表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の処刑人 〜処刑するはずだった悪役令嬢、連れ去ってみた〜  作者: 原案・ショコラパルム 本文・昊シロウ
5/11

後編 3ー1

読んでいただきありがとうございます。


 「エル・・・・・なのか?」


 「そっちこそ・・・・・アーサーなの?」


 俺は今、目の前で起きていることが理解できなかった。

 目の前にいる女がエル?

 それじゃあエルがエルドワース家のご令嬢だった?

 その事実が俺の身体を電撃のように駆け巡る。


 落ち着け。冷静に。視野を広げろ。そして深呼吸。


 「・・・・ふぅ」


 落ち着いた頭でようやく少し状況を飲み込めた。

 俺が昔遊んだ子はエル。本当の名前をエルミナ・エルドワースだったのだ。

 処刑をする相手が初恋をした人。

 なんという皮肉なんだろう。

 

 両親が死んだ時からわかっていたはずなのに。

 やはりこの世界は残酷だ。


 俺はエルの姿を見つめる。

 子供だった時のあどけなさは、もうなくなっていた。

 その代わりあるのは気品。

 捕まっているその姿まで一輪の花のように凛としていた。

 断崖絶壁に一輪だけ咲く花。

 そんな印象を受ける。


 エルの瞳は俺と再開したことで光を取り戻していた。

 その蒼色の瞳は、サファイアのように美しかった。

 瞳だけではない。

 幼いときから整っていると思っていた顔はさらに磨きがかかり、大人の女性になっていた。

 

 「・・・・・・・・・・・?」


 俺は落ち着いたはずの鼓動がまた速くなっていることに気づいた。

 どうしてだ?

 剣を握る手に力が入っているのを感じる。

 これだとまるで―――


 ”あの時”のようじゃないか。


 そう思ったときだった。



 

 「お願い。私を連れ去って」




 その目からは涙が溢れ出している。

 その顔はあの夜の光景と全く同じだった。

 俺の意識で過去と現在が交錯する。


 「これより。大罪人エルミナ・エルドワースの処刑を開始する!」


 エルとほぼ同時に王太子が叫ぶ。



 あの時もこんな思いだったのかエル?

 

 あの時も本当は俺に助けを求めたんじゃないのか?

 

 俺はあの時。エルの背中を追いかけるべきだったんじゃないのか?


 たくさんの後悔が俺の中で渦巻いている。



 「処刑人。始めろ」

 


 だけど。


 今は過去を後悔する暇があるのか?


 過去よりも現在(いま)を見ろ。

 エルは今度こそ俺に助けを求めた。

 

 それなら俺のとるべき行動は決まっているはずだ。


 六年前のあの日から。



 俺は剣を振りかぶる。

 エルはそれを見ると覚悟を決めたように目を瞑り、下を向いた。


 キィィン!


 彼女の首を切るはずだった剣は、彼女を縛る鎖を断ち切っていた。



 「俺に任せろエル。俺がお前を連れ去ってやる」



 俺は拘束の解けたエルの手を掴むと、走り出した。



 ◇◇◇



 「そっちこそ・・・・・アーサーなの?」


 私はありえない光景に目を見開いた。

 しかし、目の前には自分で渡した仮面がある。

 笑顔を描こうとして失敗した仮面。

 それでも彼は笑いながら受け取ってくれたっけ?


 私は彼を見上げる。

 さっきまでは驚いていたのに今はもう落ち着きを取り戻している様子だった。

 仮面で顔は見えないが何かを考えていることはわかる。

 何も言わない彼を見ていると、視界に王太子が立ち上がるのが見えた。


 処刑が始まる。


 もう間もなく私は死ぬ。


 なのに彼の姿を見て、私の心がさっきから叫び続けている。


 彼の優しい声が聞きたい。

 聞いているだけで安心するようなあの声を。


 彼の顔が見たい。

 元々カッコいい顔なのに傷がついて、それがさらにカッコいい彼の顔を。


 彼の大きくて温かい手をもう一度だけ握りたい。

 私の手を包み込んでしまうほどの大きな手。

 

 だけどそれが絶対に叶ってはいけないことだとわかっている。

 私にその資格がないこともわかっている。


 私は彼をあの日。裏切った。

 だからこうして私が罪人で、彼がその処刑人というのは運命だったのかもしれない。

 因果が回ってきたのだ。


 彼に殺されるなら私は甘んじて受け入れよう。


 それが私が償うべき本当の罪だから。



 あーあ。つまらない人生だったな。

 振り向きもしない男のために私は何をしていたんだ?

 おまけに冤罪を被せられて、処刑になる始末。

 我ながら滑稽すぎて笑えてくる。


 こんな私のつまらない人生に唯一。


 たった一つ悔いがあるとするならば。



 『エル。俺と一緒に来てくれ』

 

 差し出される大きな手。


 私はそれを―――



 叶わないとわかっていても。

 その資格がないとしても。


 もう私は死ぬんだ。


 最後に縋るくらいいいじゃないか。




 「お願い。私を連れ去って」




 頬を熱い何かが伝っていく。

 彼からの返答はない。

 

 「処刑人。始めろ」


 王太子の声が聞こえる。

 

 彼は剣を振りかぶった。


 死ぬのは恐い。

 それでも彼に殺されるなら。


 私は(きた)るその時に覚悟を決めて目を瞑る。そして下を向いた。

 しかし、その時は訪れなかった。


 キィィン!


 甲高い音が響き渡る。

 身体の拘束が解けていく。



 「俺に任せろエル。俺がお前を連れ去ってやる」


 「・・・・・・・・・・・・え?」



 私が返答する前に彼はそう言うと、私の手を掴んで走り出した。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

面白い・続きが気になるといった方は評価とブクマのほうよろしくお願いします。


次回投稿は2月2日10時予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ