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悪役令嬢の処刑人 〜処刑するはずだった悪役令嬢、連れ去ってみた〜  作者: 原案・ショコラパルム 本文・昊シロウ
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前編 2ー1

初めての異世界恋愛なので温かい目で見てくだされば嬉しいです。

この作品は親友とのツータックで書いた作品です。

読んでいただきありがとうございます。


 「エルミナ・エルドワース。君との婚約を破棄させてもらう!」


 「・・・・・・え?」


 さっきまでパーティーの活気で騒がしかった大広間が一気に沈黙に包まれる。

 そして、当事者以外のこの場の全員が広間の中心へと目を向けた。


 私は、殿下の言っている言葉の意味がわからなかった。

 今、殿下は婚約破棄と言ったのか?

 一体どうして?


 「どっ!どうしてですか殿下?」


 「とぼけるなっ!エルミナ。君は彼女にこの卒業までの三年間。執拗に危害を加えていただろう!」


 「・・・・・・・なんですって?」


 ますます意味がわからなかった。

 私が混乱していると、殿下の後ろから私よりも小柄な少女がビクビクと出てくる。


 「そうなんだよな?ラティニア」


 「はい。エルミナ様は入学当初から私に・・・・・ヒッ、ヒグ・・・・私に・・・ヒック・・」


 「もう大丈夫だ。ラティニア。無理をさせて悪かったな」


 「いっ、いえ」


 「ちょっと、ちょっと待ってください!」


 私がラティニアのことを入学当初からイジメていたですって?

 そんなこと天地がひっくり返ってもありえない。

 だって彼女とは親友だった。

 彼女は確かに平民出身で、私は公爵家の娘だけど。そんな身分なんて関係なく私達は学友で親友だったはずだ。

 それがどうして?


 早く、早くこの茶番劇を終わらせないと。


 「私はラティニアに危害なんて一度も加えていない!むしろ親友だったはずよ!」


 「だ、そうだが?ラティニア。実際はどうなんだ?」


 「エルミナ様は私のことをいつも平民だと見下して・・・・」


 「ほう。それは身分差別をしていたということか。エルミナ?この学園の最も重要な校則は知っているか?『この学園に在る限り、すべての生徒は全員平等』だ」


 「だから私はっ!」


 「くどいぞっ!エルミナ・エルドワース!この国の王太子である僕を(たぶら)かし、あまつさえその妻になるラティニアを長年虐げてきた罪。しかも・・・・・おい、僕のグラスを持って来い」


 従者と思わしき人間が一つのグラスを持って来ると、殿下へ手渡す。

 あれがどうしたと言うんだ?


 「それが・・・・なんだって言うの?」


 「まだ、これを見てとぼけるのかエルミナ?」


 殿下はそのグラスの中身を床へと垂らす。

 すると、床に敷いてあった赤色の絨毯がみるみると溶けていった。


 「皆の者。これを見たな!このエルミナ・エルドワースはこの国の”剣聖”にして王太子のこの僕を、暗殺しようとした!」


 「なっ!?」


 この一言で大広間に激震が走る。

 ザワザワと波紋が一気に広がっていく。

 

 私はもちろんあのグラスのことなんて知らない。

 言いがかり甚だしい。

 

 「話しをっ!私の話しを聞いてっ!」


 「もう大丈夫だ。ラティニア」


 「ありがとうございます!殿下」


 もうこの場には、誰も私の味方はいなかった。

 この国の王太子であり、剣聖である殿下の言葉を疑う者は一切おらず、私に軽蔑の視線を送っている。

 私はその場に膝から崩れ落ちた。

 目からは涙も溢れ出してくる。

 しかし、その涙を信じる者は誰もいない。むしろ「どこまでが本当なんだか」といった声が聞こえてくる。


 そして、私を陥れた二人は強く抱きしめ合う。

 まるで一つの巨悪に勝利したように。

 私はその姿を、涙でぼやける視界で見つめて―――


 「・・・・・・・・・は?」


 私は思わず声を上げてしまう。

 今、あいつらは笑っていたのか?

 涙を流しながら這いつくばる私の姿を見て。

 無情にも目に映るのは、嘲笑を浮かべる”元”婚約者と”元”親友の顔。


 ああ。そういうことか。


 私はようやく理解した。

 殿下は昔から私のことは好きでもなんでもなかった。

 私もそのことには薄々気づいていた。

 親同士が勝手に決めた婚約だ。それも無理はないと思う。

 私だってそうだった。

 私にも当時好きだった、心から愛していた人がいるのだ。

 しかし、この殿下との婚約は名家・エルドワース公爵家に生まれた時点で絶対に果たさねばならない義務なのだ。

 だから私は、来る日も来る日も頑張ってきた。

 学問も剣術も魔術も。

 殿下にいつの日か振り向いてもらうことを夢見て。


 だけど実際はどうだ?


 ポット出の女にあっさり殿下は奪われた。

 私の血が滲むような努力は一瞬にして裏切られた。


 きっと殿下はラティニアに惚れたんだろう。

 そしてラティニアも殿下に惚れた。

 元々殿下にとって邪魔だった私という足枷が、いよいよ殿下の障害となった。

 だから、切り捨てられた。


 なんだ簡単な話しじゃないか。


 「・・・・・ははっ」


 私は思わず笑ってしまう。

 ああ。なんて滑稽な話なんだろう?

 振り向くはずもない男のために私はどうして今まで・・・・・・・・・・



 『エル。俺と一緒に来てくれ』


 ふと、あの日の光景が蘇る。

 それは初恋の光景。

 優しく微笑み、差し出される私よりも大きな手。

 

 でも私はその手を取ることができなかった―――



 私はもう考えることをやめた。

 これ以上何を考えても、無駄なんだ。

 国の重鎮もいるこの卒業パーティーで嘘だとしても殿下に言われたのだ。

 それがここでは真実となる。

 私はもう公爵家でも何でも無くなってしまった。


 「この国の王太子である僕を暗殺しようとしたその罪。極刑に値する!」


 殿下の声が大広間に響く。


 「連れていけ」


 殿下が命令すると、二人の大柄な男が私を乱暴に外へ連れ出す。


 私は遠ざかっていく殿下たちの姿を見つめる。

 しかし、どうしてだろう?

 憎いはずなのに不思議と何も感じなかった。



 ◇◇◇


 

 いつもと変わらぬように朝食をかじっていると、一匹の伝書鳩が飛んできた。

 珍しいな。そう思いながら俺は伝書を足から外して読み始める。

 送り主は国のお偉いさんからだった。


 「えーなになに。『王国で最高の処刑人である貴公に元公爵家であるエルミナ・エルドワースの処刑を依頼する。了解であればその伝書鳩を飛ばしてくれ』って!エルドワース家のお嬢様!どうして死刑なんかになっているんだ!?」


 エルドワース公爵家といえばこの王国指折りの名家だ。


 俺は罪状を考えたがさっぱりわからなかった。

 確か、エルドワース家のお嬢様は王太子と婚約していたはずだ。

 ここ。エルドワース領で披露パレードもやっていたから間違いない。


 「でも。”今”、処刑人の俺には関係ない・・・・・か」


 俺は処刑人。

 どうせ殺してしまう人間の罪状なんて考えるだけ無駄だ。


 『殺す人間に情は抱かない』これが昔からの、今も変わらない俺の信条だ。

 だから今回もただの仕事に過ぎない。

 今まで何人も殺してきた。何人も何人も。

 だから今回も変わらない。

 変わらないはずなんだ。

 

 俺は王国で最高の処刑人。

 処刑する者に一切の苦痛を与えない。死んだことにすら気づかせない。

 そして処刑をする時に必ずつける、涙を流す道化の面。

 故についた二つ名は「涙の道化(ティア)」。


 「しっかし、いつまで経っても慣れないな・・・」


 俺は了解の伝書鳩を飛ばしてやる。

 だけど、その手は震えていた。

 確かに、処刑人になる前からたくさん殺してきた。

 それが俺の背負った宿命だったから。

 処刑人になってからも結構な時間が経っている。

 それでもだ。


 「人を殺すのは、好きではないな・・・」


 俺は、涙を流す道化の仮面を見つめながらそう呟いた。



 『はい。これ。私からのアーサーへのプレゼント!』


 『なにこれ?』


 女の子から渡されたのは一つの仮面。


 『アーサーの顔の傷を隠すためのお面。私を助けてくれた時に顔、怪我したでしょ?』


 そう言いながら、女の子は俺の右目についた一本の傷跡に優しく触れてくる。


 『道化の顔みたいだねこれ』


 『うっ。笑顔を描こうとしたんだけど・・・・・そうなちゃった』


 『でも。ありがとう。エル。大切にするよ』


 『うん!』


 彼女はそう満面の笑みで頷いた。






ここまで読んでいただきありがとうございます。

今後の参考とモチベーションのためにも評価とブクマのほうよろしくお願いします。

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