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納受の愛  作者: 智琉誠。
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【第2話】9年前の事件

渡された大量の資料を抱え、自分のデスクに着いた。当時の新聞、事件に関連する書籍、事件を取り上げた週刊誌。それらが私のデスクを埋めた。ひとまず新聞を手に取る。


女子高生連続殺傷事件は9年前に起きた事件だった。当時16歳、高校2年生だった少年Aが、自身と同校の女子生徒、他校の女子生徒を殺傷した猟奇的な事件。事件発生時、15歳だった私は、自身と同年代の少年が起こした大きな事件に、他人事ながら衝撃を受けた記憶がある。


「少年Aねぇ…」


正直なことを言えば、事件自体に大して興味はなかった。しかし、これは私の初めての大きな仕事。興味の有無は関係ない。私はこれを一つの仕事と捉えて、真剣に資料に目を通していった。


資料を読んでいって分かったことは、少年Aは犯行に及ぶ際、交際相手の女子生徒と性交渉に及んだタイミングで相手を殺害したということ。このことから、当時の報道では「性的サディズム」が起因する犯行だと考察されたそうだ。「性的サディズム」、その単語に私のなかで一気に興味が膨らんだ。それから私は新聞から週刊誌、書籍を夢中で読み漁った。読めば読むほど、当時の少年Aへの興味が溢れていく。


少年Aは2人を殺害し、1人を暴行して逮捕された。なにより私の興味を引いたのは、2人目を殺害後に彼がとった行動だった。彼はテレビ局に宛てて犯行声明文を送ったのだ。


『僕はただ、僕を受け入れてくれる女性を探しているだけなのです。僕は受け入れられたい。受け入れてくれる女性が見つかるまで、誰も僕を止めることはできないでしょう。』


週刊誌には、その犯行声明文の写真が掲載されていた。定規が何かを使って書かれた赤字の直線的て独特な文字。しつこいほど、「受け入れる」という表現が書かれた文章を読んで、私は言語化できない得体のしれない感情を覚えた。受け入れてほしいから殺害…。その感情に共感はできなかったが、何故彼がそんな発想で犯行に至ったのか、何が彼をそうさせたのか気になって仕方がなかった。


時間を忘れて資料を読み漁っていた。気づけば退勤時間。


「佐野、随分熱心に読んでたな。やる気満々で感心したぞ」

「いやぁ…、資料を読み進めるうちに、元少年Aにすごく興味が出てきて…」

「おぉ、それはいいことだ。意義ある取材になることを期待してるぞ」


山下は機嫌良さげに私の方を叩き、自分のデスクに戻っていった。今日も夜の出勤があるため、私はそそくさと退勤の支度をした。


「お疲れ様でーす」


ネオンが輝く繁華街にある一棟の雑居ビル。狭く急な階段を上って3階に着くと、少し錆びた真っ赤なドアが私を待っている。ゆっくりと開けると、ギギ…と嫌な音が鳴った。


「おはようございます」


デスクでパソコンに向かう店長の高田に挨拶すると、彼はパソコンの液晶から私の顔に視線を移した。


「今日は2組予約入ってるよ。沙夜ちゃん、相変わらず調子いいね」


このお店に在籍し始めて約1年。今のところ、指名が途切れたことはない。同業者からしたら、私にはM嬢が天職に見えるかもしれない。それでも、自分ではそんなことは一切考えたことすらなかった。


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