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第7話 ディナーとハプニング

 俺は政信さんと食堂へ向かう。ディナーを共にしようと誘われたため、二つ返事で受けた。


 食堂には、食事を終えた真白とりのっちが談笑していた。その姿は友達としてではなく、二人がお嬢様だと改めて認識させられるような所作と雰囲気だった。


「あ! みなっちー、パパも一緒なの?」


「黒橋くんと食事をしながらお話をしたいと思ってね」


 純白のダイニングテーブルの中央に政信さんは腰を下ろす。俺はどこに腰をかければいいのか分からずに立ち尽くしていた。


「みなっちー、迷っているなら、ましろんとうちの間に座りなよ、ほら」


「はい、湊、席空けておいたわ。早くしなさい」


 りのっちと真白の間にある空席に来るように俺を促す。


 ヴィンテージを彷彿させるハイバックチェアに腰をかけるとメイドさんたちが俺と政信さんの前に料理を出す。今夜はバゲットと鮭のムニエルだ。


 鮭のムニエルは、今まで食べたどんな料理よりも美味しかった。ここで、食事できるのは幸せ以外に例える言葉が見つからない。


「ごちそうさまでした」


 食事を終えると俺のお腹と心は幸福でいっぱいだった、食事の後は勉強して明日の授業の予習をしようと思っていたが、どうでもよくなるほど満足度が高かった。


「みなっち、テーブルマナーとかよくできていたよ。何か習っていた?」


「私も驚いたわ。湊、私の家でテーブルマナーとか教えたかしら?」


「中学の時、マナー教室の体験会みたいなイベントに参加したんだ。その時に鮭のムニエルが出てきて、たまたま覚えていただけ」


「たまたま覚えていたとは、なかなかの記憶力だね、黒橋くん。そんな君なら、いろいろなことをおじさんが教えちゃうぞ」


 政信さんのユーモラスっぷりに、りのっちは呆れるようにため息をこぼす。食堂の時計を見ると午後十時を指していた。


 深夜を担当するメイドさんと交代していく人が多い。ふと、西園さんのことが気になり辺りを見回すが、姿は見当たらない。


「もうこんな時間か。莉乃、黒橋くんを浴場へ案内してあげなさい」


「はーい、みなっち、こっちだよー」


 りのっちに案内され、長い廊下を抜けると脱衣所が現れる。星宮家のロッカーからメイドさんのロッカーまで用意されていた。執事がいないりのっちの邸宅では、男性用に別の脱衣所を設けることなどないよな。


「適当なロッカー使っていいよー」


「ありがとう、じゃあこのロッカー使わせてもらおうかな」


 木製のロッカーを開けると、ブラジャーやパンツが視界に入る。反射的に扉を閉めて、一歩後ろに下がった。


「どうしたの、みなっち。何かいけないものでも見ちゃったのかな?」


 りのっちの目には、いたずら心が宿っていた。悪意ではなく俺の反応を楽しんでいる。口元を押さえて、歯を見せないように笑っているが、笑った時にできるシワでばればれ。


「どうしたじゃなくて、女性もの入っているって! りのっちのロッカーなら先に言ってよ」


「あはは! みなっちの反応が見たくてさ。でも、うちのロッカーじゃないよ」


「じゃあ誰の――」


 この下着は誰のものなのか、そんな情けない質問をして、りのっちに確かめようとしたが所有者はすぐに分かった。


「莉乃様、湊様、騒々しいですよ」


 大浴場の中から、聞き覚えのある声が反響して脱衣所まで届く。


「西園さん!? ごめんなさい、何でもないです」


 速やかに脱衣所から退散しようとするが、りのっちのいたずらは、まだまだ続く。


「みなっちが、お風呂入りたいらしいから入れてあげてー」


「何言ってるの! やめてよ、りのっち」


 ここで「入りまーす」、なんて言ってしまうと俺はただの変態になってしまう。早く彼女の口を塞がないといけない。


 りのっちの笑い声が脱衣所や大浴場に響き渡る。半分俺は諦めていた。彼女を止めることなどできないと。


 西園さんも俺たちに付き合いきれなくなったのか、シャワーを流す音が聞こえてきた。しかし、予想と反した答えが返ってくる。


「湊様、どうぞお入りになってください」


「いやいや、後で入るので大丈夫ですって、西園さんはゆっくりしていてくださいよ」


「早急にお入りになってください」


 西園さんに気を遣ったつもりで言ったが、西園さんは納得してくれていないようだった。


 りのっちと真白はメイドさんたち全員の入浴が終わってから入るらしい。俺は二人の後でもと思ったが、りのっちが許してくれなかった。


 入浴最後のメイドさんが西園さんなので、今しか入るタイミングがなかった。


「入ります」


―――――――――――――――――――――


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