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まぞくといっしょ  作者: 黒梵天
第一章 白銀の鎧と悪魔の少女
3/36

プロローグ03 ようやくこれで一日が終わったわけです。

「うまそー!」


 あれから野菜の収穫とかニワトリのシメ方とか軽く見せられて、色々とお手伝いしてからようやく夕食って感じでございますことよ。

 でもさあ、正直こんな片田舎――しかも文化未発達な異世界の飯なんてあんまり期待してなかったんよ。

 いやあ……すっごく失礼な事考えてたなぁ……。

 だってすげぇ美味そうなんだよ!

 ほんっとめっちゃ美味そう!

 無添加! 合成着色料未使用! 保存料未使用! ってな感じの健康的な料理の数々。

 象牙色の大皿に各々山盛り盛られて、ダイニングテーブルいっぱいに並べられてとっても豪華! なんとも壮観でございますことよ!

 いやー……最初は偉そうに『西洋飯(笑)』とか頭の中で考えてたんだけど、結局のところ今までコンビニの弁当とかカップ麺ばっか食ってたわけだし、久しぶりの温かい普通の飯なわけですよ。いやまぁ飯つっても米はねーんだけどさ。絶対美味しいよ、これ。


「ほむ……」


 テーブルの中央に斜めにスライスされたフランスパンの切れ端みたいのが乗ってる。

 ……どうやら主食はパンか。俺パンとかそこまで好きじゃないんだよな……。

 いや、でも全然オッケーだよ? 野菜スープは何のハーブか知らねーけど、すっげえいい匂いするし、鶏肉は鶏肉でただの蒸し焼きだけど、多分岩塩かなんかが振り掛けられてんのかな? キラキラしてる。それにサラダも山盛りだよ。自家製栽培の無農薬野菜! 所々虫食いあるけど、そりゃあうめぇって証拠だろ?

 それにさ、ジャガイモを手で掘り起こしたり、キャベツもレタスもにんじんも全部頑張って腰を痛めながら引っこ抜いた可愛い可愛い俺の野菜ちゃん達なんですよ!

 みんな可愛らしい俺の子供達と過言じゃないですよ!

 さあおいで……お兄さんが美味しく食べてあげるからね……ふひひ……。


「ふふっ。さ、食べましょうか」


 おおう、最後の料理――あれはアスパラのベーコン巻か?――を金縁のお皿に乗せて台所からやってきたアルシラさん!

 見たところ高そうなお皿だし、きっと特別な日にしか使わないんだろうなあ……。

 って、事はあれはアスパラじゃなくて、きっと何か別のモノなのかな……?

 まあいいや、きっと俺は歓迎してもらってるんだよね!

 イヤッフゥウウウ!!


「いただきまーす!」


 合掌!

 それじゃあ遠慮なくがっつりいかせてもらおうかねえ!


「うん……? いただきます?」


「むぐ……?」


 まずは野菜サラダをフォークで突き刺して頬張ったところで、隣に座ってたエクセリカちゃんがこっちを『じぃっ』っと見てきたんすけど……。

 あー、もしかしてお祈りとかあんのかな?

 天にまします――って、それはないか、ありゃ人間の為の神様だ。


「ん……ごくっ……。あ、いや、俺んとこでは食べる前に、食い物や作ってくれた人に感謝してから食べるんすけど……その掛け声がが『いただきます』なんすよね」


 顔見合わせる二人。

 あーこれが異文化かぁ。

 不思議でしょうがないんだろうなぁ。


「すごくいい心がけだと思います。それじゃあわたくし達もそうしましょうか、ねえエクセリカ?」


「ん……。人間の風習に習うのは癪だが、確かにいい風習だ……。それじゃあ、いただきます」


 エクセリカちゃんは俺がやったようにアルシラさんに手を合わせて『いただきます』って言った。

 ほむ……この子って結構頑固者なんじゃないかと思ってたんだけど、わりと根は素直なのかな?


「はい! では、わたくしも。いただきます!」


 アルシラさんは料理に対して手を合わて『いただきます』って言った。

 ……あー、なんか久しぶりだなあ……この光景。

 俺ってば半引きこもりだったかんなぁ。

 とーちゃんもかーちゃんも共働きでいっつも家にいねえし、誰かと飯食うなんてほんっと久々だわ……ちょい、嬉しいかも。


「それじゃあまずは――む……むぐ……うめぇー!」


 近場にあったスープをスプーンで救って噛むようにして飲むと、すっげえ濃いうまみが口ん中に広がってきた!

 スープうめぇ! 超うめぇ! 98円のカップ麺の汁とは違うよマジで!

 ――カップ麺の汁と比べんなよ……失礼だろ……。


「ふふっ。頑張った甲斐があります」


 しかもこんな美人さんの手料理だろ? 俺すげー幸せだよ……。


「あ、そうだエクセリカ。明日は魔物の討伐予定でしたけど、せっかくだからリッキさんに薪割りの仕事を教えてあげて欲しいの」


 薪割り? あの斧もってパカーンってするやつ? あんなの誰でもできんじゃね?


「村の男に任せるのはダメか? もぐもぐ……。 魔物の数も最近増えてきてるし、強くなってきてる……むしゃむしゃ……。私が居ないと他の者が困るだろう」


 すげえ……あんなデカいジャガイモほとんど丸呑み見たいにして食ってる……。デュラハンだから……?

 いや、まさかこれは――


「おい待て! それは私の肉だぞ!」


 うは、エクセリカちゃんの近くにあったアスパラのベーコン巻にフォーク突き刺したら超反応で取り返してきた!

 やっぱり! この子食いしん坊キャラだ! 食いしん坊キャラ!


「まだまだいっぱいあるんだから、ゆっくり食べればいいではないですか。ふふっ、エクセリカは本当にあわてん坊なんですから」


 アルシラさんは『あらあら、ふふっ』なんて笑いながら俺のコップに赤ワインかなにかを注いでくれてた。

 俺もお返しにワインを注いで返してあげると『あら、ありがとうリッキさん』なんてニコってしてくれまんた。

 うおー……気立てがいいなあ……。

 悪魔とか全然関係ないよ! すっげぇ良い人だよこの人!


「……」


 エクセリカちゃんが無言で俺たちを見ながらすごいスピードで飯を食ってる。

 あ、あの……に、睨むか食うかどっちかにしてくれませんかねぇ……?

 ……ってか、本当に食いしん坊なのね。

 意外な一面――いや、なんとなくそんな感じがしてたよ俺は。

 デュラハンってのは騎士だろ? そして金髪、碧眼、女。まぁアホ毛はないけどね。

 ゲームにいたし、アニメにもいた。もうこういう騎士道系の女の子ってきっと食いしん坊キャラが定着しつつあるんじゃないかな。

 ……まぁ、ここは別にゲームの世界でもアニメの世界でもないんだけどさ。

 だってふっつーに三次元美少女なんだもの、どっちも。


「さて、それでエクセリカ。やっぱりどうしても明日は空けられない? リッキさんもこっちに来たばかりなんですし、ここの生活の事も一緒に教えて上げて欲しいの。本当はわたくしが教えて上げたいのですけど……」


 アルシラさんは食事の手を止めてワインを飲みながら――


「村人の……ごくっ……説得が先だろうな。もくもく……早期に説明しなければこの男はちょっと外を歩いただけでも殺されかねんからな。はぐはぐ……しかし明日は久しぶりの狩りでもあるしな。あんまり空けたくはないんだが……」


 そしてエクセリカちゃんはすごい勢いでサラダを食べながら会話を続けてる。

 落ち着いたアルシラさんと、落ち着かないエクセリカちゃん。

 ……ちょっとシュールだ。

 ――さて。

 うーん? どうやら俺の薪割り作業で二人の意見が別れてんのかな?

 でも結局、それって俺が一人で薪割りをすりゃ解決なんじゃねえの?

 薪割りなんて誰がやっても一緒だろし、大丈夫だよね。


「あ、あの……俺、きっと薪割りぐらい一人で出来ますよ? あれですよね? 斧もって木を斬るだけの簡単なお仕事ですよね? 大丈夫大丈夫! 任せてください!」


 俺は大仰に胸を『ドン』って叩く――ぐへえ……痛い、俺の体、弱すぎなんだけど……。


「ん、んー……ふふふ……」


 そんな俺を見てアルシラさん手を組んで苦笑い。


「……はあ」


 エクセリカちゃんなんか頭を手で押さえちゃってる……。

 ……あれー?

 俺何か間違った事言ったのかな……。


「わかった。アルシラ、明日の魔物の討伐は少しお休みしよう」


「薪が変な形になったら困りますものね……」


 えっ。

 実は薪割りって難しいの!?


「――ふう、それじゃあ腹もいっぱいになった事だし……そうだ、なあえーっと、リッキだったか? こういう風に飯を食べた後、さっきの『いただきます』みたいに何か言ったりするのか? いただきましたか?」


 何だか俺の返事を待たずに会話が終わっちゃったよ……。

 ま、まあいいや。

 えーっと、何々? つまりは『いただきます』の反対が知りたいわけですな?

 ……ふむ、なるほど、いただきますの過去形だから、いただきましたね。

 うーん……そういう自由な発想は好きだけど――残念ですが今回はハズレっす。


「今度はごちそうさまだね。作ってくれた人を見ながら言うといいよ」


 エクセリカちゃんは口をナプキンで拭きながら『ふんふん』ってな感じで頷いて、ゆっくりアルシラさんの方に顔を向けてく。

 へぇ……やっぱり結構、素直なんだなぁ。


「うん。それじゃあ『ごちそうさま』だ、アルシラ」


「ふふ、どういたしまして?」


 アルシラさんが『これでいいのかしら?』ってな感じに俺を首を傾げながら見てきたから、すぐに俺は頷きまんた。

 本当はこういう時はお粗末様って返すんだろうけど、粗末な物なんて何一つなかったからね、無理にへりくだる事なんかないっす。


「ふふっ、なんだか少し、嬉しいですね」


 それからアルシラさんは口元に手を当ててやんわりと笑った。

 ……なんだかこの人はすごく温和で優しい感じがするなあ。

 大和撫子とはちょっと違う感じだけど、上品さは通ずる所があるかも。

 ってことは、意志もきっと強いんだろうなあ。

 うん、この子はいいお嫁さんになるよ、きっと。


「ふぅ、俺もごちそうさまですアルシラさん。美味しかったです」


 そんな感じでお礼を済ませて、せっかくだから井戸から水を汲んできて、食器洗いは俺がやる事にしまんた。

 みんなの食器を片づけて、俺は台所に向かう。


「ほう……」


 キッチンは大理石で作ってあるような感じ。

 だいたい一般家庭が使うような台所を想像して、そこにアルミや鉄は使われてなくて、全部木か石で出来てると思ってくれればいいや。

 んで、水きり網カゴが台所の隅っこにあるんだけど、それは鉄製。

 でも調理器具は包丁以外は木べらだとか木の先に丸石を付けた肉叩き棒みたいな木製のヤツが多いね。

 スプーンやフォークが鉄製なんだから、製鉄技術はそれなりにあるんだろうけど、どうして木製の調理器具が多いんだろうなあ。何か理由が――ああ、そっか……。


「……ほむ」


 やっぱり人間が襲って来たりで鉄はどんどん武器とかに使われるし、亜族はジリ貧らしいから資源は減る一方なのかもな……。


「出来ればこの村にはやってこないで欲しいな……」


 お皿を一枚手に取って、それに灰らしきものを付けてお皿を洗う。

 美味しいご飯、ありがとうねアルシラさん。


「……ぺろぺろ」


 次にアルシラさんとエクセリカちゃんの使ってたスプーンとかフォークを、ちょっとだけペロペロする。

 おいしゅうございます。

 だ、だってせっかくこんな美少女達が使ったスプーンとかフォーク何だし、ペロペロしておかないともったい――変態だな、俺……。


 ――さて、それから寝るまで少し早回し。


 まず食器洗浄を終えて、リビングに戻る。

 それからコーヒーとタバコで一服して、結構長い間雑談を楽しんだ後、俺はアルシラさんのお父さんが使ってたっていうベッドを貸してもらって寝ることになった。

 ……すっげぇヘビースモーカーだったんだろうなあ。部屋にヤニがべったりだったよ。

 まあ、おかげで俺は何も気にせず寝る前の一服ができるんだけどさ。

 さて、そんでもって今俺はアルシラさんのお父さんの部屋で、タバコをぷかぷか吹かしていたわけなんだけど、そろそろ寝ようと思います。

 灰皿にタバコをギュっと押し付けて、次にロウソクが入ったカンテラにふっと息を吹きかけて消灯。

 それからふかふかのベッドに『ごろん』となって、ぼんやり天井見上げながら今日一日の事を思い出す。

 なーんだか間抜けな感じで異世界にやってきちまった事、鞭をもったエクセリカちゃんに追い掛け回された事、そして超うまかった晩飯の事。

 異世界迷い込み系つっても、オーソドックスに人間が住んでるような場所じゃなくて、周りは人間なんて一人もいない亜族の村にやってきちまったけど、いい人に出会えて本当にラッキーだった。

 人間のいる場所にきたってさ、こんなに優しくしてもらえるとは思えないし、もしかしたら俺は今頃腹を空かせて寒空の下でガタガタ震えてたかもしれないんだよね。

 だから居るのか居ないのかわからんけど、異世界の神様にちょっとばかり感謝するわ。

 俺にチート能力どうしてくれなかったんだよ! とか文句も言いたいけど。

 そんな感じで――今日はお終い。

 明日からどうなるんだろう、ちょっと不安だけど、ケセラセラだね。

 それじゃあ今夜はいい夢みれますように……っと、お休みなさい。


ここまで読んで下さりありがとうございました。

次回からいよいよもって異世界生活が本格的に始まります。

こんなスケベでどうしょうもない主人公ですが、どうぞ生ぬるい視線で見守ってやってください。

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