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第5話 星宮家へ

 目が覚めると、俺はりのっちの膝の上で寝ていたことに気づいた。リムジンはまだ静かに走行を続けていた。


「おはよう。みなっち、よく眠れたかな?」


 りのっちは櫛を手に持っており、優しく落ち着いた声で俺の頭を撫でる。きっと寝ている間に俺の髪の毛を整えてくれていたのだろう。


「お、おはよう、りのっち」


「って言っても、今は夜の八時三十分だけどね」


 ケーキを食べていたのが七時、食べ終えて迎えに来てもらったのが七時三十分。いろいろ計算すると三十分は眠っていたということか。


「りのっち、膝痛くなかった? ずっとこのままだったよね」


 体を瞬時に起き上がらせて、彼女の膝を確認する。大企業のお嬢様に膝枕させて膝に何かあったら大問題になってしまう。


「みなっち、心配しすぎだって。痛いところなんてないよ」


 りのっちはスカートをめくり、膝を見せる。


「赤くなっているけど、みなっちの頭の跡だからね」


 彼女の真っ白な肌をしている膝に、俺が寝ていたであろう跡がくっきりと残っていたが、それ以外は何もなかった。


「起きたのね、湊」


 真白はメガネをかけて読書に集中していた。ページを捲る手を止め、メガネを外す。


「もう落ち着いた?」


「うん、もう大丈夫。泣いて寝たらすっきりした、ありがとう」


 あれ? 今八時なんだよな。学園の寮ってたしか門限が八時だと特例入学者用のパンフレットに書いてあった気がした。顔や背中に冷や汗をかく。


(やばい、早く帰って事情を説明しないと! でもどう説明するんだ? 遊びに行っていました? だめだ、他には……)


「どうしたの? 湊、急に目をキョロキョロさせて」


「寮の門限過ぎちゃった……どうしよう」


 俺の焦りを気にしていないのか、真白がクスっと笑いをこぼした。


「湊のスマホに、学園長から電話がかかってきたわ。私が代わりに出たけど」


「怒っていたよね?」


 学園長を敵に回すのは怖い。この学園には理事長もいるが、俺はまだ見たこともない。入学式の時も理事長は不在だったため、本当に存在するのか、と疑うレベルだ。


「電話に出た時は怒っていたわね。でも湊は今日から、莉乃の家と私の家で彼の面倒を見ますって言ったら、二つ返事で了承を得たわ」


 俺は真白が上手く対応してくれていたことに安心した。そうか、今日から真白とりのっちの家で暮らせばいいのか……ん?


「今日から真白とりのっちが面倒を見る? ってどういうこと?」


「どういうことも何も、そのままの意味よ。湊、今日から私の家と莉乃の家を使いなさい。今後は学園の寮なんて使わなくていいわ」


「そういうことー、だからみなっち、今日からよろしくねー」


 俺が寝ていた間に何が起きたんだ。急に話が進んで、寝ぼけている俺の頭は、真白が言ったことを全て理解するのに時間がかかった。


 今後、俺は学園の寮を使わないで、真白とりのっちの家で暮らすことになった? という認識でいいのだろうか。


「でも、急に俺が来たら、びっくりするんじゃないか?」


「湊がそう言うと思って、もうお父様には伝えてあるわ」


「もちろん、うちのパパにも伝えたよー、莉乃の好きにしなさいって言っていたから、多分大丈夫でしょ」


 真白のお父さんは俺のことを知っているどころか、推薦状を書いてくださった方だから分かる。しかし、りのっちのお父様は、知らない男を家に上げてもいいのか? 不安は残るが、とにかく受け入れてくれたことには感謝しないといけない。


 気づけば、りのっちの家の前に着いた。いや、邸宅と表現するのが相応しい。周りの住宅も、俺から見たら豪邸レベルだが、一邸だけ庭の面積が違いすぎていた。


 運転手さんが俺たち三人を降ろすと、リムジンを星宮家の地下にあるガレージに入れる。


「着いたー、みなっち早く行こ! うちが家の中を案内してあげる!」


 俺と真白は、りのっちに導かれるように、星宮家の邸宅に足を踏み入れた。


 そびえ立つ白い大理石の邸宅は、月の光を浴びて青白くなっていた。庭の大きな池には鯉が優雅に泳いでいて、月を反射している。


「ただいまー」


 巨大な両開きの扉を開けると、その先にはエントランスホールが広がっている。中央階段から左右に続く階段、このエントランスホールだけですでに俺の家の倍以上はあるだろう。


「おかえりなさいませ、莉乃様」


 ホールから中央階段まで、十人以上の星宮家のメイドさんたちが、整然と並んでいる。その光景に俺は圧倒された。


「真白の家もメイドさん多いけど、これって普通なの?」


「莉乃の家なら、これくらいは普通ね」


 確かに、庭の手入れ、邸宅内の清掃、食事の配膳、その他にも仕事があるから人数が多いのは普通かもしれない。


「みんなただいまー、今日はね、ましろんを連れてきたんだ。もう一人いるの。ましろんと同じく明聖学園で同じクラスの黒橋湊くん」


 りのっちに紹介された俺は、メイドさんたちに頭を下げる。


「黒橋湊です、よろしくお願いします」


 顔を上げるとメイドさんたちは互いに顔を見合わせて何やらヒソヒソと話していた。しかし、何かを納得したのか、もう一度姿勢を正す。代表をして一人のメイドさんが俺に微笑みながら、声をかける。


「はじめまして、西園美亜と申します。星宮家のメイド長を務めております。湊様のことは莉乃様からお話は伺っております。お部屋へご案内しますので、私についてきてください」


 二十代前半といった顔つきで、その立ち居振る舞いは、泰然自若としていた。


 俺は西園さんに言われるがまま従おうとした。その時、りのっちが俺の手を強く握る。


「美亜、だーめ。うちが案内するって約束したの」


「莉乃様と真白様はお食事の準備が整っておりますので、食堂へどうぞ」


「ねーえ、お願いお願い」


「みんな、莉乃様を連れていって」


 西園さんは、駄々をこねるりのっちを軽くあしらい、りのっちは、他のメイドさんたちに食堂へ連れていかれた。真白は俺に小さく手を振り、食堂へと姿を消した。


―――――――――――――――――――――


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