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まぞくといっしょ  作者: 黒梵天
第一章 白銀の鎧と悪魔の少女
19/36

そしておかえりリッキ 乗り越えろ――強くなれ。

「ぐおおおおお!?」


 なんだ!? 何が起こってんだ!?

 突然エクセリカちゃんの叫び声が聞こえて、おっさんの声が聞こえたと思ったら辺り一面光に包まれてる!?


「おはようリッキ。お前は本当に寝起きが悪いな」


 え? 何? エクセリカちゃん? どこにいんの!?


「お前の体だ、見てみろ」


 か、体……?

 えーっと……白銀の鎧着てて、白銀の籠手はめてて、白銀のグリーブ履いてて、あ、頭にもなんかフルフェイスの兜が……って。


「何これぇええええええ!?」


 エクセリカちゃんがいつも来てる白銀の鎧じゃねえかこれえええ!?


「リッキ、よくここまで頑張ったな」


 で、でえー!? 鎧から声がするー!?


「エクセリカ!」


 え? エクセリカちゃんなんてどこにもいないよ……?

 ……いや、アルシラさんの視線は俺の体白銀の鎧に向けられてるよな?

 ――あ、わかった、俺はエクセリカちゃんを着てるんだ……って。


「まじでぇええええ!?」


 こ、この鎧、エクセリカちゃんなの!? き、着れたの!? エクセリカちゃんって着れるの!?


「着れるさ。ああ一つ言う。お前の心の声は私に丸聞こえだからな? あんまり変な事を考えるなよ?」


 し、しどい!? プライバシーもあったもんじゃねえぞ!?

 だって心の中がお見通しって事はさっき俺がアルシラさんのおっぱいに顔挟まれて漏らしちまった事とか――心を、無にするんだ。


「……そうか。お前の股間から高純度の精を感じたのはそのせいか、変態め。他にはどんな事をやってきた? うん?」


 ぎゃわー!? 心を読まないでくれぇえええ!?

 無心になれ……今こそ水の心を会得する時――。


「お、お前! 私達の下着でそんな事をか……! しかも毎晩食器を舐めて……!?」


 ひぎぃいいいい!? バレたああああ!?

 俺には明鏡止水なんて無理でしたああ! 

 エクセリカちゃん! 違う! 誤解だよ! 仮に俺が変態だとしても――。


「うるさいばか! お前は変態だ!」


 そうですぅううう!! 紳士じゃないですごべんなざいいいい!!

 ――って、それは今はおいといて! お、おっさんどこいったの!?


「……左に避けろ、リッキ!」


 え? なん――。


「でぇえええええ!?」


 サイドステップ! 間一髪遠距離からの投石を回避!

 ……って誰だよ!? 俺に石投げたヤツ――。


「くっく……かわしたか。さすがデュラハンを装着しただけはある」


 俺達から大体10メートルぐらい離れたとこでお、おっさんピンピンしてるんすけど!? 爆発に巻き込まれたんじゃなかったんすか!?

 このおっさんマジでしつこいな……。


「詠唱阻害の魔石……。所詮はこの程度のシロモノか……くっく! 亜族が持つ魔融合の阻害は出来ないのか、ならば私も本気が出せる!」


 ……このおっさん、何か意味わかんない事言ってるんだけど、エクセリカちゃんは何言ってるのかわかる……?


「何となくな。あいつの体から亜族の魔力を微かに感じる……。もしかすると――」


「そうだ。私は体の中に魔族を飼ってる……。そしてこれが解放キーだ!」


 俺置いてきぼりなんですが、おっさんはズボンのポケットから鍵とりだして、変なポーズしてから自分の心臓……に……さ、刺した!?


「魔融合許可! リビングアーマー!! 装備装着!!」


 でぇー!?

 ちょっと大人がやったら恥ずかしいポーズ決めて胸に鍵刺して捻ったと思ったら、どす黒くてキラキラしたもんがおっさんの体包んで、そのキラキラしたんがおっさんの体にどんどん吸い込まれて――。


「なんぞそれー!?」


 おっさんの半径一メートルぐらいが、ば、爆発したんすけど!?


「装着完了……。くっく……さあ、行くぞデュラハン! ペテン小僧!」


 お、おいィ!? ここは剣と魔法のファンタジー世界じゃねえのかよ!?

 何でいきなり変身ヒーローモノになってんだよ!?

 何すかそのアメコミ系ダークヒーロみたいな鎧!?

 バッ○マン!? ス○ーン!? 俺あんたの格好どっかで見た事あんぞ!?

 だー!? ツッコミが間に合わない! どっからツッこめば良いんよ!?


「リッキ、心を乱すな。私にも影響する」


 え、ええ……? そ、そうなの……?

 俺の感情ってエクセリカちゃんの心に何か影響与えんの……?

 でも俺A○MSの隼○みたいなイケメンでもないし、水の心とか多分一生かかっても会得できないレベルの境地だと思うぞ……。

 それこそ一発抜いた後の賢者タイム――。


「会話とは……。くっくっ……随分な余裕だが……。遠慮なく行くぞ、ペテン小僧っ!」


「ぎえぴー!?」


 おっさが腰からレイピア引き抜いて襲ってくるゥ!?

 待ておっさん! そのレイピアどっから出した!? さっき鎧にぶち当たって折れたんすよね!? さっき俺が立ってたところに落ちてるレイピアって、それさっきあんたが俺刺そうとして折れたレイピアですよね!? あんたレイピア何本もってんの!?

 ……あ、鎧の付属品? 今なら送料無料のでお届けしてくる系のセット品……って。

 ――そんな事考えてる場合じゃない。


「ウーップス!?」


 顔逸らしてレイピア回避!

 当たったらどうすんだよ! 痛いじゃすまねぇんだ……ぞ?

 ……あれ?

 おっさんの攻撃が、普通に見える。

 しかも体がすげえ超反応したんだけど……?

 あれ? そういやぁこんな重たそうな鎧なのに、シャツ一枚でいるのと全然変わらないんだけど……?


「それは私と同化してるからだ。私の身体能力がそのままお前の身体能力に上乗せされるからな。普通は人間と亜族じゃ、どちらかが意識を失わない限り、お互いの魔力が干渉し合って装備がすぐに解除されるんだが――まあいい、来るぞ!」


「おおっと!?」


 また避けれる!

 すげえ! すげえよ! 俺今チート主人公じゃないっすか!?


「自惚れるな、誰が主人公だ。ほら、また来るぞ!」


「おっけー!」


 見える! 見えるぞ! 俺にも敵が見える!

 右! 右! 左! 右! 左! うっひゃー! すげえー!


「ちょこまかと……。ならば――」


 な――。


「うおっ!?」


 二本目のレイピア!? 何本持ってんのあんた!?


「ふっ……! ふっ!」


 左に回避してから――やべえ! しゃがみ回避!


「あ、危ね……」


 回避地点予測して二本目のレイピアか……。

 今まで手合わせした事ないタイプの攻撃だわ……。


「油断するなよリッキ。徐々にレイピアの速度が上がってる。あいつも私達と同じように魔融合した人間だって事を忘れるな」


 魔融合……? な、なんか俺の右手とか左手とか疼くんだけど……そりゃ一体なんだい?


「それは後でゆっくり――きばれ! 来る!」


「へあ!?」


 腕で顔を庇いながらバックステップ!

 くそう……さっきから避ける事しか出来てないぞ俺……。


「なら、こっちからも攻めるぞリッキ。私の腰に差してる鞭を抜け」


 腰……? ああ、これね? ほいよ……っと。

 あ、これは俺の事いっつもぶってくる、あの憎い鞭だね。

 ――捨ててしまっても構わんのだろう?


「……やってみろ。鎧の中でお前をぐちゃぐちゃにしてやる」


 今度はそっち方面の暴力ですか!? 鞭でいい! 鞭でぶってください!


「つまらん……。かのデュラハンを相手取っているというのにまるで心が燃えん……。手を抜いているのか……? くっく……! ならば!」


 ひあー!? きたー!? ねえこんな鞭でどうすんのさエクセリカちゃん!


「想え! お前の守りたいものを! そして信じろ、それはただの鞭なんかじゃない! お前と、私の武器だ! どんな形にでもなるんだぞ! 騎士の武器は槍じゃない! 剣でもない! ましてや盾でもない! 守る心! それこそが武器なんだ!」


 でえー!? そんな荒唐無稽なアドバイスされてもわかんねぇよお!?


「きゃあっ!?」


 おっさんがアルシラさんに向かって――狙いは俺じゃねえ! アルシラさんだ!


「くっく……お前が本気でないのなら好都合! その女を人質にして撤退するまでの話!」


 ちくしょう! ここで割り込んでも素手対レイピアじゃ結果が見えてんぞ!?

 想う、想うってなんだ、何を想えばいい!!

 俺が守りたいものって何だよ! 守りたい人なんて……。

 ――アルシラさん。

 ……アルシラさん? そうだアルシラさんだよ!

 俺の事を家に招いてくれた。

 個人として見てくれた。

 見捨てないでくれた。

 優しくしてくれた、抱きしめてくれた、微笑んでくれた! 褒めてくれた! 毎日美味しい料理を作ってくれた!

 理由なんて数え切れない程あるし、俺は最大限に感謝してる!

 だから、俺が守りたいもの、守りたい人は――。


「アルシラさぁあああん!!」


 アルシラさんに決まってんだろうがあああ!!

 守ってやりたい! 助けてやりたい!

 だけどこんな鞭じゃ守れない! こんな小さな鞭じゃ守れない!

 もっと大きくて! 頑丈で! 鋭くて! 重くて! どんな敵からも守れるような!

 どんな人でも守れるような! どんなヤツでも吹っ飛ばせるような!

 俺の守りたいって我が侭を貫き通せる、俺の最っ高の武器!

 ――大剣?

 ――ツーハンドアックス?

 ――ヘビーメイス?

 ――アンチマテリアルライフル?

 ――それとも男のロマンのドリル?

 ……違う! 俺の考える最高の武器は――。


「パイルバンカァアアアアア!!!」


 これだぁあああああ!!


「なんだ、その武器は――ぐぅううううっ!?」


 無視してダッシュ! 構えて、おっさんの腹目掛けて突進!

 おっさんの鎧に先っぽ命中! 押せ押せ押せ押せ!!

 相手が黒鉄の鎧なら、こっちは白銀の鎧だ!

 闇を貫く一条の光! まるで正義のヒーローかってんだ!

 だけど関係ねえ! 恥ずかしくもねえ!


「うおおおおおお!!!!」


 進め! 進め! 進め! あの氷室の壁に! 押しつけろ!


「ぐうう貴様! 何を!!」


 壁に……! 叩きつけてやる!


「すごい……! 大気中の魔素がどんどん武器に集まっていく! お前、一体何をしたんだ!?」


 わからない!

 でも俺は願ったんだ、言われた通りに強く想ったんだ!

 俺の心の声が聞こえるならわかるだろ、エクセリカちゃん!

 俺は今、守る事しか、考えてない!!


「わかる! わかるぞリッキ! お前の気持ちが私に伝わる! こんな気分は、生まれて初めてだぞ!」


 俺はアルシラさんを! 二人を! 可愛い女の子を!


「守りてえんだぁあああああ!!」


 氷室に到着! おっさんを壁に――叩きつける!


「がああ!! 知らん!! こんなバカげた力! 私はしらん! 貴様はなんだ! 貴様は一体、なんだというのだ! 魔物か! 人か! それとも神か! 何故魔族の肩をもつ! そいつらは人間の敵だ! 放っておけば付け上がり、害悪をまき散らす世界の敵ではないか! 殺せ! 魔族は皆殺しにしろ! お前は人間ではないのか!?」


 俺はただの半ヒキのニート。

 特別な力なんて何もない。

 運動もダメ、勉強もダメ、恋愛もダメ。

 ダメダメ尽くしの弱虫野郎だけど!


「知らねえよ! 関係ねえよ! 俺は人間だよ! でも、あんたは違う! あんたらは人間なんかじゃねえ! あんたらがやってる事は、あんたらが恐れ、嫌うもんと一緒だ!」


 足に力を込める! 腰を捻る! 薪割りも、体力づくりも、戦闘訓練も、全部この日の為にやってきたんだって思える! 全部が俺の力になってる! 

 ――その大切な思い出を、お前は簡単にぶっ壊しやがったな!?

 ……そんな事するやつぁ人間じゃねえ……お前ら人間じゃねえ!!


「貴様ぁあああああ!! 私を愚弄するかあああ!!」


「愚弄するさ! だってお前らがやってる事は! お前らの悪逆非道な行動ってのは全部! RPGに登場してくるような――」


 おっさんが身をよじってパイルバンカーを交わすけど、逃がすもんかい!!


「悪い『魔族と一緒』の行為だろうがああああ!!」


 おっさんの鎧にパイルバンカーを抉りこむ! 歪む! へこむ!


「わかるぞリッキ! お前の想いが流れ込んでくる! 私に力を与えてくれる! もうすぐだな! 次でトドメなんだな!!」


 応ッ! それじゃあ行くぜエクセリカちゃん!


「ああ! 行くぞリッキ!」


 今考えた俺の必殺コンボッ! 

 16連射――。


「「パイルゥウウッッ!! ガトリングゥウウ!! フルオートォオオッッ!!」」


 衝撃! 衝撃ッ! 衝撃ッ!! 衝撃ッッ!! 衝撃ッッッ!!

 高速で16回! 杭が連続でピストンして何度も何度も何度も何度もおっさんの鎧を叩いて――割れた! 今だ! ラスト一発!


「「うおおおッッッ!!!!」」


 最後は一回離れてからの――。


「「パイルゥ……チャァァアアジ!!」」


 全力突進ッ!!


「がああ! ぐっ! ごっ……ふっ……」


 最後には一本の杭がおっさんに刺さって――え?


「ぐ……。この……人殺し……め……が……」


 おっさんが、力尽きて……だらん……って……。


「すごいぞリッキ! って、お前……」


 エクセリカちゃんの声が……耳に入らない。

 それよりもおっさんの、言葉が、ひっかかる。

 ――人殺し……?

 ……何を言ってるんだ、人殺しはあんたらだろ……?

 あんたらは最低で、村を襲った指揮官で、人間の法律では、亜族に人権なんか無いし、正義は、この人にあって……?

 違う、俺に正義があった! お前は殺されて当然だ! 当然……。

 ――なんでだよ!


「違う! 違う違う違う!」


 考えがまとまらない!


「リッキ? どうした? 力がどんどん弱まってるぞ……?」


 正義……? 悪……?

 何だよ、その青臭い考えは!?

 違うだろ、俺は今、何やって……!?

 俺は、俺は……!?


「り、リッキ! やめろ! 変な事は考えるな! 気を確かに持て! 魔力がお前を飲み込んでるぞ! おい! リッキ!」


 頭ん中がごちゃごちゃする!

 俺は、人を殺し……違う、法律で裁けない人間に正当な裁きを下しただけだろ?

 ――そうじゃないだろ! 俺が裁いていいわけがないだろ!


「俺、ひ、人殺して……」


 仕方のない事、当然の結果だよな。

 だって人間どもは亜族の村を襲ったんだぞ?

 殺したって大丈夫。

 正当防衛だ。

 ――そんな事、思ってない! 思いたくない!


「ああ!! うあ……! うわあああああ!!」


 頭が痛い! 痛い!

 自分が自分じゃなくなる! 頭が、変になる!!


「リッキ! 気を確かにもて! ああくそ! 装着解除!」


 エクセリカちゃんが、俺から離れて、いつもの姿に――あぐっ!? 体が痛てぇ!!


「ぐぅうう!!」


 体からどんどん力が抜ける……もう、立って、られない……。


「俺は……人を、殺して……なんて事を、考えてたんだ……」


 何を考えていた?

 俺は何を……。


「は……ぐっ……」


 視界が霞む……。

 もう、だめ……。

 何も考え……られ……ない……。


「リッキ! おい! 大丈夫か! リッキ!」


「リッキさん! リッキさん!」


 二人の……声が……遠ざかって……。

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