Phase 01
私と西野沙織の付き合いは中学生の頃まで遡る。
中学校に進学した当初、あいうえお順の関係で隣同士の席になったというのもあるけど、友人になった一番の理由は――「たまたま好きなアーティストが同じだった」ということである。互いに好きなアーティストがhitomiであり、同世代の中学生の趣味を考えると少し大人びていたような気がする。だって、大抵の女子はパンキッシュでクールな印象を持っていたhitomiよりも、セクシーな倖田來未や、典型的な平成ギャルである浜崎あゆみに対して憧れを抱いていたから。
もちろん、西野沙織と友人になった理由は「互いにhitomiが好きだった」という理由だけではない。彼女も私と同じく無類のミステリ好きであり、私が江戸川乱歩の『怪人二十面相』(多分岩波少年文庫版だったと思う)を読んでいると「あーっ、それアタシも好き!」と言ってくれたのだ。それ以降、私は彼女に対してhitomiの話に加えてミステリの話もするようになった。彼女曰く「京極夏彦が好き」とのことであり、『姑獲鳥の夏』から『塗仏の宴』(いずれも講談社ノベルス版)を借りて読ませてもらった。
その結果、私は見事に京極夏彦が好きになり――結果として、当時ノベルスで出ていた『陰摩羅鬼の瑕』を中学校の近くのツタヤで買った。クソ分厚いノベルスを手に取った中学生なんて、普通の人から見ればドン引き必至である。
そういう訳で、中学生の頃の私の本棚は――京極夏彦と親の本棚からくすねた横溝正史で埋まっていた。母親は私の本棚を見て呆れていたが、多分「娘は将来大物になる」と思っていたはずである。
そして、「娘は将来大物になる」という母親の予想は――半分だけ当たった。大学時代に何かの間違いで講談社に原稿を送ったら、うっかりそのまま商業デビューすることとなったのだ。有栖川有栖を輩出した大学のミス研出身という「箔」が、功を奏したのだろう。
しかし、商業デビューしたところで売れなければ意味がない。講談社ノベルスで発刊された処女作こそ売れたけど、それ以降の作品はまったく売れていないのだ。
担当者からは「より多くの人に読んでもらえるように、ノベルスじゃなくてタイガで出しましょう」と言ってくれたので、数年前からライト文芸レーベルである講談社タイガで小説を出すようになったが――やはり、売れない。あまりの売れなさに「読書離れ」という言葉は嘘じゃないと思ったぐらいである。
そういう訳で、私は陰で「講談社文芸第三出版部のお荷物作家」という烙印を捺されている始末である。それなら、筆を折った方がマシだろうか。
とはいえ、私は筆を握って小説を書いている訳じゃなくて、ダイナブックのキーボードを打ちながら小説を書いているのだけれど。――つまり、筆を折る行為は、ダイナブックのキーボードをジミ・ヘンドリックスのようにぶっ壊すということになってしまう。
そんな最中で西野沙織から「猟奇殺人事件を解決してほしい」と言われてしまったら、助けてあげるしかない。それで私の知名度が上がるのなら、どんな血なまぐさい事件でも厭わないと思う。
*
そして、私の目の前で――西野沙織は土下座をしていた。余程例の事件に対して思うことでもあったのだろうか?
彼女は話す。
「まあ、いきなりヒロロンに『事件を解決してほしい』って頼んでも困惑しちゃうよね。まずは金崎家に向かいましょ」
「そうは言うけど――金崎家って、どこにあるの」
私がそう言うと、彼女は自分のスマホの画面を見せながら説明してくれた。
「えーっと、金崎家があるのはこの辺。――御崎公園球技場の近くよ」
「なるほど。――それなりに距離があるわね」
私が住んでいるのは神戸の隣町である芦屋なので、神戸という場所は――JRの新快速なら10分程度で着く。バイクなら30分程度だろうか。
「そうね。まあ、御崎公園球技場なら何回か行っているはずだけど」
「確かに。――っていうか、私はビクトリア神戸のサポーターじゃないんだけど」
「そうだったわね。ヒロロンって、川崎フロンアーレのサポーターだもんね。――かくいうアタシも、鹿島アントリオンのサポーターなんだけど」
御崎公園球技場を拠点としているサッカークラブは、言うまでもなくビクトリア神戸である。ここのところ順位表の上位に絡むことが多く、何度かリーグ優勝も果たしている。しかし、地元で「ビクトリア神戸のサポーターです」と自ら名乗る人間は少ない。なぜなら、昔のビクトリア神戸は「べらぼうに弱かったから」である。故に、地元で「昔からビクトリア神戸を応援している」という人は――少ない。とはいえ、川崎フロンアーレに所属していたとある選手がビクトリア神戸に移籍してからは、それなりにビクトリア神戸のことも追うようになったのだけれど。
ちなみに、その選手はビクトリア神戸に移籍してから得点王ランキングの常連にも名を連ねている。余程水が合っていたのだろう。――こんな話をしている場合じゃない。
私は御崎公園球技場の地図を見ながら話す。
「それで、市営地下鉄の御崎公園駅から御崎公園球技場へと向かう過程で目にする開業医――金崎医院に向かえばいいのね」
「そうそう。和田岬駅じゃなくて御崎公園駅ね」
「それは分かってるわよ。――前に、和田岬駅から御崎公園球技場に向かおうと思ったら迷子になったからね」
「――確かに。アタシも鹿島アントリオンがビクトリア神戸と試合した時に和田岬駅側から行ったけど、とても近道じゃなかったわ」
「ところで、金崎医院には――電車とバイク、どっちで行った方が良いと思う?」
「そこは悩みどころね。アタシなら車で向かうけどさ」
「沙織ちゃんがそう言うなら、バイクかな……」
「ヒロロンの好きにすれば良いと思う。――じゃあ、アタシは先に金崎医院に向かうから」
「分かった。――私もすぐにそっちへ行く」
そう言って、西野沙織は一足先に金崎医院へと向かった。――私も向かわなければ。
*
結局のところ、私はバイクで金崎医院まで向かうことにした。これぐらいの距離なら、バイクでも悪くない。
カワサキグリーンのバイクは、2号線を走っていてもよく目立つ。
三宮から和田岬へと抜けて、やがて――御崎公園球技場が見えてきた。今日はサッカーの試合がないと見えて、スタジアムの周辺は閑散としている。
そして、西野沙織の愛車――なにわナンバーの黄色いアウディを確認したフェーズで、私は金崎医院の中へと入っていった。
*
中に入るなり、西野沙織は誰かと話をしていた。
「それで――」
「ああ、なるほど。――あっ、ヒロロン。こっちこっち。彼女が金崎友美よ」
切り揃えられた前髪に、セミロングの髪型。医師の娘とは思えない服――ニルヴァーナというロックバンドのロゴ入りの黒いトレーナーを着ている。
それこそが、金崎友美という人物だった。
金崎友美は話す。
「あなたが廣田彩香さんですね。私が金崎友美です。沙織さんとは大学時代からの付き合いなんですよ」
「沙織ちゃんの大学って――どこだったっけ?」
「そう言えばヒロロンに大学のことを言ってなかったわね。アタシ、港南学院大学の出なのよ」
「港南学院大学か。――かなりいいところの出なのね。まあ、私も同命社大学を卒業してるけど」
「同命社って、アタシたちよりも賢いじゃん?」
「そうは言うけど……私、同命社卒でも就活に失敗してるから。あの時講談社に拾われてなかったら、今の自分は無いと思ってる」
「そっか。――コホン。それで、アタシと友ちゃんは港南学院大学の薬学部で同期だったのよ。アタシが薬学部を専攻してた理由は『自分の才能を活かすため』だったけどさ、友ちゃんが薬学部に在籍してた理由は、多分……家業を継ぐためだと思ってた」
西野沙織が言うとおり、どうやら金崎友美が港南学院大学の薬学部を専攻していた理由は――家業を継ぐつもりだったようだ。
「その通りです。私、実家を継ぐために港南学院大学で薬学部を専攻していました。結果として、今はこうやって金崎医院で薬剤師として働いているんですけど」
ちなみに、私は同命社大学の理工学部を専攻して――就活に失敗している。就活中に受け取ったお祈りメールの数は、30社以上だったと思う。
そんな自分に対して「負い」というか「コンプレックス」を感じつつ、私は話す。
「事件が発生したのはいつ頃なんでしょうか?」
私の質問に、金崎友美は答えていく。
「えーっと、最初に『心臓のない遺体』が見つかったのは――今からおよそ1ヶ月前ですね。見つかった場所はここからそう遠くない場所、つまり御崎公園球技場の近くでした」
金崎友美の「答え」に対して、私は疑問をぶつけた。
「なるほど。――それにしても、どうしてあんな場所に『心臓のない遺体』を放置したんでしょうか? 仮にビクトリア神戸の試合が開催されていたら、余計と目立ってしまうような気がします」
しかし、金崎友美は私が持っていた疑問を――否定した。
「遺体が発見された日は、ビクトリア神戸の試合がない日――つまり、平日の明朝でした」
「そうですか。――確かに、あの時間帯なら、犯人が御崎公園球技場付近に遺体を放置しても気付かれない可能性は高いと思います。でも、引っかかる点があまりにも多すぎます」
「引っかかる点? それ、具体的に説明してみて下さい」
金崎友美にそう言われたので、私は引っかかる点を彼女に説明した。
「まず、犯人は御崎公園球技場の近辺に遺体を放置した。これは紛れもない事実ですよね。次に、遺体は心臓がくり抜かれていた。――もしかして、犯人は金崎医院の関係者なのでは?」
私はそう言ったけど、彼女は反論する。
「そんなこと、あり得ません! それどころか、こんなモノがポストに入っていましたから」
そう言って、金崎友美は私にある紙切れを見せてきた。――そういえば、西野沙織は「脅迫状のようなものが金崎家に届いた」と言っていたか。
金崎友美が持ってきた紙切れには、「金崎医院の人間を皆殺しにする」という文面が書かれていた。
紙切れの送り主は、自らを「ファントム」と名乗っているらしい。
脅迫状を見つつ、私は話す。
「それ、何かのイタズラなの?」
どうやら、イタズラではないらしい。金崎友美は私の質問に答えていった。
「最初は私もイタズラの線を疑いましたが、この紙切れが届いてから――私の周りで不吉なことが起こるようになりました。薬品庫から保管していた劇薬が消えたり、飼っていた愛犬が無惨な姿で見つかったり、何よりも――私の妹が誰かに犯されたんです」
「妹が、犯された? どういうことなの?」
「私の妹――金崎瑠璃が、元町のガード下で見ず知らずの男性から性的な暴行を加えられたんです。それも、複数の男性に。当然の話ですけど、犯されてから――瑠璃はずっと部屋の中に引きこもっています」
状況を察したのか、西野沙織は話す。
「酷いわね、ソレ。1人の男性に犯されるならまだしも、複数の男性に犯されたら――犯された人間の心は壊れちゃうわね」
「瑠璃さんと話をすることは出来ないの?」
「うーん、どうかな。いくら見ず知らずの人間だと言っても、女性だったら安心して話せそうだと思うけど……」
金崎瑠璃の件は後回しにすべきか。私はそう思った。
「――まあ、瑠璃さんのことは後で解決するとしても、まずは『薬品庫から劇薬が消えたこと』と『愛犬が無惨な姿で見つかったこと』を解決しないとどうにもならないと思う」
「そうですよね……。廣田さん、沙織さん、まずはこの2つの事件について解決してもらえないでしょうか?」
私と西野沙織の返事は――言うまでもなかった。
「分かったわ。――ヒロロンも、何か言いなさいよ?」
「もちろん、犬を殺すなんて――許される話じゃないと思う。一流の殺し屋だって、愛犬を殺されただけでロシアンマフィア一味を壊滅させたぐらいだし」
私の余計な一言に、西野沙織は――ツッコんだ。
「アハハ、犬の恨みでロシアンマフィアの一味を壊滅させるって、ジョン・ウィックかよ! ――コホン。それはともかく、この事件はアタシとヒロロンでなんとかするから。任せなさい」
「ありがとうございます! それじゃあ――これ、資料ですから」
そう言って、金崎友美は――「心臓のない遺体」の事件を含めた一連の事件に関する資料を渡してきた。資料は、思ったよりも膨大なモノだった。
「膨大な資料だわね。――一応、ヒロロンに渡しておこうかしら」
「そうね。私に預けておいた方が良いと思う。沙織ちゃん、よろしく」
資料を受け取ったところで、私と西野沙織は金崎医院を後にした。
*
病院の駐車場で、私は西野沙織に話す。
「こんなこと言ったら彼女に申し訳ないけど、私は金崎友美が怪しいと思う」
「そう? アタシは違うと思うけどなぁ」
「仮に、一連の事件が彼女の自作自演だとしたら?」
「うーん、確かにその線は考えられるけど……いくらなんでも、安直じゃない?」
「安直か。まあ、沙織ちゃんがそう言うのなら、安直なんだと思う。私の考えは捨てて」
「分かった。――それじゃあ、アタシはこれで帰るから」
そう言って、西野沙織は黄色いアウディを発進させた。――身勝手だ。
仕方がないので、私もバイクにまたがり、芦屋へと戻ることにした。
*
芦屋に帰ったところで、私は改めて金崎医院の周辺で起こっていることを整理した。
まず、「心臓のない遺体」が相次いで御崎公園球技場の近くで見つかっていて、金崎医院では飼っていた犬が無惨な姿で殺されていて、金崎友美の妹――金崎瑠璃は見ず知らずの男性に犯された。
事件解決の優先順位は、やはり「心臓のない遺体」に関する謎を解決することが先だろうか。私は被害者リストを見た。
1人目に殺害されたのは、「浅田一樹」という男性で、職業はプログラマーらしい。
2人目に殺害されたのは「佐々木真実子」という女性で、職業は派遣社員だとか。
3人目に殺害されたのは「小鳥遊康史」という男性であり、職業は――運送業といえば良いのか。
4人目に殺害されたのは、「中原妃星」という女性だった。――職業は、精神科医らしい。
そして、5人目に殺害されたのは――「原田裕司」という男性だった。職業は、医師……? もしかして、金崎医院で働いていたのか。
5人の遺体に共通して言えることは、やはり「殺害された時に心臓をくり抜かれている」ことであり、そのうえで――くり抜かれた場所は、縫合されている。
つまり、遺体は「心臓が抜かれていたこと以外に外傷らしい外傷が見当たらない」ということになる。犯人は、相当な知能犯なんだろうか? だとすれば、この事件はある程度の覚悟が必要になってくる。被害者の名前は「あかさたな」順に並んでいて、「金崎」を入れたら見事に「あかさたなは」まで揃うことになる。なんだ、そういうことか。――いわゆる「心臓のない遺体」に関して言えば、すぐに解決できそうだ。
問題は――やはり、犯人か。どういう目的があって遺体から心臓をくり抜いたかはさておき、犯人は「金崎家愛犬殺害事件」にも関与している可能性がある。
金崎家の愛犬は「モカ」という名前であり、さしずめ「金崎モカ」ということになるのか。生前の写真を見る限り、メスのミニチュアダックスフンドだったようだ。
しかし、モカちゃんは無惨な姿で殺されていた。殺された後の写真を見ると、腹は切り裂かれ、内臓はぐちゃぐちゃの状態だった。もしも私がジョン・ウィックなら、モカちゃんを殺した犯人に対して報復したいが――残念ながら、私は凄腕の殺し屋ではない。ただの売れない小説家である。――コホン。「心臓のない遺体」にしろ、「愛犬殺害事件」にしろ、やり方が酷いのは言うまでもない。仮に、2つの事件が同一犯だとしても、残虐極まりない。
あとは、「金崎瑠璃を犯した犯人」だけど――多分、この事件は2つの事件と別件だろう。
その証拠に、金崎瑠璃まだ生きている。となると、ここは「心臓」と「犬」を結びつけるべきか。私はそう思った。――スマホが鳴っている。
私は、スマホのロックを解除したうえで、メッセージを読んだ。メッセージの送り主は、西野沙織だった。
――ヒロロン、あれから事件について少しは進展した?
――アタシの方は、全然進展してないけど。
仕方ないな。私は思っていたことを彼女のスマホに送信した。
――これは私の考えだけど、「心臓のない遺体」と「金崎家の愛犬が殺された事件」は同一犯による犯行だと思う。
――でも、金崎瑠璃を犯した犯人は……2つの事件とはまた別件の話かもしれない。
――まあ、あんまり私の考えを鵜呑みにしない方が良いと思うけど。
これでいいか。既読はすぐに付いた。
それから、数分経って――西野沙織は私のメッセージに対して返信してきた。
――流石ヒロロンね。心臓の件と犬の件が同一犯だとは考えてもいなかったわ。
――でも、やっぱり瑠璃ちゃんを犯した犯人は分からずじまいなのね。
――うーん、困ったなぁ。
――まあ、アタシもアタシなりに考えるからさ。
――それじゃ。
メッセージはそこで終わっていた。――これ以上詮索しても、無駄だろうか。
そんな事を考えていると、お腹が空いた。冷蔵庫には何かあっただろうか? そう思った私は、冷蔵庫を物色したが……冷蔵庫には牛乳しか入っていなかった。これじゃあダメだ。
仕方がないので、渋々近くのコンビニへと買い物に向かい、とりあえず、おにぎりとラーメンを買って帰った。――自分で買っといてなんだけど、こんな食生活は不摂生だ。もう少しバランスの良い食事を心がけないといけないのに。
そして、おにぎりとラーメンを食べながら、改めて2つの事件について整理していく。
「心臓のない遺体」にしろ「犬殺し」にしろ、同一犯である可能性は十分考えられる。あとは、事件の犯人を探し出すだけだが――一体、どうしたものか。
いくらなんでも、この状況下で2つの事件の犯人について調べることは不可能に近い。ならば、ここは――大人しく警察に任せるべきだろうか。私はそう思っていた。
*
しかし、事態は思わぬところで急変するモノである。――スマホが短く鳴った。
時計を見ると、午後11時を少し過ぎた頃合いだったので、西野沙織からメッセージが送られてくることはあり得ない。この時間帯にスマホが短く鳴るということは、大抵の場合、ニュース速報である。
私はスマホのロックを解除して、通知欄の文字を読むことにした。
【神戸市内で心臓のない遺体見つかる 同一の手口による犯行としては6人目か 令和×年10月4日 神戸新報】
ニュース速報の見出しから察するに、見つかった遺体は「6人目の心臓のない遺体」であることは明確だった。
そして、私はニュースの記事――というか、被害者の名前を見て、悪い意味で心臓の鼓動が高鳴った。
――事件の被害者は神戸市内に住む女性、金崎友美(32)と見られる。
え? 金崎友美が――殺された?
急変した事態に、私の頭は混乱していた。一連の事件に金崎友美が巻き込まれるなんて、考えてもいなかったからだ。何なら、私は一連の事件について金崎友美が犯人だと疑っていたぐらいである。
となると、邪悪な殺人鬼は――和田岬の近くにいるのか。そう思った私は、急いで西野沙織のスマホにメッセージを送信した。
――沙織ちゃん、ニュース速報読んだ?
――友美さん、殺されたんだけど。
既読は速攻で付いた。そのうえで、メッセージが送られてきた。
――アタシも、そのニュース記事見たわよ?
――なんだか、大変な事態になっちゃったわね。
――当たり前の話だけど、これ以上アタシたちがこの事件に関わるのは止したほうが良いと思う。
私だってそう思う。――そういう旨のメッセージを、西野沙織のスマホに送信していく。
――確かに、そうかもしれない。
――ここは大人しく警察に任せるべきだと思う。
このメッセージだけで分かるだろう。既読が付いた後、彼女はシリアスな顔で頷くスタンプを送ってきた。とはいえ、100パーセント警察に任せっきりというのもあまり良い気はしないので――私は、バイクで御崎公園まで向かうことにした。
カーキ色のGショック(アナログ)を見ると、時刻は午後11時30分を少し過ぎようとしていた。
そんなことはどうでも良くて、私は眠りにつこうとしていた神戸の町をバイクで爆走していた。――当たり前の話だけど、三宮から少しでも離れると、辺りは真っ暗である。




