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まぞくといっしょ  作者: 黒梵天
第一章 白銀の鎧と悪魔の少女
14/36

動き出す物語01 白い狼煙は日常の終わりを告げて

 父さん、母さん、お元気ですか?

 俺がエリシェアに来てから、もう半年経ちます。

 最近はこっちで飼っているニワトリの卵から、ヒナが孵ったわけで。

 俺はそいつにヒヨ子って名前をつけたわけで。

 そうだ、最近腹筋が割れてきました。

 これもひとえに毎日やってる筋トレのお蔭なんだなって思うわけで。

 あっちじゃ食って寝てゲームするう○こ製造機で、一日三回ぐらいオ○ニーしてた俺も、最近じゃ忙しくって、寝る前にたった一回あるかないかって感じなわけで。

 しかも二人のパンツでヌくのが日課になってきたわけで。

 刺激不足だったので、試しに二人が使ってたフォークでアナニーを試したら痔になったわけで。

 辛い事もあるけれど、俺は元気です。

 律樹。


 ……はい、そんなわけで俺はこの異世界にやってきてからそろそろ半年ぐらいに……ってなんだよこの手紙は! こんなもん親に送れるかってばよ!

 こんなもん丸めてポイだよ! ポイ! ってああああダメダメ! 画用紙は高級品なのよ!? 何度もパンで消して使わないともったいねえのよ!?

 ――さて。

 まあ、そんなわけで俺がこの世界にやってきてそろそろ半年になるんかなー。

 なんでカレンダーがないんかね? 作っちゃいけない法律でもあんの? 不便で仕方がないよ。誕生日なんか春、夏、秋、冬がきたらその季節ごとに気分でやっちゃうらしいしさ! 大ざっぱすぎだろ! まったく仕方ねえ世界だよ!

 だから、本当にしかたないから、もらった画用紙に線引いて、とうとう自分で作ってしまいました! カレンダー。

 ――そんなわけでこっちに来てから数えてだーいたい半年です。

 本当は結構ズレてるんだろうけど、目安があるだけ全然マシだよ。

 最近なんて感覚的に時間わかっちゃうし、今がなんの季節なのかってのも肌で感じられるようになっちまったから、ちょっとそういうものが無いと不安になるのよね。

 高水準な文明から離れてだいぶ長いんだもの。そういう安心が欲しくなるんですよ。

 だいぶこの世界に馴染んできちゃったけどさ、最近じゃここに来た時に着てたパーカー以外の布の服も着てるしね……。今灰色のパーカー着てるけど。

 ――あ、そうそう、それで俺が画用紙に書いてた手紙文章なんだけど、この世界って大陸自体に言語魔法みたいのが掛かってて、言葉は亜族も、獣人も、天人も、人間もみーんな共通語ってのに変換されてるのを最近知ったんすよ。

 さっすがご都合主義のファンタジー! なんでもありって素晴らしいね!

 ――俺には出来ない事の方が多いけどね……。 

 ……ってなわけでせっかくなので俺は、この世界の事をもっとよく知る為に本を読もうと思ったわけなんですよ。

 だって俺ってばもう、魔物を倒したりなんてのをエクセリカちゃんと一緒に当たり前にやれるほど――つってもまだまだ変なイノシシに苦戦中だけどね――強くなってきたわけだからのう。

 魔法の訓練は結局諦めちゃったし、戦闘訓練だけになってくるとちょいとばかり時間が余るのよね、ほんとに。

 んで昼間の時間って、戦闘訓練のない日は、エクセリカちゃんは魔物の討伐だし、アルシラさんはちょくちょく集会場で書類整理やら他の村に送る手紙だかを書いてんの。

 最近は家事もスムーズに終わっちゃうし、流れ作業でお昼にはもう薪割りから何から全部終わっちゃって、あとは剣の素振りぐらいしかほんっとやることねーの。

 だからね、俺はアルシラさんのお父さんの部屋にある本に興味もっちゃうなんて当然の理ってやつですよ。

 ――読めませんでした。

 ご都合主義って何? 魔法って何……? どうして読めないんですか、文字……。

 もう分厚い本全部にびっしりと書かれている文字らしき何か。

 象形文字? ルーン文字? アラビア? 何語? 全然わかんねえ。

 ……ああQRコードそっくりだわ。

 携帯でパシャって撮ってURL読み込むあれ。

 でだね、そのQRコードを肉眼で読み取れるほど俺は高性能じゃなかったわけで……。

 だからもう恥を忍んでアルシラさんとエクセリカちゃんに文字を教えてもらいながら毎日ちょっとずつ覚えて、ようやく辞書片手にあんな手紙文章を書けるレベルにまで上達したんすよ。

 あ、ちなみにアナニーとかヌくって文字は辞典から調べた。

 やっぱ辞書の卑猥な単語をチェックするのは鉄板ですな。他にも『蜜壺』『土手』『比丘』『赤貝』なんて単語がある所にちぎった紙挟んでます。

 ――何やってんだろう、俺。……変態なのかな、変態だったね。

 あとアナニーなんて固有名詞はない。これは――ま、いっか。

 さてさて、そろそろ日課も終えた事だし、素振りの稽古にでも戻ろうかな? まだお昼には早いし。


「……と、なんだあれ」

 

 窓の外をチラッと見たわけなんだけど、何かいつもと違う感じの光景が目に入ってきた。

 ここから森を抜けた先。

 たしかあそこには集会場があるって聞かされてる所。

 そこの上の空が、いつも見ていた光景となんだかちょっと違う。


「煙……?」


 なんかモクモク煙が出てんだけど、異常なほど真っ白い煙が。


「火事……? いやでも、それにしては変じゃね……?」


 普通火事ったら色んなもんが燃えるから真っ黒い煙が出んだろ? そうじゃなくても灰がかった色にならないか? じゃあ意図的にあんな真っ白い煙を出してるって事?

 煙つったら合図だとかの狼煙を想像するわけだけど、なんの合図?

 そもそも亜人て人間から迫害されてんでしょ? あんなに大量の煙だしちゃ人間に場所をしらせるようなもんだし、やばく……ねえ……かって……それは、まさか、そんな……はずは……ないと……。


「――アルシラさん!」


 それってつまり! 人間がやってきた事か!?

 そういう事か!?

 マジかよ! クソ! アルシラさん大丈夫かなぁ!?

 あー、武器は!? 何か武器はないのか!? 


「あー嘘ぉ!? こんな時に限って剣の手入れ忘れてたよクソー!」


 そうそうこれこれってな感じで、俺がいつも枕元に置いてある剣に手を掛けて、鞘から剣を抜いたんだけど――刃が最悪な感じにボロボロになってまんた。

 そうだったね……昨日の実戦訓練で剣がちょっと刃こぼれしちゃって使い物にならなくなっちまってたんだっけ……。

 仕方ねえ! いっつも薪割りで使ってる手斧でいい!


「ええっと……あったあった!」


 家の裏手の切り株にいつもぶっ刺して置いといてるからね。

 見つかるのも早いっす!

 刃こぼれなし! 柄も痛んでない! ってか手斧なんて鈍器みたいなもんっすよ! そんなに刃こぼれなんて気にしなくても大丈夫!


「うらーっ!」


 うっし、手斧振り上げて全力疾走だ!

 ……ええっと、集会場はあっちであってんだよね?

 アルシラさんに『ここですよー』って聞かされてはいたけど、結局一度も集会場に行ったことねえんだよな……。

 だってほら、地雷扱いされたらイヤだし。

 ――モン○ンじゃねえんだっつーの! それにあれは集会所!


「ふっ……ふっ……」


 森の中に入って、木々をかき分け駆ける駆ける!

 アルシラさんの魔法は強いから大丈夫だとは思いたいけど……。

 ってか、俺が行っても足手まといかなあ……?

 結構強くなったとは思うけど、まだまだエクセリカちゃんには片手で負けるし、イノシシには苦戦してるし、クマもようやくエクセリカちゃんのサポート付きで倒せるぐらいだし……。

 人間の兵士は強いよなあ……。

 パターンを作り、思考を読み、日々俺なんかよりずっと鍛えてた体で戦いに赴いてるわけでしょ……?

 勢いで出てきちまったけど……やっぱり怖いなあ……戦いたくないなあ……。


「はっ……はっ……」


 ――さて、どんくらい走ったんだろう。

 最近じゃ大幅に体力もついたし、足も結構速くなってるから、何メートル走ったのかなんていちいち考えなくなっちまったけど、集会場からアルシラさんの家まで結構遠いんだよな。

 この村の有権者の家なんだから、集会場に行くことも多いんだし、もっと近くに住めばいいのにって思ってたけど、有権者だからこそ遠く、そんで人目に付かないところに家を建てたのかも。

 ――でもちょっと遠すぎだと思う。

 間違いなく3キロメートルはあるよこれ。


「――ん?」


 木の陰に腰かけてる人がいる……肌の色からして――


「まじかよ!?」


 亜族の人が沢山倒れてる!?

 ……って、それに人間もいっぱい倒れてるぞ!?


「う、うう……」

 

 でも戦ってるような音や声は聞こえないし、きっと戦いは一段落したって事かな……?

 俺、こんな大変な時にずっと家であんな変な手紙書いてたのかよ……。


「バカが……」


 間違いない……人間が攻め込んで――って、今はそんな事考えてる場合じゃねえや、あの木に腰かけてる亜族のおじちゃん、大丈夫かな!?


「あ、あの! 大丈夫――」


「き、貴様! 人間!」


 うお!? 動けないながらにすごい形相で睨んできたんすけど!?

 あー……そうだよな、これが普通の反応なんだっけね……。

 こういった反応が怖くて集会場にはきたくなかったんだけど――まあそれはいいや、早く手当してやんねーと!


「大丈夫っす! 俺、悪い人間じゃないっす! 今、手当しますから!」


 うげえ……足に矢が刺さってる……。それに腕もこんなに深々と切れて……見ないようにしよう……見ないように……。

 ――ばかやろう! 見なきゃ治療できねえじゃねえか! 日和んな! 助けろ!


「んぎぎ……!」


 パーカーを脱いで、シャツの裾を口に咥えて――あーダメだくそ! 現代装備のシャツじゃ歯で食いちぎれねえよ!

 ……って、お前の手にもってんのはなんだよ! 斧だろ! 刃物だろ! 使おうよ!?


「んっ!」


 シャツに切れ込みを入れて……うっし! 破けた! あとは包帯ぐらいの長さになるまでビリビリ破いて……っと。


「あの、おじちゃん。今、この布で腕を止血しますから、動かないでくださいね?」


 言うとおじちゃんは驚いた顔をした。

 ……う、うん、まあそりゃそうだよね。

 普通亜人の認識ってのは人間は敵だし、命を奪ってくる存在なんだからね……。


「じっとしていてくださいね……」

 

 昔テレビで見た方法で止血して……っと、よし、出来た!


「おじちゃん、あとはこの布の上からぎゅうぎゅう押しといて下さいね」


 そう言ったらおじちゃんは俺の指示ちゃんと従ってくれた。


「貴様は……なんで私を助けるんだ……」


 止血が終わったら、おじちゃんがすげえ不思議そうな顔で俺に訪ねてきたけど……そんな事聞かれたって理由なんかないっすよ。


「怪我した人を見たら助ける。そんなの当たり前の事っす!」


 亜族だとか人間だとか獣人だろうが俺にゃ関係ないよ。

 ただ人間は……ちょっと今回は助けるつもりはない。

 俺はこの村を襲ってきたお前らに、今すげえ腹が立ってんだから!


「そうか……。もしやアルシラ様が言っていた男は君か? それじゃあ君は話通りに悪いヤツじゃないみたいだね……。だったら、逃げてくれ……。村の者は君が人間を引き寄せたのだと言っている……逃げおおせた者も何人かいるのだ、見つかったらただじゃすまないよ……」


 おじちゃんが力なく木に寄りかかって、俺に大切な事を教えてくれた。

 ……ああ、最悪のパターンだよこれ……。

 逃げ出したいよ、チビりそうだよ……。


「うー……」


 でも、どこに逃げんの? 人間と合流して連れてってもらうとか?

 亜族んとこで生活してた俺を簡単に連れて行ってくれるかね?

 どうせスパイだなんだつって拷問にかけたりすんだろ?

 話に聞限り大多数の人間って最低な生き物だぞ?

 だけどそんな事より何より――


「うう……。でも、でもこの先に、人間がきてるんですよね? あの煙は、人間の狼煙か何かなんじゃないんですか……? それにアルシラさんは? どこかで今でも戦ってるんですかね……?」


 アルシラさんが一番心配だよ。


「ああ……。奮闘したんだが、アルシラ様の魔法を邪魔できる人間までいたんだ……。人間なんかには到底不可能であると思っていたんだが……甘く見過ぎていたよ。今では村の者共々捕虜になってしまっている……。だから、私は何人かと戦いから抜け出し、魔物の討伐に向かったエクセリカ様達にこの事を伝えるための狼煙を上げる事に成功させたんだ。しかし……補足の知らせを伝える為に向かっている最中、膝に矢を受けて……!」

 

 おじちゃんが悔しそうに涙浮かべてる……。


「……」


 男が泣くのは、本当に悔しい時だ……すっげぇ悔しいんだろうな……。

 それに、くそ……! やっぱりアルシラさんも捕まってんのか!

 狼煙は人間のもんじゃなくて少し安心――できねえな、結構切羽詰ってるぞこれ……。

 伝令役のおじちゃんは怪我してるし……。

 どうしよう、俺がこの事を伝えにいくか!?


「お、俺が、伝えにいきましょうか!?」


 言ってみたけど、おじちゃんは小さく首振って――どうしてっすか!?


「知らせに向かった者は私だけではないんだ、ほら、あそこにもう一つ狼煙が見えるだろう……? きっとすぐに戻ってくるはずだ……。エクセリカ様達がやってくるまでに、アルシラ様が無事だといいのだが……いや、それはこっちで何とかしよう、君は逃げた方がいい。村の者に見つかれば君は殺されてしまうよ、本当に」


 おじちゃんの指さす方向の空に、真っ白な狼煙が上がってた。……そっか、じゃあエクセリカちゃんがもうすぐ戻ってくるんだ。

 じゃあ俺はどうすりゃいい……? 俺には何ができるんだ?

 アルシラさんは魔法が使えなくて手も足も出なくて、村の人も捕虜になってる……。

 戦いも1対1なら少しは勝機もあるかもしれないけど、多勢に無勢。

 ……そんな『詰み』たいな状態で俺にできる事は何だ?

 ――本当に逃げてしまおうか。

 ……人間にも、魔族にも見つからないようにしてどこか遠くに逃げる。

 この選択し、許されないかな……いや、許されるよね……。

 だって誰が見たって俺はそれほど強くないんだから。

 剣を振り回して野生動物殺せたって、魔物化したクマは俺一人じゃ殺せないし、エクセリカちゃんには一度も勝った事ない……。

 それにエクセリカちゃんが戻ってくるなら……大丈夫じゃないか?

 俺なんかいたってクソの役にも立たないだろ?

 だから逃げたって、俺には別に後ろ暗い事なんて何もない、何もないよ。

 誰だってそうするはずだよ。命は大事だよ。見っともなくったって、生きていた方がいいにきまってる……。

 俺はニートだし、半ヒキコモリだし、魔法も全然使えない、普通よりもちょっと強いだけの、人間……そう、人間なんだ。

 だから俺は――


「君、何を?」


 出来る事を、出来る範囲でやればいいんだな、人間だもの。律樹。

 ははっ、おじちゃんが困惑顔浮かべちゃってるなあ……。

 だけどね、俺に出来る事つったらこんな事ぐらいしか思いつかないよ。


「うん……しょっと」


 ……パーカーを着なおして、人間の死体から皮の鎧剥ぎ取って……うう、人間の死体とか見るのじいちゃんの葬式以来だわ……しかもこの人首からどっぷり血が――よそう、考えるな。今はそんな事言ってる場合じゃない。


「うっし……」


 よし、人間の兵士が着ていた皮の鎧を着て……準備オーケー!


「君……。そんな恰好していたらもっと危ないじゃないか! 村の者に見つかったら戦闘は避けられなくなってしまうよ!」


 そうっすね……。

 こんな状況で亜族の人に、こんな人間の皮鎧着てる俺の姿を見られたら――くっせェ!


「う、ぐ……」


 鎧から変な臭いがする……何日洗ってねーんだよこの皮鎧、くさすぎだろ!

 バカな兵士め……自分の命を守ってくれる道具は大事にしろよ!

 ――俺も剣を研ぎ忘れてたから人の事言えないや……。


「悪い事は言わない、今すぐにでもそれを――」


「ひと段落している今、このスキに乗じて俺は人間の兵士のフリをしてアルシラさんを助けに行きます。人間の見張りも見かけないですし、おじちゃんへの追い打ちもなかった事を考えると、もしかしたら人間は勝ちムードに入ってるのかもしれません」


 おじちゃんの静止を遮って、俺は、俺にだけ可能な、今ん所考えうる限りの最善策を話す。

 逃げるわけないじゃんか。逃げられるわけないよ。

 だって俺はエクセリカちゃんに、信じてくれって言ったもんげ。

 裏切らないって約束したもんげ。

 女の子との約束は破らない、そんな事は常識だろう! エロゲの!

 ――ここは現実だ……何考えてんだ、俺……。


「む、無茶をするんじゃない! 確か君は、兵士でも何でも無い、ただの人間だと聞いてるぞ!?」


 うん、ただの一般人っす。兵士なんかじゃねっす。

 だけど駆け出しの冒険者よりゃ強いっすよ?

 ……人との戦いともなったら、勝てるかどうか、わからないけど。

 他の人と戦った事ないけど、エクセリカちゃんに一回も勝ったことない。

 エクセリカちゃんもかなり強いけど、最強ってわけじゃないと思う。

 最強だったらとっくに人間の国なんて終わってるもん。

 ……って事は、兵士やら騎士の中にはエクセリカちゃんより強いやつ、そうでなくとも、エクセリカちゃんと同じぐらいのやつがいるって事だ。

 それが徒党を組んで来たら……まず勝てない。

 バレたら死ぬ、絶対殺される。

 死にたく……ないなぁ……。絶対死にたくないよ……。


「正直……すげえ怖いっす……うまくいく保証もないし、バレたら死んじまうかもしれないっすね!」


 おじちゃんに向かって大胆にニって笑って見せるけど、膝が笑ってる。


「じゃあ、せめてエクセリカ様が合流する時まで――」


「でも、でも俺……俺は、お、お、おれぇ!」


 あーくそ! 声がうまくでねえ! 涙だってボロボロ出てくるし、ションベンチビりそうなぐらい怖いよ! でもさあ、でもさあ!


「い、嫌です! 嫌なんすよ! 許せないんすよ! こんな大事な時に逃げ出したら、俺は絶対! 一生自分を許せなくなる! 絶対に許したくなくなる! お、俺! 俺はもう逃げてばっかりの人生はもう嫌なんすよ! 約束破るのも絶対にもう嫌っす……!」


 どっかで聞いたようなセリフかもしれないけど……俺は本気でそう思ってる。

 オタクで、半ヒキで、ニートで、社会的弱者だった。

 逃げて逃げて逃げまくったから、俺はこんなヤツになっちまった。

 自己陶酔してるかもしれない、英雄気取ってるかもしれない。

 でも、俺は今こそ行動したい! ここで逃げんのは、絶対に選択ミスだ! それこそバッドエンド直行だろ! 死ぬより辛いゲームオーバーだよ!


「わかった……。ならこれをもっていってくれ……閃光の魔法石だ。知っているとは思うが、これを地面に投げつけると一回だけ大きな光が出る。逃げる時にきっと役立ってくれると思うよ。……だから、頼んだぞ、人間……いや、ハギラだったか?」


 おじちゃんが懐から出した白っぽい変な意志を受け取ってから、俺はすこし苦笑いでおっちゃんに――


「萩原っす! それじゃあ、お、俺! 行ってくるっす!」


 って言って名前を教えたあと、ゆっくり集会場目指して足を一歩踏み出した。

 おっちゃんから閃光の魔法石を受け取った。あとは俺に勇気がありゃいい。

 正直足なんかガクガクで力入んねえけど……俺は、行くッ!

 振り絞れよ萩原律樹……だって俺は今、期待されてんだから!


ここまで読んで下さって、本当にありがとうございます。

ここからはシリアスな展開が待っています。

ようやく掴んだ穏やかな日常が、いともたやすく崩れ始めます。

ここまでの生活で彼は何を得たんでしょうか。

戦闘知識? 体力? それとも……。

彼が困難を乗り越えられればいいのですが。

少し重たい話もあると思いますが、何卒お付き合い願います。

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