動き出す物語02 説得ダイスほぼ全部クリティカル
森を抜けて、開けたところに出た。多分ここは広場かな……?
んで正面奥にある、あの大きいロッジハウスみたいな建物が集会場かな……?
「……っ」
うええ……まわりにいっぱい兵士いる……大丈夫かな……。
大丈夫、俺は人間の兵士の姿してんだし。そしらぬ顔で集会場の入り口まで歩いて――うへえ!? 何か皮鎧の厳つい顔したヤツがこっちに駆けてくるゥ!?
「おい! 止まれ!」
「は、はひ!?」
ぶえー!? やべえ呼び止められちまった!? 詰んだ! 俺のミッション詰んだ!
――すぐ詰んだとか言うなばか! 絶対何とかなる! 何とかできる!
「お前、見慣れない顔だな? どこの隊だ? 所属を言ってみろ」
隊? 所属? いや、知らないよそんなの……。
そういうのって腕章とか鎧とかにくっついて……なくってラッキーだったな。
そんな識別できるもんくっついてたら一発アウトだろ……。
あーでも、どうすりゃいいかな……。
どう言えば中に入れんだ……。
考えろ……考えろ――
「お、オラ、まだ入ったばっかなんだす! の、農民上がりで頭も悪くって……え、えーっと、ど、どこの隊だったか覚えてねっす……すいやせん……」
こ、これで何とかなるかな……ダメかな……ダメだったら終わるな……。
でも会話であんま長考してたらすげえ怪しいじゃん、頼む、通れ!
「……新兵はいなかった気がするが……まあ、いい、それでなんの用だ? 他の兵は残党狩りに向かったはずだぞ?」
通った、通った!
次、次はどうする……中に入るためには……。
「あ、えっと……あの建物の中のお偉い方に秘密の伝言さありましてですね……」
「はあ……? 新兵がどうしてそんな大役を?」
あひぃ!?
ちょ、ちょっと考えてなかったわそれ!?
そうだよな、そうだよ……新兵って設定なんだからそんな大役を任されるわけねーじゃん! ばかか俺は! 安心して適当な事言ってんじゃねえよ!
あーくそ!
でも言い訳は得意だろ! ずーっと言い訳し続けて生きてきたじゃん!
今こそそれを役立てる時だろ! 考えろよ! 嘘をつけ! 騙せ!
「そ、それが、魔族を追った隊が半壊ばして……オラ、怖くて逃げ回っててなんとか生き延びて……それでこうやって帰ってきたんだす」
掛け値なしの言い訳ぶっぱ。
ガードされたら確反とられて即KO。
いや、即KOは言い過ぎか、でも6割コンボ食らうな……。
頼む! お願い! ぶっぱ!
「何!? それは本当か!?」
入ったぁあああああああ!!
「へい……。な、なんだか奇妙な魔法ば使って――あ、は、早く伝えねと! こんな悠長にしてる暇はないとです!」
捕まってぇ! 広場端ぃ! 返事を読んでぇ! まだ入るゥ!
「わ、わかった! 早く中に行け! 急げ!」
ハギワラが決めたァアアアアアッッッ!!!
「へ、へい!」
ッアアアアアァァァァ……。
はぁ……。
そもそも俺は亜人じゃないからな、疑いもそれほど深くならないしな……。
初めから捲し立てるように言えばすぐに騙せたかも……。
しかも方言滅茶苦茶だったぞ……よく通ったなこれで……。
まあいいや、結果オーライ!
堂々と歩いて、集会場の階段足をかけて……中に入ってっと……。
うわ、亜族の人達みんな後ろ手に縛られて、猿ぐつわまでされて、壁を背に座らされてるんだけ――だあああ!? おい! ふざけんなよ、何やってんだてめぇらぁ! その人に触るんじゃねぇえ! ぶち殺すぞ!
「魔族の女も、なかなかいいじゃないか。見ろ、この乳房を。かなりそそるじゃねえか」
集会場の中は結構広くて、床にいっぱいテーブルだとか座布団だとかあって――いや、そんなのはどうだっていいよ! 問題は奥の方でアルシラさんが、二人の男に裸にひん剥かれて体中まさぐられてるって事だよ!! おい、触んな! 触んなよマジで!
中々そそるだと? ああ、そそるよな、わかるよ。
でもそれはてめぇなんかが触れていいシロモノじゃねえんだよ!
「はは、魔族といえども女か……。そういえばこいつの股ぐらはどうなってるんだろうな?」
だぁああくそ! その可愛いお尻にも触れんじゃねぇええ!!
おいィ……その汚い手をどけろと言っているサル!
マジで親のダイヤの結婚指輪のネックレスを指にはめてぶん殴るぞ――そんなものもってないけどさあ!! 手を切り落としてくれようか、この……!
「くっく、魔族のそれは男をたらしこむいやらしい蜜穴だと聞く。しかし中に挿れるのだけはやめておけ。何か病気もあるかもしれんぞ」
病気なんかあるわけねえええだろおおおお!!
アルシラさんはねぇ! 処女なんだよ! 確認してねぇけど処女なんだよ!
てめぇらクソリア充共のヤリチンとは違うだよバカやろう!
「「了解であります!」」
何が『了解であります!』だ! Fuck you ぶちころすぞゴミめら!!
あああああ!! くっそがー!!
村人みんな猿ぐつわされて大声出せねえけど、みんな俯いて肩震わせてんぞ! 全員ブチギレ寸前だぞてめら!
ちくしょう! 俺にチート能力でもありゃ、お前らぜってーぶち殺す! 今すぐにだ!
「んぐっ……んっ……んんっ……」
あーあー……アルシラさん裸にひん剥かれてベタベタベタベタ触られてすげえ可哀想だよ……! しかもおっぱいとか形変わるまで思いっきり握りつぶされてんじゃねえか……!
いっつも優しく微笑んでくれる、笑顔を絶やさないアルシラさんが、あんなに涙ボロボロながして泣いてる……。
……おい、てめえら……女の子には優しくしなさいって先生にならわなかったのかよ!!
もう一度小学校からやりなおしてこいよ!
「――ん、なんだ貴様は? どこから入ってきた」
口髭生やした偉そうなおっさん……鎧が金属でちょっとゴージャスだし、こいつが指揮官か何かか……?
ちょ、ちょいまて……頭に血が上って冷静な判断ができねえ……。
落ちつけよ俺……落ち着け……。
よし……。
「へ、へい! 自分は交渉兵のリッキーと言います!」
「ほう……?」
うっわー……すっげー怪訝そうな顔してんよ……。上の立場の人間ってのはだいたい人を疑って生きてきたようなやつばっかりだし……ちょっとばかり骨が折れそうだぞ……。
「そ、その魔族の女! それは他の魔族をおびき寄せる材料になりそうです! 人質交渉技術向上の実験の為、自分は派遣された者であります! もしもの時があったときは、自分に人実交渉任せるといった話、それはお聞きになられていますでしょうか!」
とにかくアルシラさんからこいつらを引き離さねえと……!
あ……ダメだ、あんま冷静になれてねえ! ぐぬぬ!
「……いや、知らんな。そういった命令もされていない。魔族の村の鎮圧と魔族鹵獲。それ以上は聞いていない。それに……この女に交渉価値があるとは思えんな。何せたかがひ弱な魔族の小娘一匹だ。詰まらんことを言っていないで持ち場に戻ったらどうだ? 上官の前で堂々とサボろうと言う心算なら、その見上げた根性に免じて今回だけは罰を免じてやる」
うごご……。
しっかりガードされるよ……。
投げ技入れてみるか?
ジャンプ、バックステップ、以外ならかわせまいよ!
それで、どう言う……? どう言えばいい……?
アルシラさんがどれだけ交渉価値が高いか……真実を漏らさずに伝えて、交渉しなきゃいけないような状況を作る嘘……。
村人とアルシラさんとの違い……。
肌は青っぽいのは同じ、服も普通だし――羽が生えてない!?
アルシラさんには左右に黒い翼があるけど、他の人には生えてないのか!
それなら――。
「では、いち交渉兵である自分が、恐れながら進言します! 自分の所属する部隊は、魔族の者たった一人に半壊させられました! 白銀の鎧をまとった恐ろしい女――デュラハンと思われます! それが大群を引き連れてもうすぐ戻ってきます! ここの残存勢力で迎撃は至難だと思われます! 見たところ、村の者の視線は彼女に集中しています! きっと立場が高いものでしょう! 翼もありますし、他の魔族と差異も見受けられます! ですから人質として十分役立つはずです! 交渉を任せていただければ、最低限の被害で勝利を収められる事も予想されます! ご決断を!」
捲し立てと真実を織り交ぜた絶妙な嘘だ。
真実で接敵、虚飾で誘発、捲し立てで説得
三つそろえば――もはや逃れられんぞ。
「くっくっ……! なんとも馬鹿らしい、随分と穴だらけの進言だ。世迷言だな。魔族の眷属か? キナ臭いぞ、貴様は」
ひ、ひぃ!?
ダメくさい! 信ぴょう性が足りない! 説得技能が足りない!
逃れられないのは俺だったァ!?
「敵襲ー! 白銀の鎧をまとった者が率いる魔族の群れが、こちらを目指して進軍中! 繰り返す! 敵襲ー! 敵襲ー!」
キター!
タイムアップキター!
わずかなHPゲージの差で俺が勝ったぁー!
――怖かった……。危なかった……。
「ほう……。くっくっ……まあお前を信じてみるか、所詮勝ち戦だ。よし、サム、ウィル、私が隊を率いて迎撃と誘導を行う。お前らは離れている隊を率いて挟撃しろ。くっく……お楽しみはまだまだおあずけのようだな」
「あーくそ! まだこの女の股ぐらを確認してねえってのによお!」
うるせぇよばか! 早くいけチ○カス!
「せめて胸で一発……いやいや睨まんで下さいよ大将。了解であります!」
ああん!? その気持ちよさそうなマシュマロおっぱいで一発なんだってぇ!? お前ほんっと全殺すからな! 半殺しなんて生易しいわ! 覚えとけよマジで!
「んぐぅっ!?」
おいィ……。
このおっぱい野郎……今女の子投げて蹴り飛ばしたろおめぇ……。
ようやく解放されてアルシラさんがどっさりと床に崩れ落ちたそこに、あまつさえ蹴りを入れたな小僧……。ああ! こいつらほんっと女の扱い最低だな! もげればいいのに! というか切り落としてやろうか!?
「ご苦労、では貴様はここに残って他の兵と共に見張りを続けろ。……武器は、手斧か。悪くないが剣はどうした? 武器を無くすなど兵士の恥だ――まあいい説教は後だ、おいサム、お前剣を二本もっていたな、渡してやれ」
ほう……。
この、金髪の逆毛はのおっぱい野郎はサムか……。覚えたぞ、お前の顔は覚えた……。
絶対殺す、殺す、殺す、殺す。
良くて全殺し、悪くて全殺しだ……。
「本気で言っているので……? ああいや……了解であります。ほらトークマン、これを使え。よかったな、大将が優しくって。お前もあとで混ざれ、この女の胸はもらうが、下を試してみろよ。そんで大丈夫だったら――」
ああん!? 誰の許可もらってアルシラさんのおっぱい使うとかほざいてんだてめぇは! おめぇになんてなんもやんねーよ! アルシラさんは全部俺のもんだ!
――俺のもんじゃないんですけどね。
アルシラさんがは、別に俺の彼女でも、好かれてるわけでもないんだよね……。
でもお前よりは絶対好かれてるから! それは間違いねぇから!
おめぇの席ねぇから!!
あと絶対全殺しな!
「へへ、た、楽しみにしてるぜ、ぶ、ブラザー……」
肩がガクガク震える。
怒りで頭が真っ白になりそうだ。
だけど演技するさ……ここでバレたら終わりだもの。
「サム! もたもたするな!」
「りょ、了解であります!」
「じゃあなトークマン! うまくやれ!」
おう、うまくやるさ。はやく出てけおっぱい野郎。自分の指でもしゃぶってろ。
「さってと……」
うっし、あいつら出てったけど、30分ぐらいはじっとしてよう……。
アイン、ツヴァイ、ドライ……。
――はい無理!
ほら……アルシラさん泣いてるだろうが……。
とりあえず掛けるものはっと……ああ、マントめっけ。
よし、ほらアルシラさん……あんまり温かくないかもだけど――
「んんーっ!?」
マント掛けようとしたらすっごい過剰反応して後ずさってしまったぞ……。
よっぽど怖かったんだろうなあ……。あいつら絶対に許さないわ……。
「シー……。大丈夫、俺だよアルシラさん」
お、俺だってわかったら落ち着いてくれ――や、逆にちょっとびっくりしてるね。
「待ってね……。今、この縄切ってあげるから……」
他の兵士は……っと、見てないな、よし。
アルシラさんの後ろに回って……後ろ手に縛られた縄を剣で……っと。
「これからしばらく俺、アルシラさんの事抱っこするけど……暴れないでね? 30分ぐらい経ったら、すぐに逃げ出すから……」
アルシラさんはコクンと頷いてじっとしててくれる。
さて……剣をアルシラさんの喉元近くにもってきて……っと。
うう……心が痛むなあ……これ……。
「ごめんね……。絶対傷つけないから……我慢してて……」
アルシラさんはまたゆっくり頷いてくれる。
あーでも……俺、人間だからちょっと怖いんじゃね……?
「アルシラさん……。俺は悪い人間じゃないよ……本当だよ……」
ん、アルシラさんがコクコクしてる。
わかってくれてるんだ……嬉しいな。
ちょっと手を、きゅっと優しく握って置こう……。
「わかる? 俺、すげぇ緊張してる……。失敗したら……俺もアルシラさんも、死ぬかもしれない……。でも、絶対助けるから……安心して……俺、頑張るから」
お、アルシラさんの呼吸がやわらかくなった。
安心して、俺に体を預けてくれてる。
温かいな……。
亜族だってこんなに温かいんだぞ……お前らと同じ血が流れてんだぞ、人間。
てめえらの血は何色だよ……俺と同じ色だとは思いたくないわ。
「んっ……んぅ……」
アルシラさんがちょっとほっぺ真っ赤にしてる。
ああ、そっか、下着も何もつけないんだもんね。
ダイレクトに俺の体温とか体の振動とかが下腹部に当たっちゃうのね……。
――つっても俺全っ然興奮しないんだけど。
ああ……こんな状況じゃなけりゃ最高だったのに……。
緊張しちゃって勃つモンも勃たねえよ……。
つーか……長げぇな30分ってよ……。
汗がだらだら出てくる……。
そろそろ経ったか……?
多分、もう大丈夫だろう……。
うっし、アルシラさんを立たせて……っと。
「あの! 俺、いつでも人質が出せるように、こいつひっ捕まえて待機しときます!」
暇そうに手遊びしてる兵士に向かって叫んでみたけど……通るか? この言い訳。
「あーあー……こういう時どうすんだ?」
やるきねーなこいつ……他人任せで別の兵士に聞いてんよ……。
「知るか。つか、そんな事言ってどうせ楽しんでくるんだろ? まったくよお……避妊ぐらいはしろよ? 魔族と人間でも子供は出来るらしいからな。半亜のガキなんて聞くだけ恐ろしいぜ――あ、それじゃあよ、俺たちは俺たちで魔族の女、やっちまおうぜ?」
「いいね! 楽しむのは大将達ばっかだもんな! まさに鬼の居ぬ間のなんとやらだ!」
うっし……行けそうだな……。
こいつらマジで無能な……。
いや、勝ちムードで気が緩んでんのか……?
ちょっと他の女の人に悪いけど、アルシラさんを助ける為だし、我慢してくれ、すまん……。
「それでは行ってきます!」
「おーおーいってこいいってこい――で、どの女にするよ? 妊娠しても後腐れねえように、反抗してきたって事でぶち殺しゃあいいとしてよ、せいぜい一人だろ?」
「俺ぁあの女の子がいいね! やっぱ初モノに限る!」
「この処女趣味が!」
「うるせえ熟女趣味が!」
うるせえのはお前らだよ……。
――っと、なんとか出口まで来たけど……。
おっし、さっきの見張りの兵士もいねえな。
このままアルシラさんの家まで行くか? それともエクセリカちゃん達と合流するか?
「アルシラさん、森まで行くからね」
アルシラさんの手を引いて森の入って……。
――うっし、とりあえず森の中に入った、広場にいるよりは多分マシだと思いたい。
こっからどこを目指して行くか、それが問題なんだけど……。
どうすっかな……。




