告白するぜ!
よし!
「今日こそ決めるぜ!!」
昨日必死にしたためた『ラブレター』を天高く掲げ、その覚悟を確かめる俺。
え? お前誰だよって?
俺様は主人公の、戸坂春樹。
普通の高校一年生だぞ。
ハル君って呼んでね☆
女の子限定な。
冗談はさておき……今日から三学期だぜ、イエーイ。
気合を溜めた冬休み…充電完了だ!
――っふ、自己紹介をしている隙に、俺は既に登校中だ。
チャリンコで爆走中。
昨晩――ラブレターを書いていたせいか、高まってなかなか眠れなかった…。
おかげで寝坊して遅刻寸前じゃねーか……いや、遅刻確定だな。
携帯を取り出し、時間を確認する――
――っふ、間に合うわけねぇ……。
そんなデンジャラスな時間だったが…男らしくあきらめて、途中コンビニで肉まんを買って貪る。
くそーーっ、こんな事してる場合じゃないだろ!?
とは思うが、間に合わないんだもん。
ま、5分送れ位で登場するさ。
それでも、肉まん食いながらチャリンコはトップスピード。
いくつかの交差点を超えて、我が学園が見えてきた。
羨ましいか?
一応私立なんだぜ。
しかも結構レベルの高い学校でさ、入るのに苦労したんだよ。
元々おバカだった俺が入学できたのは、まさに奇跡。
まあ必死に受験勉強したけどな。
実はさ、なんでそんなに頑張ったかって言うと、中学からの片思いの女の子が居たんだよ。
それで――受かって同じ学校になったら、告白しようと思ってたんだけど……。
結局、勇気が出ないまま月日が流れたってわけ。
なんとなく、俺の事情が分かってくれたかな?
いわゆるヘタレだよ。
あんまりビジュアルにも自信が無いしな。
自分じゃ分からん。
実際、女子にはモテないし、告白された事も……いや一回だけあるか……。
まあ、そいつは不細工だ。
同じ学校なんで、そのうち会えるから説明はその時でいいか?
おっと―――
回想していたら、もう学園だ。
さすがに誰も居ない――と思ったら、親友――いや悪友がノソノソ歩いているのを発見。
仕方が無いんで、チャリを止めて話しかける。
「明けおめ――っておい、生きてるか?」
後ろから声を掛けるが返事が無い。
近寄ってそいつの肩を掴み、強引に振り向かせる。
「佐々木! あ・け・お・めっ」
しつこく挨拶してやると、死んだような目で、
「――なんだ……戸坂か……」
と呟く佐々木。
こいつとは中学からの付き合いだ、仲がいい。
佐々木信二って言うんだ、宜しくな。
「――で、なんでヘコんでんだよ?」
「ああ、それがさ――」
喋りながら教室を目指す。
途中――こいつに気付かれないように、お目当ての女子の靴箱に、ラブレターをさりげなく入れつつ佐々木の話しを聞く。
「――実は、玲奈と喧嘩しちゃってさ…」
玲奈って言うのはこいつ――佐々木の彼女だ。
この野郎、チビのくせして彼女持ちなんて……生意気だろ?
佐々木はさ、慎重155センチで、男子の中ではぶっちぎりで背が低い。
だがしかし…顔が超可愛い為、女子の母性本能をくすぐるのが極めて上手い。
本人もそれが分かっているらしく、かなりの甘え上手である。
「――けっ、どうせすぐに仲直りするくせによ…」
「まーそうなんだけどさ。でも新学期始まって早々はきついよ」
ちぇ、彼女居ない暦16年の俺には、分からない気持ちだぜ。
羨ましい…。
それ以上会話のないまま教室へ入る。
完全に遅刻だが、堂々とな。
ガラガラ―――――。
教室へ入った瞬間、生徒全員の視線が俺達二人へと集まる。
担任はまだ来ていない。
ラッキー♪
「佐々木く~~ん、明けましておめでとー」
「あ、佐々木君、あけおめ~~」
女子からの挨拶が聞こえてくるが、全て佐々木に対してだ。
ムカツク。
そして、一人一人に笑顔で挨拶を返す佐々木。
窓際に座っている玲奈がこっちをチラっと見たが、ふんっ――とすぐにそっぽを向いていた。
大方喧嘩の原因は、こいつの他の女子からの人気に嫉妬でもしたんじゃねーのか?
そんなの喧嘩じゃねえだろ。
それ以上大した興味も無いんで、ドサッと自分の鞄を机に投げて、椅子へと無造作に座る。
まあこの…いつも機嫌の悪そうな俺の態度も、女子から人気が無い理由なのかも知れん。
でもさ、他にどういう態度を取っていいか分からないんだよ。
自分では精一杯、男らしく振舞っているつもりなんだが……。
チラチラと斜め右を眺める――。
そこには、愛しの天乃の姿。
天乃翼――中学からの俺の想い人だ。
ちょっと小柄なその後姿は、抱きしめたら腕にすっぽり入りそうで保護欲をそそられる。
短めのその髪からは白い首が覗き、美味しそう――じゃなかった――綺麗な肌が眩しいなぁって。
そんな事を考えていると、ふいに天乃が立ち上がりこちらへと近づいてくる。
まあ俺に用事ってわけじゃないだろうけどな……
今日告白する覚悟だから、妙にドキドキする……。
つい下を向いて目を反らしてしまうが、視線は天乃の足へと向いてしまう。
内股の可愛らしい歩き方……女の子らしい小さい足元。
短いスカートから伸びる、その太もも……。
堪んねえ。
やがて俺のすぐ隣までやってきて――
「佐伯さん、これ借りてた本――全部読んだから返すね。ありがとー」
当然、俺は佐伯ではない。
佐伯は隣の席の女の子だ。
「え? もう読んだの? そんなに急がなくてもいいのにー」
「う…うん、そうなんだけど……ちょっと急に引っ越す事になっちゃって、無くすと悪いから――」
俺の耳はダンボになっていた。
まあ、すぐ隣だから丸聞こえなんだが……
「そうなの!? どこに!? 転校しちゃう…とか?」
「え? 違う違うよ~~、すぐ近くだから――」
俺はホッと胸を撫で下ろした。
まさかの転校でサヨウナラ――って展開じゃなくて良かったーー。
しかも天乃は、中2の時に一度引っ越した前科があるからな。
本気でビビった。
まあその時は、一年後に戻ってきたから良かったものの……
あん時は本当に独り泣いたもんなー。
なんて回想をしていると、『転校』と言うキーワードにワラワラと女子が天乃の周りに集まりだした。
「えーーっ! 翼、転校しちゃうの!?」
「マジ!? 親の都合ってやつ?」
「海外留学とか?」
「もーー、違うって! そんなに私を転校させたいの!?」
こう言うネタって、女子ってほんと好きだよな。
賢明に否定する天乃を、堂々と俺はガン見する。
別に…騒ぎ立てているんだから、問題ないだろ?
「翼って、スポーツ留学するらしいよ」
一度は納得していた佐伯が、面白がってありもしないネタをバラまいてやがる。
そのせいで周りから質問攻めにあい、困った顔の天乃がちょっと――いやだいぶ可愛いい。
「ちょっ――佐伯さんっ、変な事言わないでよーっ」
口元から覗く、八重歯が良いんだよなあ。
大きな目も、クリっとしていて超可愛いぜ。
ぶっちゃげ、しょっちゅう男子から告られてる――って話しをよく聞くし…。
しかもイケメン男ばっかりときたもんだ、俺はその度にヒヤヒヤしてんだよ。
だから、いい加減他の男に取られたくないんで、思い切って告白しようとだな……。
「そんなに見つめてると、さすがにバレバレだよ? どこに呼び出したんだい?」
「わ! 何言ってんだお前――」
佐々木が急に小声で話しかけてきたもんで驚いた。
「ははは~~、なんの事かさっぱり分からないなーー」
「へ~~そう? 定番の~~下駄箱に~~ラ―――」
「やめろバカ!!」
歌うように話し出す佐々木の口を、慌てて塞ぐ。
き、聞かれてないだろうな……。
コソコソと辺りを覗う。
「僕は見た。つい先程の出来事――」
「――分かった! 分かったって!! 後で説明すっから今は黙っていてくれ」
頭を下げて懇願すると、ならよろしい――と言って満足そうな表情を浮かべてやがる。
佐々木には天乃の事は相談したことがあって、事情は既にバレてしまっているから面倒くさい。
いや、相談したというよりも…俺の態度がバレバレなんだと。
気を付けなくてはいけない。
まあそんなこんなで、その後始業式も終わり、新学期初日だってのに午前中たっぷりと授業しやがって…やっと放課後―――。
俺は屋上で彼女を待っていた。
この学園は屋上が公園みたいになっていて、花や植物が植えてある。
ご丁寧にベンチまで用意されていて、のんびりするには中々良い場所だ。
いつもは結構人が居るんだが、今日は新学期初日だ。
さすがに誰も居ない、邪魔もされずに済むだろう。
ラブレターの内容だが……説明はいいよな?
簡潔に、放課後屋上にきてくれ――って内容だ。
果たしてきてくれるだろうか……ドキドキ……。
バタン――――――
しばらくして、屋上の扉が開く音がした。
瞬間、胸の鼓動が更に高まる――。
誰が来たかは、ここからは見えない。
俺はベンチに座って下を向いている。
後ろから、誰かが近づいてくる気配―――。
そしてその気配はすぐ側までやってきて、ふわりと風を残して俺の隣に座った。
「初めてだね、戸坂君と二人で話すのって―――」
いつも脳内で再生している、天使ボイスが聞こえた。
もちろん天乃だ。
顔を上げると、天乃は俺に満面の笑顔を送ってくれていた。
言葉が詰まった状態で数秒見つめ合い、俺の顔がカーーっとなっていくのが分かる。
「ふ~~ん……戸坂君って、意外と可愛いんだね」
意外と可愛い…意外と可愛い…意外と可愛い…意外と可愛い…意外と可愛い…………
嬉しそうに喋る天乃の声が、俺の頭で繰り返される……。
ど、どういう意味なんだ……?
何も言えないでいると、天乃がじれてまた話しだす。
「ねぇ、私誘われて来たんだけどぉ…どうして黙ってるの?」
小首を傾げる――その天乃の仕草があまりに可愛いもんだったから、つい顔を背けてしまう。
バ――バカか俺は!?
やられてる場合じゃないだろ!!
勇気を出せ! 勇気を!!
片思いが長かった分、中々踏み出せない。
振り絞って声を出すが―――
「――あ、あの……その―――」
「ごめん――ね?」
途中で遮られた。
優しい声音だったが、普通に拒絶の反応。
「あ――天乃? えと、俺―――」
「知ってるよ、私の事、好きなんでしょ?」
優しく微笑むその姿に、俺は唖然としてしまう。
「うふ♪ 的中~~みたいな? だってぇ~~戸坂君って、中学の時からいっつも私を見てるんだもん。しかも同じ学校にまでなるなんて…ちょっとびっくり―――だよねっ!」
楽しそうに話す天乃。
俺は激しく動揺していたが、もう止まらない。
「聞いてくれ!!」
「きゃん!」
天乃の両肩を掴み、叫んだ。
ビックリした天乃は、目を真ん丸にして俺を凝視している。
「そうだよ……俺は天乃が好きだ! 初めて会った時からずっと好きだ!! だから――」
ゴクリ―――唾を飲み込んで一息に言い放つ。
「俺と付き合ってくれ!!」
ついに言ったぜ……。
告白した達成感で、俺の心は満たされている。
――が、まだ心臓はバクバクだ。
まだだ、別に断られたわけじゃないさ。
黙っている天乃が答えてくれるのをひたすら待つ……。
だけど、天乃は俯いて目も合わせてはくれない。
やっぱダメなのか……。
あきらめかけた瞬間―――天乃の口から、信じられない言葉が発せられた―――
「止めた方がいいよ。私処女じゃないから――」
「へ―――?」
一瞬何を言っているのか理解出来ず、間の抜けた声を出してしまう俺。
「しかも私――ヤリマンだから……」
「は? えと、その……何言って……」
そっぽを向いて、無表情で話す天乃。
言われた事は理解出来るけど、激しいショックでどうしたら良いのか分からない。
「君も、私とヤリたいだけなんでしょ?」
冷めた目で俺を見つめる天乃。
そして次に更に仰天な展開が―――
「いいよ…ここでする―――?」
艶っぽい表情で、上半身を俺に向けた天乃は……
片足をベンチに上げて―――
スカートの中身を俺に見せた―――。
可愛いピンクの下着……。
半ばイメージ通りのそれは、物凄く俺を刺激した。
―――ゴクリ。
思わず唾を飲み込んでしまう。
「……する……?」
俺を見上げて切ない表情の天乃。
激しく誘惑されて、俺は既にMAX状態だ。
俺の視線は、天乃の顔と太もも――そしてパンツをいったりきたり……。
しかし―――
「バカにするなああああああああっ!!!!」
「キャッ!」
思わず叫んだ。
驚いた天乃は後ろに倒れて、花壇に落ちてしまった。
「痛た~~いぃ……」
「ご、ごめ―――」
慌てて手を伸ばし、謝ろうとして―――手を引っ込める。
そして俺は、すぐに立ち上がりその場を去った。
後ろから「ひど~~い」と声が聞こえたが、振り向く気にはなれなかった。
屋上から出た後は猛ダッシュだった。
誰とも会わなかったから良かったものの、俺は正直泣いていた。
そのまま自転車に乗って、全力でペダルを漕いだ。
まさか自分自身、泣くとは思わなかった。
男らしくないのも分かってる。
でも涙は止まらなかった。
中学3年間、そしていままで好きだった女の子。
いつの間にか、自分の中で天使のような存在―――いや、勝手に美化してしまったのかも知れない。
そんな彼女の真の姿を知ってしまい、俺の純粋な思いを汚してしまった……。
しかも、その天使であるはずの彼女みずから……。
ヤリマンだからなんだってんだ!
客観的に考えて、自分に問う。
そうだ――だからって、彼女は彼女だ。
天乃翼だろ!!
そう思っても、チェリーである自分には納得させられなかった。
天使だった彼女が、とても汚れた存在に思えた―――
第2話へ続く
普通の日常を書いてみたかったんです。
ただし、やっぱり僕の作品なら恋愛かと……うん。