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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
81/198

81.1人目

よろしくお願いします。


2階の会議室にはまだ集合時間まで時間があるため誰もいない。

適当に周囲を見渡して2人は後ろの方に腰掛ける。


「アルアの嬢ちゃんを治療してくれて本当にありがとうな。」


先ほどはレイが魔法を使ったことなど全く感知していないように話しかけてきたが、ザーロはレイが魔法や回復薬を使ったことを確信しているようだった。

そのことをつついても話が進まないと思ったレイは、アルアがいつからあの状態だったのかを尋ねる。


「確か3、4日前だな。

今日みたいに右端の列は誰も並んでなくて、アルアの嬢ちゃんは両目に包帯を巻いて全身傷だらけだったな。アルアの嬢ちゃんは青竜系だから傷の治りも早いから、最初はもっと酷かったな。両目の包帯からは何度も血や膿が滲み出て、」


「それで誰も彼女を助けなかったんですか?」


レイはザーロの言葉を遮り、問いを投げる。

3、4日前といえばレイがケルィナを痛めつけた日だ。

アルアをあんな目に合わせた犯人はもちろんケルィナ、もしくは周辺の連中だろう。

だからレイはケルィナを探して同じ目に合わせてやろうと考えていた。

しかし、3、4日前から受けた傷だと聞いて、ギルドに出てきているアルアにどうして誰も手を貸さないのか。

竜人というのは武を尊ぶだけの種族なのか。

ドラコのような竜人はいないのだろうかと無性に腹が立つ。


「そうだな。もうみんな慣れちまったんだろ。

基本的に竜人は強い奴が正義だ。

だからアルアみたいなやつを痛ぶることをくだらないと思って止めた奴もいた。

でもそういった奴らはみんな消えていったよ。

それに俺らの国、オセアニア評議国には高難度の迷宮がないから本当に強い竜人は皆国外に出てる。一部例外はいるけどよ、俺も早くそうなりたいもんだ、、、。」


飄々とした態度であることには変わりないが、ザーロの笑みが作られたものへと変化していくのをレイは見逃さなかった。表には出さないが現状に不満を持っているザーロに詰め寄ったところでなんの意味もないと、心を落ち着ける。


「そうですか。

話は変わりますが、青竜系とはなんですか?」


「竜人の系統だよ。

魔法の四元素と同じで、俺ら竜人はその系統に似た能力が伸びやすいんだ。

アルアの嬢ちゃんは水。俺は土。肌の色見りゃ一発でわかるだろ?」


そう言ってザーロは自分の腕を持ち上げレイに見せつける。

主に竜人は火、水、土、風の四種類の系統に部類されて生まれてくるらしい。

その特徴は遺伝によるもので、火の系統をもつ竜人どうしが交われば子供も自然と火の系統を有する。稀に他系統が交わり、無色、黒色、白色、また染色体異常の奇形児などが生まれてくることがある。そのため他系統同士の子作りは禁止されている。

そしてその系統の特徴が顕著に見られるのが、体の鱗であるために竜人は鱗を覆う部分が多ければ多いほど権威が増す。


レイが心を落ち着け、ザーロとそれなりに打ち解けた頃、既に会議室は人が満員だった。会議室は50人は入れそうな程のキャパがある。ここにいる者、殆んど竜人であり、他種族は数人しかいない。そんな受験者たちは皆、レイとザーロにさまざまな視線を送っている。獣人と竜人が楽しそうに話しているため、視線に含まれる感情は困惑、憤怒、嘲笑、などあまり好意的なものはない。

そしてちょうど10時を回ったくらいのタイミングで会議室の扉が開かれる。

会議室内の喧騒は止み、皆の視線が扉に向けられる。


外開きの扉を開けて入ってきたのは少女だった。

身長は140cm台のでかなり小柄。

ややくすみのある白金色の髪はダウンツインテールで左右におさげのように下ろしている。

淡い緑色の森を思わせるようなリネン生地の長袖とスカートを着用している。村娘として見てもかなり地味な格好をしているが、緑の宝玉が中に嵌っているハテナカーボンの形をしている杖を握る両手には装飾品がたくさん付けられている。シンプルなリングから、宝石の付けられたストーンリング、3つのリングが組み合わさって出来たトリニティリングなどがさまざまなリングが各指にはめられている。


そんな少女を見た皆の反応は困惑だった。

この世界では、見た目で強さが決まるわけではない。

そのため冒険者はある程度実力をつけると、相手を見た目だけでは侮らなくなる。

その侮りによって命を落とすことだってあるからだ。

だから中堅冒険者には相手を見た目で判断しない力も求められる。

そんな彼らであってすら、この少女がいったい誰なのか。

同じCランク昇給試験を受けにきた冒険者なのか、それともギルドの職員なのか。

レイを除いて皆、その少女が誰なのか分からなかった。



しかしレイは違う。

その少女と面識なんてなかったが、その少女のことをよく覚えていた。

そしてレイがその少女を視認した瞬間、イクタノーラの殺意が発露する。

体が勝手に数メートル先にいる少女を殺そうと動きそうになる。

その体の思いをどうにかして押さえ込む。

しかし殺気だけはどうにもならず、会議室に垂れ流しにしてしまう。

その殺意を感じたものが皆、席から立ち、本能からレイと距離をとる。皆の顔には先ほどと異なり一切レイを舐めた様子はなく、むしろ恐怖している。

部屋に入った途端に殺意を当てられた少女ももちろん訳がわからず怯えている。

少女が小さく悲鳴を漏らし、尻餅をついた瞬間に右小指にはめていたトリニティリングが発動する。少女を守るように中心から、光を発しながら3つの輪が乱回転する。

永久機関のキネティックアートばりに3つの輪は少女を中心に回転する。

そのリングが発動した途端に少女の顔からは怯えが消え、埃を払いながら立ち上がる。

少女は感じた殺意の根源であるレイをただじっと見ている。

レイも初めは少女だけに向けてしまった殺意の指向性を周囲に分散させることで、どうにか少女の目を誤魔化せないかと努力する。

しかし結局殺意が収まることはなく、このまま下手したら戦闘に発展するかと思われた。


『我、神に祈ら、ん 主よ、我が魔力を、以て 知音に安、げ無、き身の憂い払い給へ 母なる救済(アースレリーフ)


隣から息も絶え絶えな声が聞こえた瞬間イクタノーラが発していた殺意が弱まる。

いくらでも湧いてくる泉から一気に水が抜かれ、溢れるのが止まったような感覚を覚えたレイは声のした方向を見る。

隣ではザーロが膨大な汗を流し、呼吸を荒くさせながら、魔法を発動していた。

これだけの殺意の本流にいながらザーロはどうにかしてレイを落ち着けようとしていた。

しかしそんなザーロの身を削った魔法の効果はもう数秒もすれば途切れてしまいそうだった。

そのため、レイは理性の戻ったわずかなタイミングを見て、自分自身に白魔法『白癒』を使用し湖の水が溢れないギリギリのラインで心を落ち着ける。そうして効果が切れそうになるたびにレイは自分に『白癒』を上書きすることでどうにか話せるくらいまでに回復した。


ありがとうございました。

8月中に2章を終わらせたいけど、まぁ無理だろうなと思う今日この頃です。

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