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まぞくといっしょ  作者: 黒梵天
第二章
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ドラゴン少女と心のもやもやラスト

「――不思議な事に、俺のケツは無事だし、とくに最悪の事態にもならんかった」


「むぐむぐ……よかったじゃん。あ、なあリッキ、そこのソースとってくれよ」


「ああうん」


 ここは引き続き営倉の中。

 時刻は只今お昼過ぎ。

 俺は今、拘束衣の腕の部分の拘束を解かれたシャンヘルちゃんと、仲良くベッドの上に座ってサンドイッチ食ってます。

 どうして腕の部分の拘束を外しているのかといえば、それは俺がここで一夜を明かしても、何も悪い事しなかったので、とりあえず様子見といった感じで外す事を許されたからであります。

 ……もう少し詳しく思い出そう。

 昨日の夜中、アルシラさんに俺が森の賢者になっていた事がバレて、こりゃ絶対エクセリカちゃんに仕置きされると怯えてた俺は、アルシラさんが帰ると同時に営倉の鉄扉を閉めて、内側につっかえ棒をしてここに立て籠もる事を決めた。

 そしてベッドに横になりながら『ケツ刺されるよ……怖ぇよぉ……畜生……』とシャンヘルちゃんに呟き続け『大丈夫だってば……いいからそろそろ寝かせてくれよ……それに口止めしてなかったお前が悪いんだろぉ……そもそもアレを出しちまった事の何が悪いんだよぉ……』と面倒くさそうにあしらってくる声を子守唄代わりに眠りについた。

 そして次に目覚めた時――寝ている俺の頭の横にエクセリカちゃんが座ってて、なぜか慈愛顔で俺の頭を撫でていて、辺りを見渡してみると拘束衣の腕の部分が解かれたシャンヘルちゃんが、鉄扉の前で苦い顔してコーヒー啜ってて、その隣でアルシラさんとカーリャさんが談笑してた。

 そのまま俺は特に罰も受けず、ここの見張りを任されて、みんなは各々の仕事に戻って行った……もう、普通の日常が今日から始まるんだと言わんばかりに、すごく自然にだ。

 俺はその様子に不気味さを感じていたんだけどシャンヘルちゃんが『みんなすごい偶然もあったんだなって爆笑してたぜ?』ってな事を言うと、ようやく俺はほっとする事ができた。


「だから言ったじゃ無ぇか……もぐもぐ……こくんっ……大丈夫だろって。ありゃそもそも偶然だったんだから……ぺろっ……そんな事を怒るヤツなんかいるわけ無ぇだろ? まあ大事なメスがいんのに、そいつを抱かないで他の女を抱いたってんなら話は少し変わってくるんだろうけどな……けぷっ」


 指についたソースを舐めた後、シャンヘルちゃんは満足そうにゲップする。

 ……この子の羞恥心の基準がよくわからない。


「確かにね……。ただ、話の流れ的に、そうなりそうな気がしてならんかったんよ」


 どっかで俺はこんな風な展開を見た事がある。

 ラッキースケベなイベントに遭遇した主人公が、それを他のヒロインに隠して、それがバレて『ぎゃー!』みたいになる展開。

 ……だけど、よくよく考えてみたらああいう展開って、主人公がヒロインに惚れられてて、ヒロインがそれに嫉妬して起こるイベントなわけで……俺は主人公じゃないし、アルシラさんやエクセリカちゃんは、俺に割り振られたヒロインってわけじゃないような気がする……。

 そもそもここは現実だもの、セオリー通りに事が運ぶわけもない。


「うぇへへ……」


 ああ……今まで忘れてたっていうのに、ちょっと嫌な事思い出しちまった。


「なんかすっげぇ暗い顔してっけど、どうしたんだ? ソレ、何かマズい事でも言っちまったのか?」


 シャンヘルちゃんが首を傾げてる。


「いやあ……シャンヘルちゃんがやって来る前に、ちょっと考えてた事があってね。そいつを今さら思い出したってだけだわ……」


 やめよう、考えてると鬱になる。


「ふぅん……変なの。まぁいいや、そいじゃあ別の話しようぜ。そだ、人間の国ってどうなってんの? ソレは南の小島に住んでたから、本土の事なんか大して知ら無ぇんだ。とと様とかか様がいたのは今から90年ぐらい前ぐらいだし、今じゃもう情報が全然入ってこ無ぇし、新しい発明だとか面白い文化だとか出来たりしてんのか、全くわかん無ぇの」


 ベッドの上で体を『ぽよん、ぽよん』と落ち着きなく跳ねさせて、何かを期待するような目で俺を見てくるシャンヘルちゃん。

 しかし、残念ながら俺にもこの世界の人間社会がどうなってんのか、そこまで詳しく知らないのよね……。

 適当な事話しても面白くないだろうし、ここは俺の世界の事でも話してみるか?


「……実は俺もこの大陸で育ったわけじゃないし、亜族と一緒に森で暮らしてたから人間の国がどうなってんのか全然知らないんだわ。だけどまあ……俺の国の事なら話してあげられるよ。それでもいい?」


 シャンヘルちゃんがキラキラした目で何度も頷いた。


「そいじゃあまずは――」


 ゆっくりと話し始める。

 この世界の人間じゃ想像もできないような科学技術の発展。

 そいつはきっと彼らにとってはおとぎ話みたいなもんだろう。

 だけどシャンヘルちゃんは嬉しそうに、楽しそうに俺の話に聞き耳を立てる。

 ……最初は有無を言わさず食らいつこうとしてきた子だけど、落ち着いて話せば意外と素直で物分かりがいいじゃないの。

 うん、この分ならきっと近いうちに、こんな埃くさいところからおさらばできるんじゃないかね。


「で、車ってのは馬車を――寝ちゃったか」


 いつのまにか幸せそうな顔して俺の膝の上に頭のっけて寝ちまってる。

 ……話に夢中でいつ膝の上に来たのかわからんかった。


「……まったく、とんだお騒がせ者だぁよ。ははっ」


 タオルケットみたいな薄い布団をシャンヘルちゃんに掛けて……っと。


「ふぅ……」


 ……何か色々あったけど、これからようやく新生活っすな。

 畑の拡張もあるし、稲作もあるし、風呂も作んねーと。


「本当に、問題はそれだけか……?」


 日本から離れて半年ちょっと。

 半引きこもりのニートを脱出して、家事手伝いになって、強くもなってきた。

 二人を守りたいって決意したはいいけど、恋愛関連の事まで視野に入れてなかった。


「……これからも視野に入れないようにしたほうが良いのか、それとも……」


 俺みたいなのが可愛い女の子に囲まれて、ちょっとドキドキするような日常送れてる奇跡に感謝して、毎日楽しく暮らす。

 その幸せな日常を守る為に、大切な二人を守る為に武器を振う。

 十分上等な人生だよ。


「なのにどうして腑に落ちないのかなあ……涙が出て来んのかなあ……」


 諦める事には慣れてたはずなのに、今は何だか……辛くてしょうがない。


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