97.捨身の救助
よろしくお願いします。
戦いの中でリダイオを支援する後方のマーナ。
飛び道具が邪魔でマーナに狙いを定めたシゼレコだったが、そのマーナをペスが間に入ることで邪魔をした。
シゼレコはそう捉えた。
しかし実際ペスはマーナの後ろにいるリオを守っていた。
そしてその後シゼレコは格下相手とはいえ、苦戦を強いられ、プライドを傷つけられたためにかなり本気を出して戦った。
完全にシゼレコは本来の目的であるリオの捕獲を失念していた。
リオはペスの体によって隠され、マーナから外に出てパノマイトに助けを求めるように言った。
「いい?外にパノマイトとベムがいるはずだから、そこまで逃げて?」
「マーナおばさんたちは?」
「私たちはあの赤い竜人を倒してから向かうから。」
「私もここにいる!」
リオは一人になる不安と、リダイオ、マーナ、ペスのことが心配でここを動きたがらない。
リオの様子を見たマーナは考える。
確かに外にもミャスパーの家を守る警備兵がいるかもしれない。
しかし、それでも、自分達3人がかりでも倒すことのできない竜人のそばにいることよりは安全だろうと考え、言葉をきつくしてリオに言い聞かせる。
リオは何も返事を返さない。
しかしここが危険であること、それに自分が原因で戦闘が開始されたと幼いながらに理解したリオは素直にいうことを聞くしかない。
「いい?次、私が攻撃されたら、吹き飛ばされる演技をするからその時にできる土埃に混ざって階段を上がって。」
リオはコクリと頷き、そして言われた通りに走った。
マーナが吹き飛ばされ、彼女の元に一瞬足が向きかけたが自分がマーナの元に向かうよりも外に助けを求めに行った方がいいと思ったリオは急いで階段を上がる。
体力が戻っていないために途中、何度も足が止まる。
それでも進まなくてはならないリオはゆっくりとだが確実に歩を先へ進める。
階段を上がり、通路を通り過ぎると昼間ペスと共に捕らえられた庭に出る。
人に見つからないように慎重に草木に隠れながら動く。
わずかな物音や自分の背後に流れる風にすら警戒してビクビクしていた。t
ただ、必要以上に臆病に行動したおかげで誰にも見つかることはなく無事外に出ることができた。
「リオ!」
屋敷を抜け出し、緊張の糸がわずかに緩む。
その隙を狙うかのように名前を呼ばれたことで体を強張らせたが、聞き覚えのある落ち着く声に安堵した。
「お父さん、、、!!!」
リオは父に抱きつく。
父もそれを喜んで受け入れる。
早く、マーナたちを助けるために父に伝えなければ、そう思うリオだったが極限の緊張から解放されたことで意識を落としてしまった。
リオが目を覚ますと最近見慣れつつある自分の部屋だった。
布団から出て、目を擦りながらリビングに向かう。
完全に習慣になりつつある行動のため何も考えずにその動きをしていた。
しかしリビングに向かうと父が慌てて駆け寄ってくる。
「リオ!大丈夫かい?」
そして意識は一気に覚醒し、昨日の出来事を思い出す。
「あ!お父さん!マーナおばさんたちは!?」
リオが父に昨日のことを伝えるとパノマイトの表情が曇る。
あの後パノマイトはマーナの指示通りリオを連れて家に戻ってきていた。
マーナからは襲撃者が自分の家の裏手に住んでいるなんて思いもしないだろうからしばらくは時間を稼げると説明され、納得した。
そして自分達は後から合流すると。
しかしあれからマーナたちは誰も、ベムとペスすら戻ってきていない。
そのためパノマイトはどう行動すればいいかわからず、ずっとこの家に止まっていた。
「お父さん、お父さん!」
娘に対してなんと伝えればいいのか考えていたパノマイトは娘に大声で呼びかけられたことで熟考してしまっていたことを察する。
「ああ、ごめんね。
マーナさんたちはまだ、戻ってきてないんだ。」
「おばさんたちは、無事、だよね、?」
「・・・きっと大丈夫だよ。」
パノマイトにはそういう事しか出来なかった。
リオは作り笑顔を浮かべるが、言葉が出ないのか、その笑顔も徐々に引き攣っていく。
パノマイトも大丈夫の後の言葉が出て来ず、娘の引き攣った笑顔に顔を顰めそうになる。
そんな辛い沈黙を破ったのは言葉ではなかった。
キュルル、、、、、、
小さな、けれどこの沈黙には大きすぎるお腹の音が鳴り響く。
「ごめんなさい、こんな時なのに・・・。」
生理現象ゆえ仕方のない事だが、リオ本人の気持ちとしてはどうしてこんな時にお腹なんて空かせていられるのかという罪悪感でいっぱいだった。
「仕方ないよ。昨日から碌なものを食べてないだろう?
急いでご飯の支度をするからテーブルで座っていなさい」
「・・・うん。」
しかしパノマイトもそんなリオの気持ちは痛いほどわかるために特に言及することはなく、ご飯の支度をしに台所に向かう。
リオはテーブルに腰掛け、昨日の出来事を思い出していた。
ただただ怖かった。
あの場所が一体なんの場所なのかもわからない。
それに結局父親にかけられ魔法がどんなものなのかもわからない。
ただ自分が捕まっただけ。
そして家族を、仲のいい冒険者を傷つけてしまった。
もしかしたら死んでしまっているかもしれない。
そう考えると、昨日の助け出される前、牢屋に閉じ込められていたときよりも体が震えてくる。
種類は違うが、同じ怖いという感情に体が支配される。
「ほらやっぱりここにいた。」
そんな恐怖に身を竦めていると、店の入り口から知らない女の人の声が聞こえる。
一瞬、マーナが帰ってきてくれたのかと喜び顔をあげたリオだったが、その人物を見たことで淡い希望も簡単に消え失せた。
「だから言ったのに。ほんとあのトカゲは人使いが荒いんだから。
ほら、リオちゃん私についてきて。痛い思いはしたくないでしょ。」
落胆から下がりかけていた顔もその人物の言葉を聞いてすぐに止まる。
むしろもう一度聞き返さなければならないと声を出した。
「誰?!」
リオは椅子から立ち上がり、少しでも女との距離を空けようとする。
竜人でないだけにリオの中では警戒対象に含まれていなかった。
しかし、よく分からないが、相手は自分を捕まえようとしている。
「リオ!?」
リオの大声での問いかけが聞こえたんか、台所から飛び込んでくるパノマイト。
パノマイトはリオと見知らぬエルフの少女を目撃する。
竜人たちに自分達がここにいることがバレ、リオの前に竜人兵士が現れたのかと思った。
しかし現れたのがエルフの、それも比較的幼そうな少女のためパノマイトの警戒心もゆるむ。
「リオちゃん、を連れて、くるように、命令を、されたので、大人しく、ついて、きて、ください、」
「お父さん、この人悪い人!それに話し方もなんか変!」
解けそうになっていた警戒心の紐を再度締め上げる。辿々しく可愛らしくない内容を語るエルフが敵だと理解したパノマイトはリオを抱え、そして一目散に台所の方に逃げる。
そんな2人を黙って見ていたハーフエルフのミューは舌打ちをする。
「めんどくせーな。大人しくついてこいよ。どうせ捕まるんだから。」
ミューは事前にミャスパーからこの家の作りを見せてもらっていた。
そして出入り口は今自分がいる一箇所しかないことを知っていた。
そのためいくら奥に逃げようと結局は捕まることになる。
だから舌打ちをしながらも相手の逃亡を見逃したのだが、追いかけて行った後、自分の把握していない出入り口が現れたことでさらに舌打ちを繰り返す。
「借家なのに勝手に手を加えてんじゃねーよ」
『風よ 追え エアトラック』
「無駄な魔力消費、ほんと最悪。」
そう独り言ちながらミューは魔法の流れが示す道を辿る。
一方、リダイオは裏口から必死にミューを巻くために路地を右へ左へと移動する。
けれど風の流れを追っているミューにはなんの意味もなく、30分ほどして呆気なく追いつかれてしまう。
「あの、いい加減、捕まって、くれません、か?」
「断る。」
「お父さん、は、もう、いいので、娘、さん、だけでも、置いていって、くれませんか?
娘、さんを、置いて、いくなら、男爵様、はあなたを、見逃す、そうです。」
「そんな条件飲めるわけがないだろ。断る。」
長距離を走り、息を荒げながらも決して娘を渡そうとしないパノマイト。
それどころかミューに背中を見せ再び走り出そうとする。
辿々しく話しながらも、その様子を苛立たしく思ったミューは魔法を発動させる。
「『我が魔力を以て顕現せよ 風を纏い 抉れ 風弾』」
「グァ!!」
右足を風の弾で撃ち抜かれたパノマイトはリオを抱えたままその場に倒れ込んでしまう。
「お父さん!?大丈夫!?おと、、、、、」
パノマイトの腕から抜け出したリオは膝をつき、倒れ込んだ父に必死に声をかける。
しかしそんな家族のやりとりを見せられるのも面倒だといった具合のミューが近づき、リオの首に手刀を叩き込む。
「リオ!」
倒れている自分の背に倒れる娘に対し、パノマイトはどうにか痛みを無視して起きあがろうとする。しかしその前にミューがリオを軽々と持ち上げてしまう。
「もう、本当に面倒なんだから。変な場所まで無駄に逃げるなんて無意味なことを。
ここどこ?」
そう独言るミューを見て、パノマイトは話し方が変だと言った娘の言葉の意味を理解しながら意識を無くした。
ありがとうございます。
めっちゃ寒いですね。
PV40,000嬉しいです。




