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まぞくといっしょ  作者: 黒梵天
第一章 白銀の鎧と悪魔の少女
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止まない雨が無いように、明けない夜もまた――。

「リッキさん、リッキさん。起きてくださいますか? 今日は集会に一緒に来てもらいたいので……あら、うふふ。仲良しさんですね」


 んぐ……。

 今、何時だろう……。

 ボス狩りいかねーとな……。

 それに腹も減ったし、カップ麺の買い置き、まだあったっけ……。


「んあ……」


 もっさり体起こして――んん……なんだろう、体に温かくて適度に重くて柔らかいものが乗ってる感じがするんだけど……。

 ほう、金髪で、色白の、仏蘭西人形みたいに整った顔立ちと、小さなおっぱい、すべすべでとろけちまいそうなぐらい柔らかい肌。なんのエロゲキャラだっけ……。

 てか、そもそも俺、こんな抱き枕もってたかなぁ……?

 確かに、こういったダッチワイフ欲しかったけど、買った覚えねえなぁ。

 オリ○ント工業の。


「んん……」


 おー動いた動いた。

 かわいいなあ……。


「んむっ……? んー……ちゅっ……ちゅっ……」


 頬っぺたつっついたら指にちゅっちゅしてきた……。

 エクセリカちゃん可愛い……は?


「んー……リッキ?」


 あれ……。

 なんか意識がハッキリして……。


「あ、リッキさんは寝ぼけるのですね? ふふっ。はやくご飯を食べないと、集会に遅れてしまいますよー?」


 集会……?

 あれ、ここ、いつもの俺のベッドの上じゃねえ……。

 それにアルシラさんもいる……。

 ここは、そうだ、異世界だ。


「ああっ!?」


 俺はなんで裸でエクセリカちゃんと抱き合って寝てんだ!?

 えっちした記憶なんてないぞ!?

 ――やべえ! アルシラさんにまた勘違いされる!?


「どわぁ!? ち、違うんです! お、俺別にやましい事とか何も――」


「ん……。うるさいぞリッキ……。お前はいっつも寝起きが悪いな……。しかし今日は一段とうるさい。今日に限って一体なんだというのだ……うん? ああ、アルシラか、おはよう――ぷぁ!? 何をするリッキ! やめろ!」


 裸のエクセリカちゃんが布団からもっさり出てきたよ!? 

 か、隠せ! 布団で隠せ隠せ!


「おはようエクセリカ。リッキさんの具合はどう?」


「ぷふっ! まったく! このっ! はあ……。ああ、見ての通り元気そうだろ? 昨晩はずっとリッキを抱いて寝たからな。私の精をリッキに流し込んで、リッキの精を私に流し込んでみたんだが……。うむ、かなり精神状態が良くなってるな。最初からこうしておけばよかったぞ」


 んぐお……逆に俺が布団の中に押し込まれて、丸められた……。


「ふふっ。良かった。嫌な事を忘れるには、女の人に抱かれるのが一番だってお父様も言ってましたしね。ささ! それじゃあご飯にしましょうか! リッキさんもお腹空いてるでしょう?」


 確かにお腹空いてるけど……。

 いや、女の人に抱かれるってそれ、多分意味がちょっと違うと思うよ……。

 ――なんて事を教えてるんだ、アルシラさんのお父さん。


「あの日以来殆ど食べてないからな。そろそろちゃんとパンとスープ以外も食べろ」


 あの日?

 何の事を言ってんだろうエクセリカちゃんは。

 だって俺は今までずっと薪を割ったり戦闘訓練したり、それぐらいしか――。


『ぐ……。この……人殺しめが……』


 ……っ!?


「う……あ……」


 鮮明に蘇ってくる、おっさんの死に際の言葉。

 そうだ……。

 なんで忘れちまってたんだ……!

 寝起きだからって、忘れていい事じゃないだろ。

 人殺しが幸せになっていいわけがない。

 毎日毎日ちゃんと大将のおっさんの顔思い出して、どうやって殺したのか、俺がどれほど正義に酔っていたのかをちゃんと思い出して、ちゃんと――痛っ!


「……」


 うあ……?

 あ、アルシラさんが、俺の両方の頬っぺたに手ぇ当てて……じっと見てる……?

 

「リッキさん。今何か……すごく良くない事を考えてませんでしたか……?」


 アルシラさんが、顔、近づけて……俺の目を『じぃ』っと覗いてくる……。

 ――すごく、悲しそうな顔で……。


「ううん……ごめんなさい。考えてないっす、大丈夫っす」


 頭を振って、笑顔作ってみる――ダメだな、引きつってるなこれ……。


「嘘吐き……!」


「――っ!?」


 アルシラさん……? どうして、突然俺に抱きついて……?


「リッキ……。あまり無理をするな。痛みや苦しみ、そして恐怖を感じるのは正常な証拠だ。それにお前はあの時私と共に杭を放ったのだから、私にもしっかりと罪はある。お前を止めてやらなかった罪もな……」


 エクセリカちゃんも、昨日みたいに俺を抱きしめて……。

 俺、二人にこんなに心配かけて……。

 ――気を強くもてよ俺! 年上だろ! 年上……なんだろ……。 


「俺は……おいらは……俺っちは……」


 だ、ダメだ、頭ん中ぐちゃぐちゃする……。


「リッキさん……。苦しまないで……。あなたはわたくしの命を助けてくれたんですよ……。殺しを正当化してはいけませんが、成した事まで忘れないでください……」


 人を殺して良いわけがない……当たり前の事……。

 でも、誰を生かして、誰を殺したか。何の為に、何をしたか。

 それを忘れちゃいけない……。

 昨日の夜、エクセリカちゃんが言った言葉も、確か……。


『今はいい。すぐには割り切れんだろう。だが命に感謝ぐらいはしてやれ。お前がそうやって罪の意識をもっているのなら、それで私は十分だと思う。人殺しに慣れろとは言わない、その罪を忘れろとも言わない。だが勝者は笑わなければならない、負けるその時までな。それが敗者への弔いだ。奪った命の分だけ、お前には幸せになる義務があるし、苦しみながら生きる責務もある。私はそう思う』


 ――許されちゃいけないけど、俺はずっと進んで行かなくちゃならない。

 俺が死ぬその時まで、笑い続けて、強く生きなきゃならない。

 頭のどこかでは、そういう事を理解していたのに、俺の心はずっと否定し続けていた。

 受け入れたくないと、端から突っぱねていた。

 だけど――。


「うん……」


 二人に何度も言われて、その言葉が、その理屈が、ようやく心ん中に『ストン』って落っこちてくる……。


「落ち着いたかリッキ?」


 エクセリカちゃんが俺から離れて、服を着て、ゆっくり隣に座って、背中を撫でてくれて、優しく、言ってくれて……。


「うん、ありがとね……」


 うん、呼吸の乱れも収まってきたし……大分落ち着いたかも……。


「ふふ、あ、じゃあ次は、わたくしが裸になって、抱っこしてあげましょうか!」


 アルシラさんが俺から離れて、自分の服に手をかけながら、悪戯っぽく舌をだしてる。

 はは、まったく。冗談が過激っすよ、アルシラさんは。


「ううん……。大丈夫っす……ありがとう」


 心が少しだけ、軽くなってきた。

 ――だけど、多分、今すぐには変われない……。

 まだまだ俺の心ん中で、少しだけジクジクと黒いもんが渦巻いてるし、俺を責めたてるような声が――。


『ぐ……。この……人殺しめが……』


 あのおっさんの、最期の言葉が、耳に残って離れない……。


「……引きずってるんだな。まあ、仕方ないかもしれん……。同族を殺したのだしな、あまり気分は良くないだろうが……。うむ、だが飯は食べろ。このままではお前、本当に病気になってしまうぞ?」


「そうですよリッキさん。ここの所、全然食べてなかったじゃないですか……。今朝はちょっと多めに作ったんです。村のみなさんが色々と分けてくれたので、ちゃーんと美味しいご飯が一杯ですよ? 今日こそはちゃんと食べてくれないと……泣いちゃいますよ?」


 同族……。村……。

 そうだ、死んだのは、何も人間だけじゃない、俺は殺したのは一人だけど、あいつらはそれよりもっと多くを殺した。

 ――数の問題じゃない、俺だって人殺しは人殺しに違いない。

 ああ、ダメだな……やっぱり考えちまう……。

 俺が考えたいのは、今はそっちじゃなくて……亜族の村の人達の事……。

――きっとみんな、人間の事がもっと嫌いになっちまったんだろうなって事……。


「ほらほらリッキ。私も腹が減ってきた。アルシラ、もちろん卵焼きもあるんだろう?」


「うん、沢山焼いたの!」


「そっか、じゃあ一個ぐらい多めにリッキにやってもいい。ほら、行くぞリッキ」


「え、あ……うん」


 正直あんまり食欲ないよ……。

 まあ、食わなきゃ体が持たないのもまた事実だよね……。

 こうやって布団の中に引きこもってたら、健康にも、心にも良くないはずだもんね。

 ――よし、行こう!


「それじゃあ、わたくしは先に行ってコーヒーでも……!? あ、あわわ!? り、リッキさん! 裸なのです! すっぽんぽんなのですー!」


 意を決して布団から出て、俺は大きく伸びをしたわけだけど……なーんでかアルシラさんがすっごく慌ててる。

 ――裸?


「え……? どわー!? なんで下まで穿いてないの俺!?」


 急いで両手でガード!!

 おかしいぞ!? 昨日は上半身だけだったはずだよ!?


「私が全部脱いでるのに、お前が全部脱いでないのは不公平だったからな。寝てる時に全部脱がした。うむ、よく明け方ぐらいには私の太ももに固くて熱いものが何度も擦れてきてたが……。安心しろ、ちょっと粘っこいのが――」


「やべでー! 言わないでー!」


 嘘だよ! 出てるはずないよ! 俺エロい夢なんか見てないんだから!

 ――まさか、単純な刺激だけで……?

 嘘だろ……そこまで俺のアレは刺激に弱くなってんのか……?

 ウィンナースポーツで鍛えまくった俺のアレが……?


「う……? 粘っこいのってなんですか? 詳しく――」


「どぼじでせっかく言葉を遮ったのに蒸しっかえすの!? だめだよアルシラさんみたいな清純な女の子がそんな事聞いちゃ!」


 アルシラさんは天使なの! 悪魔の見た目だけど心は天使なの! だからそんな事聞いちゃダメ! 絶対にゆるされないんだ!


「ええ? リッキさんはそんな風に私の事を? ……なんだか、照れちゃいますね。でもねリッキさん? 私、そんなに清純じゃないかもしれませんよ? 普通に気になっちゃう事だっていーっぱいなんですよ? 例えば……あ! ねえ、エクセリカ! さっき良く見えなかったから教えてくれます? リッキさんの大きさ! ふふっ!」


どぼじでぞんなごどぎぐのー!?


「ん? 大きさ? ああ、ナニの――」


「だめぇえええ!! だめだってばぁあああ!! 俺の息子君のサイズは秘匿されるべき最重要情報――むごぉ!?」


 ぐごご!? エクセリカちゃんが片手で俺の口引っ掴んでメキメキしてくるぅ!?


「うるさいぞ、リッキ。ちょっと黙れ」


「そうですよリッキさん。恥ずかしいからって、女の子同士の話を邪魔しちゃいけないんですよ?」


 そんな理不尽な!


「それでなリッキのは皮みたいな――」


「ぷあっ! もういいの! ごはん食べにいくよ二人とも! ほら、ほらほらほら!」


 布団の中にあったパンツとズボン穿いて、俺は二人をリビングまで一生懸命引っ張るんだけど、二人とも何だかずっと『ふふっ。リッキさんかわいい』だとか『そこまで恥ずかしがる事ではないと思うが……』とか好き勝手な事ばっかり言ってくるよ……。

 はあ……。

 何だかシリアスになりきれない……。

 二人とも俺の性格把握しすぎじゃないか……?

 どうやったら俺が取り乱すかぜーんぶわかってるのかもしんない……。

 ――うむ、絶対わかっててやってる……。アルシラさんは舌をペロって出してるし、エクセリカちゃんは悪戯っぽく笑ってるし。

 ただこういうのって――。


「ありがとう、二人とも……」


 温かくなる……。

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