87.試験参加者
新しいキャラクター回です。
よろしくお願いします。
「ナンシア!補助魔法の効果が切れた!もう一度頼む!」
そう叫び声を上げたのは人種の女性だった。
年齢は10代後半ほどでまだ幼さの残った顔立ちをしている。
幼いと言っても顔立ちは非常に整っており、街中で声を掛ければ大抵の男が彼女の誘いに乗るだろう。さらに後ろにいる女性を見て、声をかけられた男の気分はさらに上がるかもしれない。
魔物たちの威嚇する声が響く中でもその女性の声は後方にいる仲間にまで届いたようで、急いで魔法の詠唱を行う。
女性も前で戦っている女性と同じくらい顔は整っており、多くの男から引く手数多な様子が幻視出来る。どちらとも綺麗な女性だが、前衛で戦っている女性は活動的でハキハキ喋りそうで、後方にいる女性はそんな仲間を一歩下がって優しく見守るような印象がある。
そんな容姿端麗な女性たちは今、ヘルハンツ迷宮3層で魔物たちに囲まれていた。
全く嬉しくない歓迎に2人は表情を引き攣らせながらも、生き残るために必死に戦闘を行う。
迷宮内でボス部屋以外での戦闘は、どこから魔物が現れるか分からないというボス部屋よりも不規則な条件がある。そのためボス部屋以上に気を使わなければならない時もある。
今武器を向けている相手の後ろから、そして自分の背後からも攻撃が飛んでくる可能性がある。
近接戦を行う女性の体に一つ、二つと傷が増えていく。
ギリギリまで集中を高めるからこそ、味方の支援魔法が遅く感じる。
補助魔法はまだかと焦る。
傷が増え、流石にまずいと思い後退しようとしたとき、体の芯から温かいものが込み上がってくる感触を得る。
魔法の効果が発揮されたと感じた女は後退を辞め、ここぞとばかりに、細身の見た目からは持ち上げている姿すら想像できないほど大きなハンマーを振り回す。
女性を軸にものすごい速さで回るハンマーは、遠心力も相まって近づいてくる魔物を容易く吹き飛ばす。
魔物たちが悲鳴のような叫び声を上げながら距離を取ったことで、ようやく2人も一息をつく。
「もう私とアルシアの分含めて6体は倒したけど、これからどうする?」
「確かに倒したけど、
死体を回収する手段はないから、一旦引いてブラットファウルの数が減るのを待つか、ここに後30体はいるブラットファウルを殺すの二択か?」
「そうだけど・・・。それは難しいと思う。
でも。どうしてこんなにいるのよ。
多くても10匹以上では纏まらないはずよね?」
「昨日調べた資料にはそう書かれていたはずだ。」
「もー。あんな乱雑に置かれた資料の情報なんてあてにしなきゃよかった。
私たちだけだと、さすがにあの数はどうしようもないから一旦引かない?
もう魔力も少なくなってきたから、どれくらいサポートできるか分からないわ。」
「そうだな。賛成、一旦下がって立て直そう。」
美女2人が後退を決断する。
決断をしてからの行動は早かった。
ナンシアと呼ばれた女性が一撃魔法を放ち、ブラットファウルが怯んだ隙に2層に上がる階段に向かう。
元来た迷宮の通路を辿り、二層に上がるための階段を目指す。
後退は後衛のナンシアから開始した。
前衛のアルシアは魔術師であるナンシアを守るために、殿を務める。
それと同時に自分も下がるタイミングを探っていた。
ブラットファウルの大半がナンシアの魔法に怯み、残りの数体を自分のハンマーで叩きつける。攻撃が無くなったその一瞬をアルシアは見逃さず、ナンシアの後を追い始めた。
しかしすぐに予想外のことが起きる。
曲がり角を進み、数メートル後退したところで先に2層に上がっているはずのナンシアが立ち止まっている。
ブラットファウルが魔法に怯んだ隙をつくこの退避には素早さが大切だ。それにも関わらず立ち止まっているナンシアに多少の苛立ちを覚える。
「ナンシア!?早く進め!」
慌てて声をかけたアルシアだったが、ナンシアの元まで駆け寄ったことで彼女が立ち止まった理由を悟る。
二層に上がる階段付近、そこも既にブラットファウルの群れがおり、何かを貪っていた。
二層に上がるにはそこにいるブラットファウルを突破しなければならない。
平時ならどうということもない数だが、後ろに大量のブラットファウルを残してきた今それはまずい。
2層への退路は断たれ、逆に4層に降りるにしてもそこまでの道には大量のブラットファウルがいる。
前後ブラットファウルに挟まれた二人はかなり窮地に追い込まれていた。
「アルシア、あれ使うしかないんじゃない?」
「でも、師匠はもしもの時以外は使うなって言ってたけど。」
「だからそのもしもが今なんじゃない?
あれを使わずにここ突破できる自信ある?」
数言の会話ののち、二人は覚悟を決めたようで、胸元から何かを取り出そうとする。
2人が覚悟を決めたその瞬間、突如後方から爆発音が聞こえる。
素早く前方のブラットファウルを殺し、2層に上がりたい二人は後ろにかまっている余裕なんてものはなかったが、流石に無視できないほど強力な気配を感じたため、前方のブラットファウルを警戒しつつ、後ろを振り向く。
曲がり角から爆発後の煙が立ち昇る。
おそらく、今の爆発音が何かを破壊した際の衝撃で発生したものだ。
それはその爆発を生み出した存在と距離が近いことを表す。
二人はそれがイレギュラー発生によって出現した高レベル魔物ではなく、同業者であることを強く願って、視線を曲がり角付近に向ける。
しかし二人の視線の先にはまだブラッドファウルが存在しているためにその存在の姿は見えない。
早く味方なのか敵なのか判断したいのに、ブラッドファウルが邪魔で見えない。
ブラッドファウルたちが曲がり角を注目している間に、後ろから攻撃を仕掛けようとナンシアとアルシアは互いに視線を交わす。
そしてアルシアがハンマーを構え、駆け出した時だった。
ブラッドファウルは全て地面に倒れ伏していた。
その中にポツンと一人、白髪の黒狐人がその場に立っていた。
ありがとうございました。




