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第四話 ダブル・ジョン

シュレーダー事変から300年。地球人のゲルンによる支配が続いて500年。もはや核恒星系にも地球人が浸透して、ゲルン以外の国家にも地球人が数多く暮らし、それでもまだ底辺の地位に甘んじている時代。この当時地球には数億人の地球人しか居住していなかった。デュレストにヴェーレフのクレア家が働きかけて成立した「地球人類原種保護法」のもと、地球ではゲルンの監視下ではあったが、唯一地球人が伝統的な生活文化を守って暮らせる環境が整っていた。そして後にコンステレーション・プロジェクトと呼ばれるようになる一つの遠大な計画がスタートしたのもこの時期、地球でであった。クレア家の支援のもと、核恒星系のテクノロジーを修得した多くの地球人と、核恒星系でもっとも地球人が従事する職業である傭兵の2種類のスペシャリストが結集して、地球独立の計画が始動したのである。

地球人の設計のもと密かに建造された長距離探査宇宙船ホープ号は名高い傭兵であるジョン・ダンバーを隊長として、ゲルンの哨戒網をくぐり抜け、地球がある銀河系のオリオン腕から脱出し、隣のペルセウス腕へと探検の旅に出た。当時ペルセウス腕の外縁に沿うように「大河」が流れており、核恒星系の艦船は滅多に出向くことのない辺境中の辺境であった。

「大河」とは一般名称であり実際には3次元空間を構成する基本エネルギー「エーテル」のエネルギー乱流である。エーテル・エネルギーは空間をゆがませる性質があり、大河の近くではワープ航法が使用できない。従って直径数千光年以上ある大河はまさに渡河できない絶対の激流と言えた。大河は宇宙の巨大構成であるグレートアトラクターに沿って流れており、銀河系ではその周辺部を回りつつ、中心にあるブラックホールへ2本が渦状腕の構造に沿って流れ込んでいる。そしておそらくは大河の影響を回復しようとする次元構造の自然の働きにより、数万年に一度の割合で流れを変えるのである。かつては地球の近くを流れていたと思われる大河が現在では遠く離れた隣の渦状腕に沿って流れているのである。

そこでダンバー探検隊は地球人が即時移住できる惑星を探して回った。計画は即時移住可能な惑星を見つける事から始まる。見つかればそこに密かに移住し、吸収した核恒星系の科学力を駆使してゲルンに対抗できる勢力を構築する。それが計画の全貌であった。

地球人以外が聞けば一笑に付す計画であったろう。だが地球人は知っていた。核恒星系人は前銀河種を崇拝するあまりに、受け継いだ技術を最適化することはあっても新しい技術を開発しようとはしない。むしろ新しい技術の開発をタブーに思っている節すらある。地球人が支配されてきたこの5世紀でゲルンの科学技術はほとんど変化がなかった。だが一旦地球人がその知識を吸収すると、次々と新しい技術が生み出されていくのである。また核恒星系人は300年の長寿であり、しかも生殖能力が低い。核恒星系の人口がそれほど増えないのは生まれてくる赤ん坊と死にゆく老人との数のバランスがとれているからである。しかし地球人は環境さえ良ければいくらでも増えていく。1億人の地球人が100億人になるまで、数世紀しかかからないだろう。そうなれば一大勢力である。即時居住可能な環境のいい惑星と十分な資源、大河のほとりの守りこそ地球人が欲するものであった。

ダンバー探検隊の旅は想像を絶する苦難の連続であった。そもそも航路が確定していない未知の宙域をいくことは容易なことではない。かつて地球を発見した核恒星系人のように何隻も用意されている訳ではない。たった1隻のホープ号で大河の影響で荒れる宇宙空間を乗り越え、ダンバー探検隊は2つの惑星を発見した。

一つはラグナロクと名付けられた。2つの太陽の周りを超楕円軌道で回る過酷な環境の惑星である。しかし大気は呼吸可能であり、重力もなんとか生身で耐えられる1.5Gである。大規模な重力制御を施せば住めない訳ではない。しかしそれ以外にも未知の病原体や、信じられないほど強力な力を持つ多種多様な生物たちの存在は即時移住可能とは言えなかった。

もう一つの惑星こそダンバーたちの苦労を補ってあまりある存在だった。アシーナと仮に名付けられたその惑星は大気にしても重力にしても平均気温や海陸比など、地球の双子の兄弟と言っていいものであった(アシーナはこの旅で最初に亡くなった乗組員の名前である)。確率的には文字通り天文学的幸運と言えるだろう。

すでに100以上の惑星探査と12年の歳月により半分以上のクルーが殉職していたホープ号の面々はまさに色めき立った。

半年の予備調査を終え、ホープは帰途についた。目指すは冥王星の衛星カロンに築かれた秘密基地である。そこでは100万人の地球人を脱出させる巨大宇宙船の建造が進んでいるはずであった。

しかしアシーナを発見したことで浮かれていたのであろう。ホープはオリオン腕に入ったところで、運悪くゲルンの哨戒挺に発見されてしまった。クルーの半数を失っていた事も原因の一つであろう。哨戒挺を破壊したもののホープの現在位置は近くのゲルン艦艇すべてに知られてしまった。2万隻の追撃をかわしたのは冷静沈着な探検隊の副隊長である傭兵のジョン・プレンティスの奇計による。ダンバーとペアで”ダブル・ジョン”と呼ばれ、地球人傭兵どころか核恒星系人の間でも伝説化している男である。プレンティスのアイディアでとある惑星に隠れた探検隊の一行はここで二手に分かれる決断をした。なによりも優先されるべきはアシーナの存在をゲルンに察知されないようにする事である。第2にアシーナの存在をカロンの脱出計画クルーに知らせる事である。その為にはホープでこの惑星を発進して囮としてゲルン艦隊を引きつけ逃げ切る。ホープが拿捕された時の事を想定して、ホープで出発するクルーには疑似記憶を植え付け、単なる海賊行為を繰り返していたように思いこませる。もちろんホープの航宙記録は改ざんする。核恒星系人には地球人の脳を直接スキャンしたり、自白剤、拷問といったノウハウがないので、情報は漏れないはずである。一番恐ろしいのは地球人がいる場合であるが、地球人の取り調べに地球人を同伴させないのがゲルンのやり方であった。

一方惑星に居残ったクルーは、ホープの小型艇を改造して長距離航行可能な機体に仕上げ、ホープが囮となってゲルン艦艇を引きつけている隙に脱出し、太陽系に向かう。ホープにはダンバーが、小型艇にはプレンティスがリーダーとして乗り込んだ。実にこれが30年以上寝食を共にしてお互いの家族以上の絆で結ばれた二人のジョンの永遠の別れの時であった。後にダンバーはホープで一旦は逃げおおせるものの、クルーの人員不足と小型艇に物資を優先して渡していたためホープの機関故障に対応出来なかったことが原因で、ゲルン軍シグナルト艦隊麾下の部隊に捕縛されることになる。シグナルトは高名な傭兵であるダンバーと生え抜きのクルーたちを惜しく思い、そのまま自分の嫡男のブレーンとして召し上げた。この嫡男コーディは後に虐げられた下級兵士達のために反乱を画し、10万人の下級兵士と地球人を連れて隣国トゥーエーレに脱走する。その際にダンバーと部下達は大きな功績をあげることになる。コーディ自身は脱走の手際の良さとその思想の柔軟性を高く評価されてゲルンに返り咲き、シグナルト家の中興の祖となる。ダンバーのその後は知れない。当時70歳を越えていたことから、トゥーエーレ国内で生き残りの部下とともに静かに余生を過ごしたと思われる。この事件はトゥーエーレに10万人の兵士を供給する事になり、後の民主化に際して大きな力になるのである。

一方プレンティスは惑星を脱出し、無事にカロンへとたどり着いた。彼がもたらした情報は今後の核恒星系の歴史に大きな変化をもたらすほど大きなものである。

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