第三話 地球人受難
ゲルン支配の1300余年の間に起こった大きな事件は以下のようになる。
・フォウ・ナルパの反乱
・バーミリオン・シュレーダーの反乱(ツァーレン王戦死)
・ダンバー探検隊、ラグナロク、アシーナを発見
・コンステレーション号事件
・ゲルン人排斥運動によるハワイの惨劇(ゲルン人1万人虐殺)
・地球破壊
フォウ・ナルパは地球侵攻の指揮を執った当時のウルフベルグ王の嫡男である。ゲルンはかつて一つの国家だったものが次第に分裂し、その後再統合した国家で皇帝は最高決定権をもつものの飾りにすぎず、実質的にはヴァルバラ、シグナルト、ウルフベルグ、アークレイン、ツァーレンの5つの藩国の王の合議制で運営されていた。ウルフベルグは地位の向上を図って地球占領に踏み切ったのであるが、占領後は嫡男のフォウ・ナルパに統治をゆだねていた。若いフォウ・ナルパは実直な性格であり、藩国の後継者としても十分な素養をもった人物ではあったが、反骨心が強く親である王の権力欲に辟易していた。また側近も親から与えられた名門貴族出身の子弟や権力闘争に長けた高級軍人ではなく、実戦経験の豊かなたたき上げの人物を好んで登用した。その結果地球占領軍の中にフォウ・ナルパお気に入りの一派と貴族中心の一派の対立という、地球人や、地球人に協力するかつての監察官の潜伏組に与える隙が発生した。
結果として、地球人の女性と恋仲になったフォウ・ナルパはその女性の背後にいる反乱勢力の思惑通りに大規模な反乱を起こし、処断された。この反乱は実害はさほどでもなかったが、王族みずから起こした反乱であること、地球人に後世まで「ゲルン人といえど人間。つけいる隙は幾らでもある。差は科学力と軍事力のみ」という希望を与えた事が大きい。この反乱がなければその後の大規模な反乱は起こりえなかった可能性は拭いきれない。
ゲルンの地球支配からおよそ2世紀。バーミリオン・シュレーダーの乱が発生する。この当時では地球人の多くは核恒星系で傭兵稼業を中心に様々な地位を得ていた。ただしそれは全て社会の底辺での話である。「地球人はすぐに年を取るが、その分増えるのも早い。闘争本能も強く、環境への適合も早い。消耗戦力としてうってつけである」というのが核恒星系の戦場における一般的な通念であった。この時期になると自分が地球人と呼ばれるいわれも知らない核恒星系生まれの地球人も多く、傭兵としてゲルン以外でも幅広く使われていた。シュレーダーはそんな地球を知らないゲルン生まれの地球人であるが、両親が高級貴族に仕えており、また待遇も良かったため高い教育を受けることができた。そしてチャンスを掴み、地球を訪問することができたのである。その際に地球の現状を知り、地球人の多くが自分たちのためでなくお互いに殺し合うような状況に追い込まれている事を知り、反乱を決意する。彼は兵器学者として台頭し、その当時ゲルンから独立したばかりのバグファルトで地球人独特の兵器思想をゲルンの科学力と用兵思想に合うように変化させて、人型の兵器を完成させた。兵器のテスト運用では多大な戦果があがり、また地球人傭兵の生還率も跳ね上がった事からこの人型兵器は大いに注目され、当時のツァーレン王の支援を受けて量産に入ることができるようになった。シュレーダーは計画の陣頭指揮をとり、彼の設計からなる巨人たちを増産し、ついにお披露目式にこぎ着けたのである。
その日、ゲルンの主星の一つであるマグニスタで開かれた人型兵器による機甲師団のお披露目には皇帝こそこなかったが5人の王が集結した。その場で、ツァーレン王の自慢の機甲師団はそのまま殺戮兵器に変わった。全てシュレーダーとそのシンパの地球人による計画により、人型兵器は突然起動し、一切の差別なくあらゆる物を破壊して回った。無人の兵器500機は地上では無敵であり、最終的には脱出した4人の王の艦隊の宇宙からの艦砲射撃により壊滅した。マグニスタの地上の施設は人型兵器の破壊とその後の艦砲射撃によりほぼ壊滅し、地下設備も半分以上土砂に埋もれた。人的被害はゲルン人5万人、地球人2千人。ゲルン人の中にはツァーレン王が含まれており、地球人の中にはバーミリオン・シュレーダーがいた。彼は自分のプログラムに従った人型兵器により踏みつぶされていた。ツァーレン王は万年最下位のツァーレン家の勢力を中堅にまで持っていったここ10代の中の最高の傑物と言われていたが、あえなく脱出時にシャトルもろとも人型兵器により吹き飛んだ。
シュレーダーの反乱には何の意味もなかった。ツァーレン家は当主とマグニスタを失ったがそれは致命的なダメージではない。もっともこれ以後ゲルンでは自律型の大型単独兵器は一切生産されないという不文律は生まれたが、それだけにすぎない。単に地球人に対する風当たりが強くなっただけの結果に終わってしまった。シュレーダーが最終的にどういう目的を持っていたのかは不明のままである。




