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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
93/198

93.繋がりの共鳴

よろしくお願いします。

11/5夜


「リダイオ!マーナ!」


扉を開ける音に反応して、目を向けたパノマイトは見知った相手が姿を現したことで大きく感情を表に出した。これまで商人として大物相手にふっかけたりする姿を見ていた二人はパノマイトがここまで憔悴しているとは思わず、急いで駆け寄る。


「どうしたんだ?急に俺たちを呼び出すなんて。

本屋についての話し合いならレイが試験を終えて戻ってきたら改めて話を聞くってことで落ち着いたじゃないか。」

3人だけの空間のためかリダイオは依頼人に対してというよりも友人に話しかけるような口調で話しかける。


夕方ごろ別れ、食事を終えてから、二人はベニートに滞在する際にいつも借りている宿に戻って来ていた。そんな時パノマイトがこの街に来てから細々とした手伝いをしてもらっている竜人が二人の元にやってきて、至急「狼の森」に来るよう頼んできた。

一体何のようだと思った二人は一応の装備を整え、急いでパノマイトの店、「狼の森」に向かう。そして先ほどの焦りを帯びた声で呼びかけられた。

そんなリダイオはパノマイトの具合を見て本題に入る前にワンクッション入れる。

Cランク冒険者として手慣れた手腕にマーナも話の進め方はリダイオに一任し、黙っている。

しかしパノマイトの発した言葉、二人を急いで呼んだ理由を聞いて二人の精神も大きく揺さぶられる。


「違う、そうじゃない。

リオがいなくなったんだ・・・!」


「・・っ?!

一応確認なんだが、それは何処かに遊びに行って帰りが遅くなっているみたいな可能性は低いのか?」


「あの子はこの街に来てから何処かに出かけることはなかった。

むしろベムとペスと遊ぶ以外のことで外に出るようなことはなかった・・・!」


「帰って来てないのはもちろん今日からだよな?」


「ああ。朝も昼も一緒にご飯を食べた。でも店を閉めて夜ご飯の支度をした時にはもういなかったんだ。」


「外にはペス?ベム?しかいなかったけどそれは何か関係があるのか?」


「それもわからない。外にいるのはベムだが、何故かずっと眠ったままなんだ。

声をかけても起きないし、どうしたものかと思って来たんだ。

もしかしたら、、、」


リダイオとパノマイトが話し合っている中、我慢できなくなったのかマーナが席から立ち上がる。


「マーナ?」


その様子を訝しんだリダイオがマーナの名前を呼ぶ。


「どうしてそんなに冷静でいられるの!?

急いで探さないと!親なのにどうして!?」


狼狽するパノマイト、それをどうにか宥めようとするリダイオ。

そしてずっと黙っていたマーナ。三人の中で一番落ち着いて物事を考えているかに思われたが、実際一番冷静でなかったのは彼女だった。


「マーナ、まだリオに何かあったって決まった訳じゃない。

焦らずに落ち着いて探す手段を考えよう。」


「でも、もし何かあったら、私・・・!あの子に・・・」


慌てるマーナにリダイオの声はなかなか届かない。

そんなマーナの様子を見たことが効果したのかパノマイトは先ほどより若干落ち着いたようで、話を再開する。


「それで、リオを探すにはベムに匂いを辿ってもらうのが最善だと思ったんだ。」


「それなら、早く!」


「ああ、だけど、さっきも言ったようになぜかベムは寝たきり目覚めないんだ。

警戒心の高いベムとペスは基本的に眠りが浅くて、誰かが近づくとすぐに目を覚ます。

だから今までこんなことなかったんだ。

最近はずっと外にいるだけだから何か怪我をするようなこともなかった。だから何かしら薬や魔法を使われたんじゃないかと思ったんだ。」


「だから俺たちを呼んだのか。」


パノマイトの話を聞き終わったのちリダイオがそう呟く。

そして三人は外に出てベムの様子を調べる。

マーナは盗賊(シーフ)職としていくつもの毒や薬について学んでいる。

まずは脈を確認し、ベムが眠っているだけであることを確認する。

そして次に瞼を開き、口を開け薬物の使用後があるかどうかを確認する。

10分ほどしてベムの様子を見終えたマーナは二人にただ眠っているだけであることを伝える。


「それは、よかった、のか?」

安堵したリダイオだったが、結局原因が不明のため今後の方針が立てられない。

そう思って安堵から疑問に変わったが、マーナの話は終わってなかった。


「ベムは別に毒などの状態異常にかかっている訳じゃなかったわ。ただここまで体に触れているのに目覚めないのは何かしらの薬、もしくは魔法の力だと思う。だから眠っているというよりは眠らされてると言った方が正確かしらね。」


「眠らされている?!どうして?」


「わからないわ。ただ、眠っているだけなら、睡眠耐性の薬でどうにかなると思うけど使ってもいい?」


「ああ、頼む。」


飼い主であるパノマイトの許可をもらったことで、マーナは常備していた薬をベムの口を再度開き流し込む。

眠っているため嚥下には時間がかかるかと思われたが、体は正常に機能しているため液体はすんなり流れていく。

薬を飲ませた後、ベムからやや距離を置き様子を観察していると体がわずかに動く。

その身じろぐ様子に覚醒が近いことを察した三人は互いに顔を見合わせ、ほっと安堵する。

しかしその後のリオ捜索が主目的であるために再度気を引き締め、パノマイトはベムに近づく。


「ベム、大丈夫か?」

そう声をかけながら頬あたりを撫でるパノマイト。

初めは気持ちよさそうに撫でられるがままになるベムだったが、突然身を起こし、『狼の森』」の方へ視線を向ける。

一体どうしたのかと思う三人だったが、パノマイトがベムに引っ張られて移動を始めたことでリダイオとマーナも慌てて後をついて行く。


ベムは竜人や人種と比べると圧倒的に大きいので、街中を歩くと当然目立つ。

そのため土地を貸してくれているミャスパー男爵からもあまり人通りの多い場所を連れ回さないようにと指示されている。

後で怒られることになりそうだと思いながらもパノマイトはベムの先導に従ってついて行く。

そうして自分の店の裏手、ミャスパー男爵家の正門に辿り着く。

そこで止まったベムに対し、三人だけでなくあたりを歩く竜人たちも一体何事かと視線を向けてくる。


「パノマイト、これはどういうことだ?」


「私にもさっぱりわからない。ただ、目を覚ました瞬間、動き出したかと思ったらここまで私を引っ張って来たんだ。」



「リオはもしかしてあの中にいるの?」


そう言って男二人が悩む中、マーナは普段からあまり近づいていい思いをしていないベムに近づき、ミャスパー男爵家を小さく指差しながら尋ねる。

いつもなら近づくだけで威嚇声を発するベムであったが、そんな声を出さず、クゥと小さく声を上げる。

その確認だけするとマーナは


「これから私が少し様子を確認してくるから二人は適当にベムを散歩させている風にこの辺りを歩いてくれない?20分もしたら戻ってくるから。」


「お、おい。それって忍び込むってことだよな?

他国の貴族の家に?本気か?」


「ええ。もちろん。ベムがそう言っているんだもの。わからないけど多分そう言っているわ。だから私が少し探してくる。リオは私が見つけてくるわ。」


マーナの意志は固く、リダイオは止められなかった。

そしてリオのことを心配するリダイオも当然マーナの動きを止めるはずがなかった。


ありがとうございました。

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