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婚約破棄後の物語

親愛なる者へ-悲しみが止まらない-

作者: 宮城谷七生

久々の短編です。

去年投稿した「親愛なる者へ」の第二弾です。

気楽に読んでいただければと思います。

その日、私の元に現れたのは婚約を解消した元恋人であった。


「お久しぶりね」


元婚約者であるジェニファーが微笑む。


だが、その微笑みには曇りが見えてしまうのは何故だろうか。


「やあ」


「元気にしてる?」


「ああ」


どうしても・・・言葉少なめになる。


それもそうだ。


私が王都に戻ってきてからジェニファーの夫であるアンジェロや騎士団の同僚たちと会うたびに彼らの暴挙に頭を抱えていた。


しかし、今の彼らは自滅し罪に問われる身である。


私が旅に出た後も彼らは変わらなかった。


恋や愛など男女関係に重きを置く者。


相手を見下す態度を取る者。


だが、私は変わった。


私はこの旅で人として何もすべきか何を守るべきかを知った。


そのことを教えてくれたのが第二皇子であり騎士団長や新しい婚約者たちであった。


だからこそ私は強くなった。



きっかけは同僚であるアンジェロから始まった。


「彼女と別れて欲しい」


それは唐突であった。


「どうしてそんなことを言うんだ?」


私は声を震わせながら尋ねる。


「ティタヌス、お前ではジェニファーを幸せにできない」


「何を・・・根拠はなんだ・・・?」


「それは俺にしかわからない」


アンジェロが言うには私がジェニファーと婚約を解消するだけで良い。


そうすれば私もジェニファーも傷つかないと。


その日は仕事にならなかった。


ただその足で私はジェニファーに会いに行った。


そこでジェニファーは私に謝罪した。


「あの人を好きになってしまったの」


いつからジェニファーがアンジェロと恋に落ちたのかはわからなかった。


ただ、彼女の心は私の中にもはや居場所がないとすぐに理解できた。


私の心は弱かった。


私はたいした抵抗もできなかった。


それはアンジェロが幼い頃の親友であったし、ジェニファーを愛したゆえ彼女の幸せを願った結果でもあった。


結局、私は両親に事の次第を伝えた。


両親は思うところがあったかもしれないが、私の決断を受け入れてくれた。


こうしてジェニファーとの婚約は解消となった。


だが、私の心がもっとも傷ついたのはこの後からであった。


翌日からアンジェロは私に冷たくなった。


冷たくなっただけでない。


周囲も私を避け出した。


それがアンジェロが原因だとすぐに理解した。


一週間もすれば同僚や先輩たちが私にこう話し出した。


・・・ジェニファーは最初からアンジェロが好きだったのを私が奪ったそうだね。


ある者は私に軽蔑しながら伝え、ある者は私を恫喝の如く話してきた。


私は同僚たちがアンジェロよりも自分の信頼がないことに動揺するしかなかった。


そればかりか後輩たちも私の噂を信じてしまったのだ。


この噂をもっとも流したのが同僚のマウリツィオであった。


彼は私のことが気に入らなかったそうだ。


いつか私を騎士団から追い出そうと考えていた中で、私がジェニファーと婚約を解消したのを知ると私の立場を悪くしようと動いた。


その裏ではアンジェロも絡んでいた。


アンジェロにとっては私が騎士団にいるのが気まずかったのだろう。


いや、自分がやったようにジェニファーを奪われるかもしれないと思ったかもしれない。


むろん私にはそのような勇気などなかったのだが、人と言うのは一度でも思い込めば警戒をしてしまうものだ。


私はこの噂に対して反論はするもののすでに騎士団全体が私の存在が許せない状態になっていた。


もはや私の居場所は完全に失ったことを知った。


その頃の私は親愛なる者たちの裏切りに心を痛めたため何もすることができなかった。


私は騎士団長に退職願を出した。


騎士団長は私に同情してくれた。


騎士団長は人を統べる立場であったが私の唯一の味方であった。


「私は昨今の若者たちの気持ちが理解できなくなった。他人から愛する者を奪うことに躊躇いなどないのだな」


これは後で聞いたのだが、騎士団長は騎士団の全員に訓告を下していた。


だが、アンジェロ側の者たちは反発したそうだ。


もしかしたらこの時に騎士団長は私をこの場所から逃がそうとしていたのかもしれない。


「ところで、カザニアン第二王子をどう思う?」


不意に騎士団長が私に尋ねてきた。


それが私が変わるきっかけになるとは思いもしなかった。


「謹厳実直な方だと思います」


カザニアン第二王子は剣の腕前は優れており、貴族階級以外の人々にも分け隔てなく接する。


また、他人に媚びず自分の意思を貫く方であった。


「実はカザニアン第二王子が巡検使として辺境の地を回ることになった」


「巡検使ですか?」


「うむ、カザニアン第二王子は前から巡検使を切望していたそうだ」


実直なカザニアン第二王子らしいと思った。


巡検使は辺境の地や国境沿いの街などを視察しながら治安の維持や隣国の動きを確認する重要な役目だ。


それだけではない。


各街の生活基盤を確認して街道や街並みを整備することも行うのだ。


兄弟仲も良く実直なカザニアン第二王子ならば適任と言えるだろう。


「それでカザニアン第二王子はお前に旅の同行を希望しているんだが・・・どうだ?」


「私がですか?」


突然のことに私は驚いた。


いつカザニアン第二王子は私のことを知ったのだろうか。


騎士団長に聞くと団長はカザニアン第二王子に会うたびに私の名前を出していたそうだ。


私が職務に真面目で他人の心を思いやることできる者だと。


騎士団長が私をそこまで評価していたのには驚くしかなかった。


「そうだ。お前を巡検の旅に同行させる」


騎士団長は机の引き出しを開けると異動辞令を取り出した。


「・・・これは同情でしょうか?」


私はつい嫌味を言ってしまった。


だが、騎士団長は笑顔で返す。


「私は最初からお前を推薦するつもりだった。だが、お前には婚約者がいたので遠慮をしていた」


私は決断した。


これも運命なのだと。


私はすぐにカザニアン第二王子の巡検使の旅に同行することを決めた。



私が巡検使の一員になったことが発表されるとまた噂が流れた。


それは私が婚約者を奪われたことで自棄になったと言う内容と、私が巡検使になったことで出世したことに対する嫉妬であった。


私を馬鹿にしていた者たち、特にマウリツィオがすぐに絡んでこようとしたが、すでに私は騎士団から姿を消していた。


異動辞令後、すぐにカザニアン第二王子が旅に出たからだ。


ジェニファーやアンジェロ、他の騎士団の者たちには挨拶する暇などなかったからだ。


何故かアンジェロは騎士団長に私の異動に異議を唱えたそうだが、騎士団長はカザニアン第二王子の手紙を見せることで異議を却下した。


同じように私に絡もうとする者たちもカザニアン第二王子の手紙を見ると沈黙したそうだ。


巡検使の旅は終わりのない旅に近いものであった。


だが、私の性に合っていた。


それと共に私の弱い心は癒されながら強くなっていった。


また、私はこの旅である女性と恋に落ちた。


彼女はエレオノアと言う女性騎士であった。


彼女は第二都市のセション出身で、後から旅に合流してきた。


エレオノアは槍使いの名手でありその強さは男女関係なく比類なきものであった。


今回の旅でセションの長官より推薦されて旅に同行することになった。


私とエレオノアは相性が良かった。


どんな話でも彼女と合うし、襲撃などで戦う時も無駄なく意思疎通ができたので二人一緒に行動することが多くなった。


カザニアン第二王子も私にこう話してきた。


「私の目に狂いはなかったな」


目を細めながら話すカザニアン第二王子はこのまま私たちに夫婦になれば良いと薦めてくれた。


私たちも問題なかった。


すでに私たちは恋人同士になっていた。


こうして私とエレオノアは婚約を結んだ。


のちに私の両親に婚約の手紙を送った際は、二人とも歓喜の声を上げたそうだ。


こうして私の旅は三年を数えた。


その間、騎士団のよろしくない噂が入ることが増えてきた。


やはりアンジェロやマウリツィオたちが私の悪い噂を流し続けた結果、騎士団そのものがもっとも重い戒告を受けたそうだ。


そればかりか他人の婚約者を奪ったり人妻などに手を出す輩まで現れたのだ。


・・・まだそんなことをやってるのか。


私はどうしようもないなと思った。


そのため騎士団長は風紀の改善を進めることになった。


騎士団長自身、ずっと改善を進めていたが思うように進まなかったそうだ。


彼らはまるで魔女に魅了された如く、人生に恋と愛しかないような行動を重ね続けたのだ。


「騎士団長には悪いが、騎士団は一度解散させるべきだ」


カザニアン第二王子も考えを語る。


カザニアン第二王子曰く、貴族階級の次男以降が実家を継げないために爵を求めて動いた結果であると考えており、この因習を変えねばならないと話してくれた。


そして、私もその因習の犠牲者なのだと。


確かにそうだ。


私は長子であったので、本来ならジェニファーを妻として迎えるはずであった。


だが、ジェニファーの家には後継者がいなかった。


そこにアンジェロが入ろうとするのは当然の結果だった。


だが、私はふと思った。


・・・はたしてそれだけの理由なのか?


私の思うアンジェロは単純な考えて動くはずもなかった。


その考えの答えが発覚するのはこの後であった。



旅が四年目に入ろうとした頃、カザニアン第二王子が急遽、王都に戻ることになった。


期間として7日間ほど。


王都に戻った私は常にカザニアン第二王子の警護のため動いていた。


両親に会う暇もないほど多忙であった。


不安があるとすれば王城には騎士団の屯所があることだ。


・・・誰も絡んでこなければ良いが。


だが、願いは虚しく散った。


私の姿を見かけた騎士団の一人が私に声をかけてきた。


それはマウリツィオだった。


彼が話しかけた理由は容易に想像できていた。


彼が卑屈な笑みを浮かべながらジェニファーとアンジェロが結婚したと伝えてきた。


「二人に聞いたが、招待状を送ったのにどうして来なかったんだ?」


わざとらしく聞いてくるマウリツィオの意図に呆れてしまった。


そもそも立場が違う。


そこになんでも恋愛を絡ませる目の前の男に私は冷たくこう答えた。


「いや、無理だよ。王子の警護を担当しているんだ。お断りの手紙も送っている。礼を欠くようなこともしていない」


「そんな言い訳をしてるだけで本当は行きたくなかったんだろ?」


変わらずマウリツィオはにやにやとしている。


その態度に呆れる私は遠慮なくため息をついた。


「そう思えばいいよ。こっちはそれどころじゃないんだ」


「なんだと・・・」


想像もしない私の態度にマウリツィオは動揺をしていた。


昔と違い口調の変わったことも驚いているようであった。


「嘘だ!お前が悔しがっているとみんな思っているんだぞ!」


その声は確実に今いるフロアにある各部屋に聞こえたはずだ。


何故、そこまで感情的になれるのかわからなかった。


「なんだよそれ。お前ら相変わらず変わらないな」


だが、私の心には全く響かなかった。


「まあ、いいや。そうか、良かったよ。二人に伝えてくれ。幸せになってくれと」


私の裏表のない態度は最後までマウリツィオはを戸惑わせた。


「お、お前はそれでいいのか!?」


「何がだ?」


「好きな女を奪われたんだぞ!?」


「終わった話だ」


「終わっただと・・・」


「ああ。それにまた新しい恋をすればいいと思わないか?」


あえて恋を揶揄してやると、彼はそれ以上、何も言わなくなった。


よくよく思い出すと彼は私を一番、馬鹿にしていた。


その彼が絶望のような表情を浮かべるのが可笑しく見えてしまった。


その後もマウリツィオは私に絡み続けた。


とにかくマウリツィオは私を怒らせたかったようだ。


だが、場所が悪すぎた。


私がいる場所はカザニアン第二王子の側であることをマウリツィオは忘れていた。


「おい、ここをどこだと思っているんだ?」


カザニアン第二王子がマウリツィオに声をかける。


突然現れたカザニアン第二王子にマウリツィオはすぐに礼を執る。


「申し訳ございません。私は彼の元同僚で・・・」


「知っている。お前の近くにいたからよくお前の声は聞こえていたぞ」


「・・・そ、それは・・・」


マウリツィオは黙ってしまう。


まさかカザニアン第二王子に話を聞かれているとは思ってなかったのだろう。


私からすれば王城の中でわざわざ声をかけること自体、話など筒抜けになるのはわかりきったことなのに。


「お前やお前たちのいる騎士団はよほど暇なのだな。恋愛に(うつつ)を抜かすほどにな」


「も、申し訳ございません!!」


マウリツィオはカザニアン第二王子の圧に耐え切れず跪く。


「お前は何様だ。私の側近と言える者に対して無礼な態度を取るとは!!」


「お、お許しを!!」


だが、カザニアン第二王子はマウリツィオを許さなかった。


すぐにカザニアン第二王子は近衛騎士を呼ぶとマウリツィオを拘束させた。


結局、マウリツィオは王城で三日間の牢入となった。


その後は騎士団を除隊させられることになったのだが、それは私が王都を離れてから1週間後のことだった。


マウリツィオが王城で無礼を働いた件は騎士団の元同僚や後輩たちに衝撃を与えた。


おそらく私に絡もうとする者たちにとって冷や水を浴びせられたのだ。


下手をすればカザニアン第二王子を怒らせてしまうかもしれないと。


そればかりか私の立場が自分たちの考えもしない場所にあるのだとようやく気付いたのだ。


唯一、私の立場を理解している騎士団長は「これで良かった」と思っていたようだ。


王都を出る日、私に会いにきた騎士団長は自分がいくら戒告をしても彼らに響かなかったことに絶望していた。


自分より一回り以上違う世代間の隔たりはどうしても解消できなかったことを悔いていた。


私もそのことに気付いていた。


だからこそ騎士団長の立場を理解していたつもりであった。


だが、実直な騎士団長の苦しみが家族まで及んでいると知った時は私は自分が愚かだと思った。


騎士団長の長子は反抗期であったのだ。


親として長子に向き合う中で騎士たちがアンジェロに煽動されたことに対応しようとしたが結局は王族の力を借りなければ解決できなかった。


「団長としては失格だな」


自嘲する騎士団長の顔が老いていたことに気付いた時、私はどう答えれば良いかわからなかった。



私とカザニアン第二王子が王都にいたのは一週間ほどだった。


理由は意外と単純なものであった。


カザニアン第二王子から聞いていたのは隣国の動きが怪しいとだけであった。


実際はカザニアン第二王子とその兄上であるアーノルド第一王子が不穏な動きをする貴族たちの対応を話し合っていた。


カザニアン第二王子はアーノルド第一王子が王座に就く際、宰相になる予定であった。


この既定路線に反発した者がいたという訳だ。


兄弟仲が良い二人にとっては迷惑極まりない話であったが。


そんな中でカザニアン第二王子の厚意で1日だけ休暇をもらえた。


私はエレオノアを連れて実家に戻った。


婚約者であるエレオノアと両親の顔合わせのためだ。


両親は私が明るくなったことに驚いていたし、ジェニファーと違い凛々しいエレオノアを連れてきたことを喜んでいた。


両親は話を続ける。


私が王都を離れてからも両親に対して嫌味を言う者たちがいたそうだ。


だが、カザニアン第二王子の旅の話が伝わるたびに両親に絡む者たちが消えていったそうだ。


それはカザニアン第二王子が私を高く評価していたことと騎士団長が私の噂に対応してくれたからであり、私は二人に感謝するしかなかった。


何よりマウリツィオの問題行為がすぐに騎士団に関わる貴族階級や騎士階級に広まったことが後押ししたのだろう。


しかし追い詰められた者たちにはそのようなことなど皆無だった。


その夜、両親との食事が終わった後に事件は起きた。


屋敷にアンジェロが突然訪問してきたのだ。


私はすでに就寝の準備をしていたのだが、アンジェロは私に会わせてくれと大声で叫んだため私はやむなく対応するしかなかった。


私はアンジェロを屋敷の中に入れず玄関先で敢えて対応した。


私の姿を見たアンジェロは寝ていないのか目が充血しており両頬はこけていた。


「どうした?」


私は眠たそうな声で話しかける。


「久しぶりだね。でも、その姿は失礼じゃないのかな?」


確かに私は寝間着姿だった。


だが、時間を考えないアンジェロこそ失礼だと私は思った。


「明日は早朝に王城へ出仕することになっているんだ」


私の言葉にアンジェロは口を噤む。


彼は私の言葉の意味を理解してくれたようだった。


「それで何か用か?王都に戻ってから王城に通い詰めなんで早く寝たいんだ」


私は小さく欠伸をする。


その姿にアンジェロがどう思おうと構わない。


どうせ恋や愛の話をしたいのだろうと容易に想像できていた。


「どうして騎士団に顔を出さないんだ?」


アンジェロは私を咎めようとしたいのだろう。


古巣の話をした。


だが、どう考えても無理な質問だと気付いていない。


前もって言ったことを気付いていないのだ。


「仕方ないじゃないか。私はずっと王城でカザニアン第二王子の警護をしているんだ。実家に戻れたのも今日だ。そんな余裕があると思うか?」


私が事情を話すとアンジェロがさらに顔を顰める。


マウリツィオと同じように私の口調に戸惑っている。


「ティタヌス、お前は冷たくなった。マウリツィオから聞いたぞ。お前は俺とジェニファーのことを何も思っていないと」


私は驚いた。


謹慎禁足になっているマウリツィオとまさか会っていたとは・・・。


治安を守る者が何を考えているのか私には到底理解できなかった。


私はアンジェロにこう返すしかなかった。


「ああ。もう終わった話だからね」


そう、終わった話なのだ。


第三者から見ればわかるはずだ。


だが、アンジェロは感情的になっていた。


「そんなことあるはずないだろう!!」


急にアンジェロが大声で叫んだ。


その声に私の両親、エレオノアや執事たちが駆け付ける。


「大丈夫」


私は両親たちに向かって頷きながら彼らを制止した。


「どうしたんだ?終わった話を蒸し返すほどの話じゃないだろ?」


「なんだと・・・」


私の淡々とした態度にアンジェロが戸惑っている。


「何年経っていると思うんだ?3年だぞ?そんな終わったことをどうしろって言うんだ?」


「ふざけるな!」


アンジェロが私に掴み掛かってきた。


だが、私はすぐに彼を床に倒すとそのまま拘束する。


正直、アンジェロを簡単に押さえ込めるとは思いもしなった。


あまりにもアンジェロが弱すぎた。


「離せ!!」


「アンジェロ、ここに来た理由を話せ。そうすれば今回の件は騎士団長に報告しないか考えてやってもいい」


私の忠告はアンジェロの思考を正常にさせた。


アンジェロは抵抗を止めた。


アンジェロは私の脅しに屈したのだ。


まったくの無駄なことだと思う。


アンジェロは何故ここに来たのか話を始めた。


理由はこうだ。


私がカザニアン第二王子の巡検の旅に出たことが許せなかったそうだ。


私がアンジェロとジェニファーを祝福すべきはずなのに何も言わずに旅に出たのだ。


それは二人に対する裏切りであると。


正直、全く意味がわからなかった。


アンジェロの略奪行為と悪意ある噂で追い出されたのにだ。


何故そこまで私に拘ろうとするのか。


だから私は正直にアンジェロにこう答えた。


「もうそれは狂人だと思うぞ」


「きょ、狂人!?」


私の本音にアンジェロは茫然自失する。


「そもそもお前が私に嫉妬する理由が理解できない。お前は私の恋人を奪っただけでも理解できないのにそれでも祝福されるとか本当に理解できない。どんな人間でもそんなことされたらお前たちを避けるのは当然じゃないか。それでも拘りたいのはどうしてだ?そこまで自分が相手より優位でいたいのか?教えてくれ、理解できる理由を聞かせてくれ」


アンジェロは顔を顰めながらようやくその理由を話し出した。


その理由は私には理解できなかった。


「お前は俺の友人じゃないか。友人なら幸せを分け合う権利がある。ずっとそうだと思っていた。お前にジェニファーを奪った時もお前は認めてくれたじゃないか。そうだろ?」


「恋人を奪ったり、居場所を奪う奴が言うことじゃないな」


私は呆れてしまった。


「違う!!お前は俺の側にいて俺のためにいれば幸せになれるんだ!!」


「それは子供じみたわがままだ。私はお前の引き立て役じゃない。これまでやってきたことすべてがお前の自己満足だ。本当に悲しくなるね」


「そうじゃない!!」


「じゃあ、どうしてジェニファーを奪った?騎士団の中で私の悪い噂を流した?」


「それは・・・」


当然、アンジェロは答えることができない。


できるはずもない。


幾ら誤魔化そうともここで答えてしまうと私を見下していたのを肯定してしまう。


「まあ、いいや。明日も早いんでさっさと終わらせよう」


ため息をつく私は執事に騎士団長まで使いを出すよう伝える。


アンジェロは「やめてくれ!」と抵抗したが、さすがに許すことができなかった。


結局、アンジェロは駆け付けた騎士団長に拘束されたまま牢へ入れられた。



翌日、私の屋敷にもう一人の関係者が現れた。


それは元婚約者であるジェニファーであった。


きっと来るとは思っていたが、このタイミングで来るとは思わなかった。


この後、カザニアン第二王子と共に王都を出る予定であった。


今回も私は玄関先でジェニファーと会うことにした。


もちろん両親や新しい婚約者は近くで見守ってくれている。


「お久しぶりね」


ジェニファーが微笑む。


だが、その微笑みには曇りが見えてしまうのは何故だろうか。


「やあ」


「元気にしてる?」


「ああ」


どうしても・・・言葉少なめになる。


ジェニファーは上目遣いで私を見つめる。


・・・彼女はこんなことをしたことがあったか?


私はジェニファーの変わりように困ってしまった。


そこまで彼女は追い詰められてしまったのか。


「昨日、夫が失礼なことをしてごめんなさい」


「いや、終わったことだ」


「夫はしばらく謹慎になったわ。ここまで大事にしてしまったし当然よね」


「反省すればそれでいいよ。私は今後も巡検の旅を続ける予定だしこれ以上は処罰を求めるつもりはない」


「ありがとう」


ジェニファーが笑みを浮かべる。


妖艶な笑み。


異性に媚びる笑みだ。


あの純粋な笑みがそこにはなかった。


「それでね・・・私、夫と別れをようと思うの」


「そう。でも、別れない方が良いと思う」


「そうかしら。あの人は自分だけ良ければ良い人だし・・・」


ジェニファーの顔が私を求め出した。


しかし、私はどうも思わない。


彼女が別の生き物のように見えていた。


ジェニファーが私に歩み出す。


この流れだと彼女は私に抱き付こうと容易に想像できていた。


そんな中で私の新しい婚約者が先に動いてくれた。


「あら、どうしたの?」


新しい婚約者が私に声をかける。


「そろそろ王城へ行かないと間に合わないわ」


声の主はエレオノラであった。


突然現れたエレオノラにジェニファーが足を止める。


「こ、この方は?」


ジェニファーが焦りながら私に尋ねる。


「彼女は私の婚約者だよ」


「えっ?」


ジェニファーが私とエレオノアを交互に見比べ出す。


その表情は嘘、信じられないと言ったところか。


「初めまして、私は巡検騎士でエレオノアです。先日、ティタヌス殿と婚約しました」


そう言うと彼女は私の隣に並んだ。


エレオノアは決して私の腕を抱かない。


あくまで同等の立場であるとジェニファーに見せつける。


「そ、そんな・・・」


そう呟くと彼女はそのまま外へ出て行った。


「残念ね」


「どうして?」


「だってあの人、あなたと復縁するために来たのよ。だから相手をしようと思ってたわ」


エレオノアにとってはジェニファーが許せる存在ではなかった。


アンジェロと共に私を追いつめただけでなく、罪の意識さえなく復縁を求めたのだ。


「許せるはずないじゃない」


そう言うとエレオノアはそこで私の腕を抱き締めた。


実はこの後も続きがあった。


王都を出発する前、王城の中でジェニファーがエレオノアに声をかけたのだ。


騎士団の屯所が王城にあるのを利用したようでエレオノアが一人になったところを声をかけてきたそうだ。


彼女はエレオノラに詰め寄った。


「あの人と別れて」


それはアンジェロが私に伝えた言葉と同じものだった。


似た者同士なのだろう。


だが、エレオノラはただ一言だけ伝えたそうだ。


「無理」


そう言うとその場から離れたのだが、後ろから泣き叫ぶ声が聞こえた。


あまりの大声に近くにいたカザニアン第二王子が現れるとすぐに衛兵にジェニファーを拘束させた。


ジェニファーが連れ出されると私もその場に駆け付けたのだが、カザニアン第二王子やエレオノアから話を聞くと呆れるしかなかった。


私は思った。


何故彼らは私が変わったことに気付かなかったのだろう。


月日が経てば人と言うものは変わるものだ。


恋や愛にしがみつく彼らにはそれが理解できなかったのだろうか。


「あなたも大変ね」


エレオノラは私の髪を撫でながら答えた。



その後のことはカザニアン第二王子からの話や騎士団長の手紙で知った。


結局、騎士団は解散となった。


改めて騎士育成の教育機関を設立して多くの若者たちを受け入れるようにしたそうだ。


また、不貞を働いた多くの騎士たちが矯正機関に送られた。


そこには解雇されたマウリツィオたちが含まれていた。


アンジェロとジェニファーは離婚できなかった。


彼らは第四都市ルデンシャルに異動となった。


そこは娯楽など何もない小さな港であった。


彼らは今後、その地から出ることも許されないと言う。


ジェニファーの実家は別途養子をもらうことになったため存続することになったが、ルデンシャルにいる二人に援助など許されるはずもなくただ無意味な日を過ごす罰を受けるだろう。


結局、私はエレオノアと会えて幸せになった。


彼らの悪意は何も意味をなさなかった。


私は思う。


彼らに同情するつもりはない。


ただ、私は思うのだ。



そんな彼らに・・・悲しみが止まらない。

人間関係は一度距離を置くと冷静になれるものかと思います。

今回の主人公もそんな感じで描いています。


簡単な登場人物

ティタヌス・・・主人公。親友に婚約者を奪われるが王子との旅で成長する。

アンジェロ・・・主人公の親友で彼の婚約者を奪った。クズの一人。

ジェニファー・・・主人公の元婚約者。アンジェロに乗り換える。クズの一人。

マウリツィオ・・・主人公の元同僚。主人公のことが嫌い。クズの一人。

エレオノア・・・主人公の新しい恋人。女性騎士。

騎士団長・・・騎士団の風紀の乱れに心を痛めている。

カザニアン・・・・第二王子で巡検の旅に出る。兄の補佐のため宰相になる予定。

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