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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
88/198

88.試験?それならとっくに終わっていますヨ。

よろしくお願いします。

レイがヘルハンツ迷宮に到着したのはちょうど日が昇り始めた頃だった。

試験の説明を聞き、夜に早速出発しようとしたが既に遅い時間だったため馬車の運行が終了していた。

そのため一泊して、朝出発しようとも考えた。

しかしルノが黒糸天蓋を使用していると考えたレイは宿に戻ると迷惑だと思い、歩いてヘルハンツ迷宮まで向かった。

途中、魔物や盗賊に襲われる以外にこれといった出来事は起きなかった。

盗賊の殺さないでくれという懇願の最中にルノから通信が入るという出来事が一番印象に残ったことと言えば道中大したことがなかったと伝わるだろうか。

元々レイはソロプレイヤーだったため念話などの能力を覚える必要がなかった。

そしてNPC配下はレイに指示されたように動きはするが、念話によって臨機対応な行動変化はできない。そのためルノもダイイングフィールドでは念話の能力は持っていなかった。

帰ったらどうして念話のようなことができたのか聞いてみなければと思い、そして盗賊の首を刎ねた。


ヘルハンツ迷宮に到着した時は朝早いためか人は誰もいなかった。

B級の迷宮に潜ることは初めてのため、これが普通なのかもしれないがS級のミャスト迷宮はもっと賑わっていた。

レイはBランクの強さがどれほどのものか興味があった。

なぜなら昨日偶然とはいえ、出会った復讐対象であるミュー・ミドガルがBランク冒険者だったからだ。

昨日はザーロのおかげでどうにか殺意を抑えることができたが、それがなければ完全に殺していた。

復讐の思いに駆られ、感情のままに殺すだけ。

そう、ただ殺すだけ。

それではだめだとレイの感覚は訴える。

イクタノーラの殺意を昇華させるにはただ殺すだけでは足りない。

相手の苦痛に歪む表情を見なければ殺す意味がない。

存在を消し去るだけでは足らず、イクタノーラと同等以上の苦しみを与えなければならない。

しかしそのためには殺さないための加減を知る必要があった。

レイのレベルは200。

ダイイングフィールドではそれなりに存在したレベル帯だが、ゾユガルズではまだ200レベルに達していると思われる人にはほとんど出会えていない。Bランク以上の迷宮に出現するという血啜りサースエグマですらレイにしてみれば何か別のことを考えながら殺せるほどに弱かった。戦闘に集中する必要性を感じなかった。

仮にちょっとした手違いでミューを簡単に殺してしまっては溜まった殺意の解消にはならない。レイは蘇生魔法を使えない。だから『マリク』を召喚するまではむやみに復讐対象に手を出すことは出来ない。

だが、この殺意を抑えたままでいることも正直辛い。

だからレイは人と魔物という別の存在ではあるが、同ランク帯の者の強さを確認するためにB級のヘルハンツ迷宮を攻略していた。

Bランクといえども魔物のレベルに違いは大きく、試験内容である5層周辺に出現する『飢餓鳥ブラットファウル』は血啜りサースエグマよりも弱いと感じた。

戦った感触で言えば『金華猫』以上『血啜り』以下と言ったところだ。

だからレイはBランクの幅を確かめるために、課題達成の証拠である飢餓鳥ブラットファウル3体をアイテムボックスに仕舞い込み、下降を始めた。



「ke ko pe so eif hun po taus 」


魔物の声が上がる。

訳の分からない音であるのに、声音から助けてほしいと懇願している様子が伺える。

魔物という迷宮がどこからか生み出す生き物に生存本能という機能があることを不思議に思いながら、レイは警戒など一切していない無防備な状態で魔法を発動する。

相手からの反撃は全く考えていない。


レイは今、ヘルハンツ迷宮の最下層である30層に来ていた。

魔物が四方から襲いかかってくる他階層とは異なり、ボス部屋は基本的にボス一体しか魔物は存在しない。ボスが魔法を使うなどする理由で側近?配下?中ボス?的な存在がいる場合もあるが、ここは違った。

そしてそのボスは今、魔法の鎖によって手足をボス部屋の壁に固定され動かすことはできない。

前面に突き出た嘴は下から一直線に剣が貫いているために攻撃するための体液を吐き出すことも出来ない。

そんな鳥人の形状をした魔物に対してレイは魔法を喰らわせる。

発動した魔法は暗属性『闇弾(ダークバレット)

闇属性魔術師になった時に覚えることが出来る初歩の魔法だ。

そんな初歩の魔法でもレベル200のレイが使用すれば途轍もない破壊力となるが、この魔物は耐えた。耐えたというより、生きながらえてしまったという表現の方が正しいのかもしれない。

魔物は力無く、意味不明な言葉を発している。

鳥人として生えていた羽は焦げる、もしくは抜け落ちている。


「お、3回も耐えた。初めてかな?」


レイは魔物が死ななかったことに少し陽気な声を出す。

ここ30層に訪れるのは5回目だった。

どう言った理屈なのかは分からないが、迷宮の魔物は、ボスも含め、倒されてから時間が経過することで自然と湧き出る。

ボス階層以外の普通マップで偶然出会う魔物は種類がわかってもどれほどの攻撃で死ぬのかといった情報はサンプルとなる魔物が大量に発生するために取りにくい。

そのためレイは25層と30層のボスを倒しては次へという具合に迷宮を何度も上がり降りしていた。

30層のボス、1度目は暗属性魔法『上位黒槍(ハイ・ダークスピア)』の一撃で死んでしまった。

2度目はそれよりも威力の低い暗属性魔法『上位闇弾(ハイ・ダークバレット)』を打ち込んだ。

かろうじて生きてはいたが、瀕死で動けなくなっていた。

3度目は魔法効果を減少させるデバフ系の魔法を自分にかけた状態で『上位闇弾(ハイ・ダークバレット)』を打ち込む。今度は動けるくらいの負傷だった。

4度目は魔法攻撃を抑え、まず魔物の身柄を抑えることを重視した。

魔物を抑えこみ、最低限の攻撃魔法を叩き込み、そして回復をさせる。

それによりどの程度魔物が攻撃に耐えうるかを掴んだ。

この時から魔物は弱々しい声を上げるようになった。

5度目、今回の変化はより顕著だった。

魔物はレイを見た瞬間に、まず距離をとった。

今まで計4回とも魔物はレイを見た瞬間に飛びかかってきた。

5回とも魔物の種類は同じで、レイの感触ではレベルも大体同じはずだ。

それなのに、5回目で魔物はレイを明らかに警戒、もしくは恐れたような行動をとった。

それが不思議で、レイはその魔物を再び捕らえ、4回目以上に実験を行った。


4回目の『闇弾(ダークバレット)』が鳥人の魔物にぶつけられる。

鳥人は固定され避けらない。

普通なら避けようとするはずなのに、全く避ける気配が感じられない。

瀕死状態のため、体を動かすことが出来ないのだろうか。

そう思ったレイだったが、鳥人魔物の奇行を目撃する。

鳥人の魔物は鎖による固定を剥がそうとはせず、目を輝かせながらレイの放った魔法にあたりに行った。

レイにはそう見えた。

攻撃魔法によって生命を失った鳥人の体が崩れ落ちそうになるのを、四肢を抑えている鎖によって支えられる。


レイは魔物の死体を見て流石に損傷が激しく、ギルドに持って行っても売れそうにないために無属性魔法『キャスト』を使用して焼死体を消し去った。


偶然出会った復讐相手であるミューを簡単に死なせないために魔物で実験を行った。

ただいくら魔物が弱いとはいえ、迷宮の移動にはそれなりに時間がかかる。

レイは転移系の魔法が使えないため25層と30層を既に4.5往復もしている。

流石に時間をかけすぎたと思い、レイは帰還することにした。



ヘルハンツ迷宮は鳥系の魔物が多く出現する。

30層のボス然り、試験課題の飢餓鳥ブラットファウルも見た目の差はあれど、“鳥”だ。

そしてそんな鳥たちは階層を上がる(1層に近づく)度に数を増やし、群れを形成して生息している。

15層まではそれほど気にならない数の鳥型魔物だったが、それ以降数が爆発的に増える。

迷宮という入り組んだ通路に3桁に届きそうな程多くの同種魔物が視界に入ることがある。

集合体恐怖症の人にとってはなかなかにハードな光景に、レイは苛立ちを募らせる。

というのも群れる魔物は弱く、知性がない。

そのため、レイを視認した途端に何も考えず襲いかかってくる。

そして即座に殺される。

レイとしては、先に攻撃を仕掛けた仲間の末路を見ていたものの行動ではないと思っていた。そしてそのレイの殺した魔物の死体はその場に残る。

迷宮という入り組んだ通路に3桁に届きそうな魔物の死体が転がるのだ。

通りにくくて仕方がない。

そのため、レイはイライラしていた。

ようやく4層を突破し、やっと出口が見えてきたと思ったその時だった。

レイの我慢に限界が来たのは。

飢餓鳥ブラットファウル。

この魔物が迷宮の、2層に向かうための通りに道に立ち塞がっていた。

元のいた世界で、道目一杯に広がって歩くくせに、死ぬほど歩は遅い連中をレイは思い出す。

その連中に見えた途端、思いっきり攻撃をぶつけてやりたい気分になる。

レイは殲滅のために、過剰とも言える魔法を叩き込んだ。

爆発により魔物の血肉や迷宮内部の何かが色々、レイの周囲を飛び回る。

ブラットファウルの眼球が仮面をつけているとはいえ、自分の顔に飛んできた時は魔法を使い間違えたと強く反省した。


煙が消え、視界が晴れる。


レイの周囲には魔物は1匹も生き残っていない。

先に進むために、飛んできた血や埃などの汚れを綺麗にし、歩を進めようとしてレイは眉を顰めた。


「うわ、まだいる、、、」


あれだけ一気に殲滅したにも関わらず、レイの進行方向には飢餓鳥ブラットファウルがまだ群れ単位で存在していた。

先ほどの眼球にゲンナリしつつ、今度は血が飛んでこないように注意をしながら魔法を発動させ、ブラットファウルを殺していく。

肉を爆散させず、なおかつまとめて殺すために黒槍、白槍系統の魔法を並列で発動させ、ブラッドファウルたちの脳天目がけ射出する。

当然30層のボスよりも弱い、ブラッドファウルたちはもちろん一撃で命を失っていく。

バタバタとブラッドファウルは倒れ、その先の視界が開く。

レイはようやくブラッドファウル以外の生物を目撃し、やや気持ちが弛緩する。

そのため、目にした人物に対してボソッと言葉を発してしまう。


「エルフ?」


レイがそう口にした瞬間、相手は構えを解こうとしていたが再び重心を下ろし、ハンマーをいつでも振るえるような体勢をとる。

なぜかレイは上層に戻るために魔法をぶっ放して歩いていたら、美人エルフと一触即発の雰囲気になってしまった。


ありがとうございます。

夜中、夜中、朝、昼と投稿していたようなので夕方あたりに投稿できて地味に嬉しい気持ちです。

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