前編 2ー2
読んでいただきありがとうございます。
「おい。そろそろだ」
私を監視していた衛兵が牢の外から声を掛けてくる。
鍵を外し、外への小さな扉が開かれる。
あのパーティーから一週間が経った。
私は、エルドワース公爵家を追放された。
それも当然だ。
なんといっても王太子との婚約破棄に加え、あまつさえ王太子を暗殺しようとした。と、いう話が父の耳に入ったからだ。
父は私の話しを聞いてはくれなかった。
『大罪人の娘は我が家にはいない』と言われた。
母はもう亡くなっていて、姉弟もいない私はこれで唯一味方だった人間も失った。
正真正銘一人になってしまった。
牢を出る時、衛兵から話しかけられる。
「安心しな。処刑人はあの「涙の道化」って話だ。死んだことにすら気づかない」
「涙の道化?」
「なんだ知らないのか?涙の道化ってのはこの国最高の処刑人と言われている男だ。三年前くらいか?突然現れて、一年のうちに百人以上殺った処刑人だ。何でも。殺される奴は苦痛すら感じんらしい」
衛兵はそれだけ言うと、私を処刑台へと連れて行く。
処刑は公衆の目の前で行われるらしい。
いかにもあの王太子が考えそうなことだ。
外へと続く通路を歩いていると心臓の音が聞こえてきた。
牢の中で覚悟は決めていたはずなのに・・・
なんて情けない。
私は震える手を握りしめる。
外の明かりが見えてきた時。目隠しがつけられる。
ここからは処刑のときまで外を見ることができない。
ゆっくり、ゆっくりと進む。
だんだんと人の気配を多く感じるようになってきた。
罵声が飛び交っている。
処刑台に着いたのだろう。
私は衛兵の案内に従って、段を登っていく。
そして座らせられる。
それと同時に目隠しが取られた。
光が目に入ってくる。
辺りを見てみると、民衆はもちろん。殿下やラティニアの姿もあった。しかも、護衛に近衛騎士団も引き連れている。
私は下を向く。
すべてを諦めた今、今更殿下とラティニアに怒りが湧いてきた。
しかし、もう何もかも手遅れだ。
早く私を殺してくれ。
そう思ったときだった。
前方に人の気配を感じた。
私は再び顔を上げる。
そこには一人の青年が立っていた。
処刑人は処刑のときは斧で行うのが一般的だ。しかし、彼は斧を持っていなかった。
その代わり持っていたのは一本の剣だった。
私はさらに視線を上げ―――目を見開いて固まった。
「・・・・・・・・・え?」
そこには見覚えのある仮面があった。
◇◇◇
俺はエルミナ嬢の前まで来ると立ち止まった。
後は、合図と同時に首を落とすだけだ。
そう思っていた時。
エルミナ嬢が突然顔を上げた。
それはとても美しい顔だった。
傷んでしまっているが元はとても艶があったであろう金色の髪。
光を失ってなお、綺麗な蒼色の瞳。
しかし、おかしい。
「・・・・・・・・・ん?」
この顔。どこかで見覚えが・・・・・
「アーサー?」
「!」
この女。なんで俺の本名を知っているんだ?
それを知っているのは国王と騎士団の上層部と昔遊んだ女の子ぐらいのはずだが・・・・・・え?
「エル・・・・・なのか?」
「そっちこそ・・・・・アーサーなの?」
確かに目の前の少女には昔の面影があった。
俺が初恋をしたエルの面影が。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
面白い・続きが気になるといった方は評価とブクマのほうよろしくお願いします。