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imaginary  作者: とと
8/12

第八式

「あとはミュリエ」

「りょーかい」


 ミュリエは諦め顔で返事をする。この危険な偵察を意見した責任に釣り合うリスクを自分は負わなくちゃいけないから、とか何とか考えてるんだろな。結局他の奴に行かせるくらいなら自分が行かせるくせに、その辺の自己分析がまるでできてないからな、ミュリエは。


 ――って、違うっ。問題は俺が何で入ってるかだ。


「村長、受ける断る以前に俺が入ってる理由がわからないです」


 ファンタジー系の主人公はこういうイベントを比較的ホイホイこなしていくイメージがある。だけど、それはあいつらが一般人とは一線を画した能力値を持ってるからだ。対して俺のパラメータは明らかにモブキャラのそれ。出来る出来ない以前に、そもそも俺に頼む謂れがない。


「何言ってるんだ、お前は。ドラゴンを倒せるような奴がいれば、安心してミュリエを行かせられるだろう?」

「なっ……」


 またそれか。

 俺がこの世界に来たあの日。ミュリエに言われて探しに来た村人が倒れている俺とキルトを発見した時、目の前に首から上の吹き飛んだドラゴンの死体があった。その事実とキルトの証言から村人は俺が凄腕の天理師――魔法使いの天理術版だ――だと思っている。目覚めてすぐの頃は身に覚えがないやら、照れくさいやらで必死に否定していたけど、最近では一々説明するのが面倒になって聞き流していた。


「お前は否定するかもしれないが、お前には才能がある。何せ私はこの目で見ているのだからな」


 出たな、俺=凄腕天理師説の提唱者ことキルト。

 ……いかん。こっちに来て以来、自然治癒したと思っていた中二病が再発症している気がする。

 兎に角、俺は奥の部屋から出てきたキルトに言い放つ。


「いくらキルトが言おうと、俺は天理師なんかじゃない。それはキルトも分かっているだろう」


 流石に自分の正体ぐらいは村でも隠している。しかし、今この部屋にいるのは、俺が異世界の人間と知っている人間だけ。だからこそこんな台詞も吐ける。 


「別にネーサが天理師だと言いたいわけじゃない。才能があると言ってるんだ。少なくとも私の数十倍はな」

「数十倍って……流石に盛り過ぎ――もとい大げさだろ。しかも、あれ以来何も出来てないわけだし」

「そうでもないさ。私は全力でもあの天理術であの規模は出せない。あれ以来術が発動できないのは、きっかけが必要なんだろう」


 あの規模とは、ドラゴンの頭を吹き飛ばした爆発の規模のことだ。キルトの分析によると、俺が偶々投げた銃把(グリップ)に刻まれていた術式


 V=V₀(1+βt)


 に、偶々俺の顕現力――天理術を発動させるための力。魔法にとっての魔力みたいなものだ――が流れ込んだ結果、偶々天理術が発動したらしい。

 天の(ことわり)なんて言うから身構えてしまうが、何のことは無い。ただの物理公式だ。この世界の住人にとっては、天が定めた法則を人の知識によって表したものらしいのだが、俺には見慣れすぎて有難みも何もあったもんじゃない。

 ちなみに


 V=V₀(1+βt)


 は、俺の記憶が正しければ熱膨張における体積膨張率の公式だ。

 一般的な爆発が気体の急速な膨張であると捉えれば自然な術式と言える。


「ネーサにも説明したと思うが、天理術の出力は才能、顕現力の総量は如何に天理を理解しているかによって決まる。私の想像通りなら、お前は逸材だ」

「……いやいや、天理の理解度とか、理系知識の総量だろ。俺以上の奴なんて五万といるぞ」

「何か言ったか?」


 きょとんとした顔で問い返すキルト。俺の小声でのツッコミはキルトには届かなかった模様だ。まあ、届いたところで意味不明だとは思うが。

 と、大人しく二人の会話を聞いていたミュリエが黒い顔をしていた。何か思いついたのだろうか。


「まあまあ、ネーサ。取りあえず一緒に行こうよ。キルトもついて来てくれることだし」


 これは俺もキルトが出てきた時から予想していた。恐らく村長はこの流れを読んでいて、初めからこの三人で行かせる気だったのだろう。だけど、だ。頭脳担当のミュリエと護衛のキルト。このパーティに俺を入れたって、立ち位置は序盤の人数合わせキャラがいいところだぞ。


「それとも、ネーサは女の子を二人だけで危ない仕事に送り出すような人なんだぁ?」


 ニヤニヤとしながら聞いてくるミュリエ。わざとらしい溜め息といい、組んだ手に顎乗せるポーズといい、追いこんでいるのを自覚しているとしか思えない。

 ああ、そうだろう。こんな言い方されて断れる男なんているわけない。――いや、いるかも知れないが、今の中二病再発中の俺には断れない。


「仕方な――」

「よし、決まりだな」

「せめて最後まで言わせろよっ!!」


 村長の会心の笑顔を無性に殴りたかった。

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