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第一話 始まり

とある銀河の中心、数百億の恒星系が密集している核恒星系にヒューマノイドの文明があり、いくつかの星間国家を営み、調和と戦争を繰り返していた。


帝国宰相ワブ・ゾーネンコートによるヴェーレフ帝国史上初の皇帝暗殺事件により、ヴェーレフ国内には深刻な混乱が発生した。ゾーネンコートを支持した一部の目先の見えない貴族たちはヴェーレフどころか核恒星系にも居場所がなくなり、贅沢で高性能だが決して安住の住処にならない恒星間長距離宇宙船で、あてのない旅に出るしかなかった。彼らは決して悪辣であったのではない。むしろ悪辣なゾーネンコート派の貴族たちは当初皇帝暗殺犯として追われ、その後ゾーネンコートの陰謀を暴いた功績により貴族に叙されたトーラス・ヴァーレンにより粛清されたか、もっとうまく立ち回って保身に成功していたのである。

そんな許されはしないが粛清の対象にもならない小物たちにしては大きな決断だったであろう。なんと彼らは「伝説の始まりの星」をもとめて核恒星系を離れ、銀河の渦状腕の1つを目指したのである。


伝説の始まりの星。それは核恒星系人にとってもっともなじみの深い昔語りである。彼らは数百万年前に銀河系を支配していた高度文明種族が自分たちの文明を継承させるために作り上げた究極の存在であり、その前銀河種族が核恒星系人を作り上げたのが始まりの星である、という口伝である。そのおおよその方角はいくつか諸説あるものの、大抵の場合古ければ古い出典ほどある1つの渦状腕を指していた。その星を目指そうと言うのである。およそまともな現実感覚をもった人物なら考えそうにもない選択肢だが、彼らはいわばお坊ちゃま貴族であり、またそれ以外の目的地も選択のしようがなかった。彼らにとって銀河系の中心から外れれば外れるほど未開地なのである。


旅路は彼らにとって苦難の道となった。もはや彼らは銀河一の帝国の名門貴族でもなく、単なる逃亡者である。召使の反乱や、自然現象の脅威、不慣れな航法運営による事故などが重なり数年の放浪の果てに彼らの数は半減した。

それでも彼らは恐ろしく運がよかったと言わざるを得ない。伝説が示す場所にまさに目的の惑星が存在していたのである。伝説には方角は示されていたが、どの程度核恒星系から離れているかは「はるか遠く」としか表現されていなかったからである。それでも伝承の語りを頼りに、G型恒星に絞って根気良く探索していった結果、「1」の星を見つけたのである。

「1」の星、すなわち重力1G、公転周期は1年、自転周期は1日になる星である。また大気組成は標準大気に極めて近く、自転軸の傾きも標準傾度であった。まさに核恒星系人の基本的バイオ環境と合致していたのである。これが偶然であるはずは無い。

さらに決定的なことに、その惑星には知的生命体が存在しており、その外見はほとんど核恒星系人と差異がなかったのである。後の調査で1%ほどのゲノム組成の違いは発見されたが、その生命体が核恒星系人の兄弟種族であることはほぼ間違いなかった。


逃亡貴族たちが伝説の星を求めて旅立った銀河渦状腕はオリオンであり、伝説の星は銀河の中心から約3万光年離れている。そして伝説の星は地球である。


貴族たちが発見したのは12世紀初めの地球であった。貴族たちは人種的外見も近く、また様々な外国人であふれ返る国際都市に紛れ込み暮らすことを決意した。たとえ科学技術レベルがはるかに低い生活でも、人々の営みの中で生活したいというのが大勢の意見であった。反対意見もあった。絶対者として地球人類の上に君臨すべきであるという意見、ここは伝説の星ではないという意見、核恒星系に帰りたいという意見。幸いにも地球が蹂躙されることは無かった。彼らは基本的に温和な貴族階級であるということの証明かもしれない。結局、一派は地球に住み、一派は他の星を探してさらに旅を続け、一派は核恒星系にとって返した。


地球に住むことを決意した一派は宇宙船を海底深くに沈め休眠モードで待機させた。そして彼らが住んだのは当時世界最大の都市であった中国の宋王朝の首都開封であった。絢爛たる中原文明の集積地で貴族たちは西方の小国の亡命貴族という触れ込みで暮らし、そしていつしか果てていった。彼らが移り住んで十数年後には金国の侵略があったが、かれらは宋王朝について南遷し、生涯を宋国人として閉じた。それなりに幸せな人生であったかもしれない。


ゾーネンコート事変による核恒星系人と地球人との接触は、こうして一時のことに終わった。他の星を探して旅立ったものは二度と地球にも核恒星系にも帰ってこなかった。核恒星系に戻った者たちは、一時他国のトゥーエーレに身を寄せたが外交交渉の材料にされた挙句、再度逃亡した。その後は海賊まがいのことを行い、軍隊に攻め滅ぼされたと言う。


再び接触が行なわれたのはそれから800年も後のことであった。核恒星系の一国、ライプニッツの自由闘士シファという人物が、ある時足の長い宇宙船を入手しようと中古品を探していたところ、掘り出し物を発見した。それこそが800年前地球から帰還した一派が最後に残した宇宙船であった。800年前の宇宙船なぞ核恒星系ではまだまだ現役である。シファはその宇宙船を購入し、カスタム化しようとしたところ、封印されていたかつての航行記録を発見した。彼は核恒星系人の多くがそうであろう始まりの星の話を昔語りだけのもの、と考えるような人物ではなかった。航法記録は疑い様の無い本物である。今なら最適化して数ヶ月で目的地にたどり着くことができる。この機会を逃すような人物ではシファはなかった。


カスタム化した宇宙船はあっけなく45日で地球を発見した。そこは1996年の地球であった。シファは月に宇宙船を隠し小型機で調査した。海底に沈めた宇宙船はすでに地球人によって発見されていた。しかし休眠フィールドに保護された宇宙船をどうこうできる技術が地球人にはまだなかったため、手付かずのまま監視されているだけであった。


だがこのシファの行動が地球の運命を大きく変えることになる。自由闘士という彼の職業柄、スパイに見られることが多く彼は複数の国家から要注意人物として監視されていたのである。結果たまたまシファが核恒星系を旅立ったときに監視していたヴェーレフのエージェントにより地球の存在は核恒星系国家に知られることとなった。ヴェーレフ皇帝は辺境の更にはるか遠くの惑星に棲む科学レベルの低い種族になど興味はなかった。安易にこの情報を国家間調停機関の審議にかけたのである。

結果、地球は国際機関に管理されることになり、合同調査団が結成されることになった。もっともこの時点では「原住民に気づかれないこと」が前提であった。合同調査団はおざなりなものであった。しかしただ1つ、軍事国家ゲルンだけは地球に大きな興味を持っていた。ゲルンは大国家ヴェーレフに比べ軍事力では勝っていたが、国力そのものに大きな開きがあり、核恒星系の国際バランスの上で主導権をとれずにいた。5つの大国(ヴェーレフ、ゲルン、ライプニッツ、ラ・ベルデ、トゥーエーレ)は事実上ヴェーレフ皇帝の支配の元にあるといってよかった。ゲルンはこの状況を打破し覇権をとなえたいと常々考えていたのである。地球の調査に限らず、停滞した核恒星系の序列の変化には新たな情報の収集は打倒ヴェーレフに必要と考えていたのである。


一方の当事者である地球人は当然この事態の急変を知り様がなかった。北極海の海底に眠る巨大宇宙船の存在は確認したものの手の出し様も無かったのである。その間核恒星系の調査団は地球を隠密裏に調査し、地球人を何人か連れ去り分析した結果、核恒星系人と地球人の遺伝子的共通性を見出し、ほぼ間違いなく前銀河種族がここで地球人をベースに核恒星系人を生み出したことを確認した。そしてまた、地球および太陽系の各所に残されている遺跡に前銀河種族の痕跡を確認したのである。


俄然、核恒星系の国家群は色めき立った。彼らにとって前銀河種族の痕跡は聖なるものであり、その独占は国家間の勢力バランスを覆す力を持っている可能性がある。ヴェーレフが覇権を握っているのは大国であるという理由もあるが、前銀河種が残した神のごとき存在「スファード」を国内に擁しているためでもあった。しかし国際調停機関「デュレスト」の手前おおっぴらな活動はできない。

デュレスト会議場で、またその外で様々な論争、謀略の末、地球の衛星である月に各国合同の基地を建設すること、太陽系の外縁部の星(冥王星)近傍宙域に監視艦隊を、これも多国籍軍で構成すること、そして地球に各国代表の監察官が常駐して、地球の調査にあたることなどが決定された。監察官は調査専門と外交専門、そして武官がおかれる事になった。調査官は合同で地球上の遺跡調査と地球人そのものの調査を進め、外交官は各国の役割分担と情報の共有化を徹底する。そして武官は調査官、外交官のガードと不法な侵入者の逮捕が主な職務となる。地球人に気づかれないようにするため、監察官の規模は少数精鋭となる。特に武官は各国とも選りすぐりの能力を持ったものを投入してきた。なぜならデュレスト監督下の監察官だけではなく”シ”の人々が侵入してきていたからである。


”シ”はデュレスト加盟国ではない。核恒星系にある暗黒星雲内の惑星で進化してきた彼らは過酷な環境を自らの体を改造することで生き延びてきていた。その起源は不明だが、この当時で”シ”の人間イコール超常能力の持ち主と言って過言ではなかった。そんな彼らは核恒星系の国家群の中で母国を守り、生き抜くために様々な暗躍を続けており、地球にもデュレストの意向を無視して侵入してきたのである。彼らの目的は遺跡ではなく地球人そのものといえる。ゆがんで進化してしまった自分たちを、子孫を正しい姿に戻すために核恒星系人の雛形といえる地球人の遺伝子が必要と考えたのである。


かくして辺境の寄る辺ない弱小勢力であったはずの地球は一躍核恒星系の注目の的となった。過酷な訓練と天性の才能、そして様々なアイテムにより超人的な力を発揮する武官監察官。そして”シ”の違法侵入者やその他の核恒星系から流れてきた無法者たちや亡命者たち。20世紀末の地球は当の地球人たちをよそに異星人の戦場と化していたのである。

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