2話 アリアとの出会い(アリアって亞里亞って書くんじゃろうなぁ)
「フレデリカ様、魔法学院が見えました」
執事がそう言って馬車の窓から見える巨大な建物を指さす。ってか馬車ってぶち乗り心地悪ぃのお。ケツが痛ぇわ。
話しがそれたが、いよいよ魔法学院の入学式じゃ。……そういやワシ、まともに学校行ったこと無かったのぉ。入学式はスケバンスカートと刺繍を入れて改造したセーラー服で行ったし。この魔法学院の制服も改造できたらのぉ。そんで、入学式以降も単車乗り回して学校なんぞ行かんかった。まあ、勉強はせんでもできたけぇ。あ、これ自慢な。
「ええ。今から楽しみですわ」
こういうのは最初が肝心じゃ。舐められたら終わりじゃけぇの。……いかんいかん。そういえばワシ、今はフレデリカお嬢様じゃった。何とかお嬢様らしくせんとな。たいぎいのぉ。
ワシを魔法学院に下ろすと、馬車は行ってしまった。この魔法学院は全寮制じゃから、しばらくは家に帰れん。
ともかく、ワシは受付に従いワシの教室へ向かうことにした。
すると、どこかから内緒話のトーンで話す話し声が聞こえた。なんじゃろと耳を傾けてみる。
「ほら、見てご覧なさい? あそこにいる新入生、農民出身らしいですわよ」
「ほんとですわ。貧乏くさい」
「なぜあのような方が魔法学院に来られたのでしょう」
ほぉ。正門前におる茶髪でロングヘアーの奴、農民出身じゃったのか。確かにあんましお嬢様っぽくねぇわな。
まあええわ。ワシには関係ねぇ。さっさと教室いこっと。
「あら! あちらにお見えになるのはフレデリカ・フォン・ミューゼル様でなくて!?」
「本当ですわ! ああ、いつ見ても優雅で気品あふれるたたずまいですわ」
「フレデリカ様、美しい……」
今度はワシかい。今まで言われた事ねぇこと言われて恥ずいわ。
「皆様、ごきげんよう」
ワシは習うた挨拶の仕方でお嬢様3人組に挨拶した。向こうも同じような挨拶を返してきた後、アホみたいに騒ぎよった。まあ、喜んでるならええか。
今度はその3人組がまた別の人に視線を変えた。今度は男じゃ。1人の金持ちそうな男が歩いてくるのをキャーキャー言いながら目で追っとる。確かにイケメンじゃがなんかいけ好かんのぉ。
「まさか第一王子のアドルフ様ですわ!」
へー。あの優男、ここの王子じゃったのか。生で見るのは初めてじゃ。
……まて。あの見た目と名前、覚えがあるぞ。
「遙香、何やっとん?」
ワシがまだ広島で生きてた頃、友達の遙香がゲームしとったから何のゲームか聞いたんじゃ。
「これ? 所謂乙女ゲーってやつじゃ。この主人公になって王子とかのイケメンと仲良くなって最後は結ばれたらクリアじゃ。そんでこのフレデリカって奴がおえん奴でな?」
「おもろいんか? それ」
「そがーに言んならやってみーや」
そんでワシは遙香にゲーム借りてやってみたが、なかなかおもろかった覚えがある。
その記憶から察するに、ここは遙香のやってたゲームの世界って事じゃなかろうか。えれー事になった。もしそうじゃったらフレデリカって悪役令嬢の立ち位置じゃった。最後はえれー目に遭うんじゃ。
……うーむ。これはフレデリカのまねをして悪役令嬢になった方がええんじゃろか。でもワシはワシじゃ。こんなたいぎいことしとうない。
とりあえず後で考えるか。悩んでもしゃーないし。早いとこ教室いこ。
教室に着いた後、入学式の説明を受け、入学式に臨んだ。新入生代表挨拶をやらされたのはたいぎかったが、特に何も無く入学式を終えることが出来た。
……と思っとったが、入学式後、例の農民上がりの生徒が早速いじめをやりょうた。どこに行ってもこういうのはなくならんのう。
「農民風情がこの魔法学院に来ても良いと思っているのですか?」
「恥を知りなさい」
「あらやだ、貧乏が移ってしまいますわ」
いじめよんのはさっきの3人組じゃん。3人でよってたかって格好わりいのぉ。
……ここで出てったらお嬢様フレデリカじゃのーなる。ほいじゃがこれ見逃すんも格好がつかん。
「…………あ――――クソ!」
ワシが3人に近づくと、3人は笑顔でワシの方を向いてきた。
「これはフレデリカ様。ご機嫌よう」
「じゃかあしい!!!」
「じ、じゃかあしい? なんですのそれ」
「おどりゃよってたかってこがにいじめよってからに、恥ずかしゅうないんか!」
ワシの言うことが3人は分かってねぇな、じゃが怒られてることは理解してるようじゃった。ほいじゃが奴ら反抗的な目を向けてきちょる。
「なんじゃワレ! その目はなんじゃ! 舐めとったらぶち回すぞ!!」
ワシが拳を振り上げると3人は怯えながら逃げていった。
「なんじゃ、骨のねぇ奴じゃのお」
「あ、ありがとうございます」
農民上がりの子がワシにお礼を言ってきた。
「おどれもじゃ。ええか、農民だからいじめられたわけじゃねぇ。舐められとるけぇじゃ。舐められたら終わりじゃ。肝に銘じとけ」
はーすっきりした。言いたいこと全部言えたわ。ほんじゃ寮にかえるかのぉ、もうすることないけん。
……あの子、その場でずっとワシに頭さげちょる。ちょいと言い過ぎたかのぉ。
寮は2人部屋なんじゃが、まさかさっきの子と一緒の部屋になるとは……。
「先程はありがとうございました!」
また勢いよく頭を下げよる。首いわすで……」
「いえ。私も見過ごせなかったもので」
「あれ? 先程の言葉遣いでは無いのですね?」
そういえばやワシ、この子の前でがっつり前世の言葉使うてたわ。
「……元々丁寧な言葉遣いせんけぇ、あん時は素がでてしもうたんじゃ」
「そうだったのですね。……私はその言葉遣いも良いと思います」
「そう? じゃおみゃあとおる時はそうさせて貰うわ」
「お、おみゃあですか。……覚えます、頑張ります!」
その子は張り切った様子でそう言うた。人の良さそうな奴じゃのぉ、この子は。
「そいや、おみゃあの名前聞いとらんかったわ。ワシはフレデリカ。そっちは?」
その子は姿勢を正し、かしこまって答えた。
「私は、アリア・オレンジペコといいます」
アリアって亜理亜って書くんじゃろうな、多分。
「良い名前じゃのぉ。気に入った」
こうしてワシとアリアは友達になった。これから楽しいとええのぉ。