さよならリッキ Side:エクセリカ
森の中を進む。
帰ったらすぐに飯にありつきたい。今日は疲れた。
「……」
村人の救出は無事に終わった。
リッキがアルシラを連れ出して先に逃げてくれたらしい。
おかげで迅速に村を奪取できたし、人間の兵士も一人残らず始末できた。
やりすぎだとアルシラに叱られるだろうか……。
いや、あの兵士どもは『威力』偵察だと言っていたからな。
村の位置の把握、可能であれば殲滅、そして鹵獲が仕事のはずだ。
まだ王国には、この村の位置が明らかになっていない可能性の方が高い。
なればこそ、一人残らず完膚なきまでに潰さなければならん。
「そうしなければ消火もままならなんだ……」
兵士を比較的早く潰せたお蔭で村の者への被害も最小限。
だからこそ消火活動も速やかに行われて集会場は完璧に無事だったし、他の民家もそれほど燃えずに済んだ。
しかしアルシラが捕虜になっていれば何もかもが後手になってただろう……。
ふふ、まったく……今回の英雄はあいつだな。
「……リッキ、か」
まだ人間自体は好きになれんが、リッキは別かもしれん。
軟弱だと思っていたが、なかなかどうして前向きに頑張る男だ。
私を師と仰ぎながら直向きに訓練する姿に、最近では不思議と、愛しさまで感じてきている始末だ……。
しかも呑み込みも早い――いや、早すぎるな、あれは。
いくら元が最低だったと言っても、半年もたたずに狩りに出られる人間など早々はいないんだが……。
あの青色オオカミ……。あれは人間だったら、数人が集まって倒す程の相手だというのに、あいつは動きを読み、避け、致命傷になる場所を的確に狙ったわけだ。
しかも、アルシラを守りつつだ。
「そうだったな……」
――そう、あいつは守ろうとしてくれたんだ。
亜族であるアルシラを、二度も。
「帰ったらリッキを褒めてやるか、何が――胸が大きければな……」
胸を見る――やはり小さい。
大きければ……って、何を考えてるんだ。ばかばかしい。
――さあ、もうすぐ愛しの我が家だ。
「……だというのに、その我が家が……燃えていないか?」
我が家の方向、その周囲数メートルが燃えている。
つまりこれは――。
「残党がいたか……」
駆ける。
「胸騒ぎがする……!」
ようやく木々燃え盛る場所にたどり着き、そこを抜ける。
「アルシラは、リッキは……」
視界が開ける。
あれは――リッキ!
「まずいぞ、あれは……!」
氷室の傍、リッキがアルシラを背に、男から刺突を受けようとしている。
間に合わない、今から割って入る事なんて出来ない。
だったら――。
「リッキィイイイ!! 間に合えぇ!! 強制!! 装着!!」
体を魔粒子化、融合対象リッキ。
距離10……5……0。
融合完了!
魔粒子化から鎧を最速で再構築。
形態情報読み込み――再構築完了。
急激な物理化による副次的エネルギー発生。
エネルギー収束後、発散予定。
「なんと……!」
飛びずさったか、正しい判断だ。
何せお前のレイピアは私の鎧によって完璧に折れたんだからな。
「なぜ鎧が!?」
そうだ、私はリッキの鎧になったのだ。
比喩ではない、正しく私は鎧になったのだ。
久しぶりの感覚に体が熱くなる……!
――ああ、やはり私は鎧なのだ!
熱き血潮流れる一個の命でありながら、愛しき者の命を守る、唯一無二の白銀の鎧が私なのだ! 私はエクセリカ! デュラハンの末裔にしてアルシラの鎧!
そして今はこの男の――リッキの鎧だ!
「まさか……魔融合か!?」
そう、これは魔融合。
体が半分魔力で出来ている亜族が持つ、たった一つの人間との差異。
私の魔融合の属性は『装着』だ。
体を魔粒子化して、光よりも早く主の元にたどり着き、どんな攻撃からも主を守る鎧となる力。
だから間に合った、だから助けられる!
「うああああああ!!!!」
エネルギー発散準備完了
発散方法――空間発破。
「ぐぬ……これは、まずい!」
近付く男。
事が終わる前にリッキを討とうというのだな? しかし愚かだ、そのまま飛びずさっていればよかったものを!
なぜなら――。
「くっ!? 遅かったか!?」
そうだ、遅い!
「おおおおおお!!」
魔粒子から急激に鎧になった際に生まれる副次的エネルギー。
そんなモノを発散するだけの行為に詠唱もへったくれもない!
人が無意識に瞬きする百分の一の時間には既にすべての準備が整う最速の魔法――。
「爆ぜろぉおおお!!」
それが副次的エネルギーを収束させ、発散した際に生じる空間発破だ!
「ぐおおおおお!?」
空間が爆ぜる、男が光に飲み込まれる。
あれを受け無事な人間などいないはずだ。
――間に合った。
お前はアルシラを守ってくれた……。
だったら今度は私がお前を――リッキを守ってる!




