表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/26

第25話「禁じられた血」

学院の庭園は、静かだった。


夕暮れの光が、木々を照らしている。


リクは一人、ベンチに座っていた。


明日から旅の準備が本格的に始まる。


一週間後には、出発。


七王家を巡る、長い旅。


(リク)

「……本当に、大丈夫かな」


呟く。


答えは返ってこない。


ただ、風が吹くだけ。


(ノヴァ)

「何が大丈夫じゃないんだ?」


背後から声がした。


リクは振り返った。


ノヴァが立っていた。


紅い髪が、夕日に照らされている。


(リク)

「お前か」


(ノヴァ)

「お前、最近よく一人で考え込んでるな」


ノヴァは隣に座った。


(ノヴァ)

「何か悩みか?」


(リク)

「悩みって言うか……」


リクは空を見上げた。


オレンジ色の空。


(リク)

「本当に帰れるのかなって」


(ノヴァ)

「帰れる」


ノヴァは即答した。


(ノヴァ)

「お前なら、絶対に帰れる」


(リク)

「なんで、そんなに断言できるんだ」


(ノヴァ)

「お前の力を見てるから」


ノヴァは掌を開いた。


そこには、蒼銀の光痕がある。


(ノヴァ)

「想像具現。それは、世界を変える力だ」


(リク)

「でも、俺まだ不安定で……」


(ノヴァ)

「不安定で当たり前だ」


ノヴァは笑った。


(ノヴァ)

「完璧な奴なんていない。俺だって、五年前に暴走した」


(リク)

「……」


(ノヴァ)

「でも、お前は俺より強い」


(リク)

「強い?」


(ノヴァ)

「帰る場所がある」


ノヴァは空を見上げた。


(ノヴァ)

「それが、お前の強さだ」


リクは黙った。


帰る場所。


家族。


日本。


それは、確かにある。


でも——


(リク)

「お前は?」


(ノヴァ)

「俺?」


(リク)

「お前には、帰る場所ないのか?」


ノヴァは少し考えた。


(ノヴァ)

「……なかった」


(リク)

「なかった?」


(ノヴァ)

「ああ。俺、北界の落胤だから」


ノヴァは目を伏せた。


(ノヴァ)

「七王家ノースフィールドの、捨てられた子供」


リクは息を呑んだ。


(リク)

「捨てられた……」


(ノヴァ)

「ああ。母親は使用人、父親は貴族。でも、認知されなかった」


ノヴァは拳を握った。


(ノヴァ)

「落胤。私生児。血は継いでるけど、名は継げない」


(リク)

「……」


(ノヴァ)

「だから、北界には居場所がなかった」


ノヴァは目を閉じた。


記憶が、蘇る。


雪の降る屋敷。


冷たい廊下。


誰も声をかけてくれない、孤独な日々。


(ノヴァ)

「五歳の時、初めて具現を発動した」


(リク)

「五歳……早いな」


(ノヴァ)

「七王家の血だからな。でも、それが問題だった」


ノヴァは拳を握った。


(ノヴァ)

「紅い具現。それは、父親と同じ色だった」


(リク)

「……それで」


(ノヴァ)

「認知を迫られた。母親が、俺を連れて屋敷に乗り込んだ」


ノヴァは笑った。


自嘲的な笑み。


(ノヴァ)

「でも、父親は否定した。『落胤など知らん』って」


(リク)

「……」


(ノヴァ)

「その場で母親が泣き崩れて、俺は……ただ立ってた」


ノヴァは空を見上げた。


(ノヴァ)

「何も言えなかった。何もできなかった」


(リク)

「それから?」


(ノヴァ)

「屋敷を追い出された。母親は病んで、俺は一人になった」


ノヴァは目を伏せた。


(ノヴァ)

「十歳の時、母親が死んだ。それから、ずっと一人だ」


リクは胸が締め付けられた。


ノヴァの孤独。


それは、想像を絶する深さだった。


(ノヴァ)

「だから、北界には帰りたくなかった」


ノヴァは笑った。


(ノヴァ)

「皮肉だろ。創造の血を継ぎながら、自分の居場所は創れなかった」


リクは胸が痛んだ。


ノヴァの孤独。


それは、想像以上に深い。


(リク)

「それで、学院に来たのか」


(ノヴァ)

「ああ。ここなら、血じゃなくて実力で評価される」


ノヴァは学院を見た。


白い塔が、夕日に染まっている。


(ノヴァ)

「研究すれば、認められると思った」


(リク)

「でも……」


(ノヴァ)

「暴走した。紅の具現が制御不能になって、学院を壊した」


ノヴァは目を閉じた。


(ノヴァ)

「結局、また捨てられた」


(リク)

「捨てられてない」


リクはノヴァを見た。


(リク)

「セリナさんは、待ってる」


(ノヴァ)

「……知ってる」


(ノヴァ)

「でも、会えない」


(リク)

「なんで?」


(ノヴァ)

「怖いんだ」


ノヴァは拳を握った。


(ノヴァ)

「拒絶されるのが、怖い」


(リク)

「拒絶なんて……」


(ノヴァ)

「するだろ。俺、あいつを傷つけたんだから」


ノヴァは立ち上がった。


(ノヴァ)

「俺の紅い具現が暴走して、あいつは瓦礫の下敷きになった」


(リク)

「……」


(ノヴァ)

「重傷だった。治るのに半年かかった」


ノヴァは空を見上げた。


(ノヴァ)

「それから五年間、あいつは俺のせいで苦しんでる」


(リク)

「でも、セリナさんは……」


(ノヴァ)

「許してないだろうな」


ノヴァは笑った。


(ノヴァ)

「当たり前だ。俺、あいつの人生を壊したんだから」


リクは立ち上がった。


(リク)

「それ、本当にそう思ってるのか?」


(ノヴァ)

「……何?」


(リク)

「セリナさんが、お前を許してないって」


ノヴァは黙った。


(リク)

「俺には、そう見えない」


(ノヴァ)

「……」


(リク)

「セリナさん、お前のこと今でも待ってる。許してないなら、待たない」


ノヴァは目を見開いた。


(リク)

「昨日、セリナさんが言ってた。『ノヴァ、まだ生きてるの?』って」


(ノヴァ)

「……聞いてたのか」


(リク)

「聞こえた。お前の波長と繋がってるから」


リクはノヴァの肩を掴んだ。


(リク)

「セリナさんは、怒ってない。悲しんでるんだ」


(ノヴァ)

「悲しんでる……」


(リク)

「お前が消えたことを、お前に会えないことを」


ノヴァは俯いた。


その肩が、小さく震えている。


(ノヴァ)

「……でも」


(リク)

「でも、何だ?」


(ノヴァ)

「俺、まだ不安定なんだ」


ノヴァは掌を開いた。


そこには、淡い光痕がある。


(ノヴァ)

「お前の想像具現で現界したけど、完全じゃない」


(リク)

「……」


(ノヴァ)

「いつ消えるか分からない。そんな状態で、あいつに会えない」


ノヴァは拳を握った。


(ノヴァ)

「会って、また消えたら……あいつ、もっと苦しむ」


リクは黙った。


ノヴァの気持ちが、分かった。


優しさだ。


セリナを傷つけたくない。


だから、会えない。


(リク)

「……なら、安定させよう」


(ノヴァ)

「安定?」


(リク)

「お前を、ちゃんとこの世界に存在させる」


リクはノヴァを見た。


(リク)

「北界に行けば、方法が分かるかもしれない」


(ノヴァ)

「北界……」


(リク)

「お前の故郷。創造の理が残ってる場所」


ノヴァは少し考えた。


(ノヴァ)

「……確かに、ノースフィールドには古い研究資料が残ってる」


(リク)

「なら、それを使おう」


(ノヴァ)

「でも、俺は落胤だ。あそこに戻ったら……」


(リク)

「俺が一緒に行く」


リクは手を差し出した。


(リク)

「仲間だろ。クロスライト」


ノヴァは少し迷った後、その手を握った。


温かかった。


確かに、実体がある。


蒼銀の光が溢れる。


二人の絆が、また深まった。


(ノヴァ)

「……ありがとう」


(リク)

「礼はいらない」


二人は笑い合った。


夕日が沈んでいく。


空が、赤から紫へと変わる。


(ノヴァ)

「なあ、リク」


(リク)

「ん?」


(ノヴァ)

「お前、なんで俺に優しいんだ?」


リクは少し考えた。


(リク)

「……似てるから」


(ノヴァ)

「似てる?」


(リク)

「お前と俺」


リクは空を見上げた。


(リク)

「どっちも、居場所を探してる」


(ノヴァ)

「……」


(リク)

「俺は元の世界に帰りたい。お前は、この世界で居場所が欲しい」


リクはノヴァを見た。


(リク)

「違うようで、同じなんだ」


ノヴァは目を見開いた。


(ノヴァ)

「……そうか」


ノヴァは笑った。


今度は、温かい笑顔だった。


(ノヴァ)

「なら、お互い様だな」


(リク)

「ああ」


(ノヴァ)

「でも、北界に戻るのは簡単じゃない」


(リク)

「何か問題が?」


(ノヴァ)

「ノースフィールド家は、落胤を認めない。俺が戻ったら、追い出される」


(リク)

「追い出されても、資料だけは見られるだろ」


(ノヴァ)

「……資料庫は、血統者しか入れない」


(リク)

「血統者……お前も血は継いでるんだろ?」


(ノヴァ)

「でも、名がない。名がなければ、血統者として認められない」


ノヴァは拳を握った。


(ノヴァ)

「だから、潜入するしかない」


(リク)

「潜入?」


(ノヴァ)

「ああ。夜に忍び込んで、資料を盗む」


リクは少し考えた。


(リク)

「……それ、危険じゃないか?」


(ノヴァ)

「危険だ。でも、他に方法がない」


(リク)

「なら、俺も一緒に行く」


(ノヴァ)

「お前、巻き込みたくない」


(リク)

「仲間だろ。一緒に行く」


ノヴァは目を見開いた。


(ノヴァ)

「……ありがとう」


二人は再び手を握った。


蒼銀の光が、庭園を照らす。


その光は、優しかった。


温かかった。


希望の色だった。


光が消える。


星が見え始めた。


夜が来る。


でも、二人は怖くない。


共にいるから。


光を交わしているから。


(ノヴァ)

「なあ、リク」


(リク)

「ん?」


(ノヴァ)

「お前が元の世界に帰ったら、俺どうなる?」


リクは少し考えた。


(リク)

「……分からない」


(ノヴァ)

「消えるかもな」


(リク)

「消えない」


リクは強く言った。


(リク)

「北界で、お前を安定させる。完全に、この世界に存在させる」


(ノヴァ)

「それ、できるのか?」


(リク)

「やる。絶対に」


リクは拳を握った。


(リク)

「お前は、俺の仲間だ。消させない」


ノヴァは目を細めた。


(ノヴァ)

「……強いな、お前」


(リク)

「強くない。ただ、仲間を失いたくないだけ」


ノヴァは笑った。


(ノヴァ)

「それが、強さだ」


二人は立ち上がった。


星空の下、並んで立つ。


(ノヴァ)

「じゃあ、約束だ」


(リク)

「約束?」


(ノヴァ)

「北界で、俺を安定させる。そしたら、セリナに会う」


(リク)

「……うん」


(ノヴァ)

「それから、お前を元の世界に帰す」


(リク)

「ああ」


二人は手を握った。


蒼銀の光が、再び溢れる。


それは、誓いの光。


約束の光。


未来への光。


光が消えた。


静寂が戻る。


でも、二人の心は満たされていた。


約束ができたから。


道が見えたから。


(リク)

「……帰ろう」


(ノヴァ)

「ああ」


二人は庭園を出た。


星が、二人を見送る。


そして、風が吹く。


優しい風。


それは、祝福の風。


二人の約束を、運んでいく風。


リクとノヴァの絆は、また深まった。


禁じられた血を継ぐ者と、異世界から来た者。


二人は、似ていた。


孤独を知っていた。


居場所を探していた。


だから、共鳴した。


光を交わした。


そして今、約束した。


北界で、全てを決める。


ノヴァの存在を確立する。


そして、リクを帰す。


それが、クロスライトの誓い。


星空は、その誓いを見守っていた。


静かに、優しく。


そして、未来を照らしていた。


夜が、深まっていく。


学院は眠りについた。


でも、二人の心は眠れない。


明日から始まる、準備のことを考えていた。


一週間後の、出発のことを考えていた。


そして、北界のことを考えていた。


ノヴァの故郷。


創造の理が眠る場所。


そして、全てが決まる場所。


二人は、それぞれの部屋に戻った。


でも、心は繋がっている。


蒼銀の光で、繋がっている。


その光は、消えない。


二人が信じ合う限り、永遠に灯り続ける。


月が昇る。


その光が、学院を照らす。


静かに、優しく。


そして、二人を見守る。


未来へ向かう、二人を。


庭園には、誰もいない。


でも、余韻が残っている。


蒼銀の光の、残響。


それは、ゆっくりと消えていく。


でも、完全には消えない。


いつか、また灯る日まで。


夜が、静かに更けていく。


でも、物語は動き始めた。


北界へ。


過去へ。


そして、未来へ。


全てが、繋がり始めた。


(了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ