狭間(ダンジョン) 1
本日3話投稿しています。
3話目
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暗闇の向こうに、大小複数の動く気配があった。
大小の気配は、俺が移動するのに合わせ、包囲の輪を移動する。
数も徐々に増えている。
「ふう……いくら空腹でも、これじゃ集まり過ぎだぜ」
今の俺は、空腹。
獣が現れるのは歓迎だが、数が多いのは望んで無い。
ガウッ!ゴゥガガッッ……
ギャウンッ……
争いあう音。
しかも複数。
アチラコチラで、獣同士が争っている。
どうやら、奴らは、仲間同士では無いようだ。
むしろ、互いを牽制して、決定的な距離まで詰めてこれる奴はまだ出てない。
アリガテェ。
烏合の衆が相手なら、やりようは有る……ん!?
俺が獣群をどうやって料理しようか考えていると、何かが見えた。
正面。
霧の濃淡の隙間から、ポツンと薄明るい場所が見える。
巨木が寿命を終え、辺りの木々を巻き込んで転がり、広場になっている。
広場の中心からは、瘴気の霧が渦になって湧き出し周囲に拡がる。
異様な光景。
その場は明らかな危険。
ソレを認識した瞬間、俺の身体がブルリと震えた。
この場所に俺の筋肉が反応した、つまり俺が狭間に入ると求めていた場所……狭間の中心部だ。
狭間の中心部に何が有るのか分からない。
だが、広場を見つけたついでに、妙案を思いついた。
ニヤリ。
あの場所で、獣の群を迎え撃つ!!
狭い場所でチマチマと戦うより、広くなったアノ場所で思う存分ワザを繰り出すのだ。
光までの距離は、約100歩ぐらいか。
俺は、この機を逃さず、移動の脚を速めた。
ザワッ……
俺の脚が早まったのに気がついた獣が、急に騒がしくなった。
俺の意図に気がついたのだろう。
獣達は、互いを見合い、一瞬の間を置いて混乱した。
俺を追いかけようと隙を見せた獣に、別の獣が後ろから食らい付く。
獣同士で激しい争いを起こし、混乱をきたす。
……
「ヘッ!!」
口元が、獰猛にほころぶ。
いいじゃねーか。
どうせ、こんな数全部は喰えねえんだ。
自分で数を減らしてくれるとは、手間がはぶける。
獣たちの醜態を見て、走りながら笑い出しそうになっていた。
……その時だった。
「ギャギュッッ カッカッカカカカカカカッカカカカカカカァッ」
突然、頭上から咆哮が叩き付けられた。
何者かの咆哮に、獣の多くが反応する。
瞬時に大半の気配が四方八方へと逃げ散る。
……
俺も走るのを止め、咆哮の正体を探る。
ちょっとした小屋ぐらいある影が、その場に未練がましく立ち止まってウロウロしているのが見えた。
こいつじゃない。
他にも数体、かろうじて踏みとどまった影が、明らかに怯えている。
「ギャガッガガガガガガガガガガガァァアアアアアアアアアアアアア~ッッ!!!」
再び頭上からの声。
今度のは、明確な最後通牒であった。
ウロウロする影が、真上からの咆哮ですくみ上がる。
今度は、全ての大きな影も飛ぶように消えた。
頭上からの声、つまり、この声の主は樹の上に潜んでいる。
どうやら、この場に残ったのは、俺と樹上のヤツだけのようだ。
樹上の獣は、見事な圧を放っている。
並の獣ではなかった。
さっきまでの獣全部を足しても、この獣一つの圧に敵わない。
その圧が、頭上の木々を飛び移りながら近づいてくる。
俺は、この辺り一帯の王者に目を付けられたようだ。
「ふーん、この状況、意味が分からねえが、ヤルしかねえようだな」
俺は、腹を決めた。
目が覚める以前の記憶は無いが、この手の感覚はハッキリと分かる。
命のやり取りの直前に感じる緊張感。
この状況、情報不足で戦うのは賢い選択で無いのぐらい解っている。
第一、いまさら逃走を許してくれそうな相手で無かった。
頭上から迫る気配との距離は、どんどん縮まっている。
ならば、迎え撃つのは、やはりあの明るい場所だ。
再び疾走する。
広場に近づくにつけ、息苦しくなるほどの瘴気が濃く纏わり付こうとする。
「へッ!」
何だか楽しくなっていた。
明らかな危険である。
危険がせまっているのに、俺の魂の天秤は、逃走よりも闘争を選択した。
身体は闘争を求めている。
闘いが始まる。
ならば戦うのだ。
瘴気があろうが無かろうがどうでも言い、闘争こそが我が人生である。
急き立つ魂が、走る速度を加速させる。
広場まで一気に駆け抜けた。
広場から湧き出す瘴気の霧ごしに、朽ち果てた巨木が転がるのが見える。
死の間際の巨木が、周りの木々を巻き込み、広場へと変えたのだ。
巨木の根本近くからは泉が湧き出し、森の中へと小川が続く。
薄光の射す広場には、瘴気の影響でか?奇形化した膝高の若木が高さを競い合っている。
不気味にうねる若木を踏み倒し、俺は広場に踏み込んだ。
薄光の当たる位置まで踏み入れた時だった。
…ッッ!!?
咄嗟の反応。
俺は、真横に飛び退いた。
ザ…ッッ!
ドンッ!
さっきまで俺がいた場所に、何かが衝突した音。
衝突の直前まで、風の音も、空気の乱れも無かった。
避けられたのは、ただのカンであった。
初めから追われて無ければ、背に強烈な一撃をもらっていただろう。
地面を一回転して態勢を立て直す。
振り返った後方にいたのは……
全身を極彩色な羽毛に覆われたトカゲ……!?
のような生き物であった。
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※10万文字程度書き進めているので、17時頃に毎日更新