第11話 白銀家へ
「真白の家、なんか雰囲気変わったか?」
りのっちの家と同等の大きさの豪邸。漆黒に染まる外壁は、辺りの色鮮やかな住宅を凌駕するほど目を引く。
真白の家は由緒正しい和を基に設計されている。内装も木目がくっきりと浮き出ている床に、仏間もあり、今の時代では珍しい螺子締まり錠を取り入れている。真白のお母さんの好みらしい。
「湊坊ちゃん、気づくのが早いですね。内装を改装いたしました」
紫月さんが改装前の写真と改装後の写真フォルダを見せてくれた。改装前は重た目の黒だったが、今は茶色みがかって、少し明るさを感じさせる。
「ふーん、そういうところは気づくんだ」
「え?」
真白がなぜか拗ねた表情をする。何か怒らせるようなことをした覚えはない。それとも、俺が真白の変化に気づいていないだけか?
俺はそんなことを考えながら、ダイニングに向かった。ダイニングには真白のお母さん、春美さんが夕飯の準備をしている姿。白銀家にはメイドさんは数多くいるが、料理担当のメイドさんはいない。
春美さんが料理が得意なので、自らがキッチンに立つらしい。夜な夜なメイドさんと夜食を共にすることもあるとのことだ。
「あら、湊くん!久しぶりね」
「お久しぶりです、春美さん」
俺たちの足音が聞こえたのか、そう言いながら、春美さんは切りかけの玉ねぎを持ちながら振り返る。
「お母様、本日の夕食は……」
「今日はね、天ぷらよ。でも、れんこんとかぼちゃがなくて。真白、悪いんだけど買ってきてくれない?紫月もついて行ってあげて」
「かしこまりました。真白様、行きましょう」
紫月さんは、肩についているほこりを払いながら、真白に手を差し伸べる。しかし、真白からの反応がない。
「紫月。悪いんだけど、私、湊と行くわ。いいかしら?」
「構いませんよ。せっかく二人きりになれるのですからね。それに、もうすぐ日が暮れてしまいますから。お願いしますね、湊坊ちゃん」
紫月さんは、含みのある言い方と笑みを浮かべる。夜に女性を一人で外に出させるな、という圧が出ているのは、言うまでもない。こうなっては断ろうにも断れない。
「わ、分かりました」
ここは素直に従っておこう。俺と真白は近所の八百屋へと足を運んだ。れんこんとかぼちゃの他にも、いくつか天ぷらにしたら美味しそうな野菜を見繕ってもらった。少しばかり買いすぎてしまった、と買い物袋を手に取った時に後悔した。
「ねえ、湊。あの時の約束覚えているかしら」
帰路に就く中で真白がふと、消えてしまいそうな声で聞いてきた。
「あの時?」
いつのことだろうか。真白とした約束なら忘れないと自負していたが、今のところ真白と何か約束をした覚えはない。
「忘れているなら、教えてあーげない」
「えー、頼むよ。教えてよ、俺どんな約束したの?」
「大事な約束を忘れている大馬鹿湊にヒント。小学生」
ひどいあだ名を付けられてしまった。多分、真白が俺を誘った理由は、その約束のことだ。何とかしてその約束のことを思い出さないと。小学生のころにした約束……春美さんなら、何か知っているかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら、月明かりが僅かに差す街道を歩く。
「おかえりなさいませ、真白様、湊坊ちゃん」
「馬鹿湊のことはいいわ。それより紫月、話があるから私の部屋に来なさい」
「はい」
流れるように罵倒されるのを見逃しそうになった。紫月さんと真白は去ってしまった。あそこまで語気の強い真白は久しぶりに見た。俺はきっととんでもないことを忘れている。
「春美さん、かぼちゃとれんこん買ってきました。他にも買ってきました」
「おかえり、湊くん。あら、真白は?」
「それがですね……」
俺は帰り道に真白に言われたことを春美さんに事細かに話した。
「ふふふ。あの子、覚えていたのね」
「え?何のことなのか知っているんですか?」
「今の話聞いただけで私は分かったわ。真白と同じ解答が出来るわ。もう一つヒントをあげる。大人」
小学生、大人。これは是が非でも答えにたどり着かなくてはいけない。俺の心がそう言っている。
「春美さん、今日の天ぷら、俺が揚げていいですか?」
「いいけど、湊くん料理出来るの?」
まるで五歳くらいの子どもに問いかけるような口調だ。だが、俺は中学生になって料理の素晴らしさに気づいた。天ぷらなら何度も揚げてきた。
「出来ますよ。それに、思い出すためには料理している時が集中しやすいので」
春美さんは、きょとん、とした顔をした後に、俺の肩に手を置く。
「じゃあ、湊くんの言葉に甘えて、お願いしようかしら」
春美さんはエプロンを俺に渡して、キッチンから出て行った。
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