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imaginary  作者: とと
9/12

第九式

 という訳で偵察――要するに旅の準備。と言っても、俺の旅の準備は一瞬だった。そりゃあ、そうだ。何せ私物は鞄一個分しか持ってない上に、旅に何が必要なのかなんて見当もつかない。実質、旅仕度はミュリエとキルト任せだ。

 ……なんか格好悪い。


「じゃあ、張り切って行こーっ」


 自宅の前で一人腕を突き上げるミュリエ。笑顔満開。まるで遠足にでも行くようなテンションだ。


「集落から一度外に出れば、そこはいかなる危険が潜んでいるかも分からない場所だ。気を抜くなよ」


 なんて天理術に使う拳銃の感触を確かめながら目を細めてるのはキルトさん。

 この二人、両極端過ぎる。いや、ある意味バランスの取れたパーティなのかも知れないが。


「さっさと行こう。日の高いうちに隣の村に着きたいんだろ?」

「おしっ、出発!」


 ミュリエの掛け声とともに俺たちは歩きだした。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 プリンシピアは村の外を森に囲まれている。しかし、その森にはいくつかの小道が作られており、俺たちはその内の一つを進んでいた。景色だけ見たら、郊外の山にハイキングに来たみたいだ。


「やはり南方はいいな。景色明るく魔物も滅多に出ない」

「そっか。キルトはいろんな所を旅してたんだもんね。やっぱり、北は魔物が多いの?」

「最近は北より西が酷いな。北西のエクスタニアが傾いて、魔物が跋扈しているんじゃないかなんて噂まで出るくらいだ」


 俺も最近ではこちらのことを少しずつ勉強してはいたが、流石に地理の話とかになるとさっぱりだ。エクスタニアってのは確か、この国の北西にある国だった気がするが――


「――って、魔物っ!?」

「何んでそんなに驚いてるの、ネーサ。ネーサの国にも魔物くらいいたでしょ?」

「というか、お前はドラゴンも見てるだろうが」


 二人に呆れた目で見られてしまった。

 いや、確かにドラゴンは見たが、あれは特別だと思ってた。魔物とかマジ勘弁。というか、俺は確実にレベル1だけど。この辺りの魔物はきちんとレベル調整されているのだろうか?ぶっちゃけド〇キ―にすら勝てる気しないんですけど。


「大丈夫。南方の魔物程度には後れを取らないさ」


 俺の動揺に気づいたのか、キルトが凄みのある笑みを浮かべながら、銃を指差す。ということは、やはりドラゴンは別格ということなのだろうか。


「もっとも、私は非力なミュリエの安全を第一に確保するから、ネーサはある程度自分でなんとかしてくれ」

「おいっ」


 俺も非力だって。というか、ただでさえ女子二人より多めに荷物を背負ってるのに酷くね?

 ただでさえ坂道で重い足取りが、さらに重くなった気がする。 


「ほらネーサ、シャキシャキ歩く」


 笑いながら俺の背中を押すミュリエ。元気だな。しかしこちとら偶の運動はしても、基本は引きヲタ属性のネーサさんだ。車も電車も発達していない世界の少女より体力が少ないのが自然で……って、意外と疲れをあまり感じない。


「重力が小さいのか……いや、それなら体感できるはずだから、むしろここ数日で多少は体力が付いたのか……」

「何をぼそぼそ呟いてるのさっ」

「痛っ!?」


 背中を叩かれた。地味に痛い。

 ……なんて、ミュリエとじゃれあっていて気付かなかったが、キルトが真面目な顔で押し黙っていた。神経を研ぎ澄ませているのが、素人の俺にも分かる。


「二人とも、表情を変えずに聞いてくれ……囲まれた」

「なっ……」

「……相手は人?獣?」


 改めて思うが、ミュリエはただ者じゃない。俺なんて表情を変えるないようにするので精いっぱいなのに、彼女は笑顔のままキルトに小声で問いかけていた。


「この気配は人間だ。気配の消し方が獣じみてない……というか、魔物だったらこんな簡単には気づけないだろう」


 キルトがそこまで言い切るならそうなのだろう。だけど分からない。まだ村を出て30~40分といったところだというのに、何者なんだ?


「……この辺りは野盗なんて出ないし。仮に野盗だとしたら、女二人に男一人の僕たちみたいな集団にわざわざ様子見なんてする理由がない。だとすると……」


 ミュリエがボソボソと呟きながら考え込んでいた。

 ここ数日一緒にいて分かったことだが、彼女にはこうして独り言を漏らしながら思考を巡らせる癖がある。この時のミュリエは常にも増して頭の回転が速い。

 ……ちなみに、今は表情が先程までと変わらずニコニコしているから、結構怖かったりする。


「キルト、どうにかなりそうなのか?」

「正直微妙だ。連中は陣形を常に一定に保ったまま付いてきている。ということは、訓練がきちんとされている集団なのだろう……私が指揮官だったら、標的の中で弱い者から狙う」


 つまり、俺やミュリエが足手纏いってことか。

 俺に何の取り柄もないことは知っていたが、ここまで来ると自分に怒りさえ覚えてくる。


「キルト、このままじゃ僕たちの不利は変わらない。こっちから仕掛けよう」


 長考を終えた頼れる我らが相談役(ミュリエ)は、相変わらずの晴れやかな笑顔でそう言った。

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