第2話 神話の魔獣
朱里は、実戦経験が極端に乏しく最初は魔物を見るだけで、キャー、キャー叫んでいた。だが、少しずつ慣れていき、的確に魔法を魔物に向けて打っていく。魔法の当たる部分が頭だけではないのが、玉にキズだがこれほどの腕は今の時代では少ないと俺は確信していた。
正直、俺は何もしていない。なぜって?神聖騎士が、バカみたいに強いのだ。神聖騎士だから、多少は苦労すると思っていた。だが、この二人は神聖騎士だと思っていると足をすくわれると思うだけの力がこの二人にはある。個々の力だけで言えば、神聖騎士クラス。だが、それを一歩間違えれば見方が死ぬような超絶ギリギリのコンビネーションで、神聖騎士以上の力を使いこなしている。
だから、魔法も打たないし、剣も振るわない。ただ立っているだけの木偶の坊になっている。それに、こいつらについていくだけの楽~な仕事だと思っていた。
だが、そこまで楽ではない。なぜって?この神聖騎士どもが、朱里にご執心だからずっと喋っている。ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、朱里とずっと喋っている。内容としては
「朱里様、さっきの動きはよかったですぞ。」
だとか、
「朱里様、まだまだいけますか?」
だとか
「朱里様、大丈夫ですか?休みますか?」
だと朱里とずっと喋っている。その言葉の半分以上が、朱里を案じる言葉だった。その言葉が朱里にとっては、ストレスにしかならなかった。朱里もだんだんイライラしてきたのか眉をひくひくさせている。そのイライラが、僕に降りかからないように祈るばかりだ。「くわばら、くわばら」と言わざるおえない。
朱里は、その身に宿す膨大な魔力をあえて暴走させることにより、魔力を制御する必要をなくし圧倒的な物量戦を可能にしていた。だが、魔力を制御していないからもちろん魔法が、どこに飛んでいくのかは分からない。神聖騎士の二人曰く、
「予想と想定を重ねて、自分の脳みそでシミュレーションをすれば、割と余裕をもって連携できますよ。けれど、自分の動きを磨かなければシミュレーションした動きをすることもできないらしい。俺たちはそんなことなかったけど。」
とのことらしい。予想と想定を重ねたら、脳みそがオーバーヒートするのが普通だなんて、この二人は思ってもないらしい。それは、ばかばかしいほどに困難である。むしろ、ほかの分野について学んだ方がいいほどに困難を極める。そして、朱里が使う魔法は、元素まで影響受ける最高の魔法。それを‘元素魔法’というらしい。これは、朱里のオリジナル魔法らしい。こちらから見ていても、まだまだ使いようでは、さらなる進化ができる魔法だと感じた。
そして、意識して朱里の魔法陣を見ると、立体魔法陣を用いられていることが分かる。なぜ、そんなことが分かるかって?そりゃあ、魔法陣自体に隠蔽魔法をかけていないというのが、大きな要因だ。
隠蔽魔法がかけられていないと、魔法式を取られることもあった。だから、どんな時でも隠蔽魔法で魔法式を隠すのが、五百年前では普通であった。だからこそ、この元素魔法を読み取ることができた。
そして、好奇心の行くままにその元素魔法と深淵魔法を組み合わせようとした。だが、どんな方法でも組み合わせることはできないと、俺の知識が訴えてくる。そして、「この元素魔法は、触れてはいけないブラックボックスである」ということも。俺が、常に信じ続けてきた知識を裏切ることもできない。だが、これをいじりたいという好奇心もある。そんな二つの葛藤の末、俺はこの魔法を保留することにした。それにしても、見事な連携だなぁと言わざるおえない連携を、三人がしている。二人の神聖騎士が、魔法の演唱時間を稼ぎ朱里の広範囲殲滅攻撃で、一気に片を付ける。ただその繰り返しだが、一つ一つの攻撃にキレがあり、一つ一つの攻撃がその場面場面にあった攻撃方法を選択し、使用していく。ただその繰り返しなのだ。そして、未だに俺の出番も役割もない。強いて言えば、傍観していることが俺の役割、としか言えない。だって、他に何もしてないもん。
更に、朱里としゃべる機会もない。ただ、朱里はたまぁにどや顔でこちらに振り向いてくることもある。そして、まるで「ドヤ!私すごいやろ?」と言いたげな顔でこちらを見てくるのである。
そして、こんなことをする奴が俺より年上なのである。ということなど考えたくもないものだ・・・
だが、現実は現実なのである。どれだけ、クソガキでどれだけバカであろうとも自分よりも年上の人のことは、敬うのが常識。ま、こんな野郎敬うこともしないけど。ただ、いうのであればどれだけクソガキであろうとも利用価値があれば、利用するそれが俺の考えだ。っと考えていた。
いかんいかん、これでは、ただの痛々しい人ではないか。と心の中でつぶやく。
そして、少しずつ厄災が俺たちに近づいてきているなど今は考えもしなかった・・・・
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そして、だんだん魔物と接敵することが多くなってきた。今までは、に十分に一回だったのが十分に一回のペースに上がってきている。更に、俺以外は気づいていないと思われるのだが、魔物が襲ってくるというよりも、何かから逃げているというほうが、しっくりくる。こちらには、目もくれずこの森の中心地からできるだけ、できるだけ、離れるように。そして、今いるところから逃げるために。
そして、不安な胸騒ぎが俺を襲う。瞬時に自分の必要なパフォーマンスができるようにする。
「身体強化。」
そういい、自分の身体能力を普段の倍以上に引き上げた。そして、次の瞬間奴は、姿を現した。まるで、全てをあざ笑うかのように奴はでてきた。そいつの名は、フェンリル。美しい銀に近しい、毛をなびかせている。かつて、フェンリルは神話の魔獣としてここ<魔境>を縄張りとしていた。
そいつは、俺が約五百年前に封印していたはずなのに。なぜ今になって?と思考を巡らせる。だが、俺の封印はそれこそ千年単位で、封印できるくらいには力があったはずなのに。なぜ?フェンリルは、確かに強く美しい。だが、俺の障害になるほどでもなかった。
ただ、一つの結論に至った。人為的に封印が解かれた。それ以外ありえない。ただ、封印が解かれたおかげで前世のやり残し‘フェンリルをペットにしよ~’を実践することができる。前世は、強すぎた故に手加減などできなかった。ただ今は違う。今は、転生後でそこまで力を使うことはできない。これならいい感じにフェンリルを調教することができるはず。それしか思考になかった。
今は、人為的に封印を解かれたことなんて、どうでもよくなっていた。
そんな思考を回していると、ついにフェンリルがしびれを切らし、動き出した。
フェンリルは、音速と同じくらいのスピードで一番殺しやすい、天神朱里と二人の神聖騎士を噛み殺そうと一気に距離を詰め、そして口を大きく開き噛み殺そうとする。だが、俺は普通の剣に魔力を込め、フェンリルの口を押えるように、剣を突き出す。ガキン。金属と金属がぶつかったかのような音が、この森全体に広がる。
そして、フェンリルは一瞬で俺の力を感じ取り、口にある牙に自分の持つ魔法空間切断を付与し剣を砕かんと更に口に力を込めるフェンリル。それは、一瞬で阻止された。バリン、今度は何かが壊れた音だった。
その壊れたものとは、・・・・・・そうフェンリルが牙に付与した空間切断の魔法が、砕かれていたのであった。その手品の正体は、剣の魔力の一部に俺の魔法‘破滅’を込めていたことにある。この魔法‘破滅’は一切合切、ものであろうとものでなかろうと、そこに存在するのであれば、破滅させることができるというぶっ壊れ魔法である。ただ、‘破滅’に耐えられるだけの武器というのがほとんどなく、今持っている普通の剣であれば三十秒が限界である。それゆえに、この体制はまずい。剣に力を込め、振り切る。そうすることで、フェンリルとの距離を開けながら剣を路上に捨てる。そうして、バリン、と音を立て剣のかけらも残らずにただ塵と同じように、空中を漂っていた。環境はそろった。
そして、口元が三日月のようになり、表情も悪魔のごとし。俺はフェンリルに向かって、殺意を込めて言葉を放った。
「さぁフェンリル。お前との遊戯。楽しませてくれよ。なぁ神話の魔獣。」
そこから始まるのは、神話の魔獣vs五百年前の神殺しの王が始まったのであった。




