番外編 2
異世界恋愛?
読んでいただきありがとうございます。
「ところでアーサー。お前はどうして強くなりたいんだ?」
「シェリー」
「なんだ?」
「この状況でそんな真剣に聞かれても困る」
「あぁ。悪い悪い」
俺はシェリーの力が抜けると、鍔迫り合いの状態から一度距離をとる。
そしてまた正眼の構えをとるが―――
「敵から目を離すな」
「ガッ!」
腹部に痛みが走った瞬間。世界が反転する。
俺は20mくらい吹き飛ばされた。
目を離すなって言っても、お前の動きが見えないんだよ!
「まだまだだな。だけど今のを防いだのは成長を感じる」
「……褒めるならもっと手加減してくれ」
シェリーの弟子になってから約半年。
俺は今日も気絶した。
◇◇◇
「それじゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃい」
俺は箒を動かしながらシェリーを見送る。
シェリーの弟子になってから半年が経つが基本的に訓練は厳しいものだ。
素振り1万本は当たり前。もちろん打ち合いで気絶なんて当たり前。
しかし、こんな鞭にも飴がある。
それが今日みたいな日。
決まってシェリーは一ヶ月に一回のペースでどこかへと出かける。
ここ最近はその頻度は多くなっているが。
そういう日はこうして家事をして過ごしている。
一度だけ尾行しようしたのだが、本気の殺意を当てられて断念した。
その後わかったことは「仕事」に行ってるということだけ。
あの剣の腕でどんな仕事をしているのやら……
俺はふと箒の動きを止める。
「もう半年も経つのか」
半年前。俺は最愛の人に必要とされず失意のドン底にいた。
しかし絶望していたというのに俺は思った。
彼女は多分貴族だ。国の重要人物になればまた会えるんじゃないか?
平民出身で剣士である俺が目指すとなると、一つしかない。
この国最強の剣士に与えられる称号・剣聖。
身分、出自は一切問われず、ただ求められるのは剣の腕のみ。
俺は考えがまとまると長年住んでいた町を出た。
彼女との思い出の地を出ることにもちろん抵抗はあった。
だけどもう、その彼女もいない。
俺は最短で強くなるために「魔獣の森」へと向かった。
「魔獣の森」は魔獣が無限に生み出される魔の森だ。
本当なら剣の師を探すべきなんだろうけど、生憎と俺にはツテが一切ない。
これが一番の近道だった。
俺はがむしゃらに剣を振った。
湧いてくる魔獣を殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺しまくった。
でも数日が経った時。唐突に限界が来た。
人の身体は限界が来ると何も力が入らない。
俺は死を覚悟した。
そんな時。シェリーと出会った。
「素振りするか」
俺はまた動き出す。
少し思い出に耽っていたけれどそんな時間はない。
今はもっと強くなることを考えなければ。
◇◇◇
「そこだ!」
「甘い!」
俺は一瞬のスキを見つけるとそこに剣を滑り込ませる。
これはシェリーが誘導したフェイントではなく本当のスキ。
半年前なら見つけることもできなかった彼女の動きのクセ。
しかし、そんな渾身の一撃もシェリーに剣で防がれる。
それでも体勢を崩すことに成功した。
完璧なタイミングで迷わず俺は剣を彼女の首筋に向かって下ろす。
彼女の剣はそれを防ぐことはなかった。
「まいった」
「ハァ−。ハァ−」
俺は剣を落とすと大の字に倒れ込む。
シェリーの弟子になってからもうすぐ一年。
ようやく俺は一本をとることができた。
「それにしても一年で私から一本とるか。才能はあると感じていたが……」
シェリーは悔しそうに、でも嬉しそうな表情でそう言った。
それから俺達は訓練を続け夜になった。
その日の夕飯は御馳走だった。
「あっ!そういえば言い忘れてたな」
「ん?なんだ?」
「明日はちょっとだけ帰りが遅くなるかもしれん」
いつになく真剣な表情でシェリーは言った。
心なしか少し殺気も漏れている。
「いいか。アーサー。私が帰ってこなくても、いい子にして待っていろよ」
「俺は子供じゃない」
「そうか」
シェリーは微笑みながら俺の頭を撫でた。
俺は少しそのシェリーの様子に違和感を感じた。
そして次の日。
シェリーは夜になっても帰って来なかった。
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