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まぞくといっしょ  作者: 黒梵天
第二章
26/36

お騒がせな来訪者 新しい生活とはなんだったのか

「いやあ、緊張した」


 現在、俺は村の中を当て所なくお散歩してます。

 まだ午後2時ぐらいだってのにまったりと疲労感があるんだけど、これは精神的なものだから体は全然元気でござる。

 どうして精神的に疲れているのかって言えば、それはお昼前ぐらいに、村の集会場に集まって顔見せがあったからであります。まあ他にも疲れた要因はあるんだけど、とりあえずはまずこれかな……。

 体育館みたいな広い床に、アルシラさん側、そしてカーリャさん側の村の人々が一同整列して、俺は一段ぐらい高くなった檀上で『おはようございます』と校長先生の長話よろしく自分の事、そして亜族についてどう思ってるかなんて事を色々を語る事となりまして……。

 まあ例によってエクセリカちゃんが魔粒子化して俺の傍にいてくれたから、手に汗握る演説ではあったものの、何とか無事に終える事ができました。

 まあ今回は、アルシラさんを助けた事例もあったし、何よりこの村の人達はカーリャさんに絶対の信頼と忠誠を誓っているみたいで『長が言うのであれば問題ないでしょう』ぐらいの気持ちで受け入れてくれてるみたいだ。

 その中に混じって、全然関係ない話――例えば『随分濃い顔をした人間だな』とか『あれは森の妖精の類なのでは?』みたいな声が上がっていたわけですが、それ以外は大した悪い反応もなく、俺はいよいよをもってこの村の一員として認めてもらえる事となったわけです。

 ……うう、いくら髪の毛もっさり、髭もボーボーだからって『森の妖精』だなんて失礼しちゃうよ!

 俺はキッ○ロでもモ○ゾーでもない!

 ――なんで髭剃らないの?

 ……濃い顔がいくらか隠れてマシになるからです。


「ふいー……」


 さてさて、そんな感じで顔見せも解散を迎え、村人も各自の生活に戻った。

 それから午後2時現在を迎える間までに、俺はエクセリカちゃんと一緒に私兵施設にまで足を運んで、そこで少しの間時間を潰してたんだけど――色々あって、結局やる事もなくなっちゃって、こうやって村の地形覚えるついでにのんびりお散歩してるわけです。


「……何だか懐かしいなあこの景色。静かで……のどかで……」


 今は丁度、カーリャさんの家から出てきてしばらく歩き、民家立ち並ぶ部分を抜けて、大きな畑やらが見えてきたところ。


「田舎で○らそうか何かで見たのかな? それとも教育番組かな……このデジャヴュ」


 イメージとしては自然に囲まれたのどかな田舎。

 小さな水車に大きな畑、カカシは砂ぼこり積もる年代物。

 畑には農作業する人達も大勢いて、野菜についた虫をとったり、作物の成長具合を見たりと様々に活動してる。

 俺は都会育ちだったから馴染がないはずなんだけど、パソコン買う前は根っからのテレビっ子だったわけで、こういった景色はよく目にしてきた。

 中学生ぐらいに引きこもりを始めてからN○Kの教育番組とかで、こういう田舎で遊ぶ少年少女たちの姿を毎日繰り返し見てた事もこの不思議な既視感に関係してるかも。


「でも、やっぱりここは異世界……」


 パっと見普通の村に見えるんだけど、ここはやっぱり俺が住んでた世界――日本とは色々と異なってる。

 何せ村のあちこちに、蛇のような鱗の肌を、余すところなく晒してる人達が大勢いるんだもの。

 その中に混じってアルシラさんみたいな青い肌の亜族の人や、体から植物が生えてる亜族の人もいるんだけど、やっぱり一番目につくの最初の人達――蛇亜族の人達とでも言えばいいかな?

 彼らは水着みたいに露出度が高い衣装がデフォルトみたいで、カーリャさんみたいに蛇の尻尾の下半身をもってるわけじゃないんだけど、その自前の鱗肌に、太陽の光がキラキラと反射しててすっげぇ目を引きます。

 エクセリカちゃんは首が取れる以外は、人間の少女と大差ない。

 だけど一緒に住んでた村の人達――悪魔亜族の人達とでも呼ぶべきかな……?

 彼らは肌が青くて角が生えてるってだけで、着てる服はゼ○ダの伝説のリ○クが来てるようなデザインのシャツとズボンだ。

 アルシラさんは背中にコウモリの羽みたいのが生えてるから、後姿でも十分亜族なんだって判断できるけど、他の皆には背中に羽とか生えてないから、遠くから後姿だけ見ると人間の男性や女性と大差ない。

 アルシラさんと比べると角もそれほど大きくないしのう。

 だからあからさまに人間と異なった肌をもつ人が大勢いると、俺はここが異世界なんだってことをしっかりと思い出す。

 ……ただ、それはこの世界が地球ではないって事を思い出させるもんです。

 ここが『日本』じゃないんだなって思う要素は、どちらかと言えばここいらの村に建ってる小洒落た建物の数々かな。

 これはカーリャさんの家をみた時から思っていた事だけど、やっぱりこの辺の家は歴史が長いだけあって建物の作りもかなり凝ってる。

 悪魔亜族の村は木造の家――しかも掘っ建て小屋に近いようなのが多かったけど、カーリャさんの村は石造りの建物が殆どだ。

 しかもその殆どがレンガの家で、レンガの大きさもしっかりと均一だし、そのデザインも、ただ四角いだけの機能性を重視した『お豆腐ハウス』とかじゃなくて、家と家を繋ぐ渡り廊下がくっついてるような、まるでお城みたいな二世帯住宅から、ドーム型の家の四隅に、これまた小さなドームを作って渡り廊下を作ってる珍しい家まである。

 中でもカーリャさんの家はとくに豪華で、70坪ぐらいある馬鹿でかい土地の半分ぐらいが建物になってて、村長の家っていうか……領主の家って感じがしてくる。

 二階建てじゃなくて平屋なんだけど、俺はこういうデザインの建物を昔ディ○ニーランドかなんかで見たぞ……。

 それに内装もお洒落で、もう何がお洒落なのか挙げたらキリがないぐらいだけど、俺が一番気に入ったのはリビングかな。

 リビングには大きな暖炉があるし、黒い皮張りのソファはふっかふかだし、その暖炉の傍にも同じようにソファがあるし、その暖炉に対面した壁には豪華な本棚もあるし、部屋を照らすキャンドルの一つにアーモンドエッセンスが配合されてんのか、部屋の中がすごく良い香りなんだもの。

 こんなお洒落で豪華な家に間借りさせてもらえるなんて、俺はすげえ幸せです。

 ――だけど風呂はない。


「……檜風呂とかに入りたいよう」


 歩きながら独りごちて、足元に転がる小さな石を軽く蹴っ飛ばす。

 半ばあきらめかけていたものだけど、まだ心の中でちょっとだけ期待している所もあったんですが……やっぱり備え付けてなかった。

 前にもちょっと聞いたけど、この世界には風呂に入る文化がない。

 サウナはあるけど、それは人間の住んでる町にしかない。

 ……この村にもサウナが欲しいっす。

 欲を言うなら露天風呂が欲しい――もちろん混浴の。

 そして風呂にゆったりまったり浸かりながら熱かんを――米がねえ!


「ぐぬぬ……」


 ……やっぱり、今度の取引する物品に、お米だとか稲だとかをお願いしようかな。

 稲作を始めるべきだよ、ここらへん適度に雨も降るみたいだし。

 色々先延ばしにしてきたけど、そろそろ俺も色々な事に慣れてきたし、この機に新しい事にチャレンジしてみるのも手かもしれない。

 稲作すれば米も食えるし、建築技術身に付ければ、サウナどころか浴室だって作れる。

 無い物は無いで諦めるよりも、無いなら作るって発想しないと、この世界じゃ一生手に入らない物がごろごろでてくる。


「うう、欲しい物一杯だよ」


 石鹸も欲しいし、新しい靴も欲しい。

 できる事なら香水とかも欲しい……さすがに水拭きと頭を流水でワシャワシャ流すだけじゃ体臭までは完璧に消えない……。

 アルシラさんやエクセリカちゃんから何となく甘い匂いはしてたけど、実は二人とも体臭を消す為に『甘い香りのする何か』プラス『コーンスターチ』で出来たベビー・パウダーみたいなもんを体を拭いた後に付けている。

 俺もちょっと分けて欲しかったんだけどアルシラさんは『これは女の子が使うものなのですよ、ふふふっ』って言って断るし、エクセリカちゃんは『お前の汗の匂いは嫌いじゃないから大丈夫だぞ』って言ってこれまた分けてくれなかったでござる……。

 そんなわけで、欲しい物を上げていけばキリがないです……。

 ……ただ、やっぱりまず欲しいのは風呂と米ですな。

 田んぼはまあ、畑耕す器具を借りれば、あとは俺の体一つでオッケー。

 しかし問題は風呂だ。

 ドラム缶風呂みたいなちっこいのなら簡単に出来るかもしれないけど、俺は作るなら妥協はしないタイプだ。

 何せ唯一の自慢は小学校の成績で図工だけはずっと5だった事なんだから。

 作るなら広々とした露天風呂を絶対に作る。

 ……だけど、いざその為の資材を集めるとなると、俺にはちょっとばかり時間が足りないかもしんない。

 これから畑の拡張のお手伝いもするわけだし、カーリャさんの家で家事こなして、戦闘訓練して、おまけに稲作にも挑戦するとなると――カツい。


「ギギギ……」


 今までは家事と家畜の世話、そして農作業少し、あとは戦闘訓練、残りは文字の練習ってな具合に過ごしてきたけど、これからは色々とお仕事も増えるわけだし、しっかり予定作らないと計画倒れする事も考えられる。

 すると回収できないCGが出てくる。

 それを回避するために明日の朝ぐらいからセーブして、イベントを回収しなければ……。

 ――ここは現実だ。


「ままならんのう……」


 ただ時間がなくなりそうなのは事実。

 これからはスケジュール管理もきっちりできないと困りそうだ。

 ニートやってた時は、時間があんなにいっぱいあったのによう……。


「……ん、ああ、あそこがみんなの新しく暮らす場所か?」


 思案しながら『とぼとぼ』と、今度は村の東側にやってきた。

 確かここが、前の村の人達の居住区になる場所だったはず。

 ……うん、やっぱりそうだ。

 木々を伐採してまだ日が経ってない感じのする空地の部分に、見慣れた顔がちらほら。

 みんな一生懸命自分たちの家を建てる為に頑張ってる。


「あ、おじちゃんだ! おーい! おじちゃーん!!」


 その中に、牛娘のお父さんこと『おじちゃん』とミノタウロス少女の『牛娘ちゃん』が仲良く家の骨組みを作っているのを見かけたので、手を振って声をかけてみます。

 ……俺未だに二人の名前知らないんだけど、すごく今さらすぎて聞けない。

 今度それとなくアルシラさん達に聞こう……。


「おお! ハギラ……いや、リス……リスキ君!」


「……違うよ父さん。彼はリス……リツキ……さん……?」


 声を受けて、二人とも手を『ふりふり』と返してくれた。

 二人とも汗だくで木くずまみれだ。

 地面には切り出された木材がごろごろ落ちてて、多分今は骨組みの――あ、良い事を思いついたわ。

せっかく暇を持て余してるんだし、建築技術身に着けるついでにお手伝いするべ。


「こんちゃあー。俺も手伝いますよー」


 駆け寄って、おじちゃんと握手する為に手を伸ばす。


「いいのかい? 君にも何かやる事があるのでは?」


 おじちゃんが俺の手を握り返しながら、心配そうに私兵施設の方向に目を向けた。

 きっとおじちゃんは俺の事を、エクセリカちゃんのような戦闘指南役だと思っているのかもしれない。


「いやいや、今日は夜まで自由っす。それにやる事も無くなってしまいましたし……」


 俺はそれに首を振って『暇なのだ』と告げた。

 そう『やる事が無い』じゃなくて『やる事が無くなってしまった』わけです……。

 顔見せが終わった後、もちろん今日こそはエクセリカちゃんに着いて行って、私兵施設の人達と手合わせして、狩りについていこう、なんて思ってたわけなんだけど……。

 初めの手合わせはよかった、俺の強さを認めてもらえたし、すごく嬉しかったんだけど、段々その相手が女の人であるパターンが増えてきて、同じ人が悔しそうに何度も挑戦して来るもんだから、俺も段々集中力が切れてきて――。


『ん、何を見てるんですか――あ、わかった! にひひっ! ねえみんなー! この人ちん○ん大きくしてるー!』


 まだ年若い蛇亜族の子と手合わせしてた時、俺はその子の胸を隠す水着みたいな布に木刀を引っ掛けちゃって、その形の良いおっぱいが『ぷるん』と水着から飛び出すなんていうラッキースケベというか、ミスを起こしちゃったんだけど、その子全然気にする様子も無くて、そのまま手合わせを続行してきてね……。

 その結果『ぷるん♪ ふるるんっ♪』なんて揺れるおっぱいを目の当たりにする事とあいなりまして……俺の股間はギンギンになったわけでして、最終的にはその事がバレちまって、大声で周りに言いふらされるというような所にまで発展した。

 ……それを皮切りに『わらわら』と、一斉に蛇亜族、悪魔亜族の人達が俺の周りに集まってきて、さっきの手合わせで負けた腹いせなのか、俺の童貞臭い楽しんじゃおうというようなお祭りが始まりまして――。


『あ、ねえ見て! こしょこしょ……ほうら! この人くすぐられると何も出来なくなるみたいよ? おもしろーい!』


 蛇の尻尾みたいなアクセサリーをもっている蛇亜族の別の女の子が、俺を後ろからがっちりホールドして、そのアクセサリーの先っぽで『こしょこしょ』してくるし――。


『なあ、君、あたしゃ人間とした事ないんだけど、どんな風にするんだい? 人間は欲張りだから、気持ちいい事いーっぱい知ってんだろう……? ん、もしかして聞こえてないのかい……? ふー……。んふっ! んふふふふ! 冗談さね冗談! あーっはっはっは! ほんっとかわいい男だねえあんた!』


 と悪魔亜族の女の人には耳に息を吹きかけられて散々からかわれ――。


『なあ、リッキ……。しばらく女と訓練するのはよせ……。私がそこらへんを一から鍛え直してやる……。う、うむ……ここは私に任せて散歩にでも行って来い。今日は天気もいいからな』


 情けなさと精神疲労でヤ○チャのように倒れる俺。

 そんな俺の背中を優しく撫でながら『今日は散歩してこい』と声をかけてくれるエクセリカちゃん……今日の君はまるで天使のように優しかった。

 でも、俺は知ってるんだよ……。

 俺がいじられ始めた時、自分も手に鞭を握り締めて、俯いて、その口元をニヤけさせながら『いかん……。いかん、抑えろ……』って呟いてたのを……。

 亜族の女の人って、もしかするとSっ気が強いのかもしれない……。

 いつもは上品で柔らかい微笑みを浮かべるアルシラさんだって、事悪戯となると性格ががらりと変わって来るし……。

 ……そう、そしてそのただでさえ天使のアルシラさんは、現在集会場に残って会合に出席してるから話し相手もいないし、洗濯物も部屋の掃除も午前中にある程度終わらせちゃったから、本当に散歩する事ぐらいしか無くなってしまったんす。

 というわけで、おじちゃんのお手伝いをするのは何の問題もないのです。

 ……なんて事を話せるワケが無いので黙っておくけども。


「あ、あと家づくりも覚えたいんですよ――」


 あとは『お風呂作りたい』とか『新しい事やってみたい』って事情を説明して、建築についての事を教えて欲しいとの旨を伝えると、おじちゃんは気持ちよく承諾してくれた。


「はは、そっかそっか。それじゃあまずは、あそこにある丸太を運んできてもらえるかな? あれで骨組みの一部を作るからね」


 おじちゃんが指さす方向には、ぶっとい丸太やら細い丸太やらがバラバラに積み上げられていた。


「了解っす」


 丸太詰まれている場所まで走る。

 せっかくなら大きい丸太のほうがいいかな?


「よっこら……せっ」


 お、一番大きな丸太選んだけど、結構軽いな……肩に担いで……っと。


「い、いやあ……それをもってくるとは思わなかったよ……。もっと細くて短いヤツをもってくるんだと……いやはや、君は力持ちだ、はは」


 ぶっとい丸太を軽々と肩に担いで戻ってくる俺を見て、おじちゃんが苦笑い。

 いやあ、この丸太せいぜい40キロぐらいっすよ?


「それ、大人5人分の重さはある……」


 牛娘ちゃんも呆気にとられてる。

 大人五人分って事は、だいたい平均60キロだとして300キロか。

 ――嘘だろ?


「あ、あはは……半年間鍛えに鍛えまくりましたね……」


 ……鍛えまくってどうこうなるレベルじゃい。

 俺の体はマジでどうなってんだ?

 今までスルーしてきたけど、魔融合してる時ならいざしらず、生身で馬車を軽々と引けたり、300キロ近い丸太を片腕で担げるのは普通に考えておかしくね……?

 エクセリカちゃんは亜族で魔法生物寄りだから謎の腕力があっても良いかもしれないけれど、俺はただの人間だぞ……?

 もしかして、魔融合した事によって俺も魔法生物寄りになったとか……?

 魔法も使えないくせに……?

 うー……わかんねー……。


「リツキ……さん? 殿? どうした……?」


 悩んでたら牛娘ちゃんが俺の顔覗き込んでた。

 しかも『さん』だとか『殿』まで付けて俺を呼んでる……。

 

「あ、ああいや、ちょっと考え事をね……あ、それと俺の事は呼び捨てでも良いのよ? 歳の離れた友達だと思って、気軽に接しておくれ」


 牛娘ちゃんは『き、気軽に……。呼び捨て……リツキ……そっか、リツキ……』と、何度も噛み砕くように口の中でもごもごと俺の名前を繰り返す。

 ……アルシラさんからは『さん』付けされてるけど、前に戦った時の牛娘ちゃんは結構ぶっきらぼうな話し方してたし、そんな子から敬称付けられるとちょっと違和感があるっす。


「……あの、り、リツキさ……。あ、いや……リツキ。こ、この前は、本当にごめんなさい……あ、いや、ご、ごめんな、かな? ……ゆ、許して下さい……許してね……? 違う、許しておくれよ……? あ、あうう……」


 喋り方が安定しない牛娘ちゃん。

 何となくフレンドリーに話しかけようと努力してくれてるのか、何度もころころと表情を変えて、俺の目を見たり、逸らしたりを繰り返しながら、謝罪の言葉を口にしてたんだけど、なんだかやっぱり上手く喋れなくて、恥ずかしそうに俺のもってきた丸太の所まで逃げるように駆けて行って、ノコギリで木材の切りだしを始めた。

 ……おかしいな、この子ってこんなに大人しい子だったっけ?


「はは、君は娘に随分気に入られているね。あの子はかなりの男嫌いで……父親の私以外とは話す事も、近づく事さえ難しい子なんだよ」


 木材の切りだしをしてる牛娘ちゃんが『チラ』っと俺を見て、すぐに視線を逸らした。

 ……うん、本当に大人しい。

 ツーハンドアックス振り回して突っ込んできた時と別人のようだ。

 いつもの牛娘ちゃんはあんな感じだったのか……。

 あの時は怒りにまかせて喋ってたから平気だったんだな……。


「昔はやんちゃで口も悪かったんだけどねえ……」


 おじちゃんが悲しげな顔をした。

 ……多分、過去にあった事を思いだしたのかもしれない。

 俺も明確に何があったのかは知らないけど、牛娘ちゃんに襲われた時、断片的に何があったのかを聞いた。

 だからどうしようもなく辛そうで、苦しそうで、俺まで悲しくなってくるけど……。


「やんちゃですかあ……。きっと可愛くってしょうがなかったんでしょうねえ」


 俺はおじちゃんに対して、何事も無く接する事に決めた。

 ここで慰や励ましの言葉を掛ければ、おじちゃんはその過去をもっと鮮明に思い出す事になりかねない。

 今まで住んでた村を出なきゃいけなくなって、これから新しい生活を始める為に頑張らなきゃならない人を、これ以上苦しめちゃいけない。


「ああもちろんだとも! 目にいれても痛くない……いや、痛かったんだが、本当に可愛いかったよ。 だからあの子に近寄る男には、かなり厳しい目でもって見るつもりだったんだけど――何せあれじゃあ男が寄り付かなくてねえ! はは!」


 おじちゃんが後ろ頭を掻きながら笑う。

 どうやら元気を取り戻してくれたみたいだ。


「でも、最近じゃあ少し安心しているんだよ。何せ君が――ああ、そうだリスキ君、今年で娘も15になるし、どうだい?」


 おじちゃんが満面の笑みで牛娘ちゃんと俺を見比べた。

 今年で15歳って事は……これからやってくる夏で、誕生会みたいな事をしてから15歳になるって事だっけな?

……つまり、俺は誕生日会に誘われてるんだろうか?


「お、お父さん、あんまり変な事言わないでおくれよ! あ、あたしは……別にこのまんまで……!」


 慌てて牛娘ちゃんが走ってきた。


「でも、お前このままじゃ誰も貰い手がつかないぞ? 男が寄って来ただけで逃げ回るじゃないか」


「そうだけど……。り、リツキは悪いヤツじゃないから……」


 もじもじしながらこっちを見てくる牛娘ちゃん。


「それにお前、よくリスキ君の話してるだろう? 前に配達から帰ってきた時『ご苦労様って言ってもらえたんだ』ってウキウキしながら……」


「あ、だ、だめ! ……な、何も言ってない! あたしは何も話してない!」


 慌ただしく手をばたつかせておじちゃんの言葉を遮ろうとする牛娘ちゃん。

 そういや大移動の時も牛娘ちゃん、ちょくちょく俺んとこのテントにやってきてミルクの配達してくれた。

 おいらはそれによく労いの言葉を掛けてたけど、それぐらいの事で喜んでくれるなんて牛娘ちゃんはよっぽど素直なんだな……。


「昨日の飯時だって、誰か気になってる男はいないかって聞いたら――あいたっ! こらっ、なんてことをするんだ!」


「お、お父さんが悪いんだ……」


 牛娘ちゃんがおじちゃんの足にローキックして、そっぽ向いて作業に戻った。

 ……わかった。

 鈍ちんの俺でもここまで見ればわかる。

 さっきのおじちゃんの『どうだい』は、誕生日会のお誘いでも何でも無い。

 だってこれって『娘をもらってくれないか?』的な話をしてた途中で、牛娘ちゃんが慌てておじちゃんに蹴りを入れて止めたって構図だよね……?

 つまりおじちゃんは、俺に縁談を持ちかけてくれてる。

 しかもかなり成立する可能性が高い縁談をだ。

 だって牛娘ちゃんも、恥ずかしがってるだけで、実はまんざらでもない感じがする。

 何せ作業に戻った牛娘ちゃんは、ずっと頬っぺた染めながら『チラッチラッ』っと俺の様子を見てるんだもの。


「あ……み、みないでおくれよ……。恥ずかしい……い、いやなやつ……」


 俺の視線に気が付いた牛娘ちゃんが、真っ赤になって俯いて……だけど、すぐに俺の事を見て『でも……いいやつ……』って呟いた。

 ……く、口ん中乾いてきた。それに心臓が『バクバク』する。


「どうだい? うちの娘は世界一だと思うんだけど……」


 おじちゃんが呟き、牛娘ちゃんと俺をまた見比べるように見る。

 ……はい、可愛いです。

 世界一ってのは親の贔屓目だとしても、確かに素朴な可愛さがあります。

 だけど……お、俺はおじちゃんになんて答えればいいんだ?

 非モテの俺にとっちゃ嬉しい縁談だけど、これを素直に受ける事はできない。

 だって、今一番仲がいいアルシラさんやエクセリカちゃんをさしおいて、牛娘ちゃんと結婚なんて出来ないよ……二人は恋人じゃないかもしれないけど……。

 ……いや、確かに二人は俺の恋人じゃあないかもしれんけど、何だか最近じゃ本来の性格みたいなものとか徐々に見せてくれてるし、かなり打ち解けてる感じがする。

 それに俺、あの二人の事大好きなんだ。

 今はまだそういう事を考えてなかったけど、いつしかどちらかに告白して、そして愛情を深め合ってから結婚して、俺は幸せな家庭を築けると――思ってたけど、もしかしたら無理かもしれん……俺はイケメンじゃないから釣り合わない……。

 ……それにち○こちっちゃいし、皮付きウィンナーってかポークビッツだ。おまけに早漏ときてる。

 こんなんじゃ女の子を満足させられるわけがない……。

 しかもコミュ力低くて女の子の気持ちとかも全然よくわからないし、どうやって優しくしてあげればいいかわからない、むしろ優しくされてばっかりだ。

 ……こんな男が、あんな素敵な女の子達と結ばれる未来って、ありえるのか?


「うああ……」


 まずい、考えれば考える程鬱になってくる。

 最近じゃ強くなってきたかもしれないけど、別に最強ってわけじゃないし、魔法が存在する世界なのに、俺だけ魔法が使えないし……。

 ……ああダメだ……考えないようにしてきたけど、実はエクセリカちゃんは魔融合のパートナーとして好感をもってるだけで、アルシラさんは、俺が『悪い人間じゃない』からこそ、それを好いていてくれていて、まるで親友や盟友のように思ってるだけなんじゃないのか……?

 それって、良い人止まりで終わるタイプで、恋愛感情まで……発展させられないタイプの典型に陥りかけてるって事……?


「はうあ……」


 あ、頭が痛い……。

 俺はこういった展開をエロゲで見た事があるぞ……。

 そう寝取られモノで見た。

 ああ……そうだ、俺がモテるはずがないんだ……。

 世の中の美少女ってのはみんなイケメン主人公か、言葉巧みな悪い男に食われる運命にあるって事を寝取られゲーで俺は何度も見たじゃないか……。

 俺みたいなヘタレは、好きな女の子を寝取られるに決まってる……。

 中学校の時好きだった美人ちゃんも、ちょっとヤンキー入ったクラスメイトのヤツとくっついていちゃこらしてたし、初恋のあの子は野球部のエースとくっついたし、俺が好きだった子は、みんな『爽やか』『イケメン』『話し上手』みたいな俺の嫌いなタイプの人間――リア充とばっかりくっついてた。

 現実なんてこんなもんだよ!

 きっと俺はこれからリア充実に二人を寝取られるんだああ!!

 うがああああ!! リア充爆発しろぉおおおお!!


「り、リツキ危ない!!」


 牛娘ちゃんが大声で俺を呼ぶ。


「え、何――俺が爆発するうううう!!」


 俺の前方、上空10メートルあたり。

 そこには火球が浮かんでいて――って冷静に見てる場合じゃないでしょおおお!?

 すげえデカい火の玉が俺に向かって飛んで来てるんだよおおおお!?


「うぎぃいいい!?」


 前方向に全力ダッシュ!!

 後ろに避けたんじゃ間に合わない! サイドステップでも絶対無理!

だったらダッシュしてすれ違うしかねえ!


「うおおおお!! あぎっ!? あっちぃいいい!!」


 頭上スレスレを火の玉がかすめて――背後の地面が爆発して抉れたぁあああああ!?


「……やっぱかわしたか。まあ、あんだけ濃いの出せるようなヤツが弱いわけ無ぇよな」


 可愛らしい声が耳に届く。


「な、なんて事してくれ――」


「よう、久方ぶり」


 先ほど火球が飛んできた場所、その遥か上空に真っ赤な飛行物体。

 ――知ってる。

 俺は知ってる、こいつの事を。


「お、おま、お前、お前は――」


 俺じゃなくても、きっと誰でも知ってる。

 だって――。


「くひひっ! ようやく見つけた、ようやく辿り着いた!」


 おとぎ話に話される、吟遊詩人が詩にする――。


「ああ、長かった。本当に長かったぜ」


 ある世界では、最強の生物と称される――。


「毎日毎日、頭に浮かぶのはお前の事ばかり、お前の事しか考えられ無ぇ……」


 空の王者と謳われる、陸の覇者と恐れられる――。


「ああそいつはまるで恋……そう、恋のようだった! 焼けるように甘くて! 焦がれる程に逢いたくて! 爆ぜるように毎日が輝いてたんだからなあ!」


 伝説の象徴、神話の体現――。


「ああ、最高の気分だ! ようやくお前を、ようやくお前を――食ってやれる!!」 


 あれはまさしく――。


「ドラゴンだぁあああああああ!?」


 そう、ドラゴン! ドラゴンですよ!

 叫び声上げて指さして、俺はそいつの名前を口にする!

 鳥でも飛行機でもなく、紛れもなくドラゴン!

 すげえぇええええ!


「ああ、そしてお前はこれから『ソレ』の飯になるんだぜ?」


 舌なめずりするドラゴン。

 ――でかい。

 舌もデカけりゃ顎もデカい。

 そしてもちろん図体も。

 実在する動物の大きさと比較するなら――多分成体の象と同じぐらいはある。

 赤銅色の体に真っ黒い角――あ、俺これモ○ハンで見た事あるかも。

 ほら、あれだ、ディ○ブロス――。


「ああ、もう、我慢でき無ぇ! 喋ってる時間ももったい無ぇ! KaaaaAAAAAAA!!」


 ドラゴンが翼を大きく広げて、俺に向かって――飛んでくるぅううう!?


「あばばばばばばばば!?」


 ターンして全力疾走!

 まずい、興奮してる場合じゃなかった!

 逃げろ、逃げろ、逃げろ!

 あんなの相手に戦えるわけないじゃないの!


「くひっ! 逃げても無駄だぜぇ? くひひひひっ!」


 足元に視線を落とす――真上にいるゥ!?

 ドラゴンのばかデカい影が俺を追ってきてるよおおお!

 ちくしょう! なんで俺はいつも色々な者に追われるんだよ!

 ――戦わないで逃げるから。

 戦えるわけないでしょおおおおお!?


「ぐぉおおおお!!」


 民家が密集してる地帯を抜ける! もうすぐ私兵施設があるだだっ広い演習場に着く!

 そうすりゃエクセリカちゃんと合流して魔融合できる!

 魔融合して勝てる相手かわからないけど、生身よりはずっと生存率が高い!


「エクセリカちゃぁあああん!!」


 演習場の中に入った! エクセリカちゃんはどこに!?


「人間!? ……ああ、貴方は確か最近やってきた親亜の……ハギワラ殿でしたね。エクセリカ様ですか? ええっと、彼女は今、私兵の女達と狩りがてらに戦闘訓練実施すると森の方に今しがた――ドラゴォオオオン!?」


 演習場で訓練していた私兵の男の人は、めっちゃびっくりして俺の真上を指さした。

 ああうん、だから俺急いでやってきたんですよ。

 ……ってエクセリカちゃんいないのぉおおお!?


「くひひっ! 追いかけっこは終わりか? じゃあそろそろ食うぜ?」


 口からため息みたいに『ふっ』と炎を吐くドラゴン。

 隠れられそうな物陰は無い。

 それに村に着いたばっかで気が抜けてて剣ももってきてない……。

 どぼじよおおおおお!?


「ちくしょう! や、やってやんよ!」


 だけどここで大人しく食われてやるつもりもない。

 それなら徒手空拳で……やる!


「ShaaaAAA!!」


 俺の遥か上空に飛び上がって、ターンしてから急降下してくるドラゴン!

 来いよ……俺の拳は鉄をも砕くぜ……!

 ――なんつって。


「いやだああああ死にたくなあああい!!」


 やっぱりあれは無理だってばよおおお!!

 あんな質量の塊が落下してきたら、いくら俺が強くなってるからって言っても受け止めきれるわけ無いじゃないかああ!!

 こんなんじゃまだバ○の花○薫の拳を受けた方が生存率高いよ!!

 握力×体重×スピード=破壊力の方程式に当てはめると、あのドラゴンの体重はキロとかじゃなくてトンだろうし、握力なんて人間のそれと比べ物にならないじゃないの!

 しかも遥か上空から重力と翼による超速度を実現してるんだぞ!?

 こうなったら避ける! 避けるしかねえ!


「ふっ……しっ……はっ……ぎえぴぃいいいい!? だめですぅううう!」


 サイドステップしてもバックスッテプしても小刻みに翼で方向変えて俺をホーミングしてるから逃げられないよぉおお!

 じゃ、じゃあ直前で跳び箱のように飛ぶか!?

 ……ダメだ、でかすぎる。


「GaaaaaaaAAAAAAAAA!!」


「ぎゃああああああああ!!」


 もうだめだああああ!?

 口を大きく開けたドラゴンが、も、もう目と鼻の先に居る!

 どうすりゃいい……上もダメ、右もダメ、左もダメ、後ろもダメ!

 もう、俺に残された道は――。


「んお!?」


 下しかない!

 食らいつかれる寸前に大きく体を寝転ばせてそれを回避……!

 目標を見失ったドラゴンが素っ頓狂な声を上げた!

 いいぜ、そのまま見失っててくれよ!?

 今から俺は、お前の事を――。


「どるぁあああ!!」


 蹴り上げんだからよぉおおおお!!


「ぐぼっ!?」


 そのまま体を跳ね起こしながら――サマー○ルトのようにして、ドラゴンの体を蹴り上げるッッ!!

 でかい竜の体なんか持ち上げる事は出来ない。

 だけどその加速を利用して、相手のバランスを崩す事が出来ないかと言われれば否だ。

 エクセリカちゃんに習った、自分より大きな敵に相対した時の戦闘術ッ!

 相手の力を利用し、そのまま相手の動きをほんの少しだけコントロールする技!

 成功すりゃあそいつは勝手に――。


「わあぁあああああ!? ぶべっ!? うあんっ! うあっ!?」


 自滅するッッ!!


「ぜぇ……ぜぇ……どうよ青天アオテンの気分は……屈辱的だろ……?」


 うっしゃあああ大成功だああ!

 バランスを崩したドラゴンは頭から地面に突っ込んで、そのまま地面をバウンドしながら転がって、最後には仰向けに倒れ『ぽかん』となった。

 ……あ、危なかった。

 最後決め台詞とか言ってみたけど、正直かなり余裕がなかった……。

 俺の反射速度があと数フレーム遅れてたら、多分普通に食われてたよ……。

 せ、背筋が凍るわあ……。


「うっし……」


 さて……いつまでも余韻に浸ってるわけにはいかん……放心してるうちに確実に止めを刺さねえと……。


「さあ、トドメを――剣もってねえええ!? 誰か剣! 剣下さい剣!」


 慌ててまわりの人に剣を求めて叫ぶも、そこには既に誰も――おいィ!?

 村にドラゴンなんて化け物入ってきてんすよ!? 危機じゃないっすか!? 何逃げてんすか!? 


「う、うう……ち、ちくしょ……人なんかに、人なんかに……」


 ああほらぁあああ!?

 ドラゴン体をゆすって起きようとしてるよぉおお!?


「ひんっ……ひんっ……う、うわぁぁあああん!!」


 突然めっちゃ可愛い声上げて泣き出すドラゴン。

 ……あれ、もしかしてこれ、起き上がろうとしてんじゃなくて――。


「なんでだよぉ! おかしいじゃ無ぇかぁ! ひんっ……ひんっ……『ソレ』は強いんだからな! 負けた事なんて『とと様』と『かか様』にしかないんだからな! なのに、それなのにぃ! ばかぁ! チビ! わぁあああん!!」


 駄々捏ねてるだけじゃないか……これ?

 じたばたとデカい体左右に振って『ばかぁ! ばかぁ!』って叫んでるし。

 ――まるで子供。

 ……そういえばこいつの声、俺はどこかで聞いたような気が……。


「あ、あわわ! ち、ちくしょう! この前ぶっかけられた精の力が切れてきた! いやだあ! あんなちっこい体に戻りたく無ぇ!」


 体が粒子化して、どんどん小さく、人の形のようになって――あ、この子確か、オークと戦った後、俺が森の賢者(略してモリケン)になった時の……。


「ぐすっ……。お前、絶対食うからな! ち○ちんからだぞ! 覚えとけよ!」


 悔しそうに俺を睨みながら、足を振って跳ね起きる裸のドラゴン少女。

 逃げるつもりなのか、踵を返してそのまま演習場を――。


「逃がすと、思うか?」


 出られなかったね。

 逃げる事、叶わずだったね。

 だって、その先には、阿修羅のごとき形相で待ち構えるエクセリカちゃん立ってるんだからね。


「ど、どけよう……。こ、この姿だって、少しは戦えるんだからな……」


 少女がファイティングポーズを取ってじりじり距離を詰めるも、エクセリカちゃんは腕を組んで不動の構えをとっている。


「ふう……最初は冗談の類かと思ったんじゃが……。まさか本当だったとはのう。さて……我が理解の範囲により、かの者が最も嫌う醜悪なものを思い出させよ! フェアリーの悪戯!」


 遅ればせながらやってきたカーリャさんが、魔法を唱えた。

 するとドラゴン少女が頭を押さえて暴れまくる。

 確かこの魔法はただの幻覚魔法で、過去に見た不快なものを、五感全部増幅させて思い起こさせるなんていう、知的生命体にはかなりエグい効果があるもんじゃなかったっけ……。


「うわあ!? く、臭いっ! キモい! 半漁人が人間の女の股に――げえっ! えれえれえれ……きゅう……」


 ドラゴン少女が地面に手を付いて、口からキラキラとしたモノを――ゲロだね。

 もうそいつを盛大に地面にぶちまけながら『きゅうっ……きゅうう……』って声を上げている。

 何を思い出したのかはわからんけど、ちょ、ちょっと可哀想な気がしてくる。


「はぁ……はぁ……とにかくリッキさんが無事でよかったのです」


 アルシラさんもやってきて、ほっと一息ついてその場に座った。


「うえー……」


 あ、ドラゴン少女が大人しくなってぺたんと座り込んだ。


「まあ、話はゆっくり聞かせてもらうが、まずは――」


 額に血管浮かべながらエクセリカちゃんが鞭を取り出した。


「悪戯が過ぎる子供には、相応の罰が必要だな」


 鞭をヒュンヒュンと振りながら、じわじわドラゴン少女に近づいてくエクセリカちゃん。


「が、ガキじゃねえ! これでも100年近く生きて――あ! やめろ! こら! なにしやが――ひゃあん!? い、痛いよぅ!」


 あー……小脇に抱えあげられて直に鞭でお尻叩かれてら。


「やん! やあ! あう! 痛い! う、うー! もうやらぁ! わーん!」


 う、うわあ……ガン泣きになっておしっこチビってるよ……。

 俺もエクセリカちゃんに折檻された事あるけど、あれすげえ痛いんだよ……。

 かわいそうに、かわいそうに……。

 ――俺は傍目からはあんな情けなく映ってたのか。

 いや、しかし16歳の少女に鞭に叩かれて泣きを入れる25歳のお兄さんと、見た目10歳程度の少女じゃ綺麗さが違う。

 俺はただの汚物だ。

 これからは、俺も鞭で叩かれないように気を付けないとな……。


「ひんっ……ひぐっ……もういいよぉ……煮るなり焼くなり好きにしろよぉ……」


 散々ケツを引っ叩かれたドラゴン少女は、疲れたようにその場に倒れこんだ。


「ああ、煮るも焼くも好きにするさ……。……お前、リッキを食おうとしてたんだってな……? ……私は今、手加減できない程に……怒っているぞ」


 私兵の一人から縄を受け取って、ドラゴン少女の体をふん縛るエクセリカちゃん。


「……これはリッキに試そうと思っていたんだが、まあまずはお前に使ってやる。これからこの太い棒をだな、お前の――」


 エクセリカちゃんは何処からともなく太鼓のバチみたいな(イボイボやら、デコボコがたっぷりついてる)棒を取り出して、ドラゴン少女の耳元で何かを囁いた。


「や、やあ! きゅう……きゅうう……」


 顔面蒼白になりながら、首を振るドラゴン少女。

 その様子に、俺も顔面蒼白になってます……。

 エクセリカちゃんを本気で怒らせる事だけは絶対にやめよう。

 多分あれは――ケツにぶっ挿すモノに違いない。


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