まぞくといっしょ
「おお、君か! ほら、ここに座ってくれ! おい誰か! 今回の一番の英雄がきたぞ! 酒をもってきてくれ!」
あれから飯を食べて、ゆっくりコーヒーを飲んでから二人に連れられて集会場までやってきた。
集会場にやってきて『ちょっと準備があるから先に中でお酒やお話を楽しんで下さいね』なんてアルシラさんに言われて中に入ろうとしてたわけなんだけど……。
ちょっと知り合いが誰もいなくって入るの怖かったから、そのまんま入り口んとこを行ったり来たりしてたわけで……。
そしたら前に助けた亜族のおじちゃんが、たまたまそんな俺を見つけてくれて、めっちゃニコニコしながら俺を呼んでくれた。
「あ、どうも」
いやあ、すげー助かった。
多分このままだと一生俺はこん中に入れなかった、マジで。
そんなわけで手招きに応じて俺はおじちゃんの隣に座ったわけなんだけど、何だか俺が入ってきた途端周りがちょっとざわめいた。
人間が襲ってきてまだ日が浅いんだもんな……。
やっぱり俺の事、良く思ってないのかな……って思ったんだけど、どうやらそういった事でざわめいていたわけじゃなくて、むしろ『おお、彼がアルシラ様を……』とか『人間にしては見上げた根性だ』っていうような割りと良い方のざわめきで、俺は少しだけほっとした。
だけどその中に混じって『いずれ化けの皮も剥がれる』なんて声も聞こえてくるから、みんながみんな俺の事を認めてくれたんじゃないんだって事もわかった。
……やっぱり信用されてないってのは、少しだけ辛い。
――だけど俺次第でどうにだってできる。
うん、頑張ろう。
「……ほら」
おじちゃんの隣に座って、周りの人達の声を聴きながら、今度どうしていくべきなんだろうかって事を色々と考えてたんだけど、途中で誰かが俺の目の前に、木で出来たビアジョッキみたいなのと、ワインボトルより二回りも大い酒瓶を置いてくた。
そういえばさっきおじちゃんが『酒をもってきてくれ』って言ってたけど――。
「ありが……あ、あれ? 君はあの時の牛娘ちゃん……?」
お礼を言う為に顔を声の方に向けると、俺の隣の座布団に牛娘ちゃんが座ってた。
「あ、あはは……ありがとね」
会釈したら牛娘ちゃんがそっぽ向いた。
やっぱ嫌われてんな……。
でも、どうしてお酒もってきてくれたんだべ?
「娘と知り合いなのかい? ああ、それなら酌も気兼ねしなくて丁度よかった。ほら、彼にネクタルを注いであげなさい」
口をへの字に曲げながら、牛娘ちゃんは酒瓶を手に取ると『……注ぐから、もって』って言われたんで、ちょっとビビりながらも俺はビールジョッキ掴んで、牛娘ちゃんとこに持っていって、無色透明な液体をとっぷりと注いでもらった。
「お、お気遣いどうも……」
また会釈してお礼を言うと、牛娘ちゃん俯いて『……いやなやつ』って呟きながらまたそっぽ向く。
……な、なんだろうな、違和感がある。
確かに態度は冷たいんだけど、嫌な感じがしないんだよな……。
ああ、打ち解け始めた頃のエクセリカちゃんみたいな感じだわ。
……いや、それよりももっと柔らかい気がする。
「……っ!」
目が合う度にそっぽ向くんだけどさ、それってつまり『何度もこっちをチラチラ見てる』って事なわけで……。
しかも目が合う度に頬っぺた赤くして俯くんだけど……。
――フラグ?
……ありえん、俺の勘違いに決まってる。
「……飲まないの?」
牛娘ちゃんが俯いたままボソって呟いてきた。
うん、せっかく注いでもらったわけだし――さっきおじちゃん、この子の事『娘』って言ったよな!?
危ねえ!? スルーする所だったぞ!?
「あ、え? 二人は親子なんですか?」
おじちゃんは普通に『ああ、似てないかい? 娘は妻の血を色濃く受け継いでるんだよ』なんて言ったわけですが……。
――似てないってレベルじゃない。
どう見ても種族が違う。
……そういえば、村の人の殆どはアルシラさんみたいに青い肌で、角が生えた種族なんだけど、その他にも鱗っぽい肌だったり、岩っぽい肌の人もいる。
この世界の遺伝子構造ってどうなってんだ……?
昔、犬やら猫、同性、別世界の神、果ては無生物とですら遺伝子を残せるローグライクゲームにハマった事があるけど、まさかそこまでじゃないよな……?
「お酒、嫌い……?」
あ、ああ、驚きの真実でジョッキ傾けたまますっかり固まっちまってた。
よし、今度こそ飲もう。
「ううん、むしろ結構イケる口。ありがと、いただきます」
無色透明香り無し。
すげえ不思議な酒だな……確かさっき、おじちゃんは『ネクタル』つったっけ?
酒についてそれほど詳しくないんだけど、ファンタジー系で『ネクタル』なんて単語飛び出すとしたら、やっぱアレなのかな?
――ギリシャ神話でお馴染みの霊薬。
いや、さすがにそれはないだろ。
普通にそういう名を冠したお酒ってだけだろうね。
マジでそんなすごいもんだったら亜族の人みんな不老不死だもの。
「それじゃあ、いただきます……ごくっ」
ん、すごいフルーティな果実酒……?
いや、違うな、味が変化してる。
杏仁の香りとピーチの香りでむわっときて、飲み終える時には柑橘系の香りでふっとスッキリした感じになった。
……なるほど、居酒屋の女性が頼む定番メニューになりそうだ。
「へえ……おいしいですね」
でもわずかに一歩、足りないんだよな……。
「はは。飲めば飲むほど味が深くなるから、ゆっくり楽しむといいよ」
へえ……。
それじゃあもう一献……。
――旨い。
なんだ、これは……。
うまい、口当たりがまろやかでさっぱりとした酸味が――まさか梅か?
次はライム、そしてさくらんぼ、飛んでバナナ、パイン、イチゴ、ケーキ!? シュークリーム!? ババロア!? お、おいおい!? どんどん味が変わる、飲むたびに味が変わる! おもしれえ!
フルーツ・オレみたいに味が混ざり合うんじゃなくて、飲み込むために新鮮な味が口ん中に広がる。
この世界にやってきてから菓子なんて一つも食ってなかったけど、すげえ懐かしい!
半年ぶりにこんな味に巡り合えたぞ……。
「しゅ、しゅごいっすにぇ……。いろんら味がしましゅ」
しかも体があったかい……。
頭もぼんやりしてきた――俺こんな酒弱かったっけ……?
日本にいた頃、正月ん時は日本酒一升、ビールのロング缶8本、芋焼酎ジョッキ4杯空けても真っ直ぐ歩けるレベルだったんだが……。
「す、すごいな君は……。そんなペースで飲んで倒れない人を、私は初めてみたよ……」
あ、ああこれ強かったんだ。
「まあ、すぐに酔いも醒めるよ。後腐れがないのがネクタルの特徴だからね」
へえ……二日酔いの心配なし、か。
世のお父さん方には夢のお酒だな……。
んぐおー……気持ちいい……。
――ちょいまて、アルコール度数どんだけなの?
あ、酔いが醒めてきた。
本当だ、酔いも早いけど醒めも早いんだな。
ファンタジー世界ってすごいな……。
「いやあ、すごく色々な味がして面白いですね……」
「はは、それなら君は、きっと沢山の果物や甘味を食べてきたんだろう。ネクタルは舌の記憶を呼び起こすんだ。ちなみに私は山葡萄や梨の味かな。ここらへんじゃあんまり果物がとれなんだよ。それにどこも同じような森の中だしね……ははっ」
おじちゃんは苦笑いだ。
だけどその心中を察すると、俺はすげえ居た堪れないぞ……。
人間が大陸をガンガン自分の物にして、亜族の人はどんどん隅っこに追いやられちゃってるんだもんな。
食べられる物も安定しなくて、甘味ったら森で採れる木の実や果物ばっかり……。
そうやって細々と隅っこで生きてるってのに、人間はそんな彼らを襲って、色々なモンを奪っていきやがった……。
「ごめんなさい……。人間が、迷惑ばっかかけて……」
俺が謝ったって失われた物が戻ってくるわけじゃない。
だけどどうしても謝罪の言葉が止まんなかった。
俺がこう言ったって、空気を悪くするだけなのに……。
「なあに君のせいじゃない。悪い者が悪いんだ。この前の事で私たちはそれがよーくわかったよ。アルシラ様が主張なさっていた事を、皆はあまり受け入れようとはしなかったが、やっぱり実例を見ればよくわかる。亜族、人間といった括りではなく、個人を見て欲しいと言った意味がよーく理解できた。ただまあ……納得はできてない者はまだ大勢いるのだがね……。しかし、気にすることはない、それでも私たちは君を受け入れるさ。これからも楽しくいこうじゃないか」
おじちゃんが俺の手掴んで握手してくれる。
――嬉しい。
こういった変化がきっと、世界平和の為の前提条件なんだろう。
……だけど、平和になっても人間ってのは。同じことを繰り返すんだ。
この人たちは人間よりちょっとばかり素直なんだ、きっと。
人間のように個々の打算で動くわけじゃなくて、種全体で見て動いてるからこそ、受け入れも早いし、どんどん変わろうとしていくんだろうね。
だけど人間はそうじゃない。
俺もそうだけど、すぐには変われないんだ。
たまたま俺が異世界の知識持ちで、色々な文化があって、沢山の歴史を知ってて、数ある物語を読んでるから、色々な発想ができるんだろうけど、この世界の人間はきっと、すっごく頑固で物分かりが悪い、猪突猛進な盲信者が多いのかもしれない。
文化に触れる機会がない、歴史をあまり知らない、安全が保障されていないってのは、弱い人間にとっては最悪の環境だし、心にゆとりも持てないんだろうね。
だけど――。
「はい、楽しくいきましょう。あ、そうだ! 傷、もう大丈夫なんですか?」
俺は少なくとも、多少は違う見解をもってるんだから、どんどん歩み寄っていかなくちゃな。
円滑な関係には、円滑な会話。これが一番。
……つっても俺口下手だし話題の引き出し小さいから『ちょっと気になった事を聞く』ぐらいしか出来ないんだけどね……。
今気になったのはおじちゃんのケガ。
今は結構ピンピンしてるんだけど、一週間やそこらで治る傷じゃなかったよな……?
亜族の人って傷の治りが早いのかな?
「ああ、私達は一週間もあれば傷も塞がるし、膝の骨も元通りさ。天人の回復魔法のようにはいかないが、私達亜族は生命力だけはピカ一だからね! とはいえ、あのまま失血していたら間違いなく気をやっていただろうし、君が止血してくれなければ死んでいただろう。ありがとう、ハギラ君……」
うおー、すげえな亜族。
どう考えても人間より優れて――こういった考えが軋轢を生むんだろうな、いかんいかん。
「あ、ハギワラです。いやあ、元気になってくれて本当によかった……そういえばアルシラさんとエクセリカちゃんは何やってんすかね? まだ全然こないみたいなんですけど……」
そうそう、あれから結構経ったけど、全然二人がやってくる気配がない。
「ああ、きっと今後の事を話し合ってるんだろう。ここに人間がやってきた以上、あまり長居はできないからね。今日が会議の最終日なんだよ。その会議が終わり次第方針の発表といった感じかな」
ああ、なるほど。
「結局は移動する事になるとは思うんだけどね。殆どの者は大体そっちの方で行動し始めているよ。早い者はもう荷造りも済ませているからね。……ただ、そうなるとどこに移動するかが問題なんだ。人間の活動範囲はかなり広いからね。私たちが住める場所なんていうのは殆ど無いよ」
どこに行ってもゴ○ブリみたいに人間がうようよいるからなあ。
あ、俺だんだん人間の事嫌いになり始めてる。
――俺も人間なんだけどな……。
まあ人間って一括りにしちゃいけねーんだろうけど、想像だとこの世界の人間の大多数が愚かしい考えもってそうな気がしてならんのだよな……。
――それはさておき。
おじちゃんの話では、魔物が多く住むような森の中や、何も育たない不毛の大地ぐらいしか亜族が住む場所は無いみたいだ。
……じゃあ完璧に安全なとこってねーのかな?
誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われている所……静かで、豊かで……。
……ああ、マジで亜族差別してる人間を片っ端からアームロックかけたい。
「安全な所があればいいのに……。神はいないのか……」
あ、なんかおじちゃんが噴出した。
俺変な事言ったんかな……?
「そうだねえ。こんな時だと、神話にすら頼りたくなってしまうもんだ。海の向こうの亜族の大陸に行ければね……。あ、何が何だかわからないといった顔をしてるな? はは、すまんすまん」
んん、そういえば俺、この世界の宗教的な事殆ど知らないんだよな。
「あ、いえ。もうちょっと聞かせてもらってもいいですか?」
せっかくだからこの機会に聞いておこうかな。
「いいよ。……えっとだね。そうさな、主に亜族に伝わる大陸神話でね。もともとはこの大陸はそこと繋がっていて、何千年前かに地殻変動だとか、海に削られた、だとかで離れていってしまったとされている大陸があってね。そこには亜族達の国があったって話なんだよ。そしてアルシラ様の一族や、他の亜族の村の村長は『国の王家の血を受け継ぐ者』だとも言われていてね。はは、眉唾モノかい? でもね、私たち……まぁ、比較的年を取ったは者だけではあるんだが……信じているんだよ。アルシラ様はそういったお方なんだと……。神といった概念は私達にはないが、アルシラ様達のような『王家の血を受け継ぐ者』を我々は称えているかな。だから、人間が神信仰するような強烈なものとは大きく異なるかもしれないが……まあ、私達の神といえば、王家の方かもしれないね」
千年前の神話の生き証人が、アルシラさんか……。
すごい話だな……。
――あれ?
じゃあどうして海の向うに行かないんだろ?
造船技術的な問題かな?
……でも魔法が普通にこの世界にはあるし、こう……ぱぱっと魔法で動く船とか作れそうではあるけど……。
――あ、むしろそんな大陸探しても見つからなかったって事かな?
……考えてもわかんない。
聞いてみよう。
「あの、なんでその大陸には行かないんですか? それとも、海に出たけど、そういった大陸はなかったって感じなんですかね?」
んん……ちょっと驚いた顔されてる。
俺、また変な事言っちまったのかな……。
「えーっと、君はこの大陸の周りの海が、海竜がいたり、魔物だらけだって話を知らないのかい?」
なんですと……。
「あ、初耳です。俺内陸のジャングル育ちなんで……」
まぁジャングルはジャングルだけどコンクリートジャングルね。
嘘は言ってない。
だって俺一言も『この世界の』って言ってないもの。
ごめんね、おじちゃん……。
だって話してもきっと信用してもらえないものよ……。
「なるほど。そうか、じゃあ無理はないかもね……。この大陸のまわりの海には海竜と呼ばれる、巨大な化け物や、強い魔物がうようよいるんだよ。だから人間も早々は海には出ないんだ。この何百年間、何度も開拓を目指して人間は航海に出たけど、皆一様に海を墓場としているからね」
あ、そういう問題があるんだ。
なるほどねえ……。
それじゃあどうにもなんないよなー……。
でも、その大陸にたどり着ければ、人間からの脅威が全くと言って良い程なくなるって事なんだし、それはすごく魅力的だなあ……。
……どうにかして海を渡りたい。
そうすりゃきっと、平和な暮らしが出来るし、アルシラさんも安心して笑ってられるんだよな……。
――はあ……チート使いたいな……。
チート魔法で『ぶわーっ!』って海開いて、約束の地的な所に亜族の人、みんな連れてってやりたいな……。
……モーゼか俺は! おこがましいわ!
「みなさん。今日もお集まりいただき、ありがとうございます!」
――お? アルシラさんの声だ。
もしかして会議が終わったのかな?
「たった今意見が纏まりましたので、それを発表したいと思うのですが、その前にわたくしの命を救ってくれた人――リッキさんの紹介をさせてもらいます」
え?
ちょ、ちょっと待って、どうしてここで俺が出てくるの?
確かに紹介つってたけど、俺が集会場に顔を出す的な話じゃないの?
――え、嫌だよ俺!?
それ、俺にとっては罰ゲームの類だよ!?
……うわああああ!?
ちょっと、村の皆俺の事見てるよ!?
ひ、酷いよアルシラさん! やめてくんろー!
「ふふっ。リッキさんリッキさん。こっちこっち」
おいィ……。
手招きしなくていいよ。
ほんと勘弁してよ……。
俺、上手い事なんか何も言えないよ……?
ど、どうすりゃいいんすか?
「この方がわたくしの命を救ってくれた勇気ある人、リッキさんです! この方のお蔭でこの村が、そしてわたくし達の未来が救われたのだと言っても過言ではありません! リッキさん、本当にありがとうございました!」
ひいいい!?
感謝されてるのはわかったよお!
そ、その割れんばかりの拍手をやめてくれぇ!
背中が痒い! むず痒いよお!
「リッキさん。何かお話、ありますか?」
無い! 何もない!
微笑みながら俺の腕を掴んでるアルシラさんに、全力で首を横に振る!
俺にゃ上手い事なんて何一つ言えません!
恥ずかしすぎて死んでしまうわ!
「じゃあ、どうぞリッキさん! 頑張って下さいね!」
おいィ!?
人の話聞いてたんですかねぇ?
いや、俺なんも話してないけどさ……。
――むしろこれから話す方みたいだけどさ……。
……いや、そうじゃなくてね? 見てたよね? 俺のボディランゲージ見てたよね?
もしかして首を横に振るのって肯定の意味なの? 異文化なの? 嘘だッ!
「あー……。その……」
仕方ないから簡単な自己紹介で済まそうかな……?
あーでも、どうしよ、なんか期待の眼差しで見られてる。
……ここで『おっはー』とかフランクに挨拶したら盛大にスベるよねぇ?
でも『あ、どうもこんにちは。律樹、萩原です。今後ともよろしくお願いします』とか面白みのない挨拶でお茶を濁したらみんながっかりするよね?
――や、やだわぁ……みんな静かになってきちゃったよ……?
俺こういう空気嫌い。すっごく苦手。
これは『おい! みんな委員長が喋ってんだぞ! 黙れよ!』みたいな空気とは違うけど……。あれだよ『はい○○君。163ページ目から読んでみてね』っていう国語の授業みたいな感じ。もうやだ、恥ずかしい。逃げたい。
でも……逃げたら、いつもの俺と同じじゃねえのよ!
ぐぬぬ……なんとか、なんとかしなくちゃ……。
「あのー……。お、俺はり、リッキです。どうも……」
つっまんねえええええ!
俺はなんってつまんねえ人間なんだぁあああ!!
俺無理! 無理だよ! 俺こんなの無理ぃ!
「それで……俺は……」
思い浮かばないよ、頭真っ白だよ。
誰か助けてー!?
「っ!?」
体にキラキラ光る粒子が……。
――エクセリカちゃんか!
「(ふふっ。あがってるお前を見て、放っておけなくてな。なあリッキ、お前はアルシラの救いであり、私の希望だ。人間を恐れ、人間を憎んできた私達亜族に、ようやくとして理解者が現れた……。この村の亜族にしてみれば初めての人間の隣人だ。少しだけ荷が重いかもしれんが、難しく考えないでくれ。お前が今何を感じ、どう思っているかを素直に話してくれればそれでいい。安心してくれ、お前には……私がついてるんだ)」
俺にしか聞こえないくらいの小さな声。
でも、なんだかそいつは、俺にいっぱい勇気をくれる。
――ありがと、エクセリカちゃん。
うっし、ちょっくら頑張ってみるか。
「俺は、リッキです……って、これはさっき言いましたね! でも、あと一、二回ぐらい言っちゃいそうですよ俺! 上がり症なもんで! てぃひひっ!」
お、ちらほら笑い声が聞こえる。
スベんなくてよかったわー……。
「見ての通り人間です。どういうわけか、アルシラさんに拾われて、ここで生活させてもらっていました」
最初の頃は大変だったなー……。
力仕事は辛いし、娯楽もないしで嫌んなっちまってたもの。
あ……初めてきた時と言えば――。
「初めてエクセリカちゃんや、アルシラさんを見たとき、俺はすごく怖かったです。自分とは違う種族、自分とは違う見た目。人間はたったそれだけの事で恐怖します。そして力を持つと、排除しようと動き出します……。そして相手が恐ろしいものでないとわかると調子に乗り、見下して……いつしか何もかもを奪おうとします」
ああ、なんだか空気が盛り下がってる……。
その中でちらほらと『そういう人間ばかりじゃないんだろ? アルシラ様がそう言っていたじゃないか』なんて声が聞こえた。
――そうなんだ。
こういった風に考えてくれるアルシラさんがいたから、俺はここにいる。
悩む事も出来るし、話す事もできる。
「はい、そうなんです。アルシラさんはそんな人間種の俺を見下す事もなく、憎む事もなく、しっかりと一個人として見てくれたんです。……自分は、同じ人間にさえ見下されるような、矮小な人間だった過去だってもってます。だから、それが嬉しかったし、すごく感謝しているんです……」
うむ……。
あの優しい微笑みで、俺ってばすげぇ心が軽くなったもんげ。
そんでエクセリカちゃんの冷たい目とかもう死にたくなったもんげ。
「(す、すまん……。許せ)」
あ、ああ冗談だよごめん。
……許すも何も、今はそんなに気にしてないよ。
むしろ厳しく叱ってもらって感謝だわ。おかげで伸びたもん。
――当社比20%増しぐらいかもしれないけど。
「そして俺は、その大恩人であるアルシラさんを助ける為とは言え……。同族である人間を、この手で殺しました」
う……ざわめいてる……。
話すべきじゃなかったかな……。
いや、俺の中の引っかかってる一番の事は、これだ……。
――ちゃんと、話そう。
「すごく後悔……してます。二度と、戦いたくないです……。命を奪う事は恐ろしい、奪われる事も恐ろしい……体が凍るんじゃないかって思う事、寒くて寒くて……たまらなくなります……」
――でも、だからって停滞してちゃ駄目だ。
涙流しても、吐いても、何をしたって動き続けないといけない。
今の俺には……何かを成すだけの力があるんだから。
「だけど、俺は何かを守る為なら戦えます。アルシラさんだったり、エクセリカちゃんだったり、そして俺を迎え入れてくれたこの村の人の為に、俺は剣を振えます。俺はもう絶対に逃げません。だから信じて下さい。すぐにとは言いません、ゆっくりでいいんです。俺はアルシラさんを信じています、そして皆さんの事も信じます。そして自分自信も信じるようにします。だから、皆さんも俺を信じて欲しい。自分を信じるように信じて欲しい」
お前を信じる、俺を信じろ……か?
まったく、ここにきてまで俺は何かをパロった事しか言えないのか……。
――そうじゃない。
どこかの漫画の受け売りかもしれない、アニメかも、ゲームかも、映画かも、小説かもしんないけど、その言葉に共感し、心の底から思えるなら、俺の本当の考えだし、本当の感情でいいはずだ。
その中で学べれば、本気になれれば、きっかけは何だっていい。
それを生かせるかどうか……。
その考えを貫き通して、この現実を歩き続けられるかどうか。
重要なのは、そこだけのはずだ。
「(リッキ……。私もお前を信じるよ)」
うん……ありがとう。
でも、なんか周り静まり返っちゃったね。
「(そうだな。だがほら、見てみろ)」
辺りを見渡し――あれ?
おじちゃんが立ってる……牛娘ちゃんもだ。
「信じてるぞ! いよっ! 英雄どの! かっこいいぞ!」
お、おじちゃん!? 恥ずかしいからやめて!?
「……いいやつ、なのかも?」
牛娘ちゃん、どうして頬っぺた赤くして『チラッチラッ』ってするの? 俺勘違いしちゃいそうだよ……?
「あ、あはは……って」
――拍手。
最初は小さく、そして徐々に大きく、そしてさっきみたいに、割れんばかりに。
「(リッキ。私達はな、きっかけがあれば気づけるんだ。人はすぐには変わらんかもしれんが、いつだって変わりたいと思ってる。お前も、そうなんだろう?)」
うん。
「リッキさん、ありがとう……。これからも、よろしくお願いしますね!」
俺の腕に組みついて、微笑むアルシラさん……。
――あ、いい笑顔だ。
ふんわりしてて、胸がぎゅってなるような優しい笑顔。
……俺、ずっと、この子の笑顔を、守っていけるんかな……。
「(心配するな。私と一緒だ)」
うん。
――そうだ、少なくとも、今の俺は孤独じゃないんだ。
同じ目線で見てくれる、大切な人がすぐ隣にいる。
それに――。
「うん……よろしくアルシラさん、エクセリカちゃん! 俺は二人を守り続けるよ、ずっと隣を歩き続けるよ! だって俺達……仲間だもんげ!」
守れるかじゃなくて、守るんだろう?
――もう迷わない、苦しみからも逃げない。
後悔もする、悲しみもする、凹みもするだろうけど、大事な誰かの心が傷つくなら、俺の心が傷ついたほうがずっとマシだ。
――聞け、人間……。
俺は何度だって剣を執るぞ。
だって俺は、この先もずっと生きてくんだから、進み続けるんだから。
お前達が恐れ、疎む『魔族と一緒』に!
ここまでお付き合い下さり本当にありがとうございました。
『まぞくといっしょ』第一章はこれで終わりです。
この章はイチャイチャ成分も少なく、チートで最強といったわけではありませんでしたが、楽しんでいただけたのなら幸いと思います。
そして報告が一つあります。
ある程度毎日更新を続けていましたが、次回の更新は少し遅くなるかもしれません。
2012年3月12日現在の今日から、長く見て一ヵ月、短くて一週間後の再開といった感じになります。
これは書き溜め→修正→投稿時の修正といった工程のせいです。
ある程度二章の書き溜めも終わり、その次章である三章の書き溜めも半分ぐらいは終わっていますので、あとは作業スピードの問題です。
出来るだけ早く皆様にお読み頂けるように切磋琢磨していくので、これからもどうぞよろしくお願いします。
黒梵天でした。




