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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
72/198

72.本当のルノ・ヴィネマイ

よろしくお願いします。


翌朝目が覚める。

自分の腕の中にはルノ、大切なNPC配下がいる。

寝起きからこれだけ幸せな気持ちになれたのはいつぶりだろう。

少なくとも白山羊亭を離れてから、これほど満たされた朝はなかった。

ルノを見ると、レイを凝視していた。

ルノは既に起きていたようで、レイが寝ているため起こさないよう待っていてくれたようだ。

心なしか、顔が赤い気がする。


「おはようルノ。よく眠れた?」


「お、おはようございます。

はひ。よく眠れました。」


レイはルノを抱きしめていた手を解き、ベッドから立ち上がる。

Cランクの昇格試験まではまだ日数があるため、あと数日どうしようかと悩む。

ランク昇格と同じ、いやそれ以上に重視していた恩恵(ギフト)について既に完全に自分の力にした。


あとはMPに似た何かの力が溜まればまた配下たちを呼ぶことができる。

召喚陣はルノを召喚しても消えなかったため、使い切りというわけではないのだろう。

これまで2回、恩恵(ギフト)を使用して思ったが創造という行為に、恩恵(ギフト)の力は必要であり、またその創造した物を使用する時にもGP(ギフトポイント)は必要となるようだ。

MP同様に使用後に体から何か消える感覚を覚えるならばGP(ギフトポイント)はHPやMP同様にステタース欄に追加されたのではないかと考えたレイはメニュー画面を開く。

メニュー画面を開き、ステタースに目を通す。

すると自分のステタース欄に異常が起きていた。

HPは緑、MPは青で表示されているはずだ。

しかし緑の表示は消え、今は青と赤しかない。

そして青は全回しているのに赤はマックスの半分をやや下回っている。

レイはその全回していない表示に疑問を抱く。

レイは一定レベルの魔法攻撃以外を無効にする『境界』の様な固有スキルをいくつか有している。その固有スキル中に、HPやMPなどを少しずつではあるが回復させる『覆水』というものがある。

それなのにこの赤い表示は全く回復する気配がない。


もしかしたらこれが恩恵(ギフト)の使用量を示すGP(ギフトポイント)値なのだろう。


赤い欄をタップしてみるが何も反応はない。

何かしらの条件を満たさないと貯まらないのか。

昨日の恩恵(ギフト)について記載されていたことを思い出す。


“その力は能力者のレベルや想像力に依存するため当時のイクタノーラでは柔然に使用できていなかった。”


まさかレベルに依存する?

レベルに応じて使える能力が強大になっていくということだろうか。

それともまさかレベルが上がることでしかGP(ギフトポイント)を全回させることが出来ないということなのだろうか?

後者ならば正直、詰んだ。

レイのレベルは200。

カンストしてしまっている。

つまりレイの考えが正しいのならもうどう頑張ってもGP(ギフトポイント)が回復する可能性はない。

おそらくあと、呼べて1人。


今呼ぶべきだろうか。

それとも他の手段を探し、ダメだった場合にとっておくか。


どうしようか悩んでいると後ろから声をかけられた。

どうやらレイはルノを放って思考に没頭してしまっていたようだ。


「レイ様。早速昨日お話しされていた復讐対象の人物像を確認させていただけませんか?」


「そっか。昨日結局『リフレクト』を使わなかったんだっけ。

そうだね。朝ご飯でも食べながら話そっか。」


レイはアイテムボックスから明日の朝に食べようと買い込んでおいたケコバを取り出す。

アイテムボックス内は時間停止効果があるためいつでも出来立てのご飯が食べることが出来る。

この時間停止などの魔法が込められているがためにダイイングフィールドでは、採取系の依頼などはアイテムボックス使用不可などといった制限もあり面倒だったが、そのおかげで今は熱々のケコバが食べられる。


「結構買い込んでおいたからルノも食べる? 」


「ありがとうございます。いただきます。」


ルノは昨日から出しっぱなしにしていたテーブルに布を敷き、その上に食器類も揃えていく。屋台で買ったB級グルメのケコバが高級レストランの食事に早変わりする。

あまりの早業に驚いているとルノは軽くお辞儀をし、椅子を引いてくれる。

おそらく座れということなのだろうが、いつの間にか椅子は装飾過多な一つしかない。

まさか配下は主人と同じ場所で食事を取らないなんてテンプレ回答は言わないよなと思いながらも一応聞いてみる。


「ルノは食べないの?」


「私はレイ様が召し上がった後に戴かせてもらいます。」


「一緒に食べない?椅子もう1脚あるでしょ?」


「いえ、私はレイ様の配下ですので。」


「・・・・」


うわ、ほんとに想像通りの返しをしてきたなと思いながら、レイは椅子に腰掛ける。

どうすればルノは一緒に食べてくれるのだろうかと考える。

昨日の涙や話ぶりからルノはレイを嫌っていないことは分かりきっている。

むしろ圧倒的に好きに部類されるはずだ。

それなのにレイの願いを断り、食事を共にしないのはルノの配下であるという意識故。

それならばと思いレイはルノに命令ではなく懇願してみる。


「1人だと寂しいんだけど一緒に食べてくれない?」


レイの様子に声を詰まらせ、答えあぐねるルノ。


「・・・分かりました。」


そうしてレイの懇願に折れたルノが応じる形で朝食は済まされた。

ケコバとどこから出たのか分からない謎の温かいスープを食べ終わった2人は、ルノの入れた紅茶で一息つく。


「レイ様、無礼を承知で一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「どうしたの?」


「少し変わられましたか?」


不意の質問に呑んでいた紅茶が器官に入り蒸せる。

むせた程度で死なないとわかっているルノはレイの返答を真剣な面持ちで待つ。

ケホケホと咳き込みながらも、レイの心臓はバクバクなっていた。


「変わったと思う?」


「はい、正直に申しますと以前のレイ様と何かが違う気がいたします。

その、以前のレイ様に近づくことは恐怖を感じました。

ですがその恐怖はなぜか私たちに安心をもたらしてくれるもので、言葉では言い尽くせないカリスマ性を恐怖とともに感じていました。

もちろん今のレイ様に心服する気持ちはありますし、私は何を犠牲にしてもレイ様を優先します。しかしレイ様からあの時感じていた恐怖のようなオーラがなくなったといいますか。それに、その、いつもはあれほど、過多に配下に接触される方ではなかったのかなと。」


レイは考える。

ルノの言うダイイングフィールドでの自分について。

恐怖性やカリスマ性。

心当たりはない。

NPCが感じる恐怖やカリスマ性とは何なのだろうか。

恐怖性に関しては人が一般的に感じる、殺されそうになって怖い思いをしたと言うものではないはずだ。それに残念ながらカリスマ性なんてものは元から持ち合わせていない。

もしかしたらレイのダイイングフィールドでの行動が数値化され、その数値が恐怖やカリスマと言う値に変換されてNPCたちに印象を与えたのだろうか。

それならばやはりきっかけは終末戦争のことなのだろうか。

確かにレイは一度も終末戦争で、と言うより、戦いで負けていない。

それが大きく関わってくるのだとすればどうして今はその恐怖やカリスマ性がなくなってしまったのか。レイはいまだにこの世界でも戦いにおいて負けたことはない。

もしこの変化が配下たちの忠誠に大きく響くのだとすれば早急に解決しなければいけない問題だ。


「ルノはこの変化をどう思う?」


「私の印象ですが、以前のレイ様は私たちなどがいなくても何でも出来るすごい方でした。それは今も変わりないです。ですが恐怖のオーラが消えた分、私は今のレイ様の方が素敵だと感じます。ただこれは私の一意見です、もしかしたらメギド内にはその変化をよく思わない者もいるかも知れません。

覇王としてのレイ様を信頼し、付き従う者もいますので。」


基本的に昨日話した感じでレイはルノを全面的に信頼することに決めた。

だから彼女の言い分は全くその通りなのだと思う。

あとの問題は今のレイと昔のレイ。

どちらを皆は求めるかという点。


「ルノは、俺が皆の前でどう振る舞えばいいと思う?」


「私はこうした閉じた空間でしたら今のレイ様の方が、その、いいと思います。

ですが、皆の召喚が済んだのち、メギドを導くものとしては以前のような支配者としての態度で皆に接して欲しいとも思います。」


「そっか。ありがとう。参考にするよ。」


ルノから話を聞いて、自分の変化以外に感じたこともあった。

そもそもルノはこんなキャラクターだったのか?

諜報関係に秀でているイメージはあるが、こんな執事的なことやレイへの忠誠心が目に見えるようなキャラではなかった気がする。

改めてレイはメニュー画面を開き、下にスクロールする。

ミャスト迷宮で黒塗りにされた文字を見たときはあり得ないほどこの世界に発狂した。その気持ちは今でも変わっていない。しかしルノの名前がしっかり白く表示されていることに今は嬉しい気持ちでいっぱいになる。

ルノの名前の欄をタップするとルノの設定が細かく表示される。



名前:ルノ・ヴィネマイ

性別:2

年齢:159

称号:忠臣 レイの所有物

趣味:レイを思って一人オナニー

職:ダークエルフLv20

  混沌精霊(カオスエルフ)Lv20

  メギドLv20

専属メイドLv20

  下級糸使いLv20

  上級糸使いLv20

  カナトLv15

  結操者Lv20

  闇属性魔術師Lv20

  幻術者Lv10

  料理人Lv10

水属性魔術師Lv5

レイによって1から生み出された存在。

レイのレベルが100台の頃に作られた初期キャラクターであり、レイとの関係は長い。

そのため創作者であるレイには並々ならぬ想いを抱いている。

元々は闇妖精であったが、レベルが上がる段階で創作者によって独自の成長を促され、『混沌精霊』として完成された。なお、『混沌精霊』はダイイングフィールド、ゾユガルズどちらを探しても個体名『ルノ・ヴィネマイ』しか存在しない非常に貴重な種族である。

現在はレイの治めるメギド国内、慰霊教会にて『揺曳の間』の副管理者を務めている。

元々『揺曳の間』の管理者であったが、<七冥王>の『オーフィリア・キングスレー』が加わったことで副管理者になった。そのためその立場を奪ったオーフィリアには殺意を抱いている。しかしレイからの指示がなく、共にレイに仕える配下としてレイに危害を加えない限り見逃している。

また本人はレイ以外の存在に興味がなく、レイに危害を加える者には容赦はないがそれ以外は記憶にすら留めず放置する。そのため人の名前を覚えることが苦手。

非常に寡黙で、淡々と仕事をこなすが頭の中では常にレイのことで埋め尽くされており、日々悶々としている。



この先も数ページまだルノのスキルなどの紹介がされていた。

レイはゆっくりメニュー画面を閉じ、静かに目を瞑った。

ルノと目を合わせられない。

まさか自分が異性として見られているだなんて思わなかった。

レイはルノを自作の大切なNPC配下、そして大切な家族的な存在としてルノを捉えていた。

だから昨日から抱きついたり、ハグしたり、抱擁したりしたのはあくまで会えて嬉しいという気持ちの表れであり、女性として見ていたわけではない。

確かにルノは美人だ。意識されて嬉しくないわけがない。

ただそれ以上に困惑の方が大きく、これからルノとどう接すればいいのかが分からない。


目をうっすら開け、ルノの方を見ると、ルノは黙ってレイを見つめている。

昨日までだったら忠臣としてただ黙って主人の思考の邪魔をしないようにしていると考えただろう。

しかし、ルノの思いを知った今、彼女を見てもそんな考えには至らない。

確かにレイの思考を邪魔しないように配慮しているようには見える。

しかしほんのり上気した茶褐色の肌、それに先ほどのステタースを見れば彼女の頭の中がどうなっているのかは大体想像がついてしまう。むしろこの様子で気が付かなった自分はどうなのだろうと自己嫌悪に陥る。


とにかく話を進めるきっかけを掴もうと、レイは紅茶のカップを手に取り、口をつける。

先ほど咽せた時に空になったカップにはいつの間にか、紅茶が注がれていた。

レイは紅茶をもらうためという理由を持って自然にルノに話しかけようとしていた。

しかしその作戦はあっけなく失敗してしまった。

それどころかそういえば、職業欄に専属メイドと記載されていたなと、先ほどのルノのキャラ説明が脳に浮かぶ。

どうにかして忘れたいことなのにどうしても頭から離れない。

あれではルノのステタースというよりも完全に個人プロフィールではないのか。

先ほどまで配下の名前ルノだけではあるがが見られるようになり、喜んでいたのに、今は全力で悪態をついている。


そもそも問題は自分だ。

どうしてこんな設定を作ったのか。

時空を超え、時間を超え昔の自分に問いただしたい。

どうしてこんな設定を作ったのか。

拗らせすぎではないかと。

大体、ルノの種族はカオスエルフだったのではないのか。

混沌精霊とは一体なんなのか。


そんな設定した覚えがない。

そんな種族名聞いたことがない。


疑問がさらなる疑問を呼ぶ。


“ゾユガルズ”?


そういえばこれも聞いたことがない。

ダイイングフィールドと並べられている以上ゲームの名前なのか。

だがメインタイトルであるダイイングフィールドに並ぶような物あっただろうか?

元の世界でもこっちの世界でもそんな単語聞いたことがない。

ただこっちの世界に来てからここの世界の名前は聞いたことがない。


もし仮にその名前がゾユガルズだとするならば、それは何を意味するのか。


ステタース自体が変更されたことを意味するのではないのか?

自分の設定した覚えのないNPCキャラの設定、ダイイングフィールドでは聞いたことのない種族、職業、技名。そして聞いたことのない何かを指すゾユガルズという単語。

そうした事実から確実にこちらの世界に来たことでルノの情報は何かしら修正されているという考えが導き出される。


ルノの場合、多少気になる点はある。それに本当のルノではないのかもしれない。

しかし敵対されたり、反意を持たれていない以上、その修正がレイにとってプラスに働いてはいる。

ルノの変化はプラスだったが、他の配下たちはどうなのだろうか。

もしレイに敵対するものが現れたら?

レイはそのNPC配下をどうすればいいのだろう。


「レイ様、顔色があまりよろしくないようですがいかがされましたか?」


レイが顔を上げると、ルノはレイのすぐ側まで来ており心配そうにレイの様子を伺っている。レイはどうということはないと告げ、笑顔を浮かべる。

ルノに話しかけにくくてどうしようかと思っていたら、いつの間にかもっと別の不安に思考を奪われていた。そもそもNPC配下の召喚はGP問題をどうにかしてからでないと解消されない。今はその問題に頭を悩ませるよりももっと他の、ルノとの接し方などを考えようと気持ちを切り替える。


「ごめん。なんでもないよ。

紅茶追加してくれてたんだね。ありがとう。」


「いえ、レイ様の配下として当然のことです。」

レイから一歩引いたルノは恭しくれいをする。


「それじゃ、ご飯も食べたことだし、今後の話し合いといこうか。」


「かしこまりました。」

ルノはたった今レイのすぐ近くで膝をついたため再びレイと座る座らない問題を繰り広げた。その結果、話し合いはその日のお昼過ぎまで行われず第三者的には焦ったい時間が流れた。


ありがとうございました。

次回更新はおそらく19になりそうです。

その前に時間があれば先に投稿します。

つまり次回更新はほぼ未定です。

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