表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

第8話「村を襲う影」

この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。

ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。

どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。


出発まで、あと一日。


リクは宿で最後の準備をしていた。


荷物は、ほとんどまとまっている。


後は、明日を待つだけだった。


窓の外を見ると、夕暮れが広がっていた。


オレンジ色の空に、雲が流れている。


静かな夕方だった。


リクはベッドに座って、手のひらを見た。


想像具現。


無から有を生み出す力。


現界と虚界、両方の性質を持つ力。


セリナの言葉が、まだ頭に残っていた。


自分の力を、もっと理解したい。


学院へ行けば、それができる。


リクは窓を閉めようとした。


その時、外で鐘が鳴った。


一回、二回、三回。


警鐘だった。


リクは立ち上がった。


何かが起きている。


窓から外を見ると、人々が走っていた。


叫び声が聞こえる。


リクは部屋を飛び出した。


階段を駆け下り、宿の外へ出る。


村が、混乱していた。


人々が家から逃げ出し、広場へ集まっている。


子供が泣いている。


母親が叫んでいる。


男たちが武器を持って、村の入口へ向かっている。


リクは走った。


広場へ向かう。


そこに、ガロスがいた。


大きな身体が、人々の中で目立っている。


(リク)

「ガロスさん!」


ガロスが振り向いた。


(ガロス)

「リク、来たか」


(リク)

「何があったんですか」


(ガロス)

「魔獣だ。群れで村を襲ってる」


リクは息を呑んだ。


魔獣の群れ。


それも、村を襲うほどの数。


ガロスが剣を抜いた。


(ガロス)

「冒険者は全員、村の防衛に回れ!」


周囲にいた冒険者たちが、頷いた。


ダリウス、リナ、エリオもいた。


三人とも、武器を構えている。


ダリウスがリクを見た。


(ダリウス)

「リク、お前も来るか」


(リク)

「当然です」


リクは手を前に出した。


剣を思い描く。


感情を乗せる。


光が走った。


想像具現ブレード・ファントム


光の剣が、手の中で輝いた。


ガロスが先頭に立った。


(ガロス)

「行くぞ!」


一行は、村の入口へ走った。



村の入口には、柵が立てられていた。


だが、その柵が壊れている。


木材が折れ、地面に散乱していた。


その向こうに、魔獣がいた。


ウルヴァンだった。


だが、数が多い。


十匹、二十匹、それ以上。


黒い毛が銀色に光り、赤い目が村を見ている。


それらが、じりじりと近づいてくる。


ガロスが剣を構えた。


(ガロス)

「こんな数、見たことない」


ダリウスが横に並んだ。


(ダリウス)

「異常だな。ウルヴァンは、せいぜい五匹程度の群れだ」


リナが弓を引いた。


(リナ)

「何かが、群れを操ってる」


(リク)

「操ってる?」


(リナ)

「普通、魔獣は人間の村を避ける。それなのに、こんなに集まって襲ってくるなんて……」


エリオが杖を握りしめた。


(エリオ)

「虚界の影響、でしょうか」


全員が、エリオを見た。


(ガロス)

「虚界……?」


(エリオ)

「セリナさんが言ってました。虚界と現界の境界が薄くなってるって」


リクは思い出した。


セリナの言葉。


虚界の干渉が強まっている。


それが、魔獣に影響を与えているのか。


その時、ウルヴァンが動いた。


一斉に、村へ向かって走り出した。


ガロスが叫んだ。


(ガロス)

「来るぞ!」


ウルヴァンの群れが、柵の残骸を飛び越えてくる。


リナが矢を放った。


矢が一匹のウルヴァンの足に刺さる。


だが、止まらない。


そのまま走り続ける。


ダリウスが前に出た。


剣を振り、一匹を斬る。


ウルヴァンが倒れるが、すぐに次が来る。


リクは剣を構えた。


一匹のウルヴァンが、リクへ跳んだ。


リクは剣を振り上げた。


光の刃が、ウルヴァンの身体を斬る。


ウルヴァンが地面に倒れた。


だが、すぐに次が来る。


二匹、三匹と襲いかかってくる。


リクは剣を振り続けた。


斬って、受けて、また斬る。


息が切れる。


腕が痺れる。


だが、止まれない。


止まれば、村が襲われる。


エリオが杖を振った。


(エリオ)

「《光の壁》!」


光の膜が展開され、ウルヴァンを弾く。


その隙に、ガロスが剣を振るった。


一閃で、二匹を倒す。


だが、ウルヴァンの数は減らない。


次々と、森から現れてくる。


リナが叫んだ。


(リナ)

「きりがない!」


ダリウスが舌打ちした。


(ダリウス)

「何か、おかしい」


リクも感じていた。


これは、普通じゃない。


魔獣が、こんなに執拗に襲ってくることはない。


何かが、彼らを駆り立てている。


その時、森の奥で光が見えた。


赤黒い光。


それが、脈動している。


リクは目を凝らした。


光の中に、何かがいる。


人影のようなものが、立っている。


だが、人ではない。


身体が歪んでいて、輪郭が曖昧だった。


リクは息を呑んだ。


……虚獣だ。


イル=ヴァルで見た、あの虚獣。


あれが、ここにもいる。


そして、魔獣を操っている。


リクはガロスに叫んだ。


(リク)

「ガロスさん! 森の奥に何かいます!」


ガロスが視線を向けた。


(ガロス)

「……虚獣か」


(リク)

「あれが、魔獣を操ってる!」


(ガロス)

「なら、あれを倒せば止まる」


ガロスがリクを見た。


(ガロス)

「行けるか」


リクは頷いた。


(リク)

「行きます」


(ガロス)

「ダリウス、リナ、エリオ。リクを援護しろ」


三人が頷いた。


ガロスが続けた。


(ガロス)

「俺は、ここで魔獣を食い止める」


(リク)

「一人で大丈夫ですか」


ガロスが笑った。


(ガロス)

「俺を誰だと思ってる」


ガロスが咆哮を上げた。


それが、魔獣たちを怯ませる。


その隙に、リクたちは走った。


森の奥へ。


虚獣へ向かって。



森の中は、暗かった。


木々の影が濃く、月明かりも届かない。


だが、赤黒い光が道を照らしていた。


虚獣が放つ、不気味な光。


リクは剣を握りしめて、走り続けた。


ダリウスが横に並んだ。


(ダリウス)

「虚獣って、どんな敵だ」


(リク)

「物理攻撃が効きません」


(ダリウス)

「じゃあ、俺の剣は?」


(リク)

「多分、通用しません」


ダリウスが舌打ちした。


(ダリウス)

「なら、どうする」


(リク)

「俺の想像具現なら、効きます」


リナが弓を構えたまま走っていた。


(リナ)

「じゃあ、私たちは?」


(リク)

「援護をお願いします。俺が虚獣と戦ってる間、周囲の魔獣を」


エリオが杖を握った。


(エリオ)

「わかりました」


光が、近づいてきた。


開けた場所に出る。


そこに、虚獣がいた。


煙のような身体。


赤く光る目。


それが、リクたちを見た。


虚獣が咆哮を上げた。


音ではなく、波動。


それが、空気を震わせる。


リクは耳を塞いだ。


頭の中に、直接響いてくる。


虚獣が、地面を這うように移動してくる。


周囲には、ウルヴァンが数匹いた。


虚獣に操られた魔獣たちだ。


ダリウスが剣を構えた。


(ダリウス)

「魔獣は俺たちが!」


リナが矢を放った。


矢が一匹のウルヴァンに刺さる。


ウルヴァンが倒れた。


エリオが杖を振った。


(エリオ)

「《光の壁》!」


光の膜が、ウルヴァンを防ぐ。


リクは虚獣へ向かって走った。


剣を振り上げる。


虚獣が触手のような腕を伸ばしてきた。


黒い煙が、蛇のように襲いかかる。


リクは剣で受け止めた。


光と闇が、激しく交差する。


ガキィン、という金属音が響いた。


だが、これは金属同士の音ではない。


概念と概念が、ぶつかる音。


衝撃で腕が痺れる。


剣を握る手が、震えた。


だが、確かに防げている。


想像具現が、虚獣に通用している。


リクは押し返した。


光が強くなり、闇を押し戻す。


虚獣が怯む。


煙の身体が、後ろへ下がった。


その隙に、リクは剣を振り下ろした。


一閃。


光の軌跡が、虚獣の身体を斬った。


空気が裂ける音。


虚獣が悲鳴を上げた。


煙の身体が、裂けた。


切断面から、赤黒い何かが漏れ出す。


だが、それも煙になる。


そして、傷が塞がっていく。


再生していく。


リクは舌打ちした。


再生能力があるのか。


これでは、いくら斬っても意味がない。


虚獣が再び襲いかかってきた。


今度は、触手が二本、三本と増えている。


複数の触手が、同時に伸びてくる。


リクは剣を振り続けた。


一本目を斬る。


光が走り、触手が切れた。


二本目を避ける。


身体を捻り、触手をかわす。


三本目を受け止める。


剣で弾き飛ばす。


だが、切った端から再生していく。


触手が、また伸びてくる。


きりがない。


リクの呼吸が荒くなった。


体力を消耗している。


剣を維持するのにも、集中が必要だ。


意識が途切れれば、剣は消える。


そうなれば、虚獣に対抗できない。


リクは後退した。


距離を取る。


虚獣が追ってくる。


煙の身体が、地面を這うように動く。


速い。


リクよりも速い。


触手が、再び襲いかかってきた。


リクは横に飛んだ。


地面を転がり、立ち上がる。


だが、すぐに次の攻撃が来る。


触手が、リクの足を狙った。


リクは剣を地面に突き刺した。


光が広がり、触手を弾く。


だが、衝撃で剣が揺れた。


維持が、難しくなってきている。


集中が、途切れそうになる。


……このままじゃ、まずい。


リクは思考を巡らせた。


再生能力がある。


表面を斬っても、意味がない。


なら、どうする。


どうすれば、倒せる。


答えは、わからない。


だが、諦めるわけにはいかない。


村を守るために。


仲間を守るために。


リクは剣を握り直した。


もう一度、虚獣を見る。


煙の身体。


赤く光る目。


そして、身体の奥に見える、何か。


赤黒く、脈動している何か。


……あれは、何だ。


その時、エリオの声が聞こえた。


(エリオ)

「リクさん! 核を狙ってください!」


(リク)

「核?」


(エリオ)

「虚獣の身体の中心! そこに、赤く光るものがあるはずです!」


リクは虚獣を見た。


煙の身体の奥に、確かに何かが見えた。


赤黒く光る、球体のようなもの。


それが、脈動している。


あれが、核か。


リクは集中した。


剣に意識を込める。


もっと鋭く。


もっと強く。


一撃で、核を貫けるように。


刃が輝きを増した。


光が強くなる。


リクは踏み込んだ。


虚獣の触手を避け、身体の中心へ剣を突き出す。


刃が、煙を貫いた。


そして、核に届いた。


光が、核を包み込む。


核が、ひび割れていく。


虚獣が悲鳴を上げた。


それは、空間全体を震わせる叫びだった。


核が、砕け散った。


虚獣の身体が、崩壊していく。


煙が四散し、空気に溶けていく。


そして、消えた。


同時に、周囲のウルヴァンが動きを止めた。


操られていた魔獣たちが、正気に戻る。


それらは、混乱したように周囲を見回し、それから森の奥へ逃げていった。


リクは膝をついた。


息が荒い。


全身から、力が抜けていく。


剣が、消えた。


光の粒子が舞い、空気に溶けていく。


ダリウスが駆け寄ってきた。


(ダリウス)

「やったのか」


(リク)

「……はい」


リナが笑った。


(リナ)

「すごいじゃない」


エリオが杖を下ろした。


(エリオ)

「これで、村は安全ですね」


リクは立ち上がった。


身体が重い。


だが、終わった。


虚獣を倒した。


村を守った。


四人は、村へ戻った。



村の入口では、ガロスが立っていた。


周囲には、倒れたウルヴァンの死骸が散乱している。


ガロスは、一人で全て倒したようだった。


血まみれだが、笑っていた。


(ガロス)

「終わったか」


(リク)

「はい。虚獣を倒しました」


(ガロス)

「よくやった」


ガロスがリクの頭を撫でた。


大きな手が、温かかった。


村人たちが、広場から出てきた。


魔獣がいなくなったことに、安堵している。


子供たちが泣き止み、母親たちがほっとした顔をしている。


エリナが駆け寄ってきた。


(エリナ)

「みんな、無事でよかった!」


(リク)

「エリナさんも、無事で」


エリナが微笑んだ。


(エリナ)

「ええ。広場で避難してました」


ガロスが剣を鞘に収めた。


(ガロス)

「今夜は、ゆっくり休め。明日、学院へ出発だろ」


リクは頷いた。


明日。


新しい旅が始まる。


だが、今夜は最後の夜だった。


この村で、この仲間たちと過ごす、最後の夜。


リクは空を見上げた。


星が、輝いている。


知らない星座。


だが、もう見慣れた星空だった。


この星空の下で、自分は戦った。


仲間と共に、村を守った。


それが、誇らしかった。


リクは宿へ向かった。


明日のために、休もう。


そして、新しい旅へ。


学院へ。


帰る方法を探すために。


だが、ここでの日々を忘れることはない。


ノルデ村での、最初の冒険。


それが、自分の原点だった。


(了)

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

あなたの時間を少しでも楽しませることができたなら、それが何よりの喜びです。

また次の物語で、お会いできる日を願っています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ