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おみぐす  作者: 不知火
2/6

夏風



蒸し暑い夏の夜。シャツに張り付いた汗が気持ち悪く感じた俺は汗だくのシャツを脱いだ。


部屋のエアコンは壊れてる。軍を辞め、貯蓄で暫く生活するには節約も大事だ。


窓を開け、ベランダに足を出す。田舎の田舎、見渡す限り稲と道路だけが残った場所。住宅の灯り一つ立っていないのは、住人のほとんどが老人で寝るのが早いからだろう。


「水シャワーでも浴びるか。」


体から思わず蒸気が出そうなほどに熱くなった体温を冷ますため風呂場に向かう。


シャーー 冷たい水が熱で沸騰しそうな髪の温度を解かしていく。


ふーーっ。 俺は夏場の唯一のオアシスとも呼べるこの時間が好きだ。


シャワーを終えて俺は服を着ずにベッドに倒れた。今はまだ気持ちいいが、どうせ1時間もすればまたこの暑さに苦しめられる。


「明日は涼しい所に行こう。」


市営の図書館はクーラーが効いているだろうか?夏のプールも良いな。俺は起きてから何処に行こうか、と考えているうちに再び睡魔が誘う。


ーーーーーー



ぴん、ぽーーん! 


ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴんぽーん!


俺はそのうざいほどに連打されたインターホンの音で目を覚ました。


(Amazonか?)


そういえば、プロテインバナナの配達が今日だったような...


玄関に置き配されたであろう段ボールを取るため、俺は重い体を持ち上げて壁に手を付けてもそもほと玄関に向かう。


扉の鍵を開けそのままドアを開けると、


「よぉ、グスタフ。元気にしてたか?」


俺は予期せぬ突然の訪問者を前に動きが固まった。


「何を呆けた顔をしているのだ?、、、というか、いくら暑いからとはいえ、何も着ずに外に出るのは、、恥ずかしく無いのか?」


!!俺はハッとして思い出し、急いで扉を閉める。


カァッと顔が真っ赤になっていく。


(いくらなんでもお前が来るとは思わんだろう!!)


上京シャツとジーパンといういかにもなラフな格好の桜華忠臣を前に俺は全裸でフリーズしてしまった。


きっと今頃タダオミは俺に幻滅してしまっているかもしれない


ドンドン!ドンドン! 「ああ、まだか。グスタフ、外は暑すぎる。中に入れてくれんか?」


「待ってくれ!今服を着たらすぐに開ける!」


「そうか、早くしろ。」


「わかった。」


扉越しだと言うのに会話が出来てしまう、そのくらいにここのアパートの壁が薄すぎるのだ。


「そういえば、グスタフ。いくら夏だからと言っても下着くらい履かないと風邪をひくぞ?」


「...ああ」


俺はようやく着替えを済ませて、扉を開ける。


「お邪魔するぞ」


っしょっ... 忠臣はそのままクッションも何も無い所に腰を下ろしてしまう。


ドサっとコンビニ袋をテーブルに置く。


「どうしたのだ?これは?」


「これか?軽い手土産に決まっておろう。いくら友とは言え、手ぶらで上がっては失礼だろう?」


そう言ってただおみは袋からモノを取り出していく。


アサヒスーパードライと書かれた文字、その缶が1.2.3....8本。それにいくつかの魚、肉の燻製。


「グスタフ、エアコンは付けてないのか?」


「あぁ、さっきまで寝ていたからな。」


待ってくれ、今付ける。俺はそう言ってエアコンの温度を下げる。普段からエアコンは使ってはいないが、ただおみがいるのなら話は別だ。


「夏のこんな暑い日に外に出ようなどと言う輩の気が知れぬな。 やはり、夏と言えば酒、友とキンキンの酒で語らうのが風物よな。」


缶ビールをプシュッと開け、シューと出てくる泡をすするように一口飲むただおみ。ぷはっと飲み込んだ後は笑顔を見せるただおみはCMに抜粋されそうなほどに気持ちの良い飲み方をしてくれる。


「グスタフ、我慢できず済まない。先に一口頂いた。どれ、グスタフ、次こそは乾杯といくぞ!」


そう言って、ただおみは長い酒が得意ではない俺を見越してコーラサワーを開けてくれた。プシュッと出た泡に対応できずおどおどしてしまうと、


「おっと、ずずっ。 すまん、溢れそうだったものでな!」


ただおみがそのまま俺のコーラサワーの缶に口をつけにきた。


「どれ、乾杯だ!」 「「かんぱーい!」」俺は一口飲むと思ったよりコーラ缶が強くて美味しく感じた。


そのまま、グビビっと乾いた喉を潤すように喉を鳴らすと、刺激の強い炭酸が気持ちいい。


「「ぷはっ!」」


「ははっ、良い飲みっぷりではないか?グスタフ。ほれ、ジャーキーもつまむが良い。グスタフの好きなビーフとタラの燻製もあるぞ?」


俺はたらの燻製を摘む。いぶしたタラの香り、コーラのしゅわしゅわ、エアコンで涼しくなってきた室内、そして何より予期せぬ友の訪問。


「珍しいな、貴様が笑うなど。」


「?笑っていたのか?俺は。」


「ああ、凄く可愛らしい笑い方だったぞ?どれ、酒の話のツマミも欲しいな。」


そう言ってただおみは一冊の本をテーブルに乗せた。


「我も貴様もそろそろこいつを使う頃合いか??」


タウンページ、見慣れぬワードの本、俺はページを一つめくると、何やら働き先はいかがですか?などという言葉が大きく印刷されていた。


ゴクゴク、とただおみはもう一本缶を開けたようだ。すぐにプシュっと鳴らされたビール缶が新しく置かれる。


「何かやってみたい事は無いのか?グスタフ。」


「そうだな、オシャレとかには興味がある。」


「ほぅ、意外だな?あまり普段見ないがときおり見ていた貴様の私服は確かにオシャレだったな。それに、その髪型も貴様によく似合っておる。」


「そ、そうか? 自分ではあまりよく分からないが、ただおみにそう言ってもらえるなら自信が付く。」


「実はな、美容師に興味があってな。」


「ほぅ、良いではないか?グスタフが美容師になれば我の髪も貴様に任せられるしな。」


そう言ってガハハと笑うただおみ、冗談なのか本気なのかよく分からなかった。


「けれど、俺はあまり口が上手くはない。普段から無口なせいか、客に怯えられそうで怖い。」


「そうか?そんな巨体なのに無口で客に怯えられるのが怖いとか可愛いではないか? ギャップ萌え?というやつか?」


飲まずにはやってられないな、俺はそう思いただおみに負けじと一本めの酒を空にした。


「ほぅ、随分といい飲みっぷりだな。我は嬉しいぞ、昔は貴様も軍に籍を置いていたからと理由を付けられ酒も一緒に飲めんかったからな。こうして、二人で酒で語れる日が来るとは、夢みたいだ。」


「...確かに。」


「まぁ、酒の場で仕事の話などつまらぬな。別に我もお前も食うに困るほど金がないわけでもない。軍人は給料も良かったからな。」


ただおみの一言が衝撃的だった。


「どうした?グスタフ、お前も指揮官だっただろ?ならば、給金もそれなりの待遇をもらっていたのでは?」


「確かにそうだが、俺の場合、メンテナンス費用が凄まじくて...あまり、金に余裕はない。」


「...ほぅ」


そう言ってただおみは ひっく と若干頬を赤くさせながらも酒を煽る。


「まぁ、食うに困るなら我を頼れ。貴様一人くらい養う金など取るに足らん。」


それからどれくらいただおみと話していただろう?ただおみと語らう時間はあっという間、気がつけば、二人揃って眠っていた。


ぐぅぅ、ぐぅぅ。ただおみのいびきの音で目が覚めた。


時計を見る、もう夕方か。


朝から酒を飲んでこんな時間に起きる。社会人ならばだらけすぎなのだろうか? いいや、今までの人生をかえりみればこのくらいは許されるべきだろう。


俺はブランケットをただおみの腹にかけ、ぐぅっと鳴った腹の音に気がつく。


思えば、朝から何も食べてはいない、多少ツマミはしたが、大の大人があの程度で満足するわけもない。


「何かあっただろうか?」


俺は冷蔵庫の中身を吟味する。ただおみの買ってきたソーセージがあった。


「手料理か...人に食べてもらった事などないが...」


俺は手探りになりながらもある料理を作る。きっとこんなモノを作れば、ただおみからはその見た目でか?とまた驚かれてしまうだろう。


「クカッ...すまない、眠ってしまっていたようだ。んんっ!!」


寝起きの伸びをする。


「ふぅ、腹が空いたな。どうだ、グスタフ何処かラーメンでも...」


くん、くん、 と鼻を嗅がせる。


「良い匂いがするな、グスタフ。何か作ってくれたのか?」


俺は出来上がり時間が経ってしまったそれをもう一度火に焚べる、そして。仕上げを施したそれを皿に盛り付ける。


「ほぅ、美味そうではないか?これがグスタフの手作りだと?貴様、やはり隅には置けんな。」


そう言ってただおみは箸ですすっていく。うんうん、とあごを唸らせるただおみ、恐らくはこれをあまり食べないからだろう。俺は地味にナポリタンを箸で食うただおみに驚いた。


「これはパスタ?か。トマトとジャーキーなソーセージ、何よりこの玉ねぎと卵の熱加減が美味すぎる!グスタフ、貴様の転職は料理人だったか!!」











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