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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
95/198

95.救出、そして逃亡

よろしくお願いします。

11/5 深夜


しばらくリダイオとパノマイト、そしてベムはマーナの帰りを待つためにミャスパー男爵家の周りを散歩を装いながら行ったり来たり、繰り返していた。

そしてマーナの宣言通り、20分が経ったところでミャスパー男爵家の門壁から誰にも気づかれないように現れる。


「リオは?」


現れたマーナに対し、パノマイトは切羽詰まった様子で尋ねる。


「分からないわ。ひとまず家にはいなかった。

ただ、庭からは血の匂いがすごいしたし、いくつか固く守られている扉があったわ。

そこを調べないことにはなんとも言えない。」


「それならどうする?もう少し、俺たちはこの辺にいた方がいいか?」


パノマイトとは異なり焦燥はしていないが、決して事態を楽観しているわけではない表情のリダイオが問いかける。


「そうね。でもその扉の先に何があるか分からないからリダイオも付いてきてくれない?

最悪、リオがその部屋に閉じ込められていたら私一人で連れ帰れるか不安があるの。戦闘になっても私はリオを抱えていたらろ碌に動くことは出来ないでしょうし。」


「それもそうか。

庭から感じられた血の匂いも気になるからな。」


「ええ。

それじゃ、パノマイトはもう少しこの辺りをベムと歩いてくれる?」


パノマイトは自分も行くと訴えようとしたが、二人から無言の圧力をかけられたため言葉には出さなかった。

再度侵入した際マーナは前衛戦闘職のリダイオと共に行動したため僅かに調査速度は落ちたが、事前に気になっていた場所には当てをつけていたので門たちで問題なく忍びこめた。

二人はまず、門壁を門兵にバレないように越えるとその地点から一番近い、マーナが血の匂いを感じた場所に向かう。


「ここよ。庭の草木は手入れされているから目では見えないけど、確かに血の匂いが感じられるわ。」


そう言われたリダイオは地面に顔を近づけ、匂いを嗅ぐ。


「確かに匂うな。それもここ数日の血の匂いか?

少なくとも1週間前ってことはないな。」

前衛の戦闘職のリダイオですら感じる血の香り。


「ええ。そうね。そもそも私でも1週間前の血の匂いなんて相当な戦場でなければ感じられないからあなたが感じられるくらいなら昨日、今日の血なのでしょうね。」


そう言いながら、マーナは歩を進める。

血の匂いをたどり、最も血の匂いがし、固く閉ざされた扉の前までくる。

「まずはここね。一番匂いが強いわ。

冷静さを欠いていたパノマイトの前では言えなかったけど、もしあの血がリオのものならまず生きていることはないでしょうけど、、、。」


「そういうお前も手先が震えてんぞ。もう少し冷静になれよ。」


「どうしてそんな冷静でいられるの!!?リオが攫われたのかもしれないのよ!?」

リダイオがマーナの焦りを感じ少しでも宥めようと軽口を叩くとそれが逆効果だったのかマーナは声を荒げる。

その様子にリダイオは慌ててマーナの口を手で塞ぐ。


「悪い。ただ、声を抑えてくれ。俺たちは貴族の邸宅に不法侵入しているんだ。見つかったら終わりだ。」


リダイオの言葉に冷静さを取り戻したマーナは頷き、そのまま鍵開けに専念し出す。

それから10分ほどしてマーナは鍵開けに成功する。

中にリオがいないことだけを祈りながら扉を開ける。

部屋が広がっていると思われた空間は存在せず、下に続く階段が出現した。

二人は「地下?」と顔を見合わせ、疑問に思う。

しかしその先から感じる血や獣の匂いを感じ、即座に警戒心を強める。

侵入時同様、盗賊(シーフ)のマーナを先頭に階段に何か仕掛けがないかを確認しながら下る。

階段には何もなかった。

降り終えるとさらに扉が出現する。その扉を警戒しながら触れ、開ける。

何かの罠が発動することなく、普通に扉は開いた。

マーナは扉の先の光景を目にした。

そして、絶句する。

あまりの光景に思わず扉の前で無防備な状態を晒してしまう。

幸い奇襲されることはなかったが、内から狙われていたら確実に致命傷を負わされていたと思うほどに体は驚きから固まっていた。


マーナとリダイオ、二人の視線の先には巨大な牢屋がいくつも併設されており、その中に普段はなかなか目にすることのできない貴重な魔物、動物などが鎖に繋がれた状態で檻の中に入れられている。

幾頭かはまだ元気でマーナたちを警戒しているが、他のほとんど全ての生物が生気のない状態でただ生命活動だけを継続させている。


「ここにこんな場所があったなんて。」


一足先に正気に戻っていたマーナがそう口に出す。

その声を聞き、リダイオも正気に戻ったのか首を縦にふる。

そして二人は牢屋を順々に見ていき、人がいないことにひとまず安堵した。

しかしその安堵も束の間、牢屋の最奥にリオと共に姿を消したペスの姿があった。

致命傷になるような大きな傷はないが、以前見た時にはなかった無数の刺し傷が刻まれている。首と4本の足に拘束具がはめられており自由に動くこともままならないといった様子だった。

マーナはペスに慌てて駆け寄ろうとするが、その瞬間ペスは拘束されているのにも関わらず警戒心を露わに唸り声を上げる。

意識があり、敵意をむき出しに出来ることに安堵すると共に、リオの居場所はここのどこかしかないと確信を持ってしまった。

リオがいなくなって、ペスも消えた。

消えたタイミングが一緒だったのかどうかパノマイトは知らないと言っていたが、同日に別々に消えることなんてそう考えられない。

そう思ったマーナは警戒心全開のペスに対して距離を保ったままリオはどこかと尋ねる。

無論言葉にしても獣に言語が分かるはずないのだが、マーナはなぜか聞いてしまった。

するとペスは唸り声を止め、マーナもリダイオもいない方向に向かって声を上げる。

その先には牛と馬をミックスしたような動物しかおらずリダイオは首を傾げる。


「そう。ありがとう。後で助けにくるから待っていてね。」


しかしマーナはその視線の先が、自分が先ほど偵察を行った際に怪しいと睨んでいた地点の延長線上だと気がついた。そして今ペスを助けた場合動きにくくなることを考慮し、リオの救出を優先した。


リダイオには訳がわからずずっと首を傾げたままだったが、マーナについていくとそこにも先ほどと同じような扉があり、先ほど同様の鍵もつけられていた。

同じ要領でその扉を開け、二人は再度階段を下る。

そして似たような牢屋を目にする。

しかし今度の牢屋は人型のサイズで、部屋数も先ほどより格段に多い。

エルフやドワーフ、それに見た目の良い人種など竜人以外の人型生物が牢屋に入れられていた。

そしてその牢屋の一つにリオはいた。


「リオ!!!!」


マーナはリオを目にした途端駆け出していた。

盗賊(シーフ)職としてのスキルなど一切活かすことなく、ただリオまでの最短距離を走る。

リダイオ自身もそうしたかったが、今いる場所が敵地であることに変わりはない。

そのため、涙を流し走るマーナの代わりに周囲を警戒する。

しかしあれだけ無防備な姿を晒し出すマーナに危害を加えようとするものを発見できない。

リダイオはそれでも警戒を怠らずに一歩一歩リオに近づく。


リダイオがリオのいる牢屋に近づいた頃にはすでにマーナは牢の鍵を開け、リオに抱きついていた。

遠目で見てもリオはだいぶ弱っており、意識があるのかどうかもわからない。


「大丈夫なのか?」


涙を流しながら抱きついているマーナは壊れ物を扱うかのようにそっとリオを自分から離す。


「ええ、だいぶ体力を削られているけど、命に関わるような怪我はしてないわ。」


そう言ってマーナはポーチから回復薬を取り出して、ゆっくりリオの口に流していく。

しばらくするとリオは小さく呻きながらみじろぎをする。

回復薬でわずかに体力が戻ったのか、リオの瞳に二人が映る。


「マーナおばさん?リダイオおじさん?」


掠れた声を出すリオ。

「そうよ。マーナお姉さんよ。

助けに来たからね。もう大丈夫。」


そう言ってマーナはおばさん呼びをしれっと訂正しつつ、リオを再度抱き締める。

リオの意識がはっきりしてきたため、ひとまずここから逃げる算段を立てる。


「私は先に行って安全を確保するから、あなたがリオちゃんを抱えてくれる?」


問われたリダイオは即答し、すぐに脱出のための行動が開始される。

別の牢屋に置いてきてしまったペスのことをどうしようか悩んだマーナだったが、リオが救出を願い出たため脱出ルートの変更がされる。


慎重に、リオの閉じ込められていた牢屋のある地下から地上に上がったマーナは悩んでいた。ペスを助けるために一人で向かうか。それとも二人を連れていくか。

仮に一人で向かうとしたら外に出るまで戦えるものは誰もいなくなる。

リダイオはリオを抱えているためいつものように動くことはできない。

道も盗賊(シーフ)の自分が先導するよりかなり危険になるはずだ。

だが、ペスの救出に二人を連れていくことは意味がない。

そもそもペスが閉じ込められている場所は分かる。

だから私一人、もしくはリダイオ一人で向かうのが最適だ。

だがそうするとリオの安全を確保したまま脱出することは難しくなる。


そう考えたマーナは手間になるが確実にリオを安全に帰す方法を取ることにした。

その方法とは、最悪見つかってもいいからペスを解放して正面突破である。

ペスを逃す時点で、あの巨体を隠す手段がない限り、逃したことはバレてしまう。

リオとペスが拘束されているなど予想していなかったマーナとリダイオには当然そんな準備はない。

それならいっそのことバレてしまったとしても戦力になるペスも連れて確実に外に出るのが一番だと、マーナは思った。


三人、マーナとリダイオは先ほど訪れたペスの拘束されている場所に戻る。

ここまで行ったり来たりをして見つからにないのは逆に泳がされているようで不安ではある。しかし不安だからと言って出来ることは変わりない。そのためマーナはリオにペスの注意を引いてもらっている間に近づいて4本の足全てに取り付けられた装具を外していく。

ペスは体が自由になると立ち上がり、短く遠吠えを上げる。

その様子を見たリオたち三人は慌ててペスを止める。

どうにか宥めてペスが落ち着いたことで三人は再び外に出るために階段に向かおうと動き出した。


「おいおい、お前ら誰だ?それに何してんだ?」


もう後は逃げるだけというタイミングで彼らは遭遇してしまった。


ありがとうございました。

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