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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
70/198

70.うっわ、この子、無自覚系の主人公くんですか?

よろしくお願いします。


円形の中に描かれている相位図から八つの光の柱が上空に向かって伸びていく。

その柱から柱は無数の光の線で繋がり、結界が張られたかのように膜が張っているように見える。

レイの目線よりやや上の場所で粒子が大量に集まり、徐々に人の形が作られていく。

初めはぼんやりとした形だったが、次第にはっきりとした輪郭を帯び始め、ゆっくり下降していき大理石に足が触れる頃には完全にその姿は完成されていた。

形作られた人は途中で意識を覚醒させたのか下降していく際、初めは困惑していたものの目の前にいるレイを視認してからは体を硬直させていた。

足が大理石に触れると八つの光から作られる結界のような光は消え、レイと現れた人の視線が交差する。


「ルノ?」


期待と疑問それと不安を孕んだ声音。

話しかけるとレイが名前を呼んだ人は感無量といった様子で両手で口元を覆い、目からは溢れんばかりの涙を流している。

召喚陣の横にずれて、レイに対して臣下の礼をとる。

こちらが声をかけないと反応もせず、どこか機械的口調をしていた猖佯とは全く違った反応だった。人間味のある明確な反応にレイの期待はどんどん高まる。

レイが無言でいる間もルノは片膝をつき、首を垂れている。

ただ床には染みが広がり始めており、先ほど見たルノの涙がいまだに止まっていないことを表している。


「ルノ」

今度は明確に、ルノに対しての上位者である存在、主人として声をかける。


「はっ!!!」

頭を下げていても声の雰囲気から従者としての対応していることが窺える。

例え涙を流していても律儀に主人の呼びかけに答えるルノ。


「召喚は成功した?

立ち上がって顔をよく見せて?」


前半は完全に独り言で、後半はルノに語りかけていた。

レイはルノが本当にメギドから来た存在なのか、それともまたレイの創造によって生み出された偽物なのかを判断しなければならなかった。

ルノの姿をまたこうして見ることができたのは嬉しい。

しかしこの調子で喜んで、ルノに似た物だった場合、別の手段を探さなければ他のNPC 配下を呼ぶことは出来ないため相当凹む。

だから本物であって欲しいと切に願う。


ゆっくりと膝を地面から離し立ち上がるルノ。

身長は160あるかないかというくらいで女性にしては大きい方だが、身長190近くあるレイからすれば小柄な方だ。

格好はヘソだしの白色クロップドの長袖シャツにハイウェストのショートパンツを履いている。胸はさほどあるわけではないが非常に肌の露出が多く、目のやり場に困る者は多いだろう。肌色は種族特有のものでとても綺麗な茶褐色をしている。

瞳は赤く、ホワイトアッシュカラーの髪はボブカットされており非常に肌との相性がいい。

街ゆく人に尋ねれば性別関係なく皆が皆、彼女のことを美人、綺麗だと答えるだろう。


そんなルノの綺麗な赤い瞳からは先ほどからずっと止まる様子のない涙が流れている。

ルノはクールで言葉数は少ないが淡々と命令をこなす仕事人といった感じに設定していたはず。だから今のルノの様子は設定と大きく乖離しており、普通ならば猖佯と同じ類の失敗をしたのだとレイは感じるはずだった。


しかし体は勝手動き、レイは涙を堪えているルノを力一杯に抱きしめていた。

直感でこのルノはダイイングフィールドにいた頃のルノだと感じた。

それに自分に会えたことを喜び涙を流してくれている彼女を偽物だなんて思いたくなかった。


「レ、レイ様?!!!!?」


一方いきなり抱きつかれたルノは驚きにより声が裏返る。

驚きのあまりか涙は止まり、茶褐色の綺麗な肌を耳の先まで真っ赤にさせてオロオロと困惑している。

身長差が幸いし、レイの胸元に顔を埋めているため照れ顔をレイには見られていない。

抱きしめられているルノは今、空いた両手をレイと同じように相手の背中に回すべきか悩んでいた。


そんなルノの悩みも束の間、レイはルノを抱きしめる力を少し弱め、ルノの顔を覗き込む。


「ごめんね、急に。ただ、、、嬉しくて。

色々と話したいことがあるから少しいいかな?」


レイは本物を召喚できた喜びを盛大に感じながら、互いの状況や今後の目的、それにルノにしてもらいたいことなど色々と話さなければならないことがあることも理解していた。


「はい。もちろんです。

ただ、えっとあの、ずっとこのままで、でしょうか?」


ルノは顔を赤くしてレイに訴えた。


「あ、そっか。いきなりこんな場所に連れてこられたんだ。

疲れたよね。座ろっか。」


ルノが照れていることなんて全く気がついていないレイはルノの言葉の意味を取り違え、座りたいのだと思った。

ルノをお姫様抱っこして、この宿に唯一備え付けられているベッドの上にルノを運ぶ。

しかしその結果レイと密着していることに緊張しているルノの心労は消えなかった。

むしろ2人はベッドの上に向かい合って座ることになり、ルノの感情はパンク寸前だった。

レイはヘッドボードに背を預け、足を軽く曲げ体育座りの姿勢で座る。

そして自分の足の間にルノを下ろす。背もたれがないため、後ろに倒れないようにと背中に手を回す。ルノを支えるため自然と互いの息が感じられるほどに2人の距離は近くなる。

手を背に回し、足は絡み合っているためシルエットだけ見れば何をとは言わないが完全にヤッている判定である。

ルノもお姫様抱っこされた辺りまでは軽く抗議していたのだがあまりの体勢で次第にその声は小さくなっていった。

ベッドの上で男女が2人。しかもルノからすれば最愛の主人と。ルノは寵愛を頂けると考え、完全に塩らしい態度になっていた。

しかし当然レイにはそんなつもり全くない。ルノを勘違いさせるような体勢をとっておきながら、いかがわしい空気になることは一切なかった。


「ルノはダイイングフィールドって覚えている?もしくは知っている?」


ルノの思考が飛んでいることには気づかずにそのまま話を進めようとするレイ。


「えっと、あの///」


「どうしたの?」


抗議しようとするがルノは完全に今の体勢にあがってしまい、うまく言葉を続けられない。

視線もレイから外し、俯いてしまっている。


「その、すみません。

レイ様///。無礼を承知でお願いがあります。」


「ん?うん。いいよ?」


レイはどうしてルノがこんなにも赤面し言葉に詰まっているのか理解していない。

レイからすればルノは自分が作った愛するキャラクターであるが、決して恋愛対象として見ていない。だからルノの困惑を理解できていない。まさか自分の作ったキャラが忠誠心以外の思いを、それも自分なんかを愛しているなんて思ってもいないのだ。


「あの、この体勢を変えてもらってもよろしいですか?」


だからレイはルノの申し出の意図を正確にはつかめず、後ろかから抱え込んだり、ゼロ距離でヘッドボードに並んだりと体勢を変えたがルノを羞恥させるだけになってしまった。

しっかり言葉に出さなければ伝わらないと思ったルノは恥ずかしくて話せないから以外の私情の挟まない言い分を述べる。


「レイ様の配下として、レイ様と同じ場所、同じ目線で話す自分が許せません。

どうか、どうか、私の納得のいく姿勢に動いてもよろしいでしょうか///////」


ルノは息も絶え絶えになりながらもどうにか言いたいことをレイに伝える。

ルノが嫌がった結果レイは体勢を色々と変えた。

その結果今はうつ伏せになったルノにレイが上から乗っかるという最初よりも際どい、というよりも狙っているだろとツッコみたくなるような体勢になっており、ルノの理性は限界だった。

しかし理性が爆発する前にレイは納得を示してくれて、互いにベット上に乗ったままではあるが初めて距離ができる。

ルノは息を整え、ベッドから降りると片膝をつき臣下の礼をとる。

これで自分の痴態を最愛の主人に見せることなく、話を進められるとルノは思った。

しかし今度はレイが異議を唱える。


「ちょっと待って。話している間ずっとそうしているつもり?」


「はい。」


「でもそれだと膝が痛くない?」


平常に戻りつつあったルノの感情だが、最愛の主人に心配されたことでルノの精神は再び荒れる。

しかしルノは暴走しそうな思いをどうにか耐えて、レイに大丈夫であると告げる。


「俺と同じ場所がダメなら立ったら?それなら少しはマシじゃない?」


「しかしそれではレイ様よりも目線が高くなってしまいます。」


どちらも互いに譲れないラインがあるようで話は進まない。


「でもここに備え付けの家具なんてこのベッドしかないし、話し合うなら腰を落ち着けたいでしょ?そうなると最初のが一番いいと思うんだけど。」


「いえ、それは///

・・・それならば他に座る場所があれば問題ないのですね?」

最初の体勢と言われて再び顔を赤くしたルノだったが、レイの言葉から何か解決策を思いついたのか、神妙な面持ちでレイに尋ねる。


「まぁそうだけど、今からどこか探しにいく?」


「いえ、私が準備いたします。」


そう言ってルノは立ち上がると右腕を平行に一線。

ルノが腕を振るった横一直線の空間が歪む。

ルノはその真っ暗な空間に手を入れると、中から装飾過多な椅子とテーブル、そしてそれよりやや劣った椅子を取り出す。

ベッドの横にテーブルをおき、ベッドのヘッドボード側に装飾過多な椅子を、反対側にやや劣った椅子を並べる。

そしてレイを装飾過多な、上座に進める。

これで文句はないだろうと言った具合でやや得意顔なルノ。


妥協点を探しあい、ちょうどいいところに落ち着けたと思うよりもレイはルノもアイテムボックスが使えることに驚愕する。

アイテムボックスは基本的にダイイングフィールドのプレイヤーが与えられた能力?みたいなものだったはず。それをどうしてルノが使えるのか気になり尋ねる。


「ルノもアイテムボックスを使えるのか?」


「いえ、レイ様のようななんでも入れられる便利なものではありません。

私の職業スキルによるものです。」


なるほどとレイは納得したが、それと共に自分はそんな職を設定したっけかと疑問が浮かぶ。しかし深く考える間も、尋ねる間も無くルノに席に誘導される。


2人の意見の妥協ラインに落ち着き、席に着いたことで情報の擦り合わせが始まった。


ありがとうございました。

今回のタイトルは私が書いてて思ったことです。


次話、5月中にあげられるかどうかわかりません。

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