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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
90/198

90.両手の花2

よろしくお願いします。

「すみません、お待たせして。私たちの勘違いだったみたいです。」

アルシアとナンシアがレイについて話し合ったのはほんの数秒だった。


「えっと、その勘違い内容をお聞きしても?」


「はい。もちろんです。ただどう説明したらいいのかわかりませんし、全てをお伝えできるわけではありません。すみません。」


「いえ、構いませんよ。」


話を聞くと2人はレイが言ったようにエルフの双子姉妹だという。

2人は冒険者でありながらある目的を果たすために色々な国を渡り歩いているという。

エルフは見目麗しいことで有名で、なかなか他国に出ることはない。そのため、自分達がエルフであると分かってしまうと色々と厄介事が発生する。

そのため2人は誰が見ても人種に見えるようになる魔法器を装備している。

けれどレイは出会った瞬間にアルシアの正体を見破った。

どうしてエルフだと分かったのかという理由がわからず警戒していたそうだ。


「目的というのは教えてもらえますか?」


レイの質問にナンシアは黙る。

答えていいのか微妙なラインの質問なのだろう。


「でも・・・・」


「もしかしたら何か手伝えること、知っていることもあるかもしれません。」


「分かりました。でもその前に、レイさんはウキトスで活動していると仰っていましたが、生まれはクティス獣王国ですか?」


「いえ、違います。都市国家連合とクラーヴ王国以外には行ったことがないです。

今回の他種族の国ならオセアニア評議国が初めてです。」


「ん?他種族の国?レイさんは獣人ですよね?それなら人種の国は既に他種族の国なのでは?」


「ああ、まぁそうですね。ずっと住んでいるので、その実感があまりなくて。それに都市国家連合は結構獣人も多いですし。」


レイは仮面をつけていることを忘れ、失言をしてしまう。

しかし人種と似た感覚を持っているという言葉が効いたのかナンシアは一息ためた後に、目的を話してくれた。


「私たちは無理やり奴隷に落とされた仲間たちを助けるために色々な国を周っているんです。」


奴隷。


その言葉でレイは先日アルアから助言を受けたことを思い出す。

「ああ、確かこの街で竜人以外の人がよく消えるって話でしたか?」


「はい。ご存じだったんですね。

でも問題が起きているのはこの街だけじゃなくて、竜人や獣人、それに人種の国でもエルフが突然姿を消すようになっています。

私たちはちょうどCランクに上がるための試験を受けるタイミングだったので、この街で起こっている失踪問題に対して、違法な奴隷売買が関係していると思って調べていたところでした。調べられていることに気がついた相手が私たちを消す、もしくは奴隷に落とそうとして接触して来たのではないかと思って警戒したんです。

それに私たちは今、姿を変える魔法器で人に見えるはずなのに、レイさんがエルフと言ったのは、同胞を助けに来ていることに対して鎌をかけられたのかと思ったんです。」


「・・・・そうだったんですね。」


話を聞いたレイは黙りこむ。

怪しいやつに心当たりしかなかった。

レイは嫌な感覚を覚えながら、左手の小指に嵌めた指輪に目をやる。

ルノに作ってもらった『遊人形』には何も問題はない。


この『遊人形』は制作時間に応じて性能が全く同じルノを作り出すことができる。

しかしこの指輪は急いで作ったため、活動時間は100時間ではあるが、HPの影響を受けやすい。ルノが軽度とはいえダメージを受ければこの糸状の指輪は裂けてしまうはずだ。

奴隷の話を聞いて焦ったレイは指に視線を落としたが問題はなかった。

そのことに安堵しつつ、今度は逆に昨日、意味深な言葉を投げかけてきたシゼレコの安否を気になり出した。


レイが話を聞いた途端黙り込んでしまったため、どうしたのかと疑問に思った2人はしばらくレイの様子を見守ることにした。

しかし5分経ってもレイは何か思案をしている。

途中思い出したかのように指を確認するなど動きはあるが、アルシアとナンシアがいることを忘れているような感じだった。


「あの、レイさん?どうしました?」


ナンシアが恐る恐る声をかける。

するとレイはハッとした様子になり、謝罪をする。

考え込んでいたために完全に2人のことを忘れていたようだ。

忘れられていたことに文句はあるが、特に口にすることはなかった。

むしろナンシアはレイの考えていたことに興味があった。


「何か心当たりでも?」


「・・・確信はありませんが、シゼレコが怪しいかもしれません。」


レイは口に出すのをものすごく躊躇った後に、ゆっくりと口を開く。

2人ともギョッとした様子であったが、シゼレコと聞いてまず反応を示したのはアルシアだった。


「あの、酒呑みがか?!」


「言われてみれば怪しいといった程度のものですけど。」


「何か、証拠や訳はあるんですか???」


ナンシアに尋ねられたレイは昨日のシゼレコとの会話、一方的な宣言を2人に説明する。

アルシアはあの時、そんなことを話していたのかと頷き、ナンシアはレイがエルフと共に行動をしていたことに驚愕を浮かべる。


「では、そのルノさんは、その、もしかしたら、、」

明確に言葉には出さないものの、今1人でいるのなら何か危険が及んでいるのではないかという雰囲気を発するナンシア。


それに対してレイはどう答えたらいいか分からず曖昧な笑みを浮かべて答える。


「とりあえず、急いでベニートに戻った方がいいかもな。

まだシゼレコが怪しいってだけで、確実に黒だと決まった訳じゃないからな。」


不器用ながらレイを不安にさせまいと振る舞ってくれるアルシアの態度にレイは心が暖かい気持ちになる。

シゼレコ、ミュー、ケルィナと碌でもない奴らとしか出会ってなかった分、今の言葉はレイに大きく響いた。


「レイはエルフと一緒に行動しているんだよな?

だからか?私たちの正体が簡単にわかったのは?」


そんなはずはないと思うのだが、アルシアからの問いにはレイ答えを持っていない。

ただエルフに見えた。それだけだった。


「流石にそれはないと思うけど。

でもどうして私たちの正体がわかったのかは私も気になります。

今後私たちの正体を見破る敵側の人もいるでしょうし。」


しかしナンシアの期待のこもった眼差しにレイは分からないとはいえなくなる。

彼女たちは魔法器を用いて人種の姿をとっていると言っていた。

それならば元からエルフに見えているレイには魔法器の有無で2人はどう見えるのだろうか。

レイはあたりを見渡し、そして無属性魔法『テイル』を用いて周囲に人がいないことを確認する。


「アルシアさん、人種に変身するという魔法器を取って、貸してくれませんか?」


「魔法器を?」


「はい、俺には2人がエルフにしか見えません。

ですが、2人は人種に見えるような魔法器を使っていると言います。

それなら俺が装備したらどうなるのかと思って。」

なぜか顔を赤くしているナンシアに対し、その意見に納得したアルシアは周囲を見回す。


「一応俺が確認した限り人はいませんでした。」


「そうみたいだな。

今魔法器を外すから少し待ってくれ。」


そう言ってアルシアはゴソゴソと装備を外し、動きやすさを重視したショートパンツを脱ぐ。パンツ一枚になり、その白い生地に手をかけたときレイが待ったをかける。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


その言葉にアルシアは脱ぎかけていた手を止める。

平然としているアルシアに対し、ナンシアは顔を覆っており、レイの感覚が間違っていないということを証明してくれる。


「すみません、その魔法器ってもしかして、その、下着、なんですか?」


「もちろん、そうだぞ?」


「すみませんでした。てっきり、指輪か何かかと思っていたので、その、装備を戻してもらえませんか?」


「ん?そうか。

渡す前にナンシアが洗浄の魔法を使うから安心してくれ。」


「いや、その人の履いたものが嫌というのではなくて。。。。」


レイがしどろもどろになっていると、ようやく羞恥心から解放されたのかナンシアがアルシアを止めに入る。

そしてどうにかアルシアの説得を終えた後、再び話を始める。


「その、魔法器を外すのは難しいことだとわかりましたけど、魔法器の効果について教えてもらうことはできますか?

特にその魔法器によって人の形に姿を変えているのか、それとも何かしらの魔法でそう見えるようにしているのかが分かるとすぐ答えは出ると思います。」


レイとナンシアがどうして照れていたのかわからなかったアルシアは一旦放置されナンシアとの話が開始される。


「えっと、『人魚の夢』という魔法器で、その、下着の形状をしています。

男性ものがあるのかは、その、わかりません。

効果は装備者を人種に見せると言われています。

姿を変えるというよりも相手にそう認識をさせるというものです。

そのため、この魔法器を装備していても私たちエルフの特徴である長い耳などは触るとすぐわかります。」


「なるほど。それならやっぱり、俺が幻覚を受けにくくする魔法器を装備しているから2人がエルフに見えたんだと思います。」


「幻覚対策の魔法器・・・それは」


「おい、そろそろ着くぞ。」


ナンシアの言葉を遮り、アルシアの声が先に届く。

3人で夜道を歩いて帰ってきたが、行き同様に何かに襲われることはなく無事ベニートの町まで帰ってくることができた。

3人はせっかくここまで一緒に来たため、共にミューの待つ会議室に向かうことにした。

レイとしてはそのままミューを拘束してルノに協力してもらい、拷問にかけたかったので断りたかったが、本当のことを言うわけにもいかず、かといって何か断る理由も思いつかなかったために一緒に報告することになった。



「無事Cランクになれたけど、あの大量のブラッドファウルはレイが殺したし、なんかCランクになったって実感湧かないな。」


ギルドを出て最初に口を開いたのはアルシアだった。

ベニートに到着後三人はそのまま冒険者ギルドに向かい、受付ではなく、2階の会議室に向かった。

レイはイクタノーラの復讐心が発露しないように、聖属性魔法『白癒』をいつでも発動できるように準備していた。

しかし会議室にはミューはいなかった。

代わりにこれまた愛想の悪い竜人のギルド職員がおり、三人分の飢餓鳥ブラッドファウルの討伐証明部位である左乳房を9つ見せるとあっさり合格になりそのまま流れるようにギルドの外まで来ていた。

それ故にアルシアのあの言葉である。

レイもナンシアも同じ感じのため何も否定する言葉はない。

ギルド証も既に発行してもらったためレイはウキトスに戻ることすら考え始めていた。


「レイはこれからどうするんだ?」


アルシアが再び口を開いたその時、路地で何か騒ぎが起きていた。

様々竜人が話す統一性のない内容の喧騒が、今発生している騒ぎについての話題に統一された。

レイがアルシアの問いに答える前に、ナンシアがその騒ぎに気づいて指をさす。


「アルシア、あれ何かな?」


ナンシアの指差す先、喧騒の収束点で一人の女の子が多くの武装した竜人たちから逃げていた。女の子は全身から血を流し、今にも倒れそうな感じだが、追ってくる武装した竜人から逃げるために後ろを何度も振り返りながら必死に逃げている。

武装した竜人たちはその女の子の必死な姿を見てあらゆる否定的な笑みを浮かべている。


どうせ逃げられないのにという笑。

どこに逃げるのだという苦笑。

あまりの醜さに思わず漏れる失笑。


そんな嗤いを無視し、女の子は誰か助けてくれないのかと周囲に視線を巡らせる。

しかしどの竜人も女の子を助ける様子はない。

むしろ近づいてくる女の子にたいして渋面を浮かべ、女の子から距離をとる。

その間も武装した竜人たちは女の子を追う。


「レイさん、あれ不味くないですか?

レイさん、レイさん?」


ナンシアはアルシアと助けに動くべきか話し合っていた。

助けに行くなら手は多い方がいいと思いレイの意見を聞こうと、女の子と武装した竜人たちを見ながらレイに声かけていた。

しかしレイの反応はない。

先ほどの帰り道同様に何か考え込んでいるのかと思ったナンシアはレイの意識を表層に引き戻すためにレイの体に触れようとする。


しかし、そこにレイはいなかった。

ナンシアは突然消えたレイに驚き、声を漏らしたが、


「「「え?」」」


と言う間の抜けた声は同時に、そして複数人から上がった。


ありがとうございました。

今日で八月も終わりですね。

毎年夏っぽいことしてないなと思いながら秋服出している気がします。

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