第十二式
……交渉の結果、一時休戦して共闘と相成りました。
ということで、か弱き子羊ことネーサさんと腹黒参謀のミュリエは、副隊長さんと愉快な仲間たち+キルトに周囲を守られ、辺りをキョロキョロ。
「いい、ネーサ?僕はそもそも戦いなんて素人なんだから、まともな指示なんてだせるわけない。だから、頼みの綱はどちらかと言えばネーサなんだよ」
「はいっ?」
いやいや、俺こそ出来ることなんて何もないでしょ?日常パートでの俺に対するハードルの高さは冗談で済むけど、戦闘パートでそういうの良くないから。それともあれか、ヲタク的知識でなんとかしろってか?それこそ、そんな二次元みたいな芸当できるわけない。
「ネーサ。おーい、ネーサってばっ」
「――はいっ、何でしょうかっ?」
「何で敬語さ?――というのはともかく、そんなに悩まなくても、ネーサには武器があるじゃん」
「武器……?」
「本気で分かってない顔だね……いい?ネーサの武器はその知識だよ。村にいた時も、ついさっきも、一目見ただけで天理術の中身を予想出来てた。きっとネーサなら天理術が相手でも対処できる筈」
「そんなの――」
――習ったから。
と、続けようとして止めた。
村にいた時から気付いていたけど、この世界では天理術の式――俺達の世界での数式や化学式がそれほど広まっていない。皆、生活に必需なものや一握りの本当に有名な式を知っている程度だ。
――さっき、キルトが危なくなった時に無意識に思ったこと。俺には考えることしか出来ない。――いや、違う。俺には考えることが出来るんだ。
決意が変われば、周りを見る目も変わってくる。傍観者から参戦者へと意識を切り替え、注意深く周囲を観察する。
「うん、それでよろしい」
「二人とも、そろそろ来るぞっ」
うむうむ、とミュリエが頷いているのを横目で見ていると、キルトからそっと声が掛る。
「乱戦になる……自称非戦闘員の二人を庇う余裕があるかはわからないからそのつもりで」
「……厳しいっす、副隊長さん」
「お前の副隊長になったつもりはない」
やっぱり厳しいっす。言葉のそこかしらに棘が散りばめられているのをひしひしと感じますよ。
「やっと追いついたぜっ」
「お頭は始末して構わねえってよ」
「あん?――人数が増えた気がするぞ?」
「構うもんか。全員殺っちまえば変わりゃしねえ」
「ちげぇねえ」
驚いた。
まずはこんなテンプレートな盗賊衣装の人が本当にいるんだという驚き。
しかも、最近のRPGに出てくるようなスタイリッシュな衣装の盗賊ではない。一昔前風の薄汚れた防具と獣の皮とボロボロの布を組み合わせたやつだ。全然萌えない。
次に、こんなテンプレートな台詞を吐く盗賊がいるんだという驚き。
ちょ、おまっ……お頭って……殺っちまえって……これ創作物の中だったら完全な死亡――しかも、フルぼっこにされるフラグだぞ。
そして、何よりもこんなギャグみたいなシチュエーションでも、リアルで体験して、相手の殺気や武器が本物だとこんなに怖いのかということに驚いた。
俺たちを囲んだのは七人の男たち。森から飛び出すと、ジリジリ距離を詰めてくる。
「遅れるなよっ」
「――お前もなっ」
最初に仕掛けたのはキルトと副隊長さん。
――いやいや、わざわざこっちから仕掛ける必要ないでしょ。って言う、心の底からのツッコミはきっと二人には届かないんだろうな、うん。
「――言刻銃撃、即時、連続発動」
殺さない程度(――にしていると信じたい)連射の銃撃天理で一人。さらに、副隊長さんの流れるような剣さばきで一人が倒れる。強い。他の三人は互角の一対一を繰り広げている中、瞬殺とは。やっぱり、あの二人はこの世界の平均に照らし合わせても別格みたいだ。
ともかく、これで戦力比は互角だ。
「くそっ……重くなれっ、ぶっ潰せっ」
柄が槍のように長いハンマーを持った男が副隊長さんに向けて武器を振り下ろす。彼女は剣を両手で頭上に掲げ、受け止める気みたいだ。力勝負なら男の方が有利かもしれないが、それでも彼女なら受け止められる。そう先ほどからの戦いが俺に信じさせる。
だけど……だけど、何だろう。何かが頭に引っかかる。違和感。――そういえば、男の台詞はまるで――
駆け出す。地面を力の限り蹴りながら、男の武器を観察する。……あった。
M=200×m
鈍い色のハンマー部分に薄らと式が見えた。
「嘘だろ!?――――受け止めるなっ!」
さながらアメフトのタックルのように副隊長に飛びつく。
――振り下ろされるハンマー。
――腹の底を揺さぶるような轟音。
土ぼこりが舞い、その場全員の視界は遮られた。