』が濃くなったって答えてくれた。

 ……さて、そんなわけでこの証明が終わった次の日の今日、再びアルシラさんとエクセリカちゃんを説得し、結合の儀を受ける事に頷いてもらった。

 そして朝飯を済ませてから、俺達は『結儀の間』と呼ばれる、カーリャさんの家の地下にある部屋にまで向かう事になったんだ――。





「――リッキ……本当にいいのか?」



 エクセリカちゃんが右腕をぎゅっと抱え込んで俺の歩みを止めてきた。

 俯きながら考え事をしていた頭が現実に引き戻され、少しずつ頭がスッキリしてくる。


「リッキさん……やっぱり少し、心配なのです」


 そしてアルシラさんも俺の左腕をぎゅっと抱え込んでくる。

 前を向くとカーリャさんがこっちに振り返っていて、複雑な面持ちで見つめていた。

 それからカーリャさんは俺の左右にいる二人に一度だけ頷くと、ゆっくりと踵を返して先に進んだ。

 ここに来るまでの間、二人は終始無言だったけれど……もしかしたら俺が俯きながら考え事をしている間、もうすぐ『結儀の間』に到着するんだって意味合いのアイコンタクトをとっていたのかもしれない。

 ……って事は多分、ここが考え直せる最後の場所だって事なんだね。


「俺は……」


 不安げな表情の二人を交互に見てから、もう一度ゆっくりと考える。

 今朝、俺が結合の儀を受けると言った時、二人は静かに頷いてくれた。

 だけどやっぱり、この世界の常識をもっている二人には、俺の魂の構造が普通と異なっているなんて話はイマイチ信じきれない事で、かなりの不安があるのかもしれない。

 もちろん俺も……まったく不安が無いのかと言えば嘘になる。

 実験には成功したけれど、あれが本当に俺の推測通りなのか完璧に証明できたのかと聞かれると、ちょっと言葉に詰まっちまう。


「……」


 だけど――俺はもう決めた。

 じっくり考えたし、俺にしては珍しく入念な考察も入れた。

 そして今日、俺は決意してこの場所を歩いているんだ。


「俺は結合の儀を――受けるよ」


 告げると二人は驚いたような顔で見上げてきた。

 ごめんね二人とも……もしもリスクを恐れて迷うようなら、俺は最初からリスクがない選択肢を選んでると思う。

 そうしなかったのは俺自身が強くなりたいからで、打てる手は全て打っておきたいからで、俺の事を守ってくれる二人に対して誠実でありたいからなんだ。

 だから今更それを曲げるような不誠実な事を、俺は絶対にしたくないんよ。


「……しかし、だな……その、結合の儀を受けても大丈夫なんだと、完全にわかってからでも遅くは無いだろう? その間お前がどうしても魔法を使いたいと言うのなら……私はいつでもこの魔力を貸してやるぞ?」


 エクセリカちゃんは、その吸い込まれそうな色の碧眼を潤ませながら、ぎゅっと俺の服のそでを握り締めてきた。

 魔法か……確かに使いたいし、エクセリカちゃんと魔融合出来るのは嬉しいよ。

 だからその申し出はすごくありがたい――


「……魔力を返せるアテが無いよ。それにエクセリカちゃんは戦闘指南役のお仕事もしてるし、狩りに出る頻度も多いからいつでも万全な状態でいないとダメだ。……だから俺が魔法を使いたいって我侭を言ったら、ゲンコツしてでも止めて欲しい」


 けど、やっぱり魔法を使いたいって俺の我侭に、エクセリカちゃんを巻き込むのは絶対に嫌だ。


「……確かにその通りだ。だが……いや、そうだな……私の魔力も、それほど多くは無いしな……もっと、多ければな……」


 エクセリカちゃんが『しゅん』と項垂うなだれて俺から離れようとする。

 あ、違う、そういう意味じゃなくて――


「う、あ……ま、待ってエクセリカちゃん。これは……エクセリカちゃんを必要としてないって意味で言ったんじゃないよ」


 離れて行こうとするエクセリカちゃんの腕を掴む。


「その、なんというか……俺とエクセリカちゃんが魔融合する時ってのは、俺の心を知ってもらいたい時と、誰かを守る時だけで十分だって意味で言ったの。俺はこれからもエクセリカちゃんに魔融合をお願いするし、精の交換もして欲しい……だけどその前に、俺は自分に出来る最大限の事をしたいんだ。だって、与えてもらうだけ与えてもらって、自分自身が何もしないってのは……絶対にフェアじゃないもの」


 掴んだエクセリカちゃんの腕は細くて柔らかくて、すごく温かい。

 そう、温かいんだ。

 俺の目の前にいるのは主に使えるただの騎士なんかじゃない。

 怒るとすげぇ怖いけど……本当はすごく優しいくて、最高に可愛い女の子なんだ。 

 そんな素敵な女の子に対して『魔法使いたいから魔融合してくれ』なんて身勝手な事は絶対に言いたくない。

 そして俺はそんな可愛い女の子とフェアな関係でいたい。

 完全にフェアな関係になる事は無理かもしれないけれど、少なくとも自分に出来る事は先にやっておきたい。

 それも出来ないような半端な俺が、どの口で彼女に『大切』だなんて言えるんだ。


「……っ! 一人前みたいな事を、言うな……っ!」


 エクセリカちゃん掴まれていた腕を解いて、ゆっくりと俺の背中に手を回してきた。

 それからぴったりと傍らに寄り添ってきて『……だがもう、それなら何も言わん』と静かに呟いた。

 多分……ちゃんと納得してくれたんだと思う。


「アルシラさん、やっぱり……まだ反対?」


 だけどアルシラさんはまだ少しだけ不安に思ってる感じがする。

 だって何か言いたそうな顔で俺の顔を見上げたり、俯いて何かを考え込んだりを繰り返しているんだから。


「……はい、反対する気持ちはあるのです。ですが……わたくしはいつだってリッキさんやエクセリカの決意に守られてきました……。ですからこれ以上、わたくしはあなたの大切な決意に水を差すような事をしてはならないのです……ならないの、ですけど……」


 アルシラさんが俺の左手を、自分の両手で包み、自分の胸のあたりにまで持ち上げる。


「……一つだけ、一つだけ聞かせてください。リッキさんが結合の儀を受けるのは、わたくし達の為ですか? それともリッキさん本人がそうしたいから……ですか? もしかすると何か、使命感のようなものを、感じていたりしませんか……? 前の村にいた時のリッキさんを思い出すと……なんだかすごく、心配になってしまうのです……」


 アルシラさんの金色の瞳が揺れる。

 ……そっか、あっちの村で例の事件が起こった時、俺燃えてる倉庫に突っ込もうとした事があったっけ。

 あの時はアルシラさんに泣いて止められたけど……あの時の事を何か引きずっていたのかもしれないな……。


「ううん、使命感なんて何一つないよ。俺は自分がそうしたいから、そうしてるだけ」


 不安げな表情のアルシラさんに、優しく笑って見せる。

 確かに前の村の一件以来『役に立ちたい』『強くなりたい』って気持ちは格段に増えたとは思う。

 だけど俺は今までずっと、やりたい事をやってきた。

 大切な人守る事、優しい村の人達を守る事。

 それは全部俺がやりたいって思ったからやった事なんだよ。

 子供みたいな俺が『俺の宝物を奪うんじゃねえ』と暴れてたってだけの話。

 そこに使命感なんて何一つない。

 ……だけど、たった一つだけ、自分自身に課そうとしてる事だけはある――


「アルシラさん」


「は、はい……」


 俺はゆっくりと息を吸い込む。


「使命感はないけれど、俺はこれからもアルシラさんの『右隣』を歩くよ。それを許してくれるかな?」


 言うとアルシラさんは少し困惑した表情を浮かべたけれど、すぐに『あっ』という顔をしてから、嬉しそうに微笑んでくれた。


「……はい、ずっとわたくしの『右』にいてください……。そしてわたくしは、いつでもあなたの『左』にいます」


 アルシラさんは今まで掴んでいた俺の左手を裏返して、その手の甲をゆっくりと撫でてくれた。

 剣と魔法のファンタジー世界に生きてるアルシラさんは、すぐにわかってくれたみたいだけど、あっち(日本)では絶対に言わないかもしれない。

 これはようするに……右手は剣で、左手は盾ってことだ。

 俺は剣をもたぬアルシラさんの剣になり、アルシラさんは盾をもたぬ俺の盾になる。

 これが俺自身が自分に課すこと。

 大好きな女の子の為に、真摯であろうと努める事だ。


「リッキ……それなら私はお前とアルシラの右をずっと歩こう。ずっとな」


 エクセリカちゃんがゆっくりと俺とアルシラさんの背中に手を回してくる。


「はい、ずっと歩いて下さい……二人とも」


 そして二人は左右の腕にゆっくり頬をくっつけるようにして寄り添って、俺の視線に静かに頷いてくれた。


「アルシラさん、エクセリカちゃん……」


 俺はそんな二人の肩に手を回し、ぎゅっと抱き寄せ――


「――ぶすりっ」


「アッー!?」


 ようとしたらケツに何か刺さったんですけどぉおおおッ!?


「う……ぐ……な、何すんのさ――シャンヘルちゃん!」


 振り返るとシャンヘルちゃんがすげえ真面目な顔をして手を銃の形――いわゆるカンチョーの形に組んでた。

 おいィ……ヤケに静かだとは思ってたけど……さてはずっと狙っていやがったな!?


「おお……やっぱこれって夢じゃ無ぇんだな」


「え……?」


「……いや、なんかリッキがいつもソレが見てるのと全然違ぇから、もしかしてこりゃ夢なんじゃ無ぇかと思っちまってよ……ほら、夢ってヤツは、痛みが無ぇだろ?」


「それ、自分の頬っぺたつねって確かめればよかったんじゃないの!?」


 言うとシャンヘルちゃんは『ああその手があったか、くひひっ!』と笑って俺達の横を通り抜けて先に進んだ。


「まったく……ひでぇことしやがる……」


 今、俺は生まれて初めて女の子達と良い雰囲気になったような気がするのに、すげぇ間抜けな感じにぶち壊れたぞ……。

 ……いや、それもちょっと残念なんだけど、シャンヘルちゃん夢つった?

 ええい失礼なヤツめ……俺だって真面目な事を考えて、真面目な言葉を話す時ぐらいあるわい……とはいえ普段脳天気にしてる俺と今の俺の落差ってすげえ酷いから、まあ仕方ないっちゃ仕方ないか……。


「……さて、それじゃあそろそろ行こう。いいかな、二人とも?」


 左右を見て二人の顔を見ると、少しだけ苦笑していたけれど、すぐに真面目な顔に戻ってこっくりと頷いた。

 ケツはまだ痛いけど、空気を切り替えよう。

 俺はこれから、大事な儀式を受けるんだから。


「うっし……」


 それから二人と一緒にゆっくりと前に踏み出す。

 一歩ずつ、一歩ずつ、俺の決意を、石畳のタイルに刻みつけるように。

 苔が茂る壁や、カビの生えた壁、そういうものを通りこして俺達は歩く。

 右手にはエクセリカちゃんの手が、そして左手にはアルシラさんの手が繋がれている。

 大丈夫、絶対成功する……いや、させる。

 だって俺、二人の悲しむ顔とか、絶対見たく無いもの。


「――お待たせしました」


 ぼんやりと見えていた明かりのすぐ近くまでやってくると、カンテラをもったカーリャさんが待っていた。


「いいや、大事な儀式なんじゃからのう。心構えはしっかりとせねばならん。本人も、それを想う者ものう。……さて、それではもう大丈夫と見ても良いのかえ?」


 カーリャさんは俺の左右にいるアルシラさんやエクセリカちゃんを交互に見た。


「……はい。わたくしはリッキさんの望む通りになる事を信じます」


「私もです。……リッキ、気張れよ」


 アルシラさんとエクセリカちゃんが俺の手を強く握って見上げてきた。

 俺はそれにゆっくりと頷き返す。


「……そうか。それならワシからも最後の確認じゃハギワラ殿。ワシの後ろにある扉を開ければ、そこはもう『結儀の間』じゃ。ここでお主は結合の儀を受ける事になるが、それはサイコロを振るような賭けと言っても良い。前日の実験で勝てる目は格段に増えたように思えるが、依然として賭けるチップはこの先の人生全てじゃ。お主には、それを支払う覚悟があるのかえ? そして人間と敵対する亜族であるこのワシに、己の全てを預ける事が出来るのかえ?」


 カーリャさんは真剣な面持ちで俺の目を覗き込む。


「はい、俺は――」


 問いに答えようと口を開くと、カーリャさんの顔に少しだけ失望の色が浮かんだ。


「俺は……」


 言おうとしていた言葉を飲み込んで、もう一度言葉を選び直す。

 これは……多分ただの問答じゃない。


「どうしたんじゃ、ハギワラ殿?」


 カーリャさんはあいも変わらず普段通りの表情をしている。

 だけど、ほんの少しだけ……空気がヒリヒリしてる。

 やっぱりだ……これは絶対、ただの問答じゃない。


 ――よく考えてから答えろ、俺。


 カーリャさんは結合の儀の説明を始めて俺にした時以外、積極的に止めようとはしてこなかった。

 だっていうのに最後の最後で俺にその心構えを聞いてきた。

 そして俺がその言葉に即座に返事をしようとしたら、表情に少し失望の色が浮かんだのは一体どうしてなんだ?

 ……それは、カーリャさんは今から、俺が気を失っちまうような痛みを与え、精神がぶっ壊れちまうような事を俺にしなくちゃならないからだ。

 それはきっと……いや、絶対楽しい事じゃない。

 なんせカーリャさんは結合の儀の説明をしてる時、嫌な事を思い出してすごく苦しそうな顔をしていたんだから。

 そしてカーリャさんはアルシラさんの事をすごく大切に思ってる。

 だから、もしもこの儀式で俺が壊れてしまったら……間違いなくアルシラさんに対してとんでもない程の罪悪感を抱く事になる。

 ――盲点だった。

 ……俺は、カーリャさんもしっかりと納得させなきゃいけないんだ。

 今まで積極的に止めてこようとしなかったのは、この気が抜ける瞬間に俺の本心を聞き出す為……多分これだ。


「ハギワラ殿、まだ少し迷いがあるのなら、無理をせんでも良いんじゃよ?」


 カーリャさんはポケットに手を入れて、その中で何か『チャリ……チャリ……』と鳴らしてる。……多分、この鉄扉を開く鍵だ。

 ――どう、答えればいい。

 生半可な事を言えば、多分結合の儀は中止になる。

 だから俺は今、カーリャさんの質問に対して、単純に『はい』と答えちゃいけない。

 もちろん綺麗な言葉で装飾された理由付けもアウトだ。

 カーリャさんが求めているのは……俺の本質、本音、欲求の強さ。

 包み隠さぬ正直な気持ちだ。


「……俺は、力が欲しいんです。やりたい事を、やれるだけの力……我侭を、貫き通せるだけの力が欲しい。それが手に入るなら……俺は残りの人生をベットできます。誰の為でもなく、俺の為に、俺の意志で賭けられます」


 瞳を逸らさず、真っ直ぐに言う。

 大切な人を守りたい、優しい村の人を守りたい……そういった気持ちは確かに俺の中にあるけれど、そんな理由にかこつけて危ない橋――結合の儀――は渡らない。

 俺は世界を背負う勇者でも、英雄に憧れる少年でも、星を守る光の巨人でもない。

 言うなれば俺は、エリシェアにやってきた異世界人で――ただの我侭な、子供みたいな大人だ。

 これはそんな大人になりきれない我侭な男が、強くなりたくて、変わりたくて、好きな子を守りたくて、誠実でありたくて、力が欲しくて欲しくてたまらないから、駄々を捏ねてるだけの事なんだ。

 だから誰の為だ、何の為だなんて綺麗ごとだけは、口が裂けても言わない。


「それに俺は、人の悪意には敏感なんです。……カーリャさん、改めてお願いします。サイコロを振ってください。あなたの手に握られているサイコロは、間違いなく『イカサマ』をする為のものじゃない」


 さげすまれ、疎まれ、笑われてきた俺だもの、よっぽどパニクってなければ相手の表情や言葉の端々から害意を抱いているかどうかちゃんと読み取れる。

 カーリャさんは俺がどんな人間なのか、会話を楽しむついでに読み取ろうと仕掛けてくる事はあるかもしれないけど、おとしいれるような事は絶対にしない。

 だってこの人は『誰かを想う』事が出来る優しい人なんだから。


「――なるほどのう」


 答え終えるとカーリャさん腕を組んでからゆっくりと考えて、それから短く一言だけ『なるほど』と呟くと、ポケットから真鍮しんちゅうに良く似た色の太い鍵を一本取り出し、それを重そうな鉄扉のカギ穴にゆっくりと差し込んだ。


「なるほど、なるほどのう……くっ……くくっ……くっかかかっ!」


 そしてカーリャさんは――突然笑い出しちゃったんだけど!?

 おろろ俺何かマズ事言っちゃったのかな!?


「いやはやまったく! アルシラはなんという男を連れてきたんじゃ! そしてワシは、なんという男を村に引き入れてしまったんじゃろうな! お主はこの『結合の儀』を受ける事を、我侭だと言いよったな? 何かを守る騎士道精神でもなく、聖人のような自己犠牲の精神でもなく、ただの我侭なんじゃとお主は臆面も無く言いよったんじゃな? くっかっかっ! 良いぞ! 実に良い心意気じゃ!」


 カーリャさんは差し込んだ鍵をガチャリと回して扉を一気に開け放った。

 その瞳には、今まで俺が見た事も無いような楽しげな色が浮かんでる

 あ、これ、マズい事を言っちゃったんじゃなくて……カーリャさんを納得させられるだけの答えを言えた……って事かな? よ、良かった……怒らせたワケじゃないのか……。


「くっく……なんともまあ、これほど胸がすくような気持になったのは何年ぶりか。まさかワシが生きてるうちに、我侭な事を我侭だと包み隠さずにハッキリと言う我侭な男に二度も出会えるとは思わなんだ。実に……実に素晴らしい日じゃ。これではもう、ワシは着飾った『優しい村長』ではいられなくなってしまうぞえ? ハギワラ殿!」


 それから振り返って不敵な笑みを浮かべながら目の前にずいっとやってきて、蛇の尻尾を俺の体に巻きつけて――引き寄せられるゥッ!?


「……いいじゃろう、ハギワラ殿。ワシは友として、お主に結合の儀を施そう。死ぬ方がマシと言うぐらいの痛みを与え、心を壊してしまうような非道な儀式を喜んでお主の為に施してやろう」


 そのまま体をやわやわと締め上げてきて、すごく優しい笑顔を浮かべて俺の顎やら頬っぺたやらを撫でながら『結合の儀を施す』とカーリャさんは言ってくれる……けど何だか頭にしっかりと声が入ってこない……ヤバい、か、カーリャさんの尻尾すごく、つ、冷たくて気持ちいい……か、体から力が抜けてくる……ッ!


「そしてこの儀が済んだら……特別な酒を振る舞わせておくれな。朝まで、昼まで、夜まで、そしてまた朝が来るまで、浴びる程、溺れる程に飲んでおくれな。友になっておくれ……ハギワラ殿。ワシはお主を――気に入った」


 ……カーリャさんは俺の耳元に唇を寄せて、掠れたような甘い声を出しながら、静かに、這わせるように、舐めるように『気に入った』と囁いてきた……。

 う、あ、頭が、ぼんやりする……。


「は……はひ……」


「うむ――さて、それでは中に入っておくれな」


 返事を返すと、カーリャさんは満足そうに頷いてから、俺の体に巻きつけていた蛇の尻尾を『しゅるり』と解いて、ゆっくり『結儀の間』に入って行く。


「うう……りょ、了解っす」


 頭を振って混乱や困惑といった感情を追い出す。

 いかん、これから大切な儀式が待ってるんだから、気をしっかり持たないと。


「お邪魔します」


 頭が少しスッキリしてから、ゆっくりとカーリャさんに続いて中に入る――中は暗くてほとんど何も見えない。


「シャン殿、すまんが壁に立ててあるロウソクに火を灯してもらっても構わんかのう?」


 カンテラをもっていたカーリャさんが、入り口のすぐ近くにある壁のフックにそれを吊り下げると、その隣にぼんやりとロウソクらしきものが見えた。


「お、おう……。ふっ! ふっ! ふっ――」


 シャンヘルちゃんはそのロウソクに火を噴きかけ、順々にロウソクに火を灯していく。

すると部屋の中が見えるようになってきて――


「な、なんですか、これ……」


 部屋の真ん中に、禍々しいオーラを放つ物体が鎮座しているのが見えた。

 アイアンメイデンのような、棺桶のような形をした謎の物体。

 それが石で出来ていた冷たい感じのする部屋のド真ん中にポツンと置かれている。


「拘束器具じゃ、特別製のな」


 カーリャさんは拘束器具と呼んだそれの蓋をゆっくりと開く。


「……な、なんか、すごい色した金属ですね……」


 中を覗き込むと漢字の『木』みたいな形をした赤黒い鉄の金属板があって、その箇所箇所に同じように赤黒い鉄の金具と、輪状の装置が見える。

 多分これは頭、首、手首、足首、胸部、両腕、腹部、両足を押さえつけるものだと思うけど……この足の間に伸びてる部分は一体何を拘束するんだべ……尻尾かな?


「これは魔結晶を錬金して作り出した『星鉄合金』で出来た枷じゃよ。結合の儀の最中は魔法で体を拘束する事が出来んからのう。多分ドラゴンと言えどもこの拘束器具は壊せんじゃろうな。……村の者には、黙っておいておくれな?」


 カーリャさんの言葉にコクコクと頷く。

 もしかしたら、この部屋は限られた人しか知らない場所なのかもしれない。

 なんせ感情を失いかねない危ない儀式なんだし、村の人みんなが知ってたらカーリャさんの評判を落としかねない――あれ、じゃあシャンヘルちゃんをここに連れてきてもよかったのかな?


「きゅうっ……」


 ……大丈夫だ、これは絶対喋らないね……ガタガタ震えてるし。

 それに例え喋ったとしても、カーリャさんの信頼の厚さから考えて、多分シャンヘルちゃんの言葉は『世迷言』で流される気がする。


「さて、それではハギワラ殿。このアラクネの者が作り出した服を着てもらえるかえ?」


 カーリャさんが木箱の中から、例の魔道具を取り出して俺に差し出してくれた。


「はい、了解で……あ、素肌にですよね?」


「もちろんじゃ」


「了解っす」


 カーリャさんから受け取ってから、上着を全部脱いでゆっくりその服を着る。

 まるで裾の長いロングコートを思わせるデザインで、真っ白なその生地にはシミ一つなく、全面部分は沢山のベルトみたいなもので閉じられてる。

 この服が俺の体と一体化するのか……つっても別に肌に癒着させるわけじゃ無くて、肌に溶け込ませる感じだって聞いたな――っと、よし、着れた。


「ああ、それとハギワラ殿、これは忠告なんじゃが、下着も全て脱いでおいた方が良い」


「えっ」


 辺りを見渡すと、アルシラさんやエクセリカちゃん、そしてシャンヘルちゃんがじっとこっちを見ていた。

 ……こ、ここで脱ぐんですか?

 い、いやでも……こ、ここには女の子がいっぱいいるわけでして、み、皆にその……お、俺のアレを見られるのは、ちょっと精神的にキツいっすよ?


「あ、あの、そうしないと体とズボンが同化しちゃったりするって事ですかね……?」


 このままだと俺のオベリスクが……いやそんなに立派じゃないけど――と、とにかく女の子に下半身を晒して喜ぶような性癖は今の所俺には無いわけで……出来る事ならトランクスの一枚でも履いておきたいっす……。


「いいや。じゃが……汚れるんじゃよ、とくに男の場合は精でのう。もちろん排泄物で汚れる事もある」


 カーリャさんは拘束器具の金属板の下あたりをいじくって、漢字の『木』の下の棒を切り離して漢字の『大』の形に変形させた。

 すると切り離された部分の下に溝があって、そこにガラス瓶の大きな容器と、謎の皮素材で出来たパンツみたいなのが入ってて、その皮のパンツの股間とケツの部分から、管のようなものが伸びてて、それがガラスの瓶と繋がってる。


「じゃからこの皮の下着を履いておけば、もし漏らしてしまっても汚物が全てこの瓶に溜まり、この拘束器具の中を汚さないで済む……といったわけなんじゃが、恥ずかしいのであれば無理をせんでも良い。……が、この器具を清掃するのは、中々堪えるものがあるぞえ?」


 カーリャさんに言われて中をよく見渡すと、細い溝やら小さな窪みが色んな所にある。

 ……なるほど、こりゃ掃除するのが面倒臭そうだ。


「……了解っす。それじゃあそのパンツ履きますんで……少しだけ顔を逸らしていてもらってもいいですかね? お恥ずかしいものを見せしてしまうかもしれないんで……」


「うむ、わかった。……ああ、じゃがワシはこの下着がしっかりと履かれているか確認させてもらう必要があるからのう。後に触るが、少し我慢しておくれな?」


「は、はい……じゃあ、着替えます」


 ズボンに手をかけると、みんなは後ろを向いてくれた。

 そしてみんなが後ろを向いたのを確認してからズボンとパンツを一気に降ろす。

 そして皮のパンツみたいなものを履いて――うあ……これ、全面部分にナニを入れておく袋みたいのがある……なるほど、ここにインしておくのか。

 ……しかしあれだな、痛いとは聞いていたけど、種を保存する本能を刺激するレベルの痛みがやってくるのか……少し怖い――っと、履けた。


「……あ、あの、履けました」


 言うとカーリャさんが振り向いてこっちにやってくる。

そしてちゃんと履けているかどうか確かめてから『うむ』と頷いた。


「それではハギワラ殿、その上に横になっておくれな」


 カーリャさんの言葉に頷いてから、ゆっくりでかい棺桶みたいなヤツの中に入る。

 それから両手を広げて大の字にると、カーリャさんは金具で俺の体を拘束した。


「リッキさん、頑張って下さい」


「リッキ、気を確かに持てよ?」


 全ての準備が整うと、アルシラさんやエクセリカちゃんがやってきて、俺の手を握ってくれた。


「大丈夫、絶対成功させるから」


 頭も拘束されてるから頷けはしないけど、俺は優しく二人の手を握り返す。


「リッキ……お前よ……ぶっ、くっくっくっ……」


 次にシャンヘルちゃんが近づいてきて、俺を見下ろして――噴きだしやがった!?


「くひっ! くひひひっ! お、お前今、す、すげえ……ぶっくっくっ!」


「ああん!? 大の大人が白いロングコートに皮のパンツを履いて大の字になって拘束されてる姿の何が面白いっていうんだよ!?」


 ちくしょう……考えないようにしてきたのに……。

 やっぱ間抜けな姿だよな……これ……。


「お、おう! 別に面白くは……ぶっくっくっ……! ひっひっ! あっははは!」


 ちくしょうめ! 棺桶のヘリが邪魔して見えないけど、絶対シャンヘルちゃんが腹を抱えて転げまわってるだろこれ!

 確かにすげえ間抜けな光景かもしれないけど、俺今すげえ大真面目なんだよ!?

 この先の人生賭けてんだよ!?


「はぁ……はぁ……いや、悪ぃなリッキ……ぶふっ! はー……ま、でもよう、お前はそんな格好してでも強くなろうとするんだな。ソレがお前に勝て無ぇ理由ワケはそいつか?」


「絶対違う」


 むっくりと起き上がってきたシャンヘルちゃんが、皮肉げな事を言ってきたからピシャリと否定する。

 するとシャンヘルちゃんは『そうかよ、くひひっ』と笑ってきた。

 ええい憎らしや……さっきといい今といい、二度もシリアスな空気をブレイクしおってからに……後で絶対何かしてやろう。

 メイド服か、それともゴスロリ衣装か……何だっていい、絶対フリフリの衣装着せてやるからな……シャンヘルちゃんっていっつもズボン履いてるから、スカートとか絶対苦手なタイプだろ。


「ま、とりあえずコレが終わったらあそぼーぜ。今度は狩り勝負でよ」


「その前に村の建築のお手伝いをするのが先だからね。運んでもらうよ、レンガを、木材を、粘土を、山ほど」


 答えるとシャヘルちゃんは『ちぇー』って言いながらつまらなそうに俺から離れた。


「それではハギワラ殿、そろそろ始めるぞえ」


 俺はコクンと――体が固定されてて頷けないので『はい』と短く返事をした。

 さあ、何はともあれ気合いを入れないと。


「……これより結合の儀を始める。我が名はカーリャ。エキドナ一族の長であり、その魔融合の属性は――『結合』。これより我が体を通じてハギワラ殿と魔道具を結合させる。遠き大地より我らを見守る数多の王よ、そして血脈と魂に息づく我が祖よ、この恐ろしくも崇高なる儀式に祝福を与えたまえ」


 カーリャさんは胸に手を当てて祈るように言ってから『ずるり……』と棺桶の中に入ってきた。……この儀式って、魔融合だったんだ。


「さて、もう戻れはせんぞ……ハギワラ殿」


 そしてその棺桶の蓋をしめて『もう戻れない』と静かに言った。


「……お願いします。カーリャさん」


 それに返事をすると、暗くて表情は見えないけれど、カーリャさんは多分、笑ったんだと思う。


「それでは、始めよう。気をやるんじゃないぞえ、ハギワラ殿――結合開始ッ!」


 カーリャさんが『開始』と叫んだ直後、棺桶の中に光が満ちた。

 そしてその光が俺の体を包んできて――


「いっ――ッ!?」


 いってぇぇええええッ!?

 光が俺の体を包んだ直後、すっげぇ痛みがやってきた!

 まだ耐えらそうな痛みではあるけど、どんどん痛みが強くなってきてるッ!

 

「ぐぅっ! ぎっ! いっ! いうぅうう――ッ!」


 だけど歯を食いしばる、痛みに耐えるッ!

 結合の儀は確かに始まったんだ、もう戻れない――否ッ!


「があっ! あっ! あああaaAAA――ッ!」


 戻るつもりなんて毛頭無いッ!


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