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第9話 ペンケースと莉乃の武術

 朝日が降り注ぎ、まだ重い瞼とともに起きると、西園さんが部屋にいてカーテンを開けていた。庭に植わる大木の葉は深緑に染まっている。




「あ、西園さんおはようございます」




「おはようございます。湊様、お時間の確認していただけますか?」




 デスクに置いてあるスマホを確認すると、七時半を指していた。今日はデパートに行ってペンケースを買い、その後りのっちに武術を習う予定だ。今から買い出しに行けば、昼頃には戻れる。




「食堂には莉乃様と真白様がいらっしゃいますよ」




 二人を待たせるわけにはいかない。俺は急いで部屋を出て、花瓶の清掃や階段の清掃をしているメイドさんたちに挨拶をしながら食堂へ向かうと、テーブルにはすでにご飯とお味噌汁、焼き鮭、キャベツの千切りときんぴらごぼうといった朝食の理想形が用意されていた。




「おはよー、みなっち」




「おはよう、湊」




「二人ともおはよう」




 朝食をりのっちたちと済ませて西園さんに用意してもらった服に着替える。この時間が昨日の朝までの俺だったら憂鬱だったが今は違う。晴れ晴れとした気分で迎えられた。




「みなっちー、もう行くよー」




夏らしくひまわり色のワンピースにショルダーバッグを掛けたりのっちと淡い水色のワンピースを着た真白が俺の部屋に呼びに来る。エントランスホールには、西園さんを含めたメイドさんたちがいた。




「行ってらっしゃいませ」




 メイドさんたちに見送られたあと、リムジンにりのっちと真白と西園さんと乗る。りのっちは朝に弱いのか、大きなあくびをしてシートにもたれた首がカクンと俺の肩に落ちた。りのっちの髪の毛から、ふわっとフルーティーな匂いが香る。




 デパートまでの長い道のりの間、この状態のままだった。




「莉乃、起きなさい。デパート着いたわよ」




「あれ~? パンケーキは~?」




「どこにあるのよ、パンケーキなんて」




 目を覚ましたりのっちは、夢の中でパンケーキを食べていたようだ。目を擦り、大きく伸びの姿勢をとる彼女に呆れる真白。




 車から降り、デパートの5階にある文房具売り場へ向かう。この売り場には、ありとあらゆる文房具が売られている。ペンケース一つでも、お店を開けるレベルだ。




「みなっちー、これとかいいんじゃない?」




 りのっちが手に取ったのは、パンダのペンケース。今までシンプルなペンケースしか買ったことない俺は、動物のペンケースという選択肢すらなかった。心機一転、こういうのもかもしれない。




「パンダ可愛いし、それにしよう」




「湊が、パンダのペンケース…ぷっ可愛い」




 真白に馬鹿にされたのか分からないが、否定はされなかった。




 その後、西園さんに頼まれた買い出しに付き合い、車に戻る。




「湊様は、午後から莉乃様と武術の稽古ですよね?」




「はい」




「気をつけてくださいね」




 何か含みのある言い方が気になった。しかし、その意味は、稽古を始めるときにすぐに思い知ることとなる。


 


「ましろんの家ってこっちで合っているよね?」




「ええ、合っているわ」


 


 今、真白を家に送っているところ。日曜日に家族で予定があるらしい。




「またね、莉乃、湊」




 真白を家に送ったあと、星宮家へ戻る。星宮家の地下に武道場があるらしく、午後から一日、そこで稽古をつけてくれる。




「ここが武道場、今からうちが鍛えてあげる」




「よろしく、りのっち」




 挨拶をすると、りのっちに喝を入れられる。




「ここではりのっちじゃなくて、莉乃先生と呼びなさい。いいかい、湊くん」




 妙に誇らしげな顔をする莉乃先生。




「は、はい。莉乃先生」




 道着に着替え、気分は完全に上がっていた。しかしここから、莉乃先生による地獄の強化訓練が始まった。


 


「今から湊くんに教えるのは合気道です」




「合気道?」




「そう。合気道っていうのは、相手の攻撃をかわして抑えるって感じ。相手を傷つけるのが目的じゃないからね」


 


 なるほど。武術って相手への攻撃手段のイメージが強かった。真白と莉乃先生の二人のことを守りたいのであれば、合気道はぴったりか。




「ってことで、湊くん。私の攻撃をかわしてみて」


 


「は?」




 俺が戸惑っていることなど、知ったことじゃないかのように、莉乃先生の右手は俺の首元めがけて迫ってくる。


 


「ちょっ!?」


 


 俺はバランスを崩し、後ろに倒れる。莉乃先生の目は、本気で俺を狙っていた。天真爛漫な星宮莉乃ではなく、師としての星宮莉乃の目。彼女が本気で俺に向き合ってくれているんだ。俺が全力で行かなくてどうする。




「今みたいに武術の基礎がなっていないと対応すらできないの。試しにうちの襟を掴んでみて」




「こんな感じですか?」




「もっとしっかり掴んでいいよ」




 もう一歩莉乃先生に踏み込むと目が合う。なんだか恥ずかしい。




「みなっち、顔が近い」




「ごめん」




 再度、教わったかたちをつくった次の瞬間、俺の視界は逆さまになった。一瞬のことで自分が何をされたのか分からなかった。




「びっくりした? これが小手返しって技ね」




 莉乃先生によると基本の技で、俺も稽古をすれば習得は可能らしい。ぜひとも覚えたいものだ。




 そこからの俺は莉乃先生の稽古に夢中で時間を忘れて本気で取り組んだ。




「お疲れ様。今日はここまでにしよっか」




 昼から夜にかけて行われた強化訓練の初日の手応えはまずまずだったが、次回からが本番といった感じか。




―――――――――――――――――――――




読んでいただきありがとうございます!




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