あ
我は悩んでいた。グスタフと自分、二人が共にある事の意味を。
同盟軍などという言葉を使って作った関係性、その関係性に対してこのままで良いのか?という事を。
グスタフは俺に対しての過去の傷を負わせた事へ今でも深く心に穴が空いているようだ。
それを俺はただこれまで通りの関係に甘えて良いのか?違うだろう。我は桜華を総べる者。
そして盟友は同盟を組んだだけの関係ではない。友なのだから。
久しく忘れていた感情だった。誰かの事を考えて自分の心が揺れ動かされる事など、自分の理想の桜華忠臣を演じていることに漸く気付かされたのは、紛れも無くあやつのおかげだった。
(似ているのだろう...俺も、グスタフも。)
俺は小賢しくも可愛らしい部下達が働く姿が目に入る。何も知らない人間が見たのなら、あれはとても軍人になどは見えないだろう。
しかし、彼らだってそれぞれの想いを胸に宿して決して安くない命を俺に預けている。
俺はそんな彼らがこの世界で差別なき世の中を渡れるようになってほしいと、本気で願っている。
「...タダオミ。昨日の戦果でまた一つ俺たちの夢に近づいたな。」
ガスマスクを口元に付け、表情筋一つ変えないまま淡々と喋るのはグスタフ・ハインツェ、我が盟友にして、俺が守るべき者の一人だ。
「そうだな、妖華でもお前の功績の話題は尽きなかったぞ。昔は邪蛇とさえ恐れられたお前も今では我が国の英雄として讃えられている。どうだ?今度我が国 妖華 で貴様の武運と功績を讃えた祝いの席を作る予定だが。」
「...俺はただ敵を殺していただけだ。何も讃えられるような事はしていない。」
相変わらずお前というやつは...
こやつは前から変わってなどいない。初めて戦場で会った日、グスタフはその巨体を丸めて祈りを捧げていた。それは決してこやつの友でも家族でもない。
自身が殺めた者への祈りだった。そのような奴が戦場での活躍を喜ぶわけも無い。
「そうか。ならば、我が貴様との同盟をより強固なる結束にしたい、と言ったらどうだ?」
「...?何を言っている。既にタダオミとの結束は固い。それともタダオミは俺を信頼してくれてはいないのか?」
「...どうだろうな?四六時中一緒に行動していない貴様を信頼するにはそれ相応の出来事が必要だろう?」
「...タダオミに信頼されるにはどうすればいい?」
「俺とサカズキを交わせ。グスタフ。」
「...酒はあまり得意では無いのだが。」
「そうなのか?貴様、それだけの図体で酒が飲めんとは、愛い奴よ。」
「...酒は人の理性を飛ばしてしまう。タダオミ、もしまた俺の理性が飛んでしまう事を俺は恐れてるんだ。」
「ならば我が貴様に特製のポーションカクテルを作ってやるわ。」
「ポーション?回復薬か?それなら常に携帯してるが...」
「たわけ、我が貴様に作ってやると申しておるのだ。黙ってうん、と頷け。」
「...それは少し強引が過ぎるのでは...?!」
俺はグスタフの首を片手で締め上げる。
「我が差し出すと申しておる。うぬは黙って飲め。よいな?」
「...分かった。 分かったから。タダオミ、解いてくれないか?」
苦しそうに顔を歪めるグスタフを締め上げた手を解く。そして、我は少しだけ苛立たしげに見下ろした。
「...妖華は今もお前を苦しめているだろう。ならば、いずれ我はお前を妖華ではない桜華の国として迎えあげる。よいな?」
要はすんだ、強引ではあったがあの者はああでもしなければ意地でも妖華の祭りになど顔を出さぬ。
「今宵は我と貴様の祝いの酒、グスタフよ。ぜひ、そなたも我との誓いの酒を飲め!」
「忠臣からの祝い!あっ...悪いが、俺は酒が飲めない、すまないが忠臣。」
肩を落とす俺の姿が滑稽に見えたのか、忠臣は笑いながらも俺の肩に手を置き「どっこいしょ」、漢らしく隣に腰をかける。
「フハハ、そなたのことなど当然知っておろう!グスタフよ、この祝いの酒は我が貴様の為に作った特製ポーションよ。なぁに、アルコールの類など入ってはおらん。それとも何か?この我が作ったものが飲まんと言うのか?」
お猪口に注がれた透明な液体。
「ほら、ぐびっといくのだ!グスタフよ。」
俺はひといきで飲み干そうとおちょこに口をつける。「...んっ!」俺は思わず目を見開くとそのまま
「ゔぉっぇ...♡」
鼻から入ってきた匂いを嗅いだ途端、俺は悶絶して地面を転がる、その一連の流れを見ていた忠臣が、慌てて横たわる俺に近寄る。
「どうしたのだ!?グスタフよ!我が作ったポーションを嗅いだ途端に、床に倒れるなど...よもや、グスタフ。」
「忠臣...このポーションとやらは一体何を入れた...」
「それは勿論、貴様に性を付けさせようとあらゆるバグ素材を入れてきた。」
?????
「何を言っているのかヨクワカラナイ。」
「ほれ、グスタフよ。我の差し出したものを粗末にする気か?」
「...タダオミ、これはあまりにも拷問すぎる。こんなくっさいポーション飲めなんて、ヴォッエ♡」
グスタフはいちいち飲む前に鼻を通して香りを味わう。その度に「ヴォッエ♡」エロい声を出してくる。はっきり言って誘ってきてるのではないか? と思ってしまったが。
「グスタフよ、貴様は我の怒りを買っているだけではないのか?まさか、本気でそんな得体の知らないモノを貴様に、などと思ってはおらぬよな?」
「...分かった。大丈夫だ。タダオミの事は信頼している。例え、俺の理性が飛んでしまってもお前だけは守って見せる。いくぞ!!!」
グスタフは目を見開き、覚悟を込めてその液体を口に含んだ。「ヴォッエ♡」
その液体は段々と減ってはいるが、それは全部グスタフが周辺に撒き散らした分だけだ。
「グスタフよ、ツマミはいるか?」
「...いただけるならそっちがいい。」
「そうか、ケルパーズよ。このテーブルに例のツマミを持ってこい。」
「総帥、二人分ですか?」「いや一人分でいい。」「はい、かしこまりっす。」
「...タダオミ、流石にこのドリンクはきついぞ。俺の胃液がだいぶ減ってしまった。」
「大丈夫だ。これだけ飲めたのなら充分貴様の思いは伝わった。後は自由に飲み食いしていってくれ。ケルパーズがグスタフの分をとってきてくれるはずだ。」
「...本当か!?これでタダオミは俺の事を信頼してくれるのだな!?」
「あぁ、勿論だ。」